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会社設立前に契約していいもの・だめなもの

この記事の結論
  • 会社(法人格)が生まれるのは設立登記が完了した時点で、それより前は法人が契約の当事者になることは法律上できない
  • 設立前の事務所賃貸借は、発起人・代表予定者が個人名義で契約し「会社成立後は会社が契約当事者になる」という特約を入れておき、成立後に契約を切り替えるのが実務上の一般的な対応
  • 発起人が「会社のために」開業準備行為(店舗の内装工事、商品の仕入れなど)を行っても、その効果は当然には成立後の会社に帰属しない。例外は「財産引受け」で、これは会社法28条2号により定款に記載・記録しないと無効になる
  • 財産引受けなど変態設立事項は原則として裁判所選任の検査役の調査が必要(会社法33条)。少額財産や市場価格のある有価証券等は調査が省略できる場合がある(同条10項)
  • 現物出資・財産引受けの目的財産の実価が定款記載価額より著しく不足する場合、発起人・設立時取締役は会社に不足額を支払う義務を負う(会社法52条、財産価額塡補責任)
  • 個人事業主として結んでいた業務委託契約・取引基本契約を法人に引き継ぐには、契約の相手方の承諾が必要(民法539条の2、契約上の地位の移転)。自動的には移らない
  • 携帯電話・通信・リースなどの契約は、設立直後の法人は実績が無いため審査が厳しくなる傾向があり、個人名義のまま先に使い始めて後で切り替える例が多い
この記事の内容
  1. 結論:法人格が無い間は「会社として」契約できない
  2. なぜ設立前に法人名義で契約できないのか|法人格が生まれるタイミング
  3. 契約していいもの|個人名義で先に進めても問題が小さいもの
  4. 注意が必要な契約|財産引受けは定款に書かないと無効になる
  5. していいもの・注意が必要なもの(一覧表)
  6. 会社成立後、契約を法人に引き継ぐ手順
  7. 実体験について、正直に書きます
  8. 次にやること

この記事は、会社設立の準備中に「事務所を借りたい」「取引先と契約を結びたい」となったとき、まだ登記が終わっていない自分(または会社)が契約の当事者になれるのかが分からず止まっている人に向けて書いています。 結論から言うと、法人格が無い間は「会社として」契約することはできません。発起人や代表予定者が個人の名前で契約し、会社が成立してから会社に引き継ぐのが基本の流れです。ただし引き継ぎ方には注意が必要な契約もあります。以下、していい契約とだめな契約の境目を整理します。

こんな状態ではありませんか
  • 事務所や店舗を、会社の登記が終わる前に契約してよいのか分からない
  • 「会社のために」個人が結んだ契約は、そのまま会社の契約になるのか分からない
  • 携帯電話・リース・取引先との契約を、いつ・どうやって切り替えればいいか分からない

結論:法人格が無い間は「会社として」契約できない

会社(株式会社・合同会社)は、法律上の人格(法人格)を持つ存在ですが、その人格が生まれるのは設立登記が完了した時点です。会社法49条は「株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する」と定めています。登記が終わるまでは、どれだけ定款ができていても、資本金が振り込まれていても、法律上はまだ会社が存在しません。存在しないものは契約の当事者になれないため、この段階での契約はすべて発起人や代表予定者、個人事業主としての自分が当事者になります。

問題は、その個人名義の契約を会社成立後にどう扱うかです。自動的に会社の契約になるものと、手続きを踏まないと会社に引き継げないもの、そもそも会社に引き継ぐこと自体に法律上の制約があるものが混在しています。 ここを区別しないまま進めると、あとで契約が無効になったり、思わぬ個人の債務として残ったりします。

なぜ設立前に法人名義で契約できないのか|法人格が生まれるタイミング

会社が法人として権利義務の主体になれるのは設立登記の完了後、というのは会社法49条が定める基本原則です。行政書士事務所の解説でも、会社設立前は、会社の登記事項証明書や印鑑証明書が存在しないため、会社名義で賃貸借契約を締結することはできないと説明されています(行政書士阿部総合事務所)。事務所の賃貸借に限らず、取引先との契約、リース契約、通信契約なども同じ理屈です。相手方が「株式会社◯◯設立準備中」という肩書での契約書に応じてくれたとしても、法律上その契約の当事者は登記された会社ではなく、契約書にサインした個人です。

契約していいもの|個人名義で先に進めても問題が小さいもの

すべての契約が難しいわけではありません。次のような契約は、発起人・代表予定者が個人名義で先に進め、会社成立後に会社へ引き継ぐという流れが実務上よく取られています。

