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役員貸付金・役員借入金とは

この記事の結論
  • 役員貸付金(会社→役員)は利益相反取引にあたり取締役会または株主総会の承認が必要(会社法356条・365条)。無利息・低利息だと差額が役員給与とみなされ課税される(所得税法36条、国税庁タックスアンサーNo.2508ほか)うえ、銀行融資の審査で資金使途不明とみなされマイナス評価になりやすい
  • 役員借入金(役員→会社)は会社にとって負債だが、返済しない限り役員個人の相続財産に貸付金債権として計上される(相続税法22条、財産評価基本通達204)。役員が亡くなると遺族に想定外の相続税が発生することがある
  • どちらも「会社と個人の財布を混ぜた結果」として発生するため、根本対策は役員報酬の額を実際の生活費に見合う水準に設定し、経費と生活費を最初から分けること
  • すでに発生している場合の解消方法(利息の設定・返済計画・DES・債務免除)は個別の税務判断が必要なため税理士に相談するのが基本線
この記事の内容
  1. 結論:貸付金は「会社→役員」、借入金は「役員→会社」
  2. なぜ発生するのか:会社と自分の財布を分けなかった結果
  3. 役員貸付金の何が問題か:利益相反取引・認定利息・銀行融資
  4. 役員借入金の何が問題か:相続財産になる
  5. 2つの違いを一覧で
  6. 根本対策:役員報酬の設計を先に見直す
  7. すでに発生している場合の解消の考え方
  8. 実体験について、正直に書きます
  9. 次にやること

この記事は、決算書や試算表に「役員貸付金」または「役員借入金」という科目があるのを見て、これが何を意味するのか気になっている一人社長・小規模会社の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、役員貸付金は会社が役員に貸したお金、役員借入金は役員が会社に貸したお金で、向きが逆です。どちらも「会社の財布と自分の財布を分けずに使った結果」として決算書に残る科目で、放置すると税務・銀行融資・相続のそれぞれに別の問題を引き起こします。この記事では、2つの違いと、なぜ問題になるのか、どう向き合えばいいのかを整理します。

こんな状態ではありませんか
  • 決算書に「役員貸付金」「役員借入金」という科目があるが、何が問題なのか分からない
  • 会社のお金を一時的に個人で使ってしまい、そのままになっている
  • 自分が会社に入れたお金(役員借入金)が、将来どうなるのか不安

結論:貸付金は「会社→役員」、借入金は「役員→会社」

まず向きを混同しないことが出発点です。役員貸付金は、会社の口座から役員個人にお金が出て行った状態で、決算書では会社の「資産」(短期貸付金・長期貸付金)として計上されます。会社から見れば、役員に対する貸付という「返してもらう権利」です。一方、役員借入金は、役員個人のお金を会社の運転資金などに入れた状態で、決算書では会社の「負債」として計上されます。会社から見れば、役員に対する借金です。どちらも科目名に「役員」と付きますが、お金が動いた方向はまったく逆で、抱える問題の種類も別物です。以下、それぞれ順に説明します。

なぜ発生するのか:会社と自分の財布を分けなかった結果

役員貸付金・役員借入金は、どちらも会社設立の初期や資金繰りが厳しい時期に、意図せず発生することが多い科目です。役員貸付金がよく発生するパターンは、会社の口座から生活費や個人的な支払いを一時的に立て替えた場合、あるいは経費として認められるか判断がつかない支出を「仮払金」として処理したまま清算していない場合です。役員借入金がよく発生するパターンは、会社の資金が足りないときに役員個人の預金から補填した場合、あるいは設立時の運転資金を役員個人が立て替えた場合です。

どちらのケースにも共通するのは、会社の財布と個人の財布の線引きがあいまいなまま、お金の出入りが起きているという点です。一人社長の会社では、会社の口座と自分の口座を頭の中では同じ財布のように感じてしまいやすく、これが役員貸付金・役員借入金という形で決算書に残ります。

ここが要点

役員貸付金・役員借入金そのものが違法というわけではありません。 会社が役員にお金を貸すこと、役員が会社にお金を貸すことは、手続きを踏めば認められています。問題なのは、手続きを踏まずに発生させたまま放置することです。

役員貸付金の何が問題か:利益相反取引・認定利息・銀行融資

役員貸付金には、主に3つの問題があります。

1つ目は、手続き上の問題です。 取締役が会社と取引をする場合、会社法356条1項2号により、株主総会(取締役会を設置している会社では会社法365条により取締役会)の承認を受けなければなりません。役員への金銭の貸付はこの「利益相反取引」にあたるため、一人社長の会社であっても、株主総会の議事録を作成して承認の手続きを踏む必要があります。承認を経ずに貸し付けた場合、取締役の善管注意義務違反として問題になり得ます。

