業務委託と雇用の違い
- 労働基準法第9条は「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しており、契約が雇用か業務委託かは契約書の名称ではなく実態(指揮監督下の労働かどうか・報酬の労務対償性)で判断される(昭和60年12月19日労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」)
- 指揮監督下の労働かどうかは、諾否の自由・業務遂行上の指揮監督・場所と時間の拘束性・代替性の4要素で判断する
- 実態が雇用と判定されると、社会保険料の遡及徴収や労働基準監督署の是正勧告の対象になりうる
- フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、2024年11月1日施行)第3条の業務委託内容の明示義務は、従業員を使用しない一人社長が発注する場合でも適用される
- 報酬の支払期日を給付受領日から60日以内に設定する義務(同法第4条)は、従業員を使用する「特定業務委託事業者」が対象で、従業員のいない一人社長は対象外
この記事の内容
この記事は、一人会社で人手が要るようになったとき、雇用ではなく業務委託(外注)で回そうとしている経営者に向けて書いています。 結論から言うと、業務委託と雇用の違いは契約書のタイトルでは決まりません。実際の働かせ方が「指揮監督下の労働」にあたるかどうかで判断され、業務委託のつもりで結んだ契約が、実態次第では雇用(労働者)とみなされることがあります。以下、判断基準と、発注する側に新たに課された義務を順番に整理します。
- 一人会社で人手が要るが、雇うのか外注(業務委託)にするのか判断がつかない
- 業務委託契約のつもりで頼んでいる相手が、実は「労働者」とみなされるのではないかと不安
- 外注を使う側にも法律上の義務があると聞いたが、何をすればいいか分からない
結論:契約書の名称ではなく「実態」で決まる
労働基準法第9条は「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。この「使用される」かどうかは、契約が「雇用契約」「業務委託契約」「請負契約」のどれと呼ばれているかではなく、実際の働き方の実態で判断されます。これは昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」に整理されており、現在も労働基準監督署の判断の土台になっています。
つまり、「業務委託契約書」を交わしていても、実態が会社員と変わらない働き方(指示された時間・場所で、指揮命令を受けながら働く)であれば、法律上は労働者と判定される可能性があります。 これを俗に「偽装請負」と呼びます。一人会社が外注で人を増やそうとするとき、まず押さえるべきはこの一点です。
業務委託と雇用、何がどう違うか
働き方としての違いを一覧にします。
| 項目 | 雇用契約 | 業務委託契約 |
|---|---|---|
| 指揮命令 | 会社の指示に従って働く | 発注者は成果を求めるのみ。進め方は本人が決める |
| 勤務時間・場所 | 会社が指定する | 本人が決める(拘束されない) |
| 社会保険 | 要件を満たせば会社が加入させる義務 | 発注者に加入義務なし。受託者は自身で国民健康保険・国民年金等に加入 |
| 源泉徴収 | 給与所得として会社が源泉徴収 | 原則不要。ただし原稿料・デザイン料・講演料など所得税法204条が定める報酬は源泉徴収の対象 |
| 労働基準法の適用 | 適用される(残業代・有給休暇等) | 原則適用されない |
| 契約の終了 | 解雇権濫用法理により会社側から一方的に終了しにくい(労働契約法16条) | 契約に基づき比較的自由。ただし継続的な業務委託の中途解除には別途の規律がある(後述) |
| 道具・費用負担 | 会社が用意することが多い | 本人が用意することが多い |
表だけを見ると項目ごとに白黒つきそうに見えますが、実際の契約は「時間は自由だが指示は細かく受けている」のように混在することが珍しくありません。だからこそ次の「4つの要素」で総合的に判断します。
労働者性はどう判断されるか|4つの要素
労働基準法研究会報告は、「指揮監督下の労働」にあたるかどうかを、主に次の4要素で判断するとしています。
| 要素 | 労働者性を肯定する方向 | 労働者性を否定する方向 |
|---|---|---|
| 諾否の自由 | 仕事の依頼を断れない | 断る自由がある |
| 業務遂行上の指揮監督 | 発注者から業務の進め方について具体的な指示を受ける | 自分の裁量で進め方を決められる |
| 場所的・時間的拘束性 | 勤務時間・勤務場所を指定・管理される | 時間や場所が本人の自由 |
| 代替性 | 本人以外が代わりに作業できない | 本人の判断で補助者を使ったり、他の人に任せたりできる |
これに加えて「報酬が時間や日数を基準に計算されている(労務そのものの対価に近い)かどうか」という報酬の労務対償性、さらに機械や器具を自分で負担しているか(事業者性)、他社の仕事も並行して受けられるか(専属性の程度)、源泉徴収や労働保険の扱いといった補強要素もあわせて総合的に判断されます。1つの要素だけで決まるものではなく、これらを組み合わせて実態を見るという点が重要です。
一人会社が業務委託で発注するとき、特に注意したいのは「時間的拘束性」と「指揮監督」です。「毎日9時から18時、こちらの指示通りに作業してもらう」という運用になっているなら、契約書の名称にかかわらず雇用に近いと判断されるリスクがあります。
業務委託のつもりが「雇用」と判定されたらどうなるか
業務委託として発注していた相手が、実態として労働者と判定された場合、発注者側には次のようなリスクが生じます。
- 労働基準監督署から労働基準法・労働安全衛生法等の是正勧告を受ける
- 本来加入させるべきだった社会保険料・労働保険料を遡って徴収される
- 残業代・有給休暇など、労働基準法上の権利を遡って請求される可能性がある
