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役員退職金という出口

この記事の結論
  • 退職金は受け取る側で退職所得控除を引いた残額の原則2分の1にしか課税されず、他の所得と分離して税額計算される(所得税法第30条、国税庁No.1420)
  • 退職所得控除額は勤続20年以下なら「40万円×勤続年数(80万円未満は80万円)」、20年超なら「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」(国税庁No.2732)
  • 役員等としての勤続年数が5年以下の場合は「特定役員退職手当等」に該当し、2分の1課税は適用されない(国税庁No.2737)
  • 会社側は退職給与のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金不算入になる(法人税法第34条第2項・施行令第70条第2号)。実務では最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率で相当額を見積もる「功績倍率法」が広く使われているが、これは法令上の算式ではなく裁判例等から積み上がった実務上の目安であり、社長の功績倍率はおおむね3.0倍程度とされることが多い(絶対的な基準ではない)
  • 役員退職金も会社法第361条の「報酬等」に含まれ、株主総会の決議(または決議に基づく基準の範囲内での取締役会への一任)が必要というのが判例の立場(最高裁判決)。一人社長で株式を100%保有していても、株主総会議事録の作成・保存を省略してよいわけではない
  • 会社をたたまずに退任扱いにする「分掌変更」による退職金は、地位・職務内容が実質的に激変したと認められる場合に限られる(法人税基本通達9-2-32)。常勤→非常勤、給与が概ね50%以上減少、などは例示にすぎず、実権を握ったままの形式的な分掌変更は否認リスクがある
  • 死亡退職金は相続税の対象になるが、法定相続人が受け取る分には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある(相続税法第12条第1項第6号、国税庁No.4117)
この記事の内容
  1. 結論:退職金は「税金が軽い出口」だが上限がある
  2. なぜ退職金という出口が有利なのか
  3. 会社側の条件|不相当に高額な部分の金額はアウト
  4. 功績倍率法|最終報酬月額×役員在任年数×倍率
  5. 受け取る自分の税金はいくらか|退職所得の計算式
  6. 一人社長でも省略できない|株主総会決議と退職金規程
  7. 会社を続けながら退職金を受け取る「分掌変更」の注意点
  8. 死亡退職金には別枠の非課税がある
  9. 実体験について、正直に書きます
  10. 次にやること

この記事は、一人で会社を経営していて、会社に残った利益をいずれ自分個人に移したいと考えている社長に向けて書いています。 結論から言うと、給与や賞与としてそのまま受け取るより、退任時に「役員退職金」として受け取るほうが、受け取る側の税負担は軽くなる仕組みが用意されています。ただし、金額には上限があり、手続きを省略していい場面もありません。以下、退職金が有利な理由、会社側が損金算入するための条件、受け取る側の税額の計算、一人社長でも省略できない手続きの順に整理します。

こんな状態ではありませんか
  • 会社に利益が貯まってきたが、役員報酬を上げると社会保険料も所得税も重くなるだけだと感じている
  • 「退職金は税金が安い」と聞いたことはあるが、いくらまで出していいのか、誰が決めるのかが分からない
  • 会社は続けたいが、自分への退職金だけ先に受け取れないかと考えている

結論:退職金は「税金が軽い出口」だが上限がある

役員報酬を毎月増やすと、その分だけ所得税・住民税・社会保険料が重くなり、会社側の法人税負担が減る以上に手取りが目減りしやすくなります。これに対し役員退職金は、受け取る個人側で「退職所得控除」を差し引いたうえで、残額の原則2分の1にしか税金がかからず、しかも他の所得とは分離して税額を計算します(所得税法第30条、国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」)。会社に利益を残し、退任時にまとめて退職金として引き出す設計は、税制上もっとも手取りが多く残りやすい出口の一つです。

ただし、会社側が退職金として損金に算入できる金額には上限があり、超えた部分は損金不算入になります(法人税法第34条第2項)。「退職金と名付けて払えばいくらでも経費になる」わけではないという前提を、まず押さえておく必要があります。

なぜ退職金という出口が有利なのか

退職所得には、給与所得にはない2つの優遇があります。

  • 退職所得控除:勤続年数に応じた金額を、受け取った退職金からまるごと差し引ける(国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」)
  • 2分の1課税と分離課税:控除後の残額は原則としてさらに2分の1にした金額が課税対象になり、しかも給与所得など他の所得とは合算せず単独で税額を計算する(所得税法第30条、国税庁No.1420)