2つ目は、税務上の問題です。 会社が役員に無利息、または相場より低い利息で貸し付けると、本来受け取るべき利息との差額が、役員に対する経済的利益(実質的な給与)とみなされます(所得税法36条、国税庁タックスアンサーNo.5202「役員等に対する経済的利益」)。この場合、会社側では源泉徴収の義務が生じ、差額分は役員給与として損金不算入(法人税法34条)になる可能性があります。「適正な利率」は国税庁が毎年定めており、貸し付けを行った年によって数値が変わります。 国税庁タックスアンサーNo.2606「金銭を貸し付けたとき」によれば、令和4年〜令和7年中に貸付けを行ったものは年0.9%です(令和8年〈2026年〉中の貸付け分の利率は、2026年9月時点で同ページに掲載がありません)。貸し付ける際は、その時点の最新の利率を税理士に確認してから利息を設定する必要があります。

3つ目は、銀行融資での評価です。 決算書に役員貸付金があると、金融機関の融資審査では「会社の資金が個人的な用途に流出している」と見なされ、資金繰りの健全性を疑われる要因になります。これは法律上のペナルティではなく、金融機関側の評価の問題ですが、実務上は融資の可否や条件に影響することがあります。 会社の資金を借りたい局面ほど、役員貸付金の存在が不利に働く、という構造です。

役員借入金の何が問題か:相続財産になる

役員借入金は、会社側から見れば単なる負債で、税務上大きな問題を起こすものではありません。むしろ、資金繰りが厳しい時期を役員個人のお金で乗り切る手段として、実務ではよく使われます。問題が起きるのは、この借入金を返済しないまま、貸した側の役員が亡くなったときです。

役員が会社に貸したお金(会社側から見た役員借入金)は、役員個人から見れば「会社に対する貸付金債権」です。相続税法上、金銭債権は原則として額面どおりの金額で評価されます(相続税法22条、財産評価基本通達204)。つまり、会社の経営がどれだけ苦しく、実際には返してもらえる見込みが薄い状態でも、原則として貸した金額そのままが相続財産に算入されます。 会社に現金が無くても、相続人には貸付金債権に対する相続税の納税義務が発生し得るという、実態と税務評価がずれる典型例です。

ここが要点

役員借入金は「会社を助けるために自分のお金を入れた」という善意で発生することが多い分、将来の相続で家族に負担を残す可能性があるという点は見落とされがちです。金額が大きい場合は、生きているうちに整理する選択肢(返済・債務免除・資本への振替など)を検討する価値があります。

2つの違いを一覧で

役員貸付金 役員借入金
お金の向き 会社 → 役員 役員 → 会社
決算書での扱い 会社の資産(貸付金) 会社の負債(借入金)
主な問題 利益相反取引の承認手続き、認定利息の課税、銀行融資での心証悪化 返済せず放置すると役員の相続財産になる
手続きの根拠 会社法356条・365条(利益相反取引の承認) 特になし(会社への貸付自体は自由)
発生しやすい場面 会社口座からの生活費立替、仮払金の未清算 資金繰りが厳しい時期の役員個人からの補填

根本対策:役員報酬の設計を先に見直す

役員貸付金・役員借入金のどちらも、発生してから対処するより、発生させない設計にするほうが負担が小さいという点は共通しています。根本的な原因は、役員報酬の額が実際の生活費と合っていないことです。役員報酬が生活費より少なすぎると、会社の口座から個人的な支出を賄う必要が生じ、役員貸付金が発生しやすくなります。逆に、役員報酬を確保できず会社の運転資金が不足する場合は、役員個人のお金を入れる役員借入金が発生しやすくなります。

役員報酬は、原則として事業年度開始から3か月以内に決定し、その後は期の途中で自由に変更できないという制約があります(法人税法34条の定期同額給与、国税庁タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与」)。この制約があるからこそ、期首の段階で「生活費として毎月いくら必要か」を先に見積もり、その金額に見合う役員報酬を設定しておくことが、役員貸付金・役員借入金を未然に防ぐ最も実務的な対策になります。

すでに発生している場合の解消の考え方

すでに役員貸付金・役員借入金が決算書に計上されている場合、解消の方法はいくつかありますが、どれも税務上の判断が伴うため、金額が小さい場合を除いて税理士に相談してから進めるのが基本線です。