  • 事務所・店舗の賃貸借契約:個人が契約者となり、契約書に「会社設立後は、会社が賃貸借契約の当事者になる」という特約を入れておく方法が紹介されています(司法書士なごやか法務事務所)。会社設立後は、この特約に基づき登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を貸主に提出し、法人名義で契約を結び直す流れが紹介されています
  • 携帯電話・通信回線の契約:個人名義のまま業務用として使い始め、会社が実績を持ってから法人名義に切り替える例があります。設立から1年未満の法人は実績が無いため、法人契約の審査そのものが通りにくい傾向があると紹介されています(houjin-keitai.com)
  • 業務委託契約・取引基本契約:発起人が個人事業主として結び、会社成立後に契約の相手方の承諾を得て、会社の契約として引き継ぐ(詳しくは次の見出しで扱う契約上の地位の移転)
  • PC・什器などの少額なリース・購入:個人が立て替えて購入し、会社成立後に会社へ譲渡する、または創立費・開業費として精算する(設立前に使ったお金の扱い|創立費と開業費を参照)

これらに共通しているのは、「あとで会社に切り替える」ことを前提に、切り替えの手間や審査のリスクを織り込んで進めているという点です。

注意が必要な契約|財産引受けは定款に書かないと無効になる

一方で、発起人が「会社のために」何かを取得・契約する行為には、法律上の制約がある種類のものがあります。発起人の権限は、会社の設立そのものに必要な行為(定款作成、株式の発行手続きなど)に限られ、開業準備行為(店舗の内装工事、商品の仕入れ、営業用財産の取得など)にまでは及ばないというのが、会社法の実務解説で示されている考え方です。発起人が単独で「会社のために」結んだ開業準備の契約は、原則として成立後の会社に当然には効果が帰属しません(アイシア法律事務所)。

この原則には1つだけ、法律が明文で認めた例外があります。それが財産引受けです。会社法28条2号は、「株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価格並びに譲渡人の氏名又は名称」を、定款に記載・記録しなければ効力を生じない事項(変態設立事項)として定めています。かみ砕くと、発起人が「会社が成立したら、この財産をいくらで会社が買い取る」という契約(たとえば、発起人個人が持っている車や機材を会社に譲る契約)を結ぶこと自体は認められていますが、その内容をあらかじめ定款に書いておかない限り、その契約は無効ということです。定款に書いていない財産引受けは、会社成立後に株主総会で追認しても有効にならないとされています(行政書士受かって調子に乗って司法書士を勉強するブログ)。

さらに、財産引受けを含む変態設立事項は、原則として裁判所が選任する検査役による調査が必要です(会社法33条)。定款に記載された財産の価額の合計が500万円以下の場合や、市場価格のある有価証券でその価額が市場価格を超えない場合など、一定の条件を満たす場合はこの調査を省略できる規定があります(同条10項)。また、実際に譲り受けた財産の価値が定款に記載した価額より著しく不足していた場合、発起人や設立時取締役が会社に対して不足額を支払う責任を負う規定もあります(会社法52条、財産価額塡補責任)。

ここが要点

「発起人が会社のために契約したから、当然に会社の契約になる」という理解は誤りです。開業準備行為は原則として会社に自動で引き継がれず、財産引受けとして扱うなら定款への記載が必要になります。金額が大きい財産の取得を「あとで会社に移せばいい」と個人契約で進める前に、司法書士に定款の記載内容を確認してください。

していいもの・注意が必要なもの(一覧表)

契約の種類 設立前にできること 会社成立後の扱い
事務所・店舗の賃貸借 発起人が個人名義で契約(特約で成立後の切り替えを明記) 特約に基づき会社が契約当事者に切り替え
携帯電話・通信回線 個人名義で先に使用開始 法人契約への切り替え(設立直後は審査が厳しい場合あり)
業務委託・取引基本契約 発起人が個人事業主として契約 相手方の承諾を得て契約上の地位を会社に移転(民法539条の2)
PC・什器などの少額な取得 個人が立て替えて購入 会社へ譲渡、または創立費・開業費として精算
財産引受け(車・機材など特定の財産を会社が買い取る契約) 契約自体は可能だが、定款に記載しないと無効 定款記載どおりに会社が譲り受け。検査役調査が必要な場合あり(会社法33条)
法人名義そのものでの契約 できない(法人格が無い)

