減価償却の基本
- 定額法の償却限度額=取得価額×定額法の償却率(耐用年数省令の償却率表による。国税庁No.2106・No.5410)
- 定率法の償却限度額=(取得価額-既償却額)×定率法の償却率、平成24年4月1日以後取得分は定額法償却率の2倍(200%定率法)を使う(平成23年12月税制改正。国税庁No.5410)
- 平成10年4月1日以後取得の建物、平成28年4月1日以後取得の建物附属設備・構築物は定額法のみで定率法は選べない(国税庁No.2100)
- 機械装置・器具備品・車両運搬具などは定額法・定率法を選べるが、届出をしない場合は法定償却方法が適用される(法人は原則定率法、個人事業主は原則定額法。国税庁No.2100、弥生会計サポート情報、法人税法施行令53条)
- 法人が償却方法を選定する届出書の提出期限は、設立の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで(国税庁個別通達「減価償却資産の償却方法の届出書の記載要領等」)
- 中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、令和8年4月1日以後取得分から取得価額の基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられている(財務省「令和8年度税制改正の大綱」)
この記事の内容
この記事は、会社を設立してパソコンや車両などの固定資産を買ったばかりで、「減価償却」の定額法と定率法のどちらを選べばいいのか分からない人に向けて書いています。 結論から言うと、建物・建物附属設備・構築物は定額法しか選べません。機械装置・器具備品・車両運搬具などは定額法と定率法を選べますが、何も届け出なければ法人は定率法が自動的に適用されます。以下、2つの計算方法の違い、選べない資産の種類、届出をしなかった場合にどうなるかの順に整理します。
- 「定額法」「定率法」という言葉は聞いたことがあるが、何がどう違うのか分からない
- パソコンや車を買ったが、減価償却の方法を選ばないといけないのか、何もしなくていいのか分からない
- どちらを選ぶと得なのか、判断基準が分からない
結論:資産の種類によっては選べない、選べる場合は届出が要る
減価償却とは、パソコンや車両、機械などの固定資産の取得にかかった費用を、耐用年数にわたって少しずつ経費に計上していく会計・税務上の処理です。この経費計上の仕方には「定額法」と「定率法」の2種類があります(国税庁タックスアンサーNo.2106「定額法と定率法による減価償却」)。
ただし、すべての資産で自由に選べるわけではありません。 建物、建物附属設備、構築物は定額法しか選べず、機械装置・器具備品・車両運搬具などは定額法・定率法のどちらかを選べます(国税庁No.2100「減価償却のあらまし」)。選べる資産について何も届け出なければ、法人の場合は定率法が自動的に適用されます。
「定額法か定率法か」で悩む前に、その資産がそもそも選べる種類かどうかを確認してください。 建物・建物附属設備・構築物であれば選ぶ余地はなく、定額法一択です。悩む必要があるのは機械装置・器具備品・車両運搬具などに限られます。
定額法とは|毎年同じ額を経費にする方法
定額法は、取得価額に「定額法の償却率」をかけて、毎年同じ金額を経費(減価償却費)として計上する方法です(国税庁No.2106)。
定額法の償却限度額 = 取得価額 × 定額法の償却率
定額法の償却率は「1 ÷ 耐用年数」を基準に、耐用年数省令に定められた償却率表の数値を使います。たとえば耐用年数5年の資産であれば、定額法の償却率は0.200です。取得価額が均等に経費化されていくため、毎年の利益・税額の見通しが立てやすいのが特徴です。
定率法とは|初年度に多く経費にする方法
定率法は、その時点でまだ経費にしていない残額(未償却残高)に「定率法の償却率」をかけて計算する方法です(国税庁No.2106、No.5410「減価償却資産の償却限度額の計算方法」)。
定率法の償却限度額 = (取得価額 − 既償却額) × 定率法の償却率
平成24年4月1日以後に取得した資産については、定率法の償却率は「定額法の償却率の2倍」を使います。これを200%定率法と呼びます(平成23年12月の税制改正による。国税庁No.5410)。それより前の平成19年4月1日から平成24年3月31日までの取得分は、定額法償却率の2.5倍を使う「250%定率法」でした。
