役員賞与を出す方法
- 役員賞与は原則そのままでは損金不算入(法人税法第34条)。「事前確定届出給与に関する届出書」を出し、届出通りの金額・時期で支給すれば例外的に損金算入できる(法人税法第34条第1項第2号)
- 原則の届出期限は、株主総会等の決議日(職務執行開始日後の決議ならその開始日)から1月を経過する日と、会計期間開始日から4月を経過する日等のいずれか早い日(国税庁C1-23、法人税法施行令第69条第4項)
- 新設法人が設立時に開始する役員の職務について定めをした場合は、設立の日以後2月を経過する日までに提出すればよい(国税庁C1-23)
- 届出書に記載した金額と1円でも異なる金額を支給すると、その役員の給与は原則として全額が損金不算入になる(国税庁法令解釈通達9-2-14)。ただし影響は当該役員個人にとどまり、他の役員の給与には及ばない(国税庁質疑応答事例)
- すでにある定めを変更する場合は「事前確定届出給与に関する変更届出書」を使う。臨時改定事由(役員の地位・職務内容の重大な変更等)なら事由発生日から1月以内、業績悪化改定事由(経営状況の著しい悪化等)による減額なら株主総会等の決議日から1月以内(直前の支給日がそれより早ければその前日)が期限(国税庁C1-24)
この記事の内容
この記事は、自分の会社の役員(自分自身を含む)に賞与を出したいが、そのままでは経費にならないと聞いて手続きが分からない人に向けて書いています。 結論から言うと、「事前確定届出給与に関する届出書」を所定の期限までに税務署へ提出し、届出通りの金額・時期で実際に支給すれば、役員賞与も損金に算入できます。以下、なぜ届出が必要なのか、提出期限の計算方法、届出額と違う支給をした場合のリスク、途中で金額を変えたいときの手続きの順に整理します。
- 役員である自分にボーナスを出したいが、そのまま経費にできると思ってよいのか分からない
- 届出書をいつまでに出せばいいのか、起算日の数え方が分からない
- 業績が想定より悪かったとき、届出した金額より減らして支給したらどうなるのか不安
結論:届出通りに支給すれば役員賞与も経費にできる
役員に対する給与は、毎月同額を支払う「定期同額給与」であれば原則として損金(税務上の経費)に算入できますが、賞与のように特定の時期にまとめて支払う給与は、何も手続きをしなければ損金不算入になります(法人税法第34条第1項)。
この例外にあたるのが「事前確定届出給与」です。法人が、役員の職務について「あらかじめ定めた時期に、確定した額の金銭(または確定した数の株式・新株予約権など)を交付する」旨を決め、その内容を所定の期限までに納税地の所轄税務署長に届け出て、届出通りに実際に支給すれば、定期同額給与や業績連動給与に該当しなくても損金算入が認められます(法人税法第34条第1項第2号)。
「届け出れば賞与が経費にできる」のではなく、「届け出た通りの金額・時期で支給して初めて経費にできる」制度です。 届出は入口にすぎず、実際の支給が届出内容と一致していることが損金算入の条件になります。
なぜ役員賞与はそのままでは経費にならないのか
従業員の賞与は業績や成果に応じて自由に金額を決めても経費になりますが、役員の場合は同じ扱いにすると、会社の利益が出た年に役員へ多額の賞与を払って法人税を圧縮する、といった利益調整に使われかねません。そのため法人税法は役員給与について、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当しない限り、原則として損金不算入とする建て付けになっています(法人税法第34条第1項)。
事前確定届出給与は、この3類型のうち唯一「賞与のようにまとまった時期に支払う給与」を損金算入できる経路です。あらかじめ金額と時期を確定させて税務署に開示させることで、後からの利益調整を防ぎつつ、役員への賞与払いを認める仕組みになっています。
届出の提出期限|原則ルール
届出書の提出期限は、株主総会等で役員賞与の定めを決議した日を起点に、次の2つの日のうち早い方です(国税庁「C1-23 事前確定届出給与に関する届出」、法人税法施行令第69条第4項)。
| 起算点 | 期限 |
|---|---|
| 決議日(決議日が職務執行開始日より後なら、その開始日)から | 1月を経過する日 |
| 職務執行期間開始の日が属する会計期間の開始日から | 4月(法人税法第75条の2第1項の指定により確定申告書の提出期限の延長を受けている法人は、その指定に係る月数に3を加えた月数)を経過する日 |
たとえば3月決算の会社が5月の定時株主総会で決議した場合、「決議日から1月」の方が「期首(4月1日)から4月」より早く到来するため、決議日から1月以内が実際の期限になります。一方、期首に近い時期に決議すれば「期首から4月」の方が先に来ることもあります。自社の決算月と決議予定日から、どちらが早いかを個別に計算する必要があります。
新設法人の特例|設立から2月以内
会社を設立したばかりで、設立時に開始する役員の職務について事前確定届出給与の定めをする場合は、上記の原則ルールではなく、設立の日以後2月を経過する日までに届け出れば足ります(国税庁C1-23)。一人社長で合同会社・株式会社を設立し、初年度から自分に賞与を出す予定がある場合は、この特例期限を使うことになります。
届出書の記載事項・提出先・提出方法
届出書には、決議をした株主総会等の名称・決議日、対象となる役員の氏名・役職名、職務執行期間、支給時期、支給金額などを記載します。金銭で支給する場合は「付表1(事前確定届出給与等の状況・金銭交付用)」を、株式等で支給する場合は「付表2(株式交付用)」を添付します(国税庁C1-23)。