  • 役員貸付金の解消: 役員から会社へ返済する、または適正な利息を設定して利息収入を会社に計上する、という方法があります。返済原資がない場合、役員報酬を一時的に調整して返済に充てる方法もありますが、定期同額給与の制約に触れないか事前の確認が必要です。
  • 役員借入金の解消: 会社が役員に返済する、役員が会社への貸付を放棄する(債務免除)、あるいは借入金を資本金に振り替える(デット・エクイティ・スワップ、DES)という方法があります。債務免除を行うと、免除された金額は原則として会社の益金に算入され、法人税の課税対象になります(法人税法22条2項。無償による資産の譲受けその他の取引から生じる収益を益金に算入する規定で、債務免除もこれに含まれます)。 DESでは、増加する資本金等の額は原則として当該債権の時価とされ、債権の額面と時価との差額が債務消滅益として法人税の課税対象になります(平成18年度税制改正)。ただし、繰越欠損金との相殺の可否や、株主構成の変化に伴うみなし贈与(相続税法9条。他の株主が保有する株式の価値が増加した場合に、その増加分が贈与とみなされる規定)の有無は、自社の財務状況・株主構成によって結論が変わる論点で、一般論としての正解はありません。実行前に、自社の決算書と株主名簿を持って税理士に個別の試算を依頼してください。
ここが要点

自己判断で「借入金を放棄すればいい」と決めてしまうと、想定外の法人税・贈与税が発生することがあります。金額が大きい役員借入金・役員貸付金を解消する前には、税理士に試算を依頼してください。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、起業準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点では、まだ自分の会社を設立して役員貸付金・役員借入金を実際に発生させたり解消したりした経験はありません。そのため、この記事は会社法・相続税法などの公式情報と国税庁のタックスアンサーをもとに整理した「起こり得る問題の見取り図」であり、自分が実際に直面してどう対処したか、という体験談ではありません。この点は正直に書いておきます。今後、自分の会社の資金繰りで役員借入金が発生する可能性は十分にあり、実際に経験した段階で、一次情報として別記事にまとめる予定です。

次にやること

まず、直近の試算表・決算書を開いて、「役員貸付金」または「役員借入金」という科目が無いかを確認してください。 あれば、金額と発生時期をメモしたうえで、次の税理士との面談で「これをどう解消するのが自社にとって有利か」を相談することが、放置による問題(認定課税・融資評価の悪化・相続財産化)を避ける一番早い一歩です。


※本記事は2026年9月時点の会社法・所得税法・法人税法・相続税法の公式情報整理と、筆者個人の状況に基づくものです。制度は変更されることがあり、また個別の金額・利率・税務判断は状況によって異なるため、実際の対応の前には税理士に相談してください。

出典(2026年9月確認) - 会社法356条1項2号・365条(利益相反取引の承認。直接取引は株主総会、取締役会設置会社では取締役会の承認が必要) - 所得税法36条(収入金額。金銭以外の物・権利その他経済的利益による収入は、その利益の価額により収入金額を計算する) - 法人税法34条(役員給与の損金不算入・定期同額給与) - 国税庁タックスアンサーNo.5202「役員等に対する経済的利益」(無利息・低利息貸付における通常取得すべき利率との差額が経済的利益となる旨を確認、nta.go.jp) - 国税庁タックスアンサーNo.2606「金銭を貸し付けたとき」(認定利息の適正利率。令和4年〜令和7年中の貸付けは年0.9%であることを確認。令和8年分は2026年9月時点で同ページに未掲載であることも確認済み、nta.go.jp) - 国税庁タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与」(定期同額給与。事業年度開始の日から3か月を経過する日までの改定であることを確認、nta.go.jp) - 相続税法22条(財産の評価の原則。取得時の時価による)・財産評価基本通達204(貸付金債権等の評価。元本の価額は返済されるべき金額で評価する旨を確認) - 法人税法22条2項(益金の額。無償による資産の譲受けその他の取引に係る収益を益金に算入する規定で、債務免除益もこれに含まれることを確認) - DESにおける債務消滅益の課税(増加する資本金等の額を原則として当該債権の時価とし、額面との差額を債務消滅益として課税する取扱いは平成18年度税制改正によるものであることを確認) - 相続税法9条(みなし贈与。対価を支払わずに利益を受けた場合、その利益に相当する金額を贈与により取得したものとみなす規定。DESで株主構成が変わる場合に問題になり得る根拠条文) - 繰越欠損金との相殺可否(DESに伴う債務消滅益と期限切れ欠損金・青色欠損金の優先控除の順序は法人税法59条等の会社更生・民事再生等に関する規定が絡む論点で、私的整理でのDESに同様の取扱いが及ぶかは個別事案の判定になる。このため本記事では条文の一般化を避け、実行前の税理士による個別試算を案内する構成にしています)

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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