発行可能株式総数と1株の金額の決め方
- 発行可能株式総数は、設立時に発行する株式の総数の4倍を超えることができない(会社法37条3項)。ただし株式の譲渡に会社の承認が必要な非公開会社は、この4倍ルールの対象外(同項ただし書)
- 会社成立後の増加でも、公開会社は発行済株式総数の4倍が上限(会社法113条3項)。非公開会社はここでも制限を受けない
- 1株の金額に法律上の下限規制はない(額面株式制度は2001年商法改正で廃止)。資本金額÷発行済株式総数で決まり、金額を小さくするほど発行株式数は多くなる
- 一単元の株式数は発行済株式総数の200分の1、かつ1,000株を超えられない(会社法188条2項、会社法施行規則34条)
この記事の内容
この記事は、株式会社の定款を作っていて「発行可能株式総数」と「1株の金額」の欄で手が止まっている人に向けて書いています。 結論から言うと、発行可能株式総数は設立時に発行する株式の総数の4倍までしか決められません(会社法37条3項)。ただし株式の譲渡に会社の承認がいる非公開会社であれば、この4倍という上限そのものが外れます(同項ただし書)。1株の金額のほうには法律上の下限はなく、資本金の額をいくらの株数に割り振るかという設計の問題です。この記事では、それぞれの条文上の根拠と、実務でどう決めればいいかの目安を整理します。
- 発行可能株式総数の欄に何株と書けばいいのか分からない
- 「4倍ルール」という言葉は聞いたことがあるが、自分の会社に関係あるのか分からない
- 1株の金額を1円にするか1万円にするかで、何が変わるのか分からない
結論:発行可能株式総数には上限があり、1株の金額には下限がない
株式会社を設立するとき、定款には「発行可能株式総数」を定めます。これは会社が将来にわたって発行できる株式の上限枠のことで、設立時にすべて発行する必要はありません。この発行可能株式総数には、会社法37条3項による上限があります。設立時に発行する株式の総数の4倍を超えることはできません。 ただし、株式の譲渡に会社の承認が必要な会社(非公開会社)であれば、このただし書によってこの上限自体が適用されなくなります。
一方、1株あたりの金額(1株をいくらに設定するか)には、会社法上の下限規制がありません。かつての商法には額面株式制度があり、1株の金額に一定のルールがありましたが、2001年の商法改正でこの制度は廃止されています。現在は、資本金の額をどれだけの株数に割り振るかという、会社側の設計の問題になっています。
「発行可能株式総数」は株数の上限を決める話、「1株の金額」は資本金をどう割るかという別の話です。 この2つを混同すると、定款の記載を何度も見直すことになります。まずこの2つが別の論点だと切り分けて考えることが最初の一歩です。
発行可能株式総数とは何を決めている数字か
会社法27条が定める定款の絶対的記載事項(目的・商号・本店所在地・設立に際して出資される財産の価額またはその最低額・発起人の氏名または名称及び住所)には、発行可能株式総数は含まれていません。しかし会社法37条により、発行可能株式総数は株式会社の成立の時までに、発起人全員の同意によって定めなければならない事項とされています。定款に記載していない場合でも、成立までに発起人全員の同意で定める必要があるという点で、実質的に必須の事項です。
発行可能株式総数は「今すぐ発行する株数」ではなく「将来発行してもよい株数の上限」です。設立時にはこのうちの一部だけを発行し、残りの枠は将来の増資(新株発行)に使います。この枠を超えて新株を発行することはできず、超えて発行したい場合は定款を変更して発行可能株式総数そのものを増やす手続きが必要になります。
公開会社の「4倍ルール」とは何か
会社法37条3項は、発行可能株式総数について次のような上限を定めています。設立時に発行する株式の総数(設立時発行株式の総数)の4倍を超えて、発行可能株式総数を定めることはできません。 これは一般に「4倍ルール」と呼ばれます。
たとえば設立時に100株を発行するのであれば、発行可能株式総数は最大でも400株までしか定められません。仮に設立時100株に対して発行可能株式総数を1,000株と定めようとしても、公開会社であればこの定めは認められません。
