役員報酬の変更はいつできるか
- 役員報酬(定期同額給与)は原則として事業年度開始日から3か月以内にしか改定できない(法人税法34条、国税庁No.5211)
- 3か月を過ぎてからの増額は、変更後の金額と変更前の金額との差額部分が損金不算入になる(法人税法34条、法人税法施行令69条)
- 期中でも「臨時改定事由」(役員の地位や職務内容の重大な変更などやむを得ない事情)による改定は認められる
- 「業績悪化改定事由」による改定は減額のみ認められ、増額はできない
- 設立1期目は、設立の日から3か月以内(かつ事業年度終了日まで)に最初の役員報酬を決めれば定期同額給与として扱われる(国税庁No.5211)
- 役員報酬の決定は株主総会の決議事項(会社法361条1項)
この記事の内容
この記事は、一度決めた役員報酬を「業績が良くなった」「思ったより厳しい」という理由で見直したいと考えている一人社長・中小企業の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、役員報酬の変更が無条件に認められるのは、事業年度が始まってから3か月以内に限られます。それを過ぎてからの変更は、原則として税務上の損を伴います。ただし例外が2つあり、条件次第では期中でも変更できます。以下、いつなら変更できるか、過ぎてしまったらどうなるか、例外は何かの順に整理します。
- 役員報酬を変えたいが、いつなら変更していいのか分からない
- 期の途中で業績が悪化した(あるいは良くなった)ので、今すぐ金額を見直したい
- 変更のタイミングを逃したら、1年間そのままにするしかないのか不安
結論:変更の窓は「事業年度開始から3か月」だけ
役員報酬(定期同額給与)を税務上問題なく変更できるのは、原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日までです(法人税法34条1項、国税庁No.5211)。この期間内であれば、増額・減額のどちらも認められます。逆に言えば、事業年度が始まって4か月目以降に「今月から役員報酬を上げよう」と決めても、その変更は税務上の定期同額給与としては原則認められません。
役員報酬の変更は、月々の給与改定のように自由にできるものではありません。年に1回、事業年度開始から3か月というごく短い窓の中でしか、無条件には動かせません。 この窓を逃すと、次の窓は翌事業年度まで開きません。
なぜ3か月なのか|定期同額給与の仕組み
役員に対する給与は、法人税法上、原則として損金(経費)に算入できません(法人税法34条1項)。例外的に損金算入が認められる形の1つが「定期同額給与」で、支給時期が1か月以下の一定期間ごとであり、その事業年度の各支給時期における支給額が同額である給与を指します(国税庁No.5211)。毎月同じ金額を支払う一般的な役員報酬はこれに当たります。
この「同額」という要件があるため、期の途中で金額を変えると、変更前と変更後で支給額が異なる期間ができてしまいます。そこで税務上は、事業年度開始の日から3か月を経過する日までに行われた改定であれば、変更前・変更後それぞれの期間で金額が同額である限り、定期同額給与として扱うというルールになっています(法人税法34条、法人税法施行令69条)。この3か月という期間そのものの立法趣旨について、国税庁の公式解説に明示的な説明は見当たらない(2026年9月確認)。決算数値が固まってから役員報酬を恣意的に増額するといった利益調整を防ぐ趣旨とする説明が、民間の税務解説ではよく見られる。
役員報酬をいくらにするか自体の決め方(法人と個人の税・社会保険料のトレードオフ)は、役員報酬の決め方|社会保険料と税金のバランスで整理しています。
3か月を過ぎて変更するとどうなるか
3か月の期限を過ぎてから役員報酬を増額・減額した場合、その改定は原則として定期同額給与の要件を外れます。この場合に何が起きるかは、増額と減額で意味合いが異なります。
| 変更内容 | 3か月以内 | 3か月経過後(例外事由なし) |
|---|---|---|
| 増額 | 全額が損金算入される | 増額した差額部分が損金不算入になる |
| 減額 | 全額が損金算入される | 減額前の金額のうち、実際の支給額を超える部分が損金不算入になる場合がある |
つまり、期限後に慌てて金額を動かしても、法人側の経費として認められない部分が生じ、結果的に法人税の負担が増えるということです(法人税法34条、法人税法施行令69条)。「業績が良いから今月から上げよう」「資金繰りが厳しいから来月から下げよう」という期中の思いつきの変更は、税務上は不利に働く仕組みになっています。
例外1:臨時改定事由|地位や職務が大きく変わったとき
3か月ルールには例外があります。1つ目が「臨時改定事由」で、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情による改定を指します(国税庁No.5211)。たとえば、期の途中で代表取締役に就任した、担当していた事業部が大幅に拡大して職務内容が実質的に変わった、といったケースが想定されています。