未償却残高に一定率をかけるため、初年度が最も経費計上額が大きく、年を追うごとに金額が小さくなっていくのが定率法の特徴です。
定率法には「保証率」「改定取得価額」「改定償却率」という仕組みもあります。 未償却残高×償却率で計算した金額が、あらかじめ定められた最低ライン(償却保証額)を下回った年からは、計算方法が切り替わり、残りの期間で均等に償却しきる仕組みです(国税庁No.2106)。この記事では計算の細部までは扱いません。
同じ資産で計算するとどう変わるか
取得価額100万円、耐用年数5年(定額法の償却率0.200、200%定率法の償却率0.400)の器具備品を例に、最初の3年間を比べます。月数按分や保証率による切り替えは考慮しない単純化した数字です。
| 経過年数 | 定額法の経費計上額 | 定率法の経費計上額 |
|---|---|---|
| 1年目 | 20万円 | 40万円 |
| 2年目 | 20万円 | 24万円 |
| 3年目 | 20万円 | 14.4万円 |
5年間で経費にできる総額はどちらも同じ100万円で、変わるのは「いつ経費にするか」というタイミングだけです。 定率法は初年度の経費が大きくなる分、初年度の税負担を軽くできますが、後年になるほど経費計上額は小さくなります。逆に定額法は、初年度の節税効果は定率法より小さい代わりに、毎年の利益と税額が読みやすくなります。
「定率法の方が得」とは一概に言えません。 設立初期にまとまった利益が出て、早めに税負担を軽くしたい場合は定率法が向きます。毎年の利益をならして資金繰りの見通しを立てたい場合は定額法が向きます。
建物・建物附属設備・構築物は選べない
次の資産は、取得時期にかかわらず定額法しか選べません(国税庁No.2100)。
| 資産の種類 | 定額法のみになった時期 |
|---|---|
| 建物 | 平成10年4月1日以後取得分から |
| 建物附属設備・構築物 | 平成28年4月1日以後取得分から |
建物附属設備・構築物は、平成28年度税制改正で定率法が廃止され、定額法に一本化されました。バーチャルオフィスや賃貸で事業をしている一人社長にはあまり関係しませんが、事務所を自前で構えて内装工事(建物附属設備)を行った場合には関わってくる論点です。
なお、ソフトウェアも定額法のみで償却する資産です(法人税基本通達で定率法の対象から除かれています)。機械装置・器具備品・車両運搬具・工具など、それ以外の多くの資産では定額法・定率法のどちらかを選べます。
届出をしないとどうなるか|法定償却方法
定額法・定率法を選べる資産について、何も届け出なかった場合に自動的に適用される方法を「法定償却方法」と呼びます。法人は原則として定率法、個人事業主は原則として定額法が法定償却方法です(法人の法定償却方法は法人税法施行令53条が根拠。国税庁No.2100は個人事業主向けの解説で「一般的には旧定額法又は定額法」と記載。法人と個人の違いは弥生会計サポート情報「法人の減価償却資産の償却方法の届出について」でも解説を確認)。つまり、法人を設立して何も手続きをしなければ、対象資産は定率法で償却されます。
定額法を選びたい場合は、「減価償却資産の償却方法の届出書」を税務署に提出する必要があります。法人を新しく設立した場合の提出期限は、設立第1期の確定申告書の提出期限までです(国税庁個別通達「減価償却資産の償却方法の届出書の記載要領等」)。すでに設立済みの法人が新しい種類の資産を初めて取得した場合は、その取得日が属する事業年度の確定申告書の提出期限までとなります。
「特に何もしていない」場合、対象資産はすでに定率法で計算されています。 定額法に変えたい場合は届出が必要で、期限を過ぎると翌期以降の届出になります。設立初年度に大きな設備投資をする予定がある場合は、確定申告書を出す前に方針を決めておいてください。
少額の資産には別のルールがある
取得価額が10万円未満の資産は、減価償却をせず取得した年に全額を経費にできます(所得税法施行令138条・法人税法施行令133条)。10万円以上20万円未満の資産は「一括償却資産」として3年間で均等に償却する方法も選べます(所得税法施行令139条・法人税法施行令133条の2)。さらに、中小企業者等(資本金1億円以下などの要件に加え、常時使用する従業員数の上限がある)であれば、一定額未満の資産を年間合計300万円まで取得時に全額経費にできる特例もあります。この特例の対象となる取得価額の基準は、令和8年4月1日以後に取得する資産から30万円未満→40万円未満に引き上げられています(それより前に取得した資産は30万円未満が基準。財務省「令和8年度税制改正の大綱」、国税庁No.5408)。