この規制は、既存株主の持株比率が取締役会の判断だけで大きく薄まってしまうことを防ぐ趣旨によるものです。公開会社(株式の譲渡に会社の承認が不要な会社)では、新株発行は原則として取締役会の決議だけで実行できます。もし発行可能株式総数の枠が極端に大きければ、株主総会を経ずに大量の新株を発行され、既存株主の議決権割合が一方的に薄まる(希釈化する)おそれがあります。4倍という上限は、この希釈化の許容範囲にあらかじめ歯止めをかけるための仕組みです。
非公開会社(株式譲渡制限会社)は4倍ルールの対象外
会社法37条3項にはただし書があり、株式会社が公開会社でない場合は、この4倍ルールを適用しないと定められています。ここでいう「公開会社でない会社」とは、発行するすべての株式の譲渡について、会社の承認(取締役会や株主総会の承認)を必要とする旨を定款で定めている会社のことです。
これから会社を設立する多くの中小企業・一人社長の会社は、株式の譲渡制限を定款に置く非公開会社です。この場合、発行可能株式総数は4倍という枠にとらわれず、発起人全員の同意があれば、設立時発行株式数の何倍でも(理論上は何十倍・何百倍でも)定めることができます。
非公開会社に4倍ルールが適用されない理由は、新株発行の決定手続きが公開会社と異なるためです。非公開会社では、新株を発行して既存株主以外の第三者に割り当てる場合、原則として株主総会の特別決議が必要になります(会社法199条2項、309条2項5号)。取締役会の判断だけで一方的に希釈化が進む構造になっていないため、あらかじめ発行可能株式総数の枠を狭めておく必要性が薄いという整理です。
発行可能株式総数はどれくらいにすればいいか
非公開会社であれば法律上の上限はありませんが、実務上の目安として、複数の会社設立支援サービスの解説では、設立時発行株式数の10倍程度に設定する例がよく紹介されています(※各社の解説記事における一般的な目安であり、法律上の基準ではありません。2026年9月時点の調査)。
| 発行可能株式総数の考え方 | 内容 |
|---|---|
| 小さめに設定(設立時発行株式数の1〜4倍程度) | 将来増資したいときに、そのつど定款変更(株主総会の特別決議と変更登記)が必要になる |
| 大きめに設定(設立時発行株式数の10倍以上、非公開会社のみ) | 将来の増資枠を確保できる一方、枠が大きいこと自体に法律上のデメリットはない。ただし発行可能株式総数の欄は登記事項であるため(会社法911条3項6号)、極端に大きい数字を登記することに実務上の必然性はない |
一人社長で、将来的に増資や第三者からの出資を受ける予定がなければ、発行可能株式総数を大きくしておく実益は大きくありません。反対に、将来ベンチャーキャピタルからの出資やストックオプションの発行を見込んでいる場合は、あらかじめ余裕を持った発行可能株式総数を設定しておくと、増資のたびに定款変更をする手間を減らせます。
1株の金額はどう決まるか
1株の金額は、会社法が直接「いくら以上」「いくら以下」と定めている数字ではありません。設立時に払い込む出資額の合計(資本金として計上する額)を、設立時発行株式数で割った金額が、実質的な1株の払込金額になります。
たとえば資本金100万円の会社を、株式100株で設立するのであれば、1株の金額は1万円になります。同じ資本金100万円でも、株式1,000株で設立すれば1株の金額は1,000円になります。資本金の総額を何株に分けるかという、割り算の問題です。
かつての商法には額面株式制度があり、1株の金額に一定のルール(1株5万円以上など)がありましたが、2001年の商法改正で額面株式・無額面株式の区別自体が廃止され、現在の会社法にはこの制度がありません。そのため、1株を1円に設定することも、1株を100万円に設定することも、法律上はどちらも可能です。
1株の金額を大きくする場合・小さくする場合の違い
| 項目 | 1株の金額を小さくする(例:1株1,000円) | 1株の金額を大きくする(例:1株5万円) |
|---|---|---|
| 発行株式数 | 同じ資本金額でも株数が多くなる | 同じ資本金額でも株数が少なくなる |