会社成立後、契約を法人に引き継ぐ手順

賃貸借や取引基本契約のように、財産引受けに当たらない通常の契約を会社に引き継ぐ場合は、契約上の地位の移転という手続きが必要です。民法539条の2は、「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する」と定めています(クレアール司法書士講座)。

かみ砕くと、個人(発起人)と会社の間で「契約の当事者を会社に切り替えます」と合意するだけでは足りず、契約の相手方(大家さん、取引先など)からも切り替えの承諾を得る必要があるということです。個人事業主が法人化する際に、取引先や従業員との契約について契約上の地位を法人に移すには、それぞれの相手方から承諾を得る必要があると解説されています(賢者の選択サクセッション)。

実務上は、次のような順番になります。

  1. 設立準備の段階で、賃貸借契約や取引基本契約を個人(発起人)名義で結ぶ。このとき、契約書に「会社成立後は契約者を法人に変更する」旨の特約を入れておくと、切り替え時のやり取りがスムーズになる
  2. 会社成立後、登記事項証明書・印鑑証明書など会社の実在を証明する書類を準備する
  3. 契約の相手方に連絡し、契約上の地位を個人から会社に移すことについて承諾を得る(賃貸借なら覚書、通信契約なら名義変更の手続きなど、相手方が定める方法に従う)

「あとで自動的に切り替わる」と考えて相手方への連絡を後回しにしないことがポイントです。 相手方の承諾が得られなければ、契約は個人名義のまま残り続けます。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、会社設立の準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点では設立登記が完了しておらず、事務所の賃貸借契約や取引先との契約を実際に個人名義で結び、会社成立後に切り替えた経験はまだありません。この記事は自分の契約実務の記録ではなく、会社法・民法の条文と、複数の司法書士事務所・法律事務所・行政書士事務所の公開情報をもとにした「調査した範囲では」の整理です。

将来、実際に事務所を借りる、または取引先と契約を結ぶ段階になり、契約の切り替えで実際につまずいた点(相手方の承諾を得るのに時間がかかった、特約の書き方で迷ったなど)があれば、この記事に実体験として追記します。

次にやること

まず、これから結ぶ予定がある契約(事務所の賃貸借、取引先との業務委託、携帯電話やリースなど)を一覧にし、それぞれ「財産引受けに当たるかどうか」を分けてください。 特定の財産(車・機材・在庫など)を会社に譲り渡す契約になりそうなものは、定款に記載が必要になる可能性があるため、契約前に司法書士へ相談してください。それ以外の賃貸借・業務委託・通信契約は、個人名義で契約を進めつつ、契約書に「会社成立後は契約者を法人に変更する」旨の特約を入れておくと、あとの切り替えがスムーズです。会社が成立したら、契約の相手方一件ずつに連絡し、契約上の地位を会社に移すことについて承諾を得てください。


※本記事は2026年9月時点で確認できた会社法・民法の条文、複数の司法書士事務所・法律事務所・行政書士事務所の解説記事、および筆者個人の状況に基づく調査整理です。実際の契約内容の判断(特に財産引受けに該当するかどうか)は、司法書士または弁護士に確認してください。この記事は一般的な整理であり、個別の法律相談の代わりにはなりません。

出典 - 会社法第49条(株式会社の成立、設立登記の完了により法人格を取得する旨) - 会社法第28条2号(財産引受け、定款記載が無ければ効力を生じない旨) - 会社法第33条・同条10項(変態設立事項の検査役調査、調査省略の要件) - 会社法第52条(現物出資・財産引受けにおける財産価額塡補責任) - 民法第539条の2(契約上の地位の移転) - 会社設立前でも会社名義で店舗、オフィスは借りられる?|行政書士阿部総合事務所(設立前は会社名義で契約できない理由を確認) - 会社設立・法人設立Q&A|司法書士なごやか法務事務所(個人名義での賃貸借契約と特約による切り替え実務を確認) - 現物出資・財産引受け(変態設立事項)|アイシア法律事務所(発起人の権限の範囲、開業準備行為の原則を確認) - 財産引受は株式会社の成立後に特定の財産を一定の価額で譲り受ける契約|行政書士受かって調子に乗って司法書士を勉強するブログ(定款未記載の財産引受けが無効になる点を確認) - 民法第539条の2|クレアール司法書士講座(契約上の地位の移転の条文内容を確認) - 従業員との労働契約も対象!地位承継の基礎知識|賢者の選択サクセッション(個人事業から法人化する際の契約承継の考え方を確認) - 携帯電話の法人契約、準備はこれで完璧!|houjin-keitai.com(設立直後の法人は通信契約の審査が厳しい傾向にある点を確認)

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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