法人印鑑届と印鑑カード
- 登記の申請をオンラインで行う場合、登記所への印鑑の提出は任意(2021年2月15日施行・商業登記規則改正・法務省)。書面申請の場合は従来どおり印鑑の提出が必要
- 印鑑カードは印鑑届出そのものとは別の手続きで、印鑑を届け出た人が別途「印鑑カード交付申請書」を提出して初めて交付される(商業登記規則第9条の4)
- 印鑑証明書をオンラインで交付請求する場合、電子証明書(商業登記電子証明書・マイナンバーカード等)があれば足り、印鑑カードの送付は不要。ただし窓口や証明書発行請求機で受け取る際は印鑑カードの提示が必須(法務局)
- 印鑑を届け出なければ印鑑証明書そのものが発行できないため、オンライン申請で印鑑届出を省略した場合は印鑑カードの取得手続きもそもそも発生しない
- 印鑑カードを紛失した場合は法務局への届出と再交付申請が必要になる
この記事の内容
この記事は、会社の設立登記をオンラインで申請しようとしていて、「印鑑届は任意と聞いたけど、印鑑カードというのも別に要るらしい」と混乱している人に向けて書いています。 結論から言うと、印鑑届出と印鑑カードは別の手続きです。オンライン申請なら印鑑届出そのものを省略できますが、省略すれば印鑑証明書を窓口で取る手段も同時に無くなります。以下、この2つの制度の関係を整理します。
- オンライン申請なら印鑑届は不要と聞いたが、それで本当に困らないのか分からない
- 「印鑑カード」が印鑑届と同じものなのか、別の手続きなのか分からない
- 印鑑証明書をオンラインで取るときにも印鑑カードが要るのかどうか分からない
結論:印鑑届は「するかしないか」、印鑑カードは印鑑証明書を紙で取るための道具
登記の申請をオンラインで行う場合、法務局(登記所)への印鑑の提出は任意です(2021年2月15日施行の商業登記規則改正、法務省)。これは別記事で扱った内容ですが、ここではその先の話をします。
印鑑を届け出た場合、印鑑証明書を発行してもらえるようになりますが、その印鑑証明書を法務局の窓口や証明書発行請求機で受け取るには、「印鑑カード」というICカードのようなプラスチック製カードの提示が必要です。この印鑑カードは、印鑑を届け出れば自動的にもらえるものではなく、別途「印鑑カード交付申請書」を提出して初めて交付されます(商業登記規則第9条の4)。つまり関係する手続きは実質2段階あります。
- 印鑑届出:印鑑をこの印影で登記所に登録する手続き(オンライン申請なら任意)
- 印鑑カード交付申請:届け出た印鑑の証明書を、窓口や証明書発行請求機で受け取れるようにする手続き(印鑑届出とは別の申請)
オンライン申請で印鑑届出そのものを省略した場合、この2段階目もそもそも発生しません。印鑑証明書は印鑑を届け出た人にしか発行されないため、印鑑を届け出ていなければ印鑑カードを作る意味自体が無いからです。
おさらい:オンライン申請なら印鑑届出は任意になる
会社の代表者印(いわゆる法人の実印)を登記所へ届け出ること自体は、2021年2月15日施行の商業登記規則改正(令和3年1月29日法務省令第2号)により、登記の申請をオンラインで行う場合に限り任意になっています。法務省は「登記の申請をオンラインで行う場合は、登記所への印鑑の提出が任意になります」「登記の申請を書面で行う場合は、申請書に登記所に提出している印鑑を押印する必要があるため、従来どおり印鑑を提出していただく必要があります」と説明しています(法務省「商業登記規則が改正され、オンライン申請がより便利になりました」)。
つまり、freeeやマネーフォワードの会社設立サービスなどでオンライン申請(電子署名を使う方式)を選ぶ場合は、印鑑届出を省略して登記自体は完了できます。ただし省略した場合の影響は次の見出しで扱います。
印鑑カードとは何か|印鑑届出とは別の手続き
印鑑カードは、印鑑を届け出た人が「印鑑カードの交付を請求することができる」制度です(商業登記規則第9条の4第1項)。カードには本店所在地・商号・印鑑カード番号などが記録され、これを法務局の窓口や証明書発行請求機に提示することで印鑑証明書を取得できます。