提出先と方法は次の通りです(国税庁C1-23、手続根拠は法人税法施行令第69条第4項)。
- 提出先: 納税地の所轄税務署長
- 提出方法: e-Taxソフトでの作成・提出、または書面1部を持参・送付
- 受付: 税務署の開庁時間は8時30分から17時まで(土日祝を除く)。閉庁日は送付または時間外収受箱への投函で提出可能
1円でも違う金額を支給したら、その役員の分は全額アウト
事前確定届出給与でもっとも注意すべきなのがここです。届出書に記載した支給額と実際の支給額が1円でも異なると、その支給は事前確定届出給与に該当しなくなり、原則としてその役員に支給した金額の全額が損金不算入になります(国税庁 法令解釈通達9-2-14)。「多く払ってしまった分だけ」「少なく払った差額だけ」が否認されるのではなく、支給額全体が対象になる点が実務上の落とし穴です。
一方で、この影響が及ぶのは記載額と異なる支給をしたその役員個人だけです。国税庁の質疑応答事例では、A役員にのみ届出額と異なる金額を支給した場合でも、届出通りに支給した他の役員の給与は法人税法第34条第1項第2号に該当し、損金算入できると明確にされています(国税庁「『事前確定届出給与に関する届出書』を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い」)。役員1人の支給ミスが会社全体の役員賞与を道連れにするわけではありません。
業績が悪化して「今期は減らして払いたい」と考えても、届出書を変更しないまま金額だけ下げて支給すると、その役員の賞与は全額損金不算入になります。 減額したいときは、次の変更届出の手続きを踏む必要があります。
途中で金額を変えたいとき|変更届出書
すでに届け出た内容を変える場合は、「事前確定届出給与に関する届出書」ではなく「事前確定届出給与に関する変更届出書」を使います。変更届出の提出期限は法人税法施行令第69条第5項に規定されており、変更の理由(臨時改定事由・業績悪化改定事由の定義は同条第1項第1号ロ・ハ)によって次のように異なります(国税庁「C1-24 事前確定届出給与に関する変更届出」)。
| 変更の理由 | 提出期限 |
|---|---|
| 臨時改定事由(役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これに類するやむを得ない事情) | その事由が生じた日から1月を経過する日 |
| 業績悪化改定事由(経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由) | 変更の株主総会等の決議をした日から1月を経過する日。ただし変更前の定めに基づく直近の支給日がその1月経過日より前にある場合は、その支給日の前日 |
業績悪化改定事由は、単に「今期の業績が予想より悪かった」というだけでなく、経営状況が著しく悪化したと言える程度の事情が必要とされています。自己判断で「悪化した」と決めつけず、顧問税理士に該当性を確認してから変更届出の手続きに進むことをおすすめします。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ登記が完了しておらず、役員賞与を実際に支給した経験はありません。この記事は国税庁が公開している一次情報(手続案内・法令解釈通達・質疑応答事例)を確認して整理したものであり、自分自身が事前確定届出給与の届出や支給を行った経験を書いているわけではないことを断っておきます。実際に届出書を提出し、賞与を支給する段階になったら、記載のつまずきや税務署とのやり取りについて追記します。
次にやること
まず、自分の会社の決算月と、役員賞与を決議する予定の株主総会の時期から、「決議日から1月」と「会計期間開始から4月(等)」のどちらが早く到来するかを計算してください。 新設法人で設立初年度から賞与を出す予定なら、設立日から2月以内が期限です。期限と金額・時期が固まったら、e-Taxまたは書面で届出書を所轄税務署長に提出し、その後は届出通りの金額・時期からずらさずに支給することが、損金算入を確定させる最後の条件になります。
※本記事は2026年9月6日時点で調査した内容と、筆者個人の状況に基づくものです。事前確定届出給与の適用可否や届出期限の計算は個々の会社の決算期・決議時期によって変わるため、実際の届出・支給前に税理士にご確認ください。
出典 - 法人税法第34条第1項(役員給与の損金不算入) - 法人税法施行令第69条(定期同額給与の範囲等・事前確定届出給与) - C1-23 事前確定届出給与に関する届出|国税庁(2026年9月6日確認。原則の提出期限、新設法人の特例、提出先・提出方法、手続根拠を確認) - C1-24 事前確定届出給与に関する変更届出|国税庁(2026年9月6日確認。臨時改定事由・業績悪化改定事由それぞれの変更届出期限を確認) - 法令解釈通達 第4款 事前確定届出給与|国税庁(2026年9月6日確認。9-2-14により、届出額と実際の支給額が異なる場合は原則として支給額全額が損金不算入になることを確認) - 「事前確定届出給与に関する届出書」を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い|国税庁 質疑応答事例(2026年9月6日確認。記載額と異なる支給の影響が当該役員個人にとどまり、他の役員には及ばないことを確認)