株式会社の役員任期の決め方
- 取締役の任期は原則2年(会社法332条1項)
- 公開会社でない株式会社(指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社を除く)は定款で1年〜10年の間に自由に設定できる(同条2項)
- 監査役は原則4年で、取締役と違い定款や株主総会決議での短縮はできない(会社法336条1項)。非公開会社は定款で10年まで伸長できる(同条2項)
- 指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社の取締役の任期は1年(332条3項・6項)。監査等委員である取締役は2年で短縮不可(同条4項)
- 役員変更登記を怠ると100万円以下の過料(会社法976条1号)、12年登記がないとみなし解散の対象(会社法472条)
この記事の内容
この記事は、これから株式会社を作る人、または既存の会社の定款を見直そうとしている人で、「取締役の任期は何年にすればいいのか」で手が止まっている人に向けて書いています。 結論から言うと、取締役の任期は原則2年ですが(会社法332条1項)、株式譲渡制限のある会社(非公開会社)であれば、定款によって1年から10年までの間で自由に決められます(同条2項)。任期を短くすると株主総会での選び直しの機会が増え、長くすると登記の手間は減りますが変更登記を忘れやすくなります。この記事では、条文の根拠と、短くする場合・長くする場合それぞれの得と損を整理します。
- 定款の「取締役の任期」の欄に何年と書けばいいのか分からない
- 任期を10年にすると聞いたが、本当にそんなに長くしていいのか不安
- 監査役や会計参与も取締役と同じ年数でいいのか知りたい
結論:取締役は原則2年、非公開会社なら定款で1〜10年に決められる
会社法332条1項は、取締役の任期を「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」と定めています。ただし同項ただし書により、定款または株主総会の決議によって、この2年をさらに短くすることは認められています。
これに加えて、株式の譲渡に会社の承認が必要な会社(公開会社でない株式会社、いわゆる非公開会社)であれば、指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社を除き、定款によって任期を選任後10年以内に終了する事業年度の定時株主総会終結時まで伸長することができます(会社法332条2項)。
非公開会社は「2年固定」ではなく「1年〜10年の間で会社が選べる」というのが正確な理解です。 短くする権限(ただし書)と長くする権限(2項)は別の条文根拠に基づいており、組み合わせれば1年から10年まで、事実上どの年数でも定款に書き込めます。
多くの創業者向けの解説では「役員任期は10年にできる」という点だけが強調されがちですが、それは非公開会社であることが前提条件です。公開会社(株式の譲渡制限がない会社)には10年への伸長は認められず、原則どおり2年(短縮のみ可能)になります。
なぜ任期の長さで損得が分かれるのか
任期が切れると、取締役は自動的に退任するわけではなく、株主総会で再任(重任)の決議を行い、法務局で変更登記をする必要があります。これは、その取締役を交代させる予定がなくても必要な手続きです。つまり任期の年数は、「何年ごとに、必要のない再任手続きと登記費用を発生させるか」を決めていることになります。
登記1回あたりの直接コストとして、役員変更登記の登録免許税は、登録免許税法別表第一の規定により、資本金1億円以下の会社であれば1件1万円、資本金1億円超の会社であれば1件3万円です(2026年9月、複数の司法書士事務所の実務解説で確認)。これに加えて、自分で申請しない場合は司法書士報酬が別途かかります。
任期を短くすればこの手続きの頻度が上がり、長くすれば下がります。ここが「損得」の中心です。
任期を短く(1〜2年)する場合の得と損
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 得 | 経営陣の構成を見直す機会が定期的に来る。共同創業者や外部役員との関係を柔軟に整理しやすい |
| 得 | 投資契約や金融機関との取引で「株主のガバナンスが効いている」と説明しやすい場合がある |
| 損 | 2年ごと(または1年ごと)に株主総会での再任決議と変更登記が必要。手間と登録免許税が繰り返し発生する |
| 損 | 登記を忘れやすく、うっかり任期切れの放置(いわゆる「みなし解散」リスクの一因)につながりやすい |
一人社長の会社や、共同創業者との関係がまだ固まっていない設立初期の会社では、あえて原則どおりの2年、あるいはそれより短い任期にして、定期的に体制を見直せるようにしておく考え方があります。特に複数人で創業した場合、後で株主構成や経営権をめぐって意見が割れたときに、任期満了のタイミングで自然に体制を見直せるのは短い任期の利点です。
任期を長く(10年)する場合の得と損
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 得 | 再任決議・変更登記の頻度が10年に1回で済み、手続きコストが大きく減る |
| 得 | 一人社長で今後も交代の予定がない会社であれば、実務上の負担がほぼ発生しない |
| 損 | 10年間、株主総会での信任の機会が来ない。株主が複数いる場合、経営者を見直したいときに任期満了を理由にできない(解任決議など別の手続きが必要になる) |
| 損 | 10年に1回という間隔が長いため、いざ任期満了のタイミングを忘れて登記が漏れる可能性がある。長期間登記がないと、みなし解散の対象にもなりうる(後述) |