一人会社が意図的に社会保険料の負担を避ける目的で「業務委託」の形式だけを整えていた場合、遡及の期間が長くなるほど負担も大きくなります。契約書の文言で防げるものではなく、実際の働かせ方そのものを、上の4要素に照らして雇用に寄りすぎていないか確認しておくことが、唯一の対策です。
外注を使う側にも義務がある|フリーランス新法
ここまでは「業務委託のつもりが雇用と判定される」リスクの話でしたが、業務委託が正しく業務委託である場合にも、発注する側には別の法律上の義務があります。2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称フリーランス新法)です。
この法律では、発注する側・受託する側それぞれに次のような呼び名が付けられています。
- 特定受託事業者:業務委託の相手方で、従業員を使用しない個人事業主、または代表者一人だけで従業員のいない法人
- 業務委託事業者:特定受託事業者に業務委託をする事業者全般(規模を問わない)
- 特定業務委託事業者:業務委託事業者のうち、従業員を使用しているもの、または役員が二人以上いる法人
一人社長がフリーランスに業務を発注する場合、自分自身は従業員を使用していなくても「業務委託事業者」にあたります。そのため、次の義務が発生します。
- 業務委託の内容の明示義務(フリーランス新法第3条):給付の内容・報酬額・支払期日などを書面または電磁的方法(メール等)で明示しなければなりません。この義務は、発注者側が従業員を使用しているかどうかに関わらず適用されます。
- 報酬支払期日の60日ルール(同法第4条):給付を受領した日から60日以内のできるだけ早い期日に報酬を支払う義務です。ただし、この義務は「特定業務委託事業者」(従業員を使用する発注者)が対象で、従業員のいない一人社長が発注する場合はこの条項の対象にはなりません。
つまり、一人社長が外注する場合、支払期日そのものに法律上の期限規制はかからないものの、「口約束で発注して、報酬額や納期をあとから決める」という進め方は、従業員の有無にかかわらず第3条の明示義務に反します。発注時点で書面(チャットやメールでも可)に残しておくことが必要です。
なお、6か月以上続く継続的な業務委託を発注者側から解除する場合、契約の相手方に少なくとも30日前までに予告しなければならない義務(フリーランス新法第16条)もありますが、これも「特定業務委託事業者」(従業員を使用する、または役員が二人以上いる発注者)が対象です。従業員のいない一人社長が発注する場合は、この予告義務の対象にもなりません。
業務委託契約書に最低限入れておくもの
フリーランス新法の明示事項と、労働者性を否定する材料をあわせて考えると、業務委託契約書(または発注時の書面)には最低限、次を書いておくと安全です。
- 業務の内容と成果物の範囲
- 報酬の額と支払期日
- 納期・契約期間
- 進め方は受託者の裁量に委ねる旨(指揮命令を行わないことの明示)
- 作業時間・場所を指定しない旨(指定が必要な場合はその理由と範囲を限定する)
これらは「書いておけば安全」という魔除けではなく、実際の運用がこの通りになっていて初めて意味を持ちます。書面と実態がずれていれば、判断されるのは実態の方です。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ従業員も業務委託先も置いておらず、代表者一人で作業しています。そのため、この記事は実際に外注を発注した記録ではなく、法令と厚生労働省・公正取引委員会・中小企業庁の公式資料をもとにした「調査した範囲では」の整理です。
実際に外注を使う段階になったら、契約書の作り方や、フリーランス新法の明示事項をどう運用したかを、この記事に実体験として追記します。
次にやること
まず、いま外注しようとしている(またはすでに外注している)相手との働き方を、上の4要素(諾否の自由・指揮監督・拘束性・代替性)に照らして見直してください。 時間や場所を細かく指定し、こちらの指示通りに動いてもらっている実態があるなら、それは業務委託ではなく雇用に近い可能性があります。実態が業務委託と言えるなら、次に発注内容(業務内容・報酬額・支払期日)を書面かメールで明示できているかを確認してください。判断に迷う場合は、労働基準監督署または社会保険労務士に、契約書ではなく実際の働き方を伝えたうえで相談することをおすすめします。
※本記事は2026年9月2日時点で調査した内容に基づくものです。労働者性の判断や関連法令の適用範囲は個別の契約実態により変わることがあるため、実際の契約前には必ず労働基準監督署または社会保険労務士に最新情報を確認してください。
出典 - 労働基準法第9条(労働者の定義。e-Gov法令検索 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73022000&dataType=0&pageNo=1 ) - 労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日。厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001483481.pdf ) - 所得税法第204条(源泉徴収の対象となる報酬・料金等。国税庁「原稿等の報酬又は料金」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/36/02.htm ) - 労働契約法第16条(解雇権濫用法理) - 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)第2条(定義)、第3条(業務委託の内容の明示)、第4条(報酬の支払期日)、第16条(継続的業務委託の中途解除等の予告) - 公正取引委員会・中小企業庁「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)【令和6年11月1日施行】説明資料」( https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/freelance/law_02.pdf )