出張旅費規程で節税
- 出張旅費規程に基づく日当は、通常必要と認められる範囲であれば所得税法上非課税(所得税法9条1項4号)で、会社側は損金算入できる(法人税法22条3項)
- 消費税も、所得税基本通達9-3の非課税判定の範囲内なら課税仕入れとして仕入税額控除の対象になる(国税庁タックスアンサーNo.6459)
- 一人社長でも規程は作れるが、金額が「同業種・同規模の他社と比べて相当か」を問われる(所得税基本通達9-3)ため、著しく高い日当は役員給与とみなされるリスクがある
- 日当は社会保険料の算定基礎に含まれない「手当」として扱われるのが一般的だが、この記事は法令・国税庁の公式情報と複数の専門家サイトの解説を整理したものであり、筆者自身が規程を運用した体験ではない
この記事の内容
この記事は、一人または少人数で会社を経営していて、「出張旅費規程で節税できると聞いたが、社員が自分しかいなくても作れるのか」を知りたい人に向けて書いています。 結論から言うと、作れます。ただし「規程さえ作れば無条件に節税になる」わけではなく、金額の妥当性と出張の実態が問われます。この記事では、なぜ節税になるのか、一人社長でもいくらにすればいいのか、税務調査で否認されないために何を残すべきかを整理します。
- 出張旅費規程で節税になると聞いたが、仕組みが分かっていない
- 社員が自分ひとりの会社でも、旅費規程は作れるのか不安
- 日当をいくらにすればいいのか、相場や決め方の基準が分からない
結論:日当は会社の経費・個人は非課税という二重のメリット
出張旅費規程とは、出張したときの交通費・宿泊費・日当の支給ルールを会社があらかじめ定めた規程です。この規程に基づいて支給する「日当」には、次の2つのメリットが同時に発生します。
- 会社側: 日当は旅費交通費として損金算入できる(法人税法22条3項)
- 受け取る側(役員・従業員本人): 通常必要と認められる範囲の日当は、所得税が非課税(所得税法9条1項4号)
つまり、会社の経費にはなるのに、受け取った本人には所得税も住民税もかからないという状態が作れます。さらに、日当は給与ではなく「手当」として扱われるため、社会保険料の算定基礎にも含まれないのが一般的な取扱いです。規程を作らずに実費精算だけをしている会社は、このメリットをまるごと使えていません。
なぜ節税になるのか|所得税・法人税・消費税の3つの根拠
所得税:非課税になる根拠と3つの判定基準
所得税法9条1項4号は、「旅行に必要な運賃、宿泊料等の実費弁償たる金品」で通常必要と認められるものを非課税所得と定めています。ただし、「いくらまでなら非課税か」という具体的な金額の線引きは法律本文には書かれておらず、その判定基準を示しているのが所得税基本通達9-3です。
この通達は、非課税と認められるかどうかを次の観点で判定するとしています。
- その支給額が、その支給をする会社の役員・使用人の全てを通じて、地位に応じたバランスが保たれているか
- その支給額が、同業種・同規模の他の会社が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるか
つまり、「うちの会社ではこう決めた」という自己申告だけでは足りず、他社と比べて非常識に高くないかが問われる仕組みです。
法人税:旅費交通費として損金算入
会社が支払った日当は、業務に関連する費用として法人税法22条3項の一般原則に基づき損金算入できます。特別な優遇措置ではなく、「事業に必要な経費だから経費にできる」という通常の費用計上です。
消費税:仕入税額控除も受けられる
国税庁のタックスアンサー(No.6459)によれば、出張旅費・宿泊費・日当のうち、その旅行に通常必要と認められる部分は課税仕入れに該当し、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められます。この「通常必要と認められる部分」の判定は、先に述べた所得税基本通達9-3の基準で行うとされています。つまり、所得税が非課税になる範囲と、消費税の仕入税額控除が受けられる範囲は、同じ物差しで判定されるという関係です。ただし、海外出張・海外転勤のために支給した旅費・日当は、原則として課税仕入れにはなりません。
3つの税金(所得税・法人税・消費税)で、それぞれ別々に得をする仕組みではありません。 「通常必要と認められる範囲の日当かどうか」という同じ判定基準が、所得税の非課税・消費税の仕入税額控除の両方に効いてきます。だからこそ、金額の妥当性が全体の土台になります。
一人社長でも作れるのか
作れます。旅費規程は「複数人の会社でなければ作れない」という制約はありません。実際に、社員が社長本人だけの会社が出張旅費規程を作り、日当を支給している例は複数の税理士事務所の解説サイトで紹介されています。
ただし、一人社長の場合は次の点に注意が必要です。
- バランス基準は問題になりにくいが、他社比較の基準は残る: 所得税基本通達9-3の1つ目の基準(社内でのバランス)は、比較対象が自分しかいないため実質的に問題になりません。しかし2つ目の基準(同業種・同規模の他社と比べて相当か)は、一人社長であっても外れることはありません。
- 規程は「特定の人だけ」に適用できない: 仮に将来従業員を雇う場合、社長にだけ高額な日当を、従業員には低い日当を、という差別的な規程は税務署に否認されやすいとされています。将来の拡張も見据えて規程を作ることが望ましいという指摘が複数の解説サイトにあります。
- 出張の実態が前提: 規程だけ作って、実際には出張していないのに日当を計上する、という運用は当然ながら認められません。
日当はいくらにすればいいか|相場と決め方
日当の金額に法律上の上限・下限はありません。ただし、所得税基本通達9-3の「同業種・同規模の他社と比べて相当か」という基準がある以上、世間相場からかけ離れた金額は否認リスクが高まります。
複数の税理士・社労士事務所の解説サイトによれば、国内出張の日当の相場は、役職や日帰り・宿泊の別によって次のような幅で語られることが多いです。