一人社長で今後も自分以外に取締役を置く予定がない会社であれば、任期を10年にしておくデメリットは実務上ほとんどありません。逆に、将来的に共同経営者を迎える可能性がある会社や、投資家から出資を受ける予定がある会社では、任期を10年にしてしまうと株主側のガバナンス上の懸念材料になることがあります。
監査役・会計参与・会計監査人は任期のルールが違う
役員は取締役だけではありません。監査役・会計参与・会計監査人を置く会社では、それぞれ任期のルールが異なります。
| 役職 | 原則の任期 | 非公開会社での伸長 | 短縮の可否 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|---|
| 取締役 | 2年 | 定款で10年まで可 | 定款・株主総会決議で可 | 会社法332条1・2項 |
| 会計参与 | 2年(取締役と同じ) | 定款で10年まで可 | 定款・株主総会決議で可 | 会社法334条1項(332条を準用) |
| 監査役 | 4年 | 定款で10年まで可 | 不可 | 会社法336条1・2項 |
| 会計監査人 | 1年 | (伸長規定なし) | 実質的に毎年選任 | 会社法338条1項 |
特に注意が必要なのが監査役です。監査役の任期は、取締役と違って定款や株主総会決議による短縮が認められていません(会社法336条1項には取締役の332条1項のような「短縮を妨げない」というただし書がありません)。これは、監査役が経営陣を監督する立場である以上、経営陣の都合で任期を短くして交代させやすくすることを防ぐ趣旨によるものです。非公開会社であれば10年まで伸長することは取締役と同様に認められています(336条2項)。
会計監査人は原則1年で、しかも定時株主総会で別段の決議がなされなければ、その定時株主総会で再任されたものとみなす規定(会社法338条2項)があるため、実務上は「毎年自動更新される1年任期」という扱いになります。
委員会設計を選んだ会社は取締役の任期が1年になる
指名委員会等設置会社、および監査等委員会設置会社を選んだ場合、取締役の任期は原則の2年ではなく1年になります(会社法332条3項・6項)。これらの委員会型のガバナンス設計では、取締役会が指名委員会などを通じて経営の監督機能を強く持つ設計になっており、株主が毎年取締役の信任を問い直せるようにする趣旨で任期が短く固定されています。
また、監査等委員会設置会社の監査等委員である取締役については、任期が2年で、しかも定款によっても株主総会決議によっても短縮できません(会社法332条4項)。監査役と同じく、監督する側の独立性を守るための規定です。
これらの委員会型の機関設計を採用するのは、多くの場合すでに一定規模になった会社であり、これから設立する小規模な株式会社が最初から選ぶケースは多くありません。設立時点では、まずは通常の取締役会設置会社(または取締役のみの会社)を前提に任期を考えれば十分です。
結局何年にすればいいか、判断の目安
条文が認めている選択肢を並べると、次のような目安になります。
- 一人社長で、今後も役員構成を変える予定がない → 定款で10年に伸長し、手続きの手間を最小化する
- 共同創業者がいて、将来的に体制を見直す可能性がある → 原則の2年、または短縮して1年にしておき、任期満了のタイミングで自然に見直せるようにする
- 将来的に外部からの出資(ベンチャーキャピタル等)を想定している → 投資家側がガバナンス上の理由で短い任期を求めることがあるため、10年で確定させず、資本政策の相談と合わせて検討する
- 監査役を置く場合 → 監査役だけは短縮できない点に注意し、取締役と別の年数になり得ることを前提に定款を作る
いずれの場合も、一度定款で決めた任期は、後から定款変更(株主総会の特別決議)をすれば変更でき、その変更の効力が生じた時点で在任中の役員の任期も原則として満了します(会社法336条4項は監査役についてこの取り扱いを明記しています)。つまり、最初に決めた年数に一生縛られるわけではありません。ただし定款変更にも手続きと登記が必要になるため、最初から自社の状況に合った年数を選んでおくに越したことはありません。
登記を怠るとどうなるか(過料とみなし解散)
任期満了後の再任決議と変更登記は、本店所在地では2週間以内に行うことが会社法915条で義務づけられています。この登記を怠った場合、会社法976条1号により、当時の代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります(過料の対象は会社ではなく代表者個人である点に注意。実際に上限に近い金額が科されるのは長期間・多数の懈怠を放置した悪質なケースに限られるとする解説が複数見られますが、金額の運用実態は法務局・裁判所の裁量によるため一律ではありません)。
さらに、12年間まったく登記がされていない株式会社は、法務大臣による公告を経て解散したものとみなされます(会社法472条、いわゆる休眠会社のみなし解散)。取締役の任期は最長でも10年であるため、正常に運営されている会社であれば、少なくとも10年に1回は役員変更登記が発生するはずだという前提に立った制度です。任期を10年にして手続きを楽にすること自体は合法ですが、「10年に1回」の登記を本当に忘れずに行えるかどうかは、カレンダーや士業への依頼で管理しておく必要があります。
次にやること
自社が非公開会社(株式譲渡制限会社)かどうかを確認し、定款の「取締役の任期」の条項に、上の判断目安に沿った年数が明記されているかを見てください。 すでに設立済みで定款の任期条項があいまいな場合や、監査役を置いているのに取締役と同じ年数で書かれている場合は、次の役員変更登記のタイミングで司法書士に確認することをおすすめします。これから設立する場合は、freee会社設立やマネーフォワード会社設立の定款作成機能で任期の項目がどう扱われているかを確認したうえで、内容に不安があれば司法書士に相談してください。