これらは定額法・定率法とは別の制度で、対象になる資産であれば減価償却そのものを行わずに済みます(この記事では制度の詳細までは扱いません)。パソコンや事務機器など、単価が比較的小さい資産を買う場合は、定額法・定率法を検討する前に、まずこれらの少額資産の特例に当てはまらないかを確認したほうが早いことが多いです。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ登記が完了しておらず、法人として固定資産を取得し減価償却を計上した経験はまだありません。この記事は国税庁が公開している一次情報を調べて整理したものであり、自分自身が償却方法を選んで届出をした経験を書いているわけではないことを断っておきます。実際に法人としてパソコンや事務機器などを購入し、償却方法を選ぶ段階になったら、届出の実務や判断の経緯について追記します。
次にやること
まず、これから買う(すでに買った)固定資産が、建物・建物附属設備・構築物・ソフトウェアかどうかを確認してください。 これらであれば定額法一択で、届出も不要です。それ以外の機械装置・器具備品・車両運搬具などであれば、何もしなければ定率法が自動的に適用されます。設立初年度から大きな利益が見込まれ早めに税負担を軽くしたいなら定率法のままでよく、毎年の利益と税額の見通しを安定させたいなら、「減価償却資産の償却方法の届出書」を設立第1期の確定申告書の提出期限までに税務署へ提出して定額法を選んでください。
※本記事は2026年9月6日時点で調査した内容と、筆者個人の状況に基づくものです。減価償却の計算方法や届出の要否は資産の種類・取得時期・事業者の状況によって変わるため、実際の処理・届出前に税理士にご確認ください。
出典 - No.2100 減価償却のあらまし|国税庁(2026年9月6日確認。減価償却の対象資産、建物が平成10年4月1日以後取得分から・建物附属設備及び構築物が平成28年4月1日以後取得分から定額法のみになったことを確認) - No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)|国税庁(2026年9月6日確認。定額法・定率法の計算式、保証率・改定取得価額・改定償却率の仕組みを確認) - No.5410 減価償却資産の償却限度額の計算方法(平成19年4月1日以後取得分)|国税庁(2026年9月6日確認。定率法の計算式、平成24年4月1日以後取得分が定額法償却率の2倍〈200%定率法〉に、平成19年4月1日〜平成24年3月31日取得分は2.5倍〈250%定率法〉であったことを確認) - 減価償却資産の償却方法の届出書の記載要領等|国税庁(2026年9月6日確認。普通法人を設立した場合の届出期限が「設立の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限」までであることを確認) - 法人税法施行令第53条(2026年9月6日確認。法人の法定償却方法〈平成19年4月1日以後取得分は原則定率法〉の法的根拠。条文全文は有料法令データベースでのみ確認でき、条文番号と適用区分は複数の税務解説サイトで一致) - 「法人の減価償却資産の償却方法の届出について」弥生会計オンラインサポート情報(2026年9月6日確認。法人の法定償却方法が原則定率法であることの解説を二次情報源として確認) - No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁(2026年9月6日確認。特例の対象資産・300万円の年間上限額を確認。ページ表示は「令和7年4月1日現在法令等」で、後述の令和8年度改正は未反映) - 令和8年度税制改正の大綱|財務省(2026年9月6日確認。中小企業者等の少額減価償却資産の特例の対象取得価額を、令和8年4月1日以後取得分から30万円未満→40万円未満に引き上げ、適用期限を3年延長、除外対象の従業員数基準を500人超→400人超に引き下げたことを確認) - 一括償却資産とは|国税庁 確定申告書等作成コーナー(2026年9月6日確認。取得価額10万円以上20万円未満の資産を3年間で均等償却できる制度であることを確認)