税務調査は一人会社にも来るか
- 令和6事務年度の法人税等の実地調査件数は5万4千件(前年度比92.6%)、追徴税額の総額は3,407億円で直近10年最高値(国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」令和7年12月)
- 法人数は約296万7,717社(国税庁「令和5年度分 会社標本調査」令和7年4月、母集団推計)
- 両者を単純に割ると実地調査を受ける割合はおおむね1.8%程度(本記事の計算)
- 法人の規模ではなく「不審な資料情報・申告内容」で選ばれる仕組みで、AIを使った予測モデルと調査官の分析を組み合わせて調査必要度の高い法人を抽出(同資料)
- 実地調査は原則、国税通則法74条の9により事前通知が必要。ただし証拠隠滅等のおそれがある場合は74条の10により無予告調査もありうる
- 一人会社だから来ない・来るという保証はどちらもなく、規模より取引内容と記帳の状態が焦点になる
この記事の内容
この記事は、従業員のいない一人社長の会社を経営している、またはこれから設立する人で、「うちみたいな小さい会社にも税務調査は来るのか」と不安に思っている人に向けて書いています。 結論を先に言うと、法人である以上、一人会社であることは調査対象から外れる理由にはなりません。ただし国税庁の公表資料を見る限り、調査対象は法人の規模ではなく資料情報や申告内容の不審点で選ばれる仕組みになっており、「一人会社だから来ない」も「一人会社だから来る」もどちらも根拠のない思い込みです。
- 一人でやっている小さな会社に、本当に税務調査なんて来るのか分からず不安
- 「税務調査」と聞くと怖いイメージだけが先行して、実際どのくらいの確率なのか知らない
- 来る・来ないより先に、来たときに困らないよう今から何を備えておけばいいのか知りたい
結論:一人会社であることは、調査対象から外れる理由にならない
税務調査は、法人税・消費税などの申告内容が正しいかどうかを税務署が確認する手続きです。国税庁が毎年公表している「法人税等の調査事績の概要」には、対象法人を従業員数や資本金の規模で区切って調査するという記載はなく、「あらゆる機会を通じて収集した資料情報等や申告書の分析・検討を行うことにより、調査必要度の高い法人を的確に抽出し、実地調査を実施しました」とだけ書かれています(国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」令和7年12月)。
つまり調査対象を選ぶ基準は「会社の大きさ」ではなく「申告内容や取引に不審な点があるかどうか」です。従業員がいない一人会社でも、法人として申告をしている以上、この抽出プロセスの対象に含まれます。「小さい会社だから見逃される」という保証はどこにもありません。
税務調査の確率を数字で見る
まず、実際にどの程度の割合の法人が調査を受けているのか、公表されている数字から見てみます。
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 実地調査件数(令和6事務年度) | 5万4千件(前年度比92.6%) | 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」令和7年12月 |
| 追徴税額の総額(法人税・消費税) | 3,407億円(直近10年で最高値) | 同資料 |
| 調査1件当たりの追徴税額 | 6,342千円(前年度比115.4%) | 同資料 |
| 法人数(母集団推計) | 2,956,717社 | 国税庁「令和5年度分 会社標本調査」令和7年4月 |
この2つの数字を単純に割ると、54,000件 ÷ 2,956,717社 ≈ 1.8%になります(この割り算は本記事での計算であり、国税庁が公式に「実調率」として発表している数値ではありません)。つまり、法人全体で見ればおおむね1年間で50社に1社弱が実地調査の対象になっている計算です。
ここで押さえておきたいのは、この1.8%という数字は「無作為に抽選された1.8%」ではないという点です。 前述のとおり調査対象は資料情報の分析で絞り込まれているため、実際には「不審な点が少ない法人」の調査確率はこれより低く、「不審な点がある法人」の調査確率はこれよりかなり高くなっていると考えるのが自然です。
なお、この調査事績は「実地調査」の件数のみを集計したものです。国税庁は実地調査のほかに、申告内容に簡易な誤りが想定される法人に対して、書面照会・電話連絡・来署依頼による面接で自発的な見直しを求める「簡易な接触」も実施しており、令和6事務年度の法人税・消費税に関する簡易な接触の件数は8万5千件(前年度比+13.4%)でした(国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」令和7年12月)。本記事で扱う数字はあくまで実地調査に限られる点にご注意ください。
税務署はどうやって調査対象を選んでいるか
国税庁は令和6事務年度の取組として、AIを活用した予測モデルで調査必要度の高い法人を抽出し、そこに調査官による申告書・資料情報の分析を組み合わせて、最終的に調査官が実施の要否を判断していると説明しています(同資料)。
同資料には、実際にAI・データ分析を活用して不正を把握した事例が掲載されています。
| 事例 | AIが想定した不正パターン | 調査で把握した不正の手口 | 追徴税額(法人税・消費税) |
|---|---|---|---|
| 事例1 | 売上 | 売上伝票を破棄し、破棄した分の現金売上を除外 | 約7千万円 |
| 事例2 | 売上 | 売上代金を代表者の個人口座に入金させ、売上を除外 | 約1億円 |
| 事例3 | 原価 | 偽りの請求書を作成し、金銭の貸付けを原価(外注費)に仮装 | 約1億円 |
| 事例4 | 原価 | 不正加担者に単価を水増しした請求書を発行させ、原価(外注費)を過大計上 | 約9千万円 |
| 事例5 | 経費 | 偽りの出勤表等を作成し、架空の経費(人件費)を計上 | 約1億5千万円 |
| 事例6 | 経費 | 関連会社に偽りの請求書を作成させ、資金援助を経費に仮装して計上 | 約1億3千万円 |
出典:同資料
これらの事例に共通するのは、「売上」「原価」「経費」のいずれかで、帳簿上の数字と実態が食い違っている点をAI・調査官が見抜いていることです。追徴税額もいずれも数千万円〜億円単位であり、規模の小さな不一致というより、明確な不正パターンが焦点になっていることが読み取れます。