法務局は、代表者の印鑑証明書を取得する際に「印鑑証明書を受け取る際には、印鑑カードを必ず窓口に持参し、提示してください」と案内しています(法務局「会社・法人代表者の印鑑証明書を取得したい方」)。印鑑カード自体には印影は写っていません。カードだけを見ても、どの印鑑が登録されているかは分からない仕組みです。なお、法人の印鑑カードには暗証番号は設定されておらず、証明書発行請求機を操作する際は暗証番号の代わりに代表者の生年月日を入力します(複数の司法書士の解説で確認。2026年9月確認)。
資格を喪失した代表者に代わって新しい代表者が印鑑を届け出る場合、新しい印鑑の提出と同時に申し出れば、前任者が使っていた印鑑カードをそのまま承継して使うこともできます(商業登記規則第9条の4第3項)。
印鑑カードが要る場面・要らない場面
印鑑証明書の取得方法は複数あり、印鑑カードが要る場面と要らない場面が分かれます。
- 法務局の窓口で申請・受領する場合:印鑑カードの提示が必須です
- 証明書発行請求機(法務局に設置されている機械)で取得する場合:印鑑カードを使って操作します
- 郵送で申請する場合:印鑑カード番号を申請書に記載するだけでなく、印鑑カード自体を申請書・返信用封筒とあわせて同封して送付する必要があります(法務局「登記事項証明書(商業・法人登記)・印鑑証明書等の交付請求書の様式」、熊本地方法務局の案内で確認。2026年9月確認)
- オンラインで交付請求する場合:法務省の解説では、オンラインで印鑑証明書の交付を請求する際は電子証明書(商業登記電子証明書・公的個人認証サービス電子証明書・特定認証業務電子証明書のいずれか。マイナンバーカードでも請求可能)を使って電子署名を行う必要があるとされ、この請求自体には印鑑カードの送付は不要とされています。ただし、交付された証明書を窓口で受け取る場合は、印鑑カードを持参・提示する必要があります(法務省「オンラインによる登記事項証明書及び印鑑証明書の交付請求について」、法務局「会社・法人代表者の印鑑証明書を取得したい方」)
オンラインでの交付「請求」自体には印鑑カードは不要でも、証明書を郵送でなく法務局の窓口で受け取る運用を選ぶ場合は、結局そこで印鑑カードの提示が必要になります。「オンライン完結」を想定しているなら、証明書の受け取り方法(郵送かどうか)まで含めて確認しておくと、窓口で持って来ていないと気づく事態を避けられます。
印鑑カード交付申請書の書き方
印鑑カード交付申請書は法務局のサイトから様式(PDF)をダウンロードでき、法務局の記入例では次の項目が求められています。
- 申請先の法務局・支局・出張所名、申請年月日
- 商号・名称、本店・主たる事務所
- 印鑑提出者の資格(代表取締役・取締役・代表社員・代表理事・理事・支配人)、氏名、生年月日、会社法人等番号
- 登記所に提出した印鑑の押印欄(登録済みの印鑑を鮮明に押す欄)
- 申請人(印鑑提出者本人か代理人かにチェック)、住所、氏名、フリガナ、連絡先電話番号
代理人が申請する場合は、様式下部の委任状欄に代理人の住所・氏名を記載し、登記所に提出した印鑑を押印する必要があります(法務局「印鑑カード交付申請書」様式)。窓口への持参のほか、郵送での提出にも対応しており、その場合は返信用封筒(切手貼付)を同封する運用が一般的です(詳細は管轄法務局に確認してください)。印鑑カード交付申請書自体の手数料について、法務局・法務省の公式ページに手数料額を明記した記載は見当たらなかった(様式に収入印紙欄は無い。2026年9月確認)。複数の司法書士・法人設立支援サイトの解説では手数料はかからないと案内されています。
整理:印鑑届出×印鑑カード×印鑑証明書の取得方法
| 選んだ申請方法 | 印鑑届出 | 印鑑カード | 印鑑証明書の取得 |
|---|---|---|---|
| 書面で設立登記を申請 | 必須(従来どおり) | 別途交付申請すれば取得可 | 窓口・証明書発行請求機(いずれもカード提示)・郵送(カード番号記載+カード自体の同封が必要) |
| オンラインで設立登記を申請し、印鑑も届け出た | 任意だが実施 | 別途交付申請すれば取得可 | 窓口・証明書発行請求機・郵送に加え、オンライン請求も可(電子証明書を利用。窓口受領時は印鑑カード提示) |
| オンラインで設立登記を申請し、印鑑届出は省略 | 省略 | 取得不可(印鑑証明書自体が発行できないため) | できない |
印鑑届出を省略するかどうかは、印鑑証明書を今後どこかの場面(法人口座の開設・不動産契約・大口の取引契約など)で求められる見込みがあるかどうかで決めるのが実務的です。 省略しても登記自体は完了しますが、あとから印鑑届出だけを追加で行うこともできます(その場合は別途、印鑑届書の提出が必要です)。