退職所得控除額は、勤続年数によって次のように計算します(国税庁No.2732)。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

たとえば勤続15年なら控除額は600万円、勤続25年なら800万円+70万円×5年=1,150万円です。この控除額を超えた部分だけが、さらに2分の1に圧縮されてから課税されるため、同じ金額を給与として受け取るより手取りが多く残る設計になっています。

ここが要点

2分の1課税がすべての退職金に無条件で使えるわけではありません。 役員等としての勤続年数が5年以下の場合は「特定役員退職手当等」に該当し、控除後の金額をそのまま(2分の1にせず)課税所得とする扱いになります(国税庁「No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等」)。設立して数年で退任・退職金を受け取る一人社長は、この例外に該当しないか先に確認しておく必要があります。

会社側の条件|不相当に高額な部分の金額はアウト

法人税法上、役員に対する退職給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与といった通常の役員給与の3類型とは別枠で扱われ、原則として損金に算入できます。ただし、退職給与を含む役員給与のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金の額に算入されません(法人税法第34条第2項)。

退職給与について「不相当に高額」かどうかを判定する基準は、法人税法施行令に定められています。具体的には、その役員の業務に従事した期間、退職の事情、同種の事業を営む法人で事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給状況などに照らして、相当と認められる金額を超える部分が損金不算入になります(法人税法施行令第70条第2号)。「相当な金額」の物差しは条文自体には数式で書かれておらず、実務・裁判例の積み重ねで運用されているというのが実情です。

功績倍率法|最終報酬月額×役員在任年数×倍率

実務で広く使われているのが「功績倍率法」です。次の式で退職金の目安額を算定します。

退職金の目安額 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

功績倍率は役職によって異なるとされ、社長についてはおおむね3.0倍程度が目安とされることが多いようです。ただし、これは法令に定められた算式ではなく、過去の裁判例や実務の積み重ねから形成されてきた考え方であり、業種・会社規模・個々の功績によって当てはめが変わる目安にすぎません。功績倍率を機械的に当てはめれば必ず損金算入が認められる、という保証はない点に注意してください。

ここが要点

功績倍率法は「否認されない金額を保証する魔法の式」ではありません。 最終報酬月額を退任直前に急に引き上げて退職金の計算基礎に使うような設計は、かえって「不相当に高額」の判定で不利に働きやすくなります。金額の妥当性に不安がある場合は、顧問税理士に類似法人の支給状況を踏まえて確認することをおすすめします。

受け取る自分の税金はいくらか|退職所得の計算式

受け取る個人側の退職所得の金額は、次の式で計算します(所得税法第30条第2項、国税庁No.1420)。

退職所得の金額 = (退職金の収入金額 - 退職所得控除額) × 1/2

この退職所得の金額に、通常の所得税の税率(超過累進税率)を適用して税額を計算し、住民税(原則10%)も別途かかりますが、いずれも給与所得など他の所得とは合算せず、退職所得だけで独立して税額を計算する「分離課税」です(国税庁No.1420)。

一方で、前述のとおり役員等としての勤続年数が5年以下の場合は「特定役員退職手当等」となり、控除後の金額に2分の1を掛ける措置は適用されません(国税庁No.2737)。設立から数年しか経っていない状態で早期に役員退職金を受け取る場合は、この特定役員退職手当等に該当していないかを先に確認してください。

一人社長でも省略できない|株主総会決議と退職金規程

役員退職金も、会社法第361条にいう取締役の「報酬等」に含まれるというのが判例の立場です。同条は、取締役の報酬・賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益について、定款に定めがなければ株主総会の決議で定めなければならないとしています(会社法第361条第1項)。判例では、株主総会の決議で具体的な金額まで決めず、退職金規程などの基準を示したうえで具体的な金額の決定を取締役会に一任すること自体は認められるとされていますが、基準も示さずに金額の決定をまるごと丸投げする決議は無効になり得るとされています(最高裁昭和39年12月11日判決・民集18巻10号2143頁)。

一人社長で株式を100%自分が保有している場合でも、この決議自体を省略してよいわけではありません。株主総会(自分一人の会社であれば、自分一人が出席する総会)を開催した記録として議事録を作成・保存しておくことが、後日の税務調査や金融機関の審査で支給額の正当性を裏付ける資料になります。あわせて、あらかじめ役員退職金規程を整備しておくと、功績倍率法などによる算定根拠を規程に沿って説明しやすくなります。

