法人契約の生命保険は節税になるか
- 令和元年7月8日以後に契約した定期保険・第三分野保険は、最高解約返戻率の区分に応じて資産計上割合が決まる(国税庁タックスアンサーNo.5364-2)
- 最高解約返戻率50%超70%以下は40%資産計上・60%損金、70%超85%以下は60%資産計上・40%損金、85%超は契約後10年間は最高解約返戻率×90%を資産計上(同上)
- 最高解約返戻率70%以下かつ年換算保険料相当額が被保険者1人につき30万円以下なら資産計上不要で全額損金算入できる特例がある(同上)
- 資産計上した保険料は解約返戻金がピークを迎える時期以降に取り崩され、その期に雑収入として法人税の課税対象になるため、これは節税ではなく課税の繰延べである(国税庁の取崩期間の定めに基づく整理)
この記事の内容
この記事は、法人契約の生命保険が節税になると聞いて検討しているが、「全額損金」という言葉を最近あまり聞かなくなった理由が分からない人に向けて書いています。 結論から言うと、2019年の国税庁通達改正以降、法人契約の生命保険は「入るだけで税金が減る」商品ではなくなりました。今のルールでできるのは、保険料の一部を将来に繰り延べることだけです。 この記事では、今の資産計上ルールを国税庁の一次情報で整理し、なぜそれが「節税」ではなく「繰延べ」なのかを説明します。
- 「法人保険は節税になる」と聞いたが、具体的に何がどう得になるのか分からない
- 昔は「全額損金」という言葉をよく聞いた気がするが、今も同じ制度なのか不安
- 保険会社の説明を鵜呑みにする前に、公的な根拠を自分で確認しておきたい
結論:今のルールは「節税」ではなく「課税の繰延べ」
法人が契約者、役員や従業員を被保険者とする定期保険・第三分野保険(医療保険・がん保険など)は、令和元年(2019年)7月8日以後に契約したものについて、「最高解約返戻率」という指標に応じて、保険料の一定割合を資産計上しなければならないというルールが適用されます(国税庁タックスアンサーNo.5364-2「定期保険及び第三分野保険の保険料(相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」)。
つまり、解約したときに戻ってくるお金(解約返戻金)の割合が高い保険ほど、保険料を全額その期の経費にはできず、一部を資産として積み立てる形になります。 そして資産計上した部分は、あとで取り崩す時期にまとめて利益(雑収入)として計上され、その期の法人税の対象になります。保険料を払った期の税金は減っても、取り崩した期に増える。 これが今のルールの実態で、正確には「節税」ではなく「課税の繰延べ」と呼ぶべきものです。
なぜ変わったか|2019年の通達改正
以前は、解約返戻率が非常に高い(90%を超えるような)定期保険であっても、契約の設計次第で保険料の全額、あるいは半額を損金算入できる商品が販売されていました。実質的には「積立と同じ効果を持つ商品を、保険という形にすることで全額経費にできる」という設計であり、これが行き過ぎた節税策として問題視されました。
これを受けて国税庁は令和元年6月28日付で法人税基本通達を改正し、令和元年7月8日以後に契約した定期保険・第三分野保険について、解約返戻率が高い保険ほど資産計上割合を高めるという現在のルールに切り替えました(国税庁「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い)」)。この改正より前(令和元年7月7日以前)に契約した既存の保険契約は、改正後のルールの対象外で、契約時点の取扱いのまま継続します。
「うちは古い契約だから今も全額損金です」という説明を保険会社から受けることがありますが、それ自体は事実です。 ただし新たに法人保険に加入する場合は、契約日が令和元年7月8日以後になるため、必ず今のルールが適用されます。「以前は全額損金にできた」という情報は、新規契約の判断材料にはなりません。
今のルール|最高解約返戻率で資産計上割合が決まる
現在のルールでは、契約全期間を通じて解約返戻金相当額が最も高くなる割合(最高解約返戻率)を基準に、次の区分で資産計上割合と資産計上期間・取崩期間が決まります(国税庁タックスアンサーNo.5364-2)。
| 最高解約返戻率 | 資産計上割合 | 損金算入割合 | 資産計上期間 | 取崩期間 |
|---|---|---|---|---|
| 50%以下 | 原則不要(全額損金) | 100% | - | - |
| 50%超〜70%以下 | 40% | 60% | 保険期間開始日から保険期間の40%相当期間を経過する日まで | 保険期間の75%相当期間の経過後から保険期間終了日まで |
| 70%超〜85%以下 | 60% | 40% | 同上(40%相当期間) | 同上(75%相当期間経過後) |
| 85%超 | 契約後10年間は「年間支払保険料×最高解約返戻率×90%」、以降は「年間支払保険料×最高解約返戻率×70%」 | 資産計上額を除いた残り | 最高解約返戻率となる期間の終了日まで(最短5年。保険期間10年未満の場合は50%相当期間) | 解約返戻金相当額が最も高くなる期間の経過後から保険期間終了日まで |
※出典:国税庁タックスアンサーNo.5364-2(2026年9月1日確認)。実際の資産計上額・取崩額は契約ごとの保険期間・保険料によって変わるため、加入前に保険会社が提示する「税務説明資料」で個別に確認する必要があります。