臨時改定事由による改定は、増額・減額のどちらも認められます。ただし「業績が良いから」というだけの理由では臨時改定事由には当たりません。あくまで役員自身の地位や職務内容そのものが変わったことが前提です。一人社長で役職や職務の実態に変化がない場合、この例外を使える場面は限られます。
例外2:業績悪化改定事由|減額だけが認められる
2つ目の例外が「業績悪化改定事由」です。法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による改定を指します(国税庁No.5211、法人税基本通達9-2-13)。株主や取引先、金融機関との関係上、経営責任を示す必要があるなど、客観的に見て役員報酬を下げざるを得ない事情があるケースが該当します。
業績悪化改定事由による改定は、減額のみが認められます。「業績が悪化したから増額する」という理屈は成り立ちません。また、単に「資金繰りが少し厳しい」程度では業績悪化改定事由に当たらないとされる場合があるため、実際に適用できるかどうかは、決算の状況を踏まえて税理士に確認してください。
設立1期目はいつが起点になるか
設立したばかりの会社の場合、定期同額給与に新設法人向けの特別な期限が定められているわけではありません。法人税法上、第1期の事業年度開始の日は原則として法人の設立の日となるため、通常の3か月ルール(法人税法施行令69条1項1号イ)がそのまま当てはまり、結果として「設立の日から3か月を経過する日まで」に最初の役員報酬額を決めれば定期同額給与として扱われます。似た「設立の日以後2か月」というルールもありますが、これは定期同額給与ではなく事前確定届出給与の届出期限(法人税法施行令69条4項1号)であり別の制度なので、混同しないよう注意してください。なお、設立事業年度の期間が極端に短い場合などの細部の取り扱いは、国税庁の公開資料には明記されていません。判断に迷う場合は、税理士または所轄の税務署に確認してください。設立日をいつにするかは、決算月の決め方とも関わってきます。決算月の決め方は会社の決算月はいつにするか|設立日から逆算する決め方で扱っています。
設立初年度は、事業計画の数字がまだ固まっていない段階で最初の金額を決めなければならないため、「変更」よりも先に「最初の1回」で悩む人が多い段階です。
実際に変更する手続き|株主総会と議事録
役員報酬の額そのものの決定・変更は、定款に定めがない限り、株主総会の決議事項です(会社法361条1項)。一人社長で自分が唯一の株主を兼ねている場合でも、この手続きを省略することはできません。実務上は、次の2段階で進めます。
- 株主総会で、役員報酬の総額(上限枠)を決議する、または既存の決議枠の範囲内であることを確認する
- 総額の枠内で、取締役会(取締役会非設置会社では株主総会や定款の定めに従う)が、各役員ごとの具体的な金額を決定する
いずれの場合も、いつ・誰が・いくらに変更することを決めたかが分かる議事録を残しておく必要があります。税務調査で定期同額給与の要件を確認される際、変更が3か月以内に行われたこと、あるいは臨時改定事由・業績悪化改定事由に当たることを示す一次資料になるのは、この議事録です。口頭で決めて記録を残さない、というやり方は避けてください。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ最初の役員報酬の金額そのものを決めていません。そのため、「一度決めた金額を変更した」という実体験はまだありません。最初の金額を決めた後、実際に事業年度開始から3か月というタイミングをどう意識して動いたか、変更が必要になる場面があったかについては、経験した段階でこの記事に追記する予定です。
次にやること
まず、自社の事業年度開始日を確認し、そこから3か月後の日付をカレンダーに書き込んでください。 役員報酬を変更したい事情がある場合、この日までに株主総会と取締役会の手続きを済ませる必要があります。すでに3か月を過ぎている場合は、臨時改定事由・業績悪化改定事由のどちらかに該当するかどうかを、決算の状況とあわせて税理士に確認してください。役員報酬をいくらにするかの決め方自体は、役員報酬の決め方|社会保険料と税金のバランスで整理しています。
※本記事は2026年9月2日時点で調査した内容に基づくものです。臨時改定事由・業績悪化改定事由に該当するかどうかの個別判断は、決算の状況によって異なるため、実際の適用は税理士にご確認ください。
出典 - 法人税法 第34条(役員給与の損金不算入) - 法人税法施行令 第69条(定期同額給与の範囲) - 法人税基本通達 9-2-13 - 会社法 第361条第1項(取締役の報酬等) - No.5211 役員に対する給与|国税庁(定期同額給与の定義、事業年度開始から3か月以内の改定、臨時改定事由、業績悪化改定事由を確認)