印鑑カードを紛失したら
印鑑カードを紛失した場合、印鑑そのもの(実印)を失くしたわけではないため、印鑑証明書の悪用に直結する性質のものではありませんが、第三者が拾得して印鑑証明書を不正に取得しようとするリスクはゼロではありません。印鑑カードの提示がないと印鑑証明書は発行されないため、紛失した印鑑カードの廃止手続と、あらためて印鑑カード交付申請書を提出しての再交付手続の両方が必要になります(盛岡地方法務局「印鑑カードを紛失しましたが、会社の印鑑証明書は取得できますか?」。2026年9月確認)。再交付の手数料額について公式ページに明記は見当たらなかったが、複数の司法書士・印鑑業者の解説では手数料はかからないと案内されています。実際の届出書式・必要書類は管轄法務局によって案内が異なる場合があるため、紛失時は最寄りの法務局(登記所)へ直接確認することをおすすめします。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。この記事を書いている2026年9月3日時点で、私自身はまだ定款の作成にも着手しておらず、印鑑届出・印鑑カードの交付申請のいずれも行っていません。オンライン申請で設立登記を進める予定ですが、印鑑届出を省略するか実施するかもまだ決めていません。
そのため、この記事は自分が実際に印鑑カードを交付してもらった記録ではなく、法務省・法務局の公開情報と商業登記規則の条文をもとにした「調べた範囲では」の整理です。実際に設立登記を申請し、印鑑届出をするかどうかを判断した段階、また印鑑カードを実際に交付してもらった段階になったら、窓口でかかった時間や郵送でのやり取りなど、実体験として追記します。
次にやること
まず、オンラインで設立登記を申請する予定なら、印鑑届出を省略するかどうかを、印鑑証明書が必要になりそうな場面(法人口座の開設予定、不動産の契約予定など)から逆算して決めてください。 印鑑届出をする場合は、登記完了後に「印鑑カード交付申請書」を提出しないと印鑑証明書は取得できない点を忘れないでください。印鑑証明書をオンラインで請求する場合でも、窓口で受け取るなら印鑑カードの持参が必要になるため、証明書の受け取り方法(窓口か郵送か)まで決めておくと二度手間になりません。
※本記事は2026年9月時点で確認できた法務省・法務局の公開情報、商業登記規則の条文、および筆者個人の状況に基づく調査整理です。印鑑カード紛失時の具体的な手続きは管轄の法務局によって案内が異なる場合があるため、実際の手続き前には管轄の法務局、または司法書士に最新情報を確認してください。この記事は一般的な整理であり、個別の法律相談の代わりにはなりません。
出典 - 法務省「商業登記規則が改正され、オンライン申請がより便利になりました(令和3年2月15日から)」(オンライン申請の場合に限り印鑑届出が任意になる旨、書面申請は従来どおり必須である旨を確認。2026年9月3日確認) - 法務省「オンラインによる登記事項証明書及び印鑑証明書の交付請求について(商業・法人関係)」(オンライン請求時の電子証明書の要件、印鑑カードの送付が不要である旨を確認。2026年9月3日確認) - 法務局「会社・法人代表者の印鑑証明書を取得したい方」(印鑑証明書の受け取り時に印鑑カードの提示が必須である旨を確認。2026年9月3日確認) - 法務局「印鑑カード交付申請書」様式(PDF)(印鑑カード交付申請書の記載項目・記入例、委任状欄の様式を確認。2026年9月3日確認) - 法務局「登記事項証明書(商業・法人登記)・印鑑証明書等の交付請求書の様式」(郵送での印鑑証明書交付請求には印鑑カード番号の記載に加え印鑑カード自体の同封が必要である旨を確認。2026年9月6日確認) - 盛岡地方法務局「印鑑カードを紛失しましたが、会社の印鑑証明書は取得できますか?」(紛失時は廃止手続と再交付手続の両方が必要である旨を確認。2026年9月6日確認) - 商業登記規則第9条の4(印鑑カードの交付の請求等。印鑑提出者が別途申請して初めて交付されること、資格喪失時の承継について規定) - 商業登記規則第9条の3(改印等の請求。登記所提出済み印鑑と照合に適さない場合の改印手続きについて規定)