表の「取崩期間」に注目してください。資産計上した保険料は、消えてなくなるわけではなく、解約返戻金が最も高くなる時期の前後から、保険期間の終了まで、決算のたびに少しずつ損金として取り崩されていきます。 つまり「資産計上」は税金が減らないという意味であって、その保険料が永久に経費にならないという意味ではありません。
30万円以下なら資産計上不要になる特例
例外として、最高解約返戻率が70%以下で、かつ年換算保険料相当額(保険料の総額を保険期間の年数で割った金額)が被保険者1人につき合計30万円以下の保険については、資産計上せず全額損金算入できる特例があります(国税庁タックスアンサーNo.5364-2)。役員1人あたりの保険料が年30万円以下に収まる小規模な保険であれば、解約返戻率が50%を超えていても資産計上の手間なく経費にできる、ということです。
この特例は「被保険者1人につき」の合計額で判定されるため、同じ役員を被保険者とする保険を複数契約している場合は、それらの年換算保険料相当額を合算して30万円以下かどうかを判定する必要があります(国税庁タックスアンサーNo.5364-2)。1本ずつは30万円以下でも、合算すると超えてしまうケースがある点は見落としやすいところです。
「繰延べ」であって「節税」ではない理由
ここまでのルールを踏まえると、法人保険の効果は次のように整理できます。
- 保険料を払った期:資産計上した分だけ、その期の損金が減る(=税金は減らない)
- 取り崩す期(解約返戻金がピークを迎える前後):それまで資産計上していた分が損金として計上される(=その期の税金が減る)
- 実際に解約した期:受け取った解約返戻金が益金(利益)として計上される(=その期の税金が増える)
税金がまるごと消えるわけではなく、「いつ税金を払うか」を後ろにずらしているだけというのが実態です。しかも解約返戻金を受け取る期には、その全額が一度に益金として計上されるため、その期の利益が急に膨らみ、思わぬ税負担が生じることもあります。
これを避けるには、解約返戻金を受け取る期に、退職金の支払いや設備投資など、あらかじめ予定している大きな損金の支出を合わせておく必要があります。「保険に入れば税金が減る」ではなく、「税金を払うタイミングを、自社で使う予定のある支出のタイミングに合わせられるかどうか」が、この制度を使う意味があるかどうかの分かれ目です。
それでも法人保険に入る意味があるとすれば
節税効果そのものが目的ではなく、次のような目的であれば、法人保険を検討する理由は残ります。
- 役員・従業員の死亡・入院への保障:保険本来の機能として、万一の際の保障を確保する
- 役員退職金の原資を計画的に準備する:退職金を支払う予定の時期に合わせて解約返戻金を受け取れるよう設計すれば、資産計上分の取り崩しと退職金の損金がおおむね同じ期に重なり、税負担の急増を抑えやすくなる
- 事業承継・自社株対策の資金準備:自社株の買い取りや相続税の納税資金など、将来の大きな資金需要に備える
いずれも「保険料を払った期の節税」を目的にするのではなく、将来のいつ、何のためにお金が必要になるかを先に決めた上で、その時期に解約返戻金を受け取れるよう設計するという考え方が前提になります。目的が定まらないまま「節税になるから」という理由だけで加入すると、資産計上・取崩し・益金計上のタイミングが自社の資金計画とかみ合わず、かえって税負担のコントロールが難しくなります。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。この記事を書いている2026年9月1日時点で、私自身はまだ合同会社の設立準備の段階にあり、法人契約の生命保険には加入していません。役員退職金の準備や事業保障をどう設計するかも、これから検討する段階です。
そのためこの記事は、実際に自分の会社で保険に加入して得た経験ではなく、国税庁の公開情報(タックスアンサーNo.5364-2、法令解釈通達)を基にした「調査した範囲では」の整理です。実際に法人保険への加入を検討する段階になったら、どの区分の保険を、どういう目的で、どんな設計で検討したかを、この記事に実体験として追記します。
次にやること
まず、検討している保険の「最高解約返戻率」が何%かを、保険会社に確認してください。 提案書に最高解約返戻率の記載がない場合は、税務上の取扱い区分(資産計上割合)がどこにあたるかを明記した「税務説明資料」の提示を求めてください。そのうえで、資産計上した保険料が取り崩される時期と、自社で退職金の支払いなど大きな損金の発生が見込まれる時期が重なるかどうかを、税理士と一緒に確認してから加入を判断することをおすすめします。
※本記事は2026年9月1日時点で確認した国税庁の公開情報(法令解釈通達・タックスアンサー)を基にした一般的な制度の説明であり、筆者個人が実際に法人保険に加入した結果ではありません。個別の契約における資産計上額・取崩額・税負担の試算は、保険会社が提示する税務説明資料と税理士への確認が必要です。
出典 - No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)|国税庁(2026年9月1日確認。最高解約返戻率の区分・資産計上割合・30万円特例の根拠) - 法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い)|国税庁(令和元年6月28日付。改正の経緯・施行日の根拠)