会社を続けながら退職金を受け取る「分掌変更」の注意点

会社をたたまず、退任もせずに退職金だけを受け取りたいと考える場合、実務上使われるのが「分掌変更等による退職給与」という扱いです。国税庁の法人税基本通達では、役員の分掌変更または改選による再任等に際して退職給与として支給した金銭について、その分掌変更等によって役員としての地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したのと同様の事情にあると認められる場合は、退職給与として取り扱ってよいとされています(法人税基本通達9-2-32)。

同通達では、次のような場合が例として挙げられています。

  • 常勤役員が非常勤役員になったこと
  • 取締役が監査役になったこと
  • 分掌変更等の後の役員給与が、おおむね50%以上減少したこと
ここが要点

この3つの例に形式上あてはまっていれば必ず認められる、という意味ではありません。 通達自体が「形式的にこれらの事実があっても、実質的にみて退職したと同様の事情にあると認められない場合はこれに該当しない」としています(法人税基本通達9-2-32)。一人社長が肩書だけ非常勤にして経営の実権を握り続けているような場合は、実質的に退職したとは認められず、税務調査で否認されるリスクが高くなります。会社を続けながらの分掌変更退職金は、実際に経営から退く実態が伴っているかどうかを、税理士を交えて慎重に確認してから検討してください。**

死亡退職金には別枠の非課税がある

自分が万一のときに家族が受け取る死亡退職金についても、触れておきます。死亡退職金は相続税の課税対象になりますが、法定相続人が受け取る分については、次の非課税枠が設けられています(相続税法第12条第1項第6号、国税庁「No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金」)。

非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数

すべての相続人が受け取った死亡退職金の合計額のうち、この非課税限度額を超える部分と、相続人以外の人が受け取った分が相続税の課税対象になります(国税庁No.4117)。一人社長が万一のことを考えて退職金規程を整備しておくことは、生前の出口設計だけでなく、家族に残す側の設計にもつながります。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ登記が完了しておらず、自分自身が役員退職金を受け取った経験はありません。この記事は国税庁が公開している一次情報(タックスアンサー・法令解釈通達)と法令条文を確認して整理したものであり、自分が退職金の支給決議や受け取りを行った経験を書いているわけではないことを断っておきます。実際に会社を経営し、退職金の出口設計を具体的に検討する段階になったら、税理士とのやり取りや判断の経緯について追記します。

次にやること

まず、自分の最終報酬月額と、これまでの(またはこれからの)役員在任年数を書き出してください。 そのうえで、功績倍率法の考え方に照らして退職金の目安額がどのくらいになるかを試算し、会社の利益水準・類似法人の支給状況と照らして無理のない金額かどうかを、顧問税理士に確認してください。金額の方向性が固まったら、退職金規程の整備と株主総会決議の記録づくりを、退任のかなり前から準備しておくことが、後日の否認リスクを減らす一番の近道です。


※本記事は2026年9月6日時点で調査した内容と、筆者個人の状況に基づくものです。役員退職金の適正額・損金算入の可否・分掌変更の該当性は個々の会社の状況によって判断が分かれるため、実際の支給前に必ず税理士にご確認ください。

出典 - 法人税法第34条第1項・第2項(役員給与の損金不算入) - 法人税法施行令第70条第2号(過大な役員給与の額・退職給与の相当性判定基準) - 会社法第361条第1項(取締役の報酬等) - 最高裁昭和39年12月11日判決(民集18巻10号2143頁。株主総会が退職慰労金の金額等の決定を取締役会に一任する決議は、慣例となっている一定の支給基準に従うべき趣旨であれば有効とした判例。2026年9月6日確認) - 相続税法第12条第1項第6号(死亡退職金の非課税限度額) - 所得税法第30条(退職所得) - No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁(2026年9月6日確認。退職所得の計算式・分離課税の扱いを確認) - No.2732 退職手当等に対する源泉徴収|国税庁(2026年9月6日確認。退職所得控除額の計算式を確認) - No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)|国税庁(2026年9月6日確認。勤続5年以下の役員退職金は2分の1課税の適用がないことを確認) - No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金|国税庁(2026年9月6日確認。死亡退職金の非課税限度額の計算式を確認) - 法人税基本通達9-2-32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)(2026年9月6日確認。実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合の例示と、形式のみで判断しない旨を確認)

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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