| 将来の増資 | 少額の出資でも整数の株数で割り当てやすく、細かい持株比率の調整がしやすい | 少額の出資を受けたいときに、端数の株式や1株未満の払込みが発生しやすい |
| ストックオプション・種類株式 | 発行余地の株数が確保しやすく、複数人への少しずつの割当がしやすい | 割当の単位が大きくなり、少人数・少量の割当がしにくい |
| 登記・管理の手間 | 株数が多くても、会社法上の手続きの手間そのものは変わらない | 株数が少なくても、手続きの手間そのものは変わらない |
将来的に共同創業者やベンチャーキャピタルへの株式発行、社員へのストックオプション付与を検討している会社では、1株の金額を小さめ(1,000円程度以下)に設定し、発行株式数を多めに確保しておく設計がよく紹介されています(※各社の会社設立支援サービスの解説記事における一般的な傾向であり、必ずこうすべきという法律上の決まりではありません)。一方、今後も株主構成を変えるつもりがない一人社長の会社であれば、1株の金額を大きくしても実務上の支障は基本的にありません。
一単元の株式数にも上限がある
1株の金額とは別に、単元株制度(一定数の株式をまとめて1単元とし、1単元につき1個の議決権を与える制度)を採用する会社は、一単元の株式数についても上限があります。会社法188条2項は、一単元の株式数について法務省令で定める数を超えることができないと定めており、会社法施行規則34条により、一単元の株式数は発行済株式総数の200分の1を超えてはならず、かつ1,000株を超えてはならないとされています。
設立したばかりの小規模な株式会社の多くは、単元株制度そのものを採用していません(1株につき1議決権のままにしている)。単元株制度は、株主数が多い会社が株主総会の招集通知や事務コストを抑えるために利用する制度であり、設立初期の一人社長の会社で採用する必要性は高くありません。将来、株主数が増えたり、株式分割で発行済株式総数が大きくなったりした段階で検討すれば十分です。
あとで発行可能株式総数を増やすとどうなるか
一度定款で定めた発行可能株式総数は、あとから増やすことができます。定款の変更には株主総会の特別決議が必要です(会社法466条、309条2項11号)。ただし、増やせる上限には引き続き会社法113条3項の制約があります。公開会社は、定款変更の効力が生じた時点での発行済株式総数の4倍を超える発行可能株式総数を定めることができません。 同項が4倍ルールの対象としているのは「公開会社が発行可能株式総数を増加する場合」と「非公開会社が公開会社に移行する場合」の2つの場面に限られており、非公開会社が非公開会社のまま発行可能株式総数を増やす場合は、この4倍ルールの対象外です(会社法113条3項各号)。
つまり、非公開会社である限り、発行可能株式総数は設立時にも、その後の増資のタイミングでも、4倍という枠を気にせず設定・変更できます。逆に言えば、会社が非公開会社から公開会社に移行する(株式の譲渡制限を撤廃する)場合には、その時点の発行済株式総数の4倍という上限が新たに適用されることになるため、あらかじめ発行可能株式総数を極端に大きくしすぎていると、公開会社化のタイミングで整合性の調整が必要になる場合があります。
定款変更には登記(登録免許税)も必要になるため、頻繁に発行可能株式総数を変更する前提であれば、最初からある程度の余裕を持たせておくほうが手続きの回数を減らせます。
次にやること
自社が非公開会社(株式譲渡制限会社)かどうかを確認したうえで、資本金の額を何株に分けるか(1株の金額)と、設立時発行株式数の何倍を発行可能株式総数にするかを、この記事の目安に沿って定款の該当欄に書き出してみてください。 将来の増資やストックオプションの発行を具体的に検討している場合は、1株の金額を小さくする設計が資本政策の柔軟性につながるため、その段階で司法書士や税理士に相談することをおすすめします。これから設立する場合は、freee会社設立やマネーフォワード会社設立の定款作成機能で、発行可能株式総数と1株の金額の入力欄がどう扱われているかを確認したうえで、内容に不安があれば専門家に確認してください。