| 出張の種類 | 一般的に語られる目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 国内・日帰り | 2,000円台〜3,000円程度 | 民間の旅費調査(産労総合研究所など)を根拠とするサイトが複数。ただし日当額の調査原本は有償で、無償の公式発表には国内の日当額の掲載がない |
| 国内・宿泊あり | 3,000円台〜5,000円程度 | 役職が上がるほど高く設定する規程が多いとされる |
| 海外出張 | 5,000円台前後〜、役員はさらに高め | 海外出張の日当は消費税の仕入税額控除の対象外である点に注意 |
※国内出張の日当額について、産労総合研究所の公式サイト(「国内・海外出張旅費に関する調査」2025年度・2023年度の発表ページ)を2026年9月6日に確認しましたが、無償で公開されている発表には国内の日帰り・宿泊出張の日当額は掲載されておらず、調査原本(産労レポート)は有償のため、国内の金額は一次資料で確認できていません。国内の目安は、複数の税理士・社労士事務所の解説サイトが言及している水準にとどまります。一方、海外出張の日当は、同研究所の2025年度調査の公式発表に一般社員の平均として北米5,199円・中国4,765円・東南アジア4,841円が掲載されており、表の「5,000円台前後」はこの公表値と整合します。実際に規程の金額を決める際は、税理士に確認したうえで自社の業種・規模に照らして設定してください。
役員だけを著しく高額にする規程は危険です。 一人社長で従業員がいない場合でも、「同業他社と比べて明らかに高い」水準の日当は、税務調査で役員給与(定期同額給与以外の臨時の給与)とみなされ、損金不算入になるリスクが指摘されています。金額を大きくするほど得になる仕組みではなく、「常識的な範囲に収まっているか」が唯一の判断基準だと考えたほうが安全です。
税務調査で否認されないためにやること
複数の税理士事務所の解説で共通して挙げられているのは、次の4点です。
- 書面の規程を作る: 口頭の取り決めではなく、金額・支給条件を明記した規程を作成し、保管する
- 出張の実態を記録に残す: 出張報告書、訪問先の議事録、交通機関の利用履歴など、「実際に出張した」ことを裏付ける記録を残す
- 規程どおりに運用する: 規程に定めた金額から逸脱した支給をしない。変更する場合は規程自体を改定してから適用する
- 同業他社水準から外れた金額にしない: 定期的に金額の妥当性を見直す
これらは義務として法令に明記されているわけではありませんが、税務調査で「実費弁償として通常必要な範囲か」を問われたときに、規程と記録がなければ説明のしようがないという実務上の理由から、複数の専門家が共通して推奨しています。
出張旅費規程の作り方|最低限入れる項目
規程に決まった書式はありませんが、一般的に次の項目を盛り込みます。
- 目的: 出張に伴う旅費の取扱いを定める旨
- 適用範囲: 役員および全従業員に適用する旨(将来の従業員も見据えて書く)
- 旅費の種類: 交通費・宿泊費・日当をそれぞれ定義
- 支給額: 役職別・出張区分別(日帰り/宿泊、国内/海外)の金額を一覧で明記
- 精算方法: 出張報告書の提出、精算の期限
- 改定手続き: 規程を見直す場合の手続き
社内で一から作るのが不安な場合は、税理士に依頼するか、税理士事務所が公開している雛形を参考にしたうえで、自社の実態に合わせて金額を調整する進め方が現実的です。
調査した範囲について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、起業準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ自分の会社を設立しておらず、出張旅費規程を実際に作成・運用した経験はありません。この記事は、所得税法・法人税法の条文、国税庁の公式解説(所得税基本通達9-3、タックスアンサーNo.6459)、および複数の税理士・社労士事務所の解説サイトを2026年9月に確認し、内容が一致する部分を整理したものです。国内の日当相場については一次資料(民間調査の原本。無償の公式発表には国内日当額の掲載がなく、原本は有償)までは確認できておらず、複数の解説サイトが言及している目安として紹介している点を明記しておきます。海外出張の日当は産労総合研究所の2025年度調査の公式発表で確認しています。
次にやること
出張旅費規程を作る前に、まず税理士に「自社の業種・規模なら日当はいくらが妥当か」を相談してください。 規程の書式そのものはテンプレートで揃えられますが、金額の妥当性だけは自社の状況に合わせた個別判断が必要で、ここを自己判断で決めると税務調査での否認リスクが残ります。
※本記事は2026年9月時点で確認できた法令・国税庁の公式情報、および複数の税理士・社労士事務所による解説サイトの内容整理です。制度は変更されることがあり、日当の相場に関する数値は一次資料未確認のため目安として扱ってください。実際に規程を作成する際は、必ず税理士に確認してください。
出典 - 所得税法9条1項4号(旅費の非課税規定) e-Gov法令検索 - 所得税基本通達9-3 非課税とされる旅費の範囲 国税庁(nta.go.jp) - No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い 国税庁タックスアンサー(nta.go.jp) - 出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件 国税庁(nta.go.jp) - 法人税法22条3項(損金算入の一般原則) e-Gov法令検索 - 旅費日当規程を利用した場合の注意点 東京法人会連合会(2026年9月確認、tohoren.or.jp) - 日当の相場・役職別金額: 国内の日当額は、産労総合研究所「2025年度 国内・海外出張旅費に関する調査」公式発表(sanro.co.jp、2026年9月6日確認)の無償公開分に掲載がなく、調査原本は有償のため一次資料未確認。海外出張の日当(一般社員平均: 北米5,199円・中国4,765円・東南アジア4,841円)と国内宿泊料(全地域一律・一般社員8,878円)は同発表で確認(2026年9月6日確認)