一人会社・小規模法人は狙われやすいか、狙われにくいか
ここは正直に書きます。国税庁の公表資料には、資本金階級別や従業員数別に実地調査の実施率を示した数字は見当たりませんでした(未確認の保留ではなく、今回参照した「調査事績の概要」「会社標本調査」の両資料には該当する集計自体が公表されていない、という調査結果です)。そのため「一人会社は狙われやすい/狙われにくい」を裏付ける公式統計は、本記事の調査範囲では確認できていません。
言えるのは、前述の抽出プロセスが「規模」ではなく「資料情報との不整合」を基準にしている以上、一人会社であっても次のような状態は不審点として拾われやすい、という一般論です。
- 売上の急増・急減が、業種や取引先の状況から見て説明しにくい
- 外注費・経費が前期から大きく変動している
- 現金での取引が多く、帳簿と実際の入出金のタイミングが合わない
- 代表者個人の口座と法人の口座の間でお金の出入りが多い(役員貸付金・役員借入金が膨らんでいる状態)
逆に言えば、こうした不審点がなく、申告内容と実態が一致していれば、会社の規模が小さいこと自体は調査を招く理由にはなりません。
事前通知が原則、ただし無予告調査もある
実地調査が行われる場合、国税庁は原則として事前に通知することが法律で定められています。国税通則法第74条の9では、調査開始日時・場所・目的・対象税目・対象期間などを、事前に通知しなければならないとされています(国税通則法第74条の9)。
ただし例外もあります。国税通則法第74条の10では、「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」など、国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると税務署長等が認める場合には、事前通知を要しないと定められています(国税通則法第74条の10)。これがいわゆる「無予告調査」の法律上の根拠です。
無予告調査は、証拠隠滅のリスクが高いと判断された場合などに限られる例外的な手続きであり、一般的な法人税調査の大部分は事前通知を伴う任意調査です。「税務署がある日突然、予告なくやってくる」というイメージが調査全体の標準ではないという点は押さえておくとよいでしょう。
日頃の備えとしてやっておくこと
税務調査そのものを避ける方法はありませんが、調査が来ても慌てない状態を日頃から作っておくことはできます。 前述の不正パターンの多くが「帳簿と実態のズレ」から発覚していることを踏まえると、次のような点が実務上の備えになります。
- 売上・原価・経費のすべてを、請求書や領収書などの証憑とセットで残しておく
- 現金でのやり取りは、入出金のタイミングと金額を帳簿に正確に反映させる
- 代表者個人の口座と法人の口座を安易に混同しない(役員貸付金・役員借入金が膨らむと、資金の流れの説明を求められやすくなる)
- 帳簿書類は保存期間(原則7年、欠損金がある事業年度は10年)を守って保存する(国税庁タックスアンサーNo.5930「帳簿書類等の保存期間及び保存方法」)
- 前期からの数字の大きな変動には、説明できる理由を自分の中で整理しておく
一人社長で経理を自分でやっている場合、証憑の保存が後回しになりがちです。「調査が来たときに慌てて探す」状態ではなく、「聞かれたらすぐ出せる」状態を普段から作っておくことが、確率の話より先にできる備えです。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、起業準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ法人を設立しておらず、税務調査を経験したことは一度もありません。そのため本記事は、国税庁が公表している調査事績・会社標本調査・国税通則法の条文を調査して整理したものであり、自分自身の税務調査の体験談ではありません。この点は正直に書いておきます。
次にやること
まず、直近の売上・原価・経費のうち、前期から大きく変動した項目がないかを一度自分で確認してください。 変動があった場合は、その理由を説明できる証憑(契約書・請求書・取引先とのやり取りなど)が手元に残っているかを合わせて確認しておくと、調査が来る・来ないにかかわらず、日々の経理の精度を上げることにつながります。不安が残る場合は、顧問税理士に一度、自社の申告内容で不審に見られやすい点がないか相談することをお勧めします。
※本記事は2026年9月時点の国税庁公式資料の調査整理と、筆者個人の状況に基づくものです。税務調査の要否や個別の状況に関する判断は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
出典 - 令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要(国税庁・令和7年12月)(実地調査件数5万4千件・追徴税額3,407億円・調査1件当たり追徴税額6,342千円・AI活用による調査必要度の高い法人の抽出・不正パターン事例6件・簡易な接触の件数(法人税・消費税8万5千件)を原本PDFで確認、2026年9月5日確認) - 令和5年度分 会社標本調査 調査結果報告(国税庁・令和7年4月)(法人数の母集団推計2,956,717社を原本PDFで確認、2026年9月5日確認) - 国税通則法第74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)(実地調査を行う場合の事前通知義務、通知事項〈日時・場所・目的・対象税目・対象期間等〉をe-Gov法令検索の条文本文で確認、2026年9月5日確認) - 国税通則法第74条の10(事前通知を要しない場合)(「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第1項の規定による通知を要しない」の条文本文をe-Gov法令検索で確認、2026年9月5日確認) - No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法(国税庁タックスアンサー)(保存期間は原則7年、欠損金の生ずる事業年度は10年であることを確認、2026年9月5日確認)