支店・営業所を出すときに登記は要るか
- 会社法上、支店を設けると本店所在地の登記所で「本店及び支店の所在場所」を登記しなければならない(株式会社は会社法911条3項3号、合同会社は914条3号)
- 登記が必要かどうかは名称ではなく実質で判断され、独立して契約締結などの事業活動を行う拠点は支店にあたるが、単なる連絡所・資材置き場・営業担当者の駐在場所はあたらないとされる(登記実務上の一般的な整理)
- 変更登記の期限は支店を設けてから2週間以内(会社法915条1項)で、怠ると100万円以下の過料の対象になり得る(会社法976条1号)
- 登録免許税は支店1か所につき6万円、移転・廃止はそれぞれ3万円(登録免許税法別表第一24号)
- 2022年9月1日施行の改正で「支店の所在地における登記」の制度(旧930条〜932条)が廃止され、現在は本店所在地の登記所のみで手続きが完結する
この記事の内容
この記事は、事業拡大で2拠点目を構えることになり、「これは登記が必要な支店なのか、それとも登記が要らない営業所なのか」で手が止まっている人に向けて書いています。 結論から言うと、登記の要否は「支店」「営業所」という看板の名称では決まりません。本店から独立して契約締結などの事業活動を行う実質があれば、社内で「営業所」と呼んでいても会社法上の登記対象になり得ますし、逆に「支店」と名乗っていても単なる連絡先や資材置き場であれば登記が不要な場合があります。この記事では、その線引きの考え方と、登記が必要になったときの期限・費用、2022年9月の制度改正の影響を整理します。
- 新しい拠点を出すが、これが登記の要る「支店」なのか分からない
- 「営業所」と呼んでいれば登記しなくていいと思っていたが、本当にそうか不安
- 登記が必要だった場合、いつまでに・いくらかかるのか分からない
結論:名称ではなく実質で決まる
会社が本店以外の場所で事業を行う拠点を持つとき、その拠点を法律上の「支店」として登記しなければならないかどうかは、社内での呼び方(支店・営業所・出張所・事務所など)では決まりません。本店から独立して、その場所で契約締結などの事業活動の全部または一部を行う実質があるかどうかで判断されます。株式会社であれば会社法911条3項3号により、合同会社であれば914条3号により、「本店及び支店の所在場所」が登記事項とされているため、実質的に支店にあたる拠点を設けた場合は、本店所在地の登記所で変更登記をする義務が生じます。
「営業所」と名乗っていても、実質が支店なら登記の対象です。 逆に「支店」と呼んでいても、契約締結の権限もなく本店の指示だけで動く連絡拠点であれば、登記が不要なケースもあります。まず看板の名称から離れて、その拠点が何をする場所かを整理することが最初の一歩です。
会社法上の「支店」とは何か
会社法には「支店」の定義そのものを直接定めた条文はありません。実務・登記の運用上は、支店とは「本店から離れた場所にあり、そこである程度独立して事業の取引を行う拠点」と整理されています。目安になるのは、その拠点が単独で契約を締結できるか、独自に取引先とやり取りする権限を持っているか、といった実態です。
逆に、次のような拠点は、名称にかかわらず会社法上の支店にはあたらないと整理されることが多いとされています。
- 資材や在庫を置いておくだけの倉庫
- 営業担当者が立ち寄るだけの連絡所・駐在スペース
- 本店の指示のもとでしか動けず、独自に契約を締結する権限がない出先
登記が必要な拠点・不要な拠点の線引き
| 拠点の実態 | 登記の要否の目安 |
|---|---|
| その場所で契約締結・取引先対応など、独立して事業活動を行っている | 支店にあたり、登記が必要になり得る |
| 責任者を置き、継続的に営業活動を行う拠点(名称は「営業所」「事務所」でも可) | 実質が支店に近ければ登記が必要になり得る |
| 倉庫・工場など、契約締結や対外的な取引の窓口機能を持たない | 登記が不要とされることが多い |
| 社員が立ち寄るだけの連絡所、出張のための一時的な拠点 | 登記が不要とされることが多い |
上の表はあくまで一般的な目安であり、法律が数値基準(面積・人数など)で線引きしているわけではありません。自社の拠点がどちらに近いかを判断するのは最終的には個別の実態次第で、迷う場合は次で触れる考え方に沿って整理したうえで、司法書士に確認するのが確実です。
判断に迷うときの考え方
自社の新しい拠点が支店にあたるかどうかを整理するときは、次の3点を確認すると判断しやすくなります。
- その拠点だけで契約を締結できるか。 本店の決裁を経ずに、その場で見積もり・契約・請求までを完結できるなら支店に近づきます。
- 責任者が常駐し、継続的に業務を行っているか。 一時的な出張や短期の作業場ではなく、恒常的な拠点として機能しているかを見ます。
- 社外(取引先・顧客)から見て、独立した営業拠点として認識されているか。 名刺・案内・請求書などにその拠点の住所が「営業拠点」として記載されているかも判断材料になります。
これらに複数該当する場合は、社内で「営業所」と呼んでいても、実質は会社法上の支店に近いと考えたほうが安全です。判断がつかないまま放置すると、後述する登記懈怠(かいたい)の過料のリスクが残るため、疑わしい場合は早めに司法書士へ相談することをおすすめします。
支店の登記事項と申請先
支店の設置が会社法上の支店にあたると判断した場合、登記事項は「支店の所在場所」です。申請先は本店の所在地を管轄する登記所(法務局)で、支店の所在地を管轄する登記所への別途の申請は不要です(この点は2022年9月の改正で変わった部分で、詳しくは後述します)。
添付書類は会社の種類や意思決定機関によって異なります。株式会社であれば取締役会設置会社か非設置会社かで必要な議事録の内容が変わり、合同会社であれば業務執行社員の過半数の一致を証する書面などが必要になります。具体的な必要書類は会社の機関設計によって変わるため、申請前に法務局または司法書士に確認することをおすすめします。
登記の期限と怠った場合の過料
支店を設置したときの変更登記は、支店を設けてから2週間以内に行う必要があります(会社法915条1項)。この期限は支店に限らず、本店移転や役員変更など会社法上の登記事項に変更が生じた場合に共通する原則です。
期限内に登記をしなかった場合、代表者個人が100万円以下の過料の対象になり得ます(会社法976条1号)。過料は刑事罰ではありませんが、行政上の制裁であり、支払い義務が代表者個人に生じる点に注意が必要です。事業の実態として支店にあたる拠点をすでに稼働させてしまっている場合は、気づいた時点で早めに登記を進めることが、過料のリスクを小さくする対応になります。
登録免許税はいくらかかるか
支店設置の変更登記には登録免許税がかかります。金額は登録免許税法別表第一24号に定められており、支店1か所につき定額です(出典:国税庁タックスアンサー No.7191「登録免許税の税額表」)。
| 手続き | 登録免許税(1か所あたり) |
|---|---|
| 支店の設置 | 6万円 |
| 支店の移転 | 3万円 |
| 支店の廃止 | 3万円(登記事項の変更・消滅・廃止の区分) |
複数の支店を同時に設置する場合は、この金額が支店の数に応じて加算されます。これに加えて、司法書士に登記手続きを依頼する場合は別途の報酬が発生します。報酬額は事務所によって幅があるため、依頼前に見積もりを確認してください(※司法書士報酬は事務所ごとに設定されており、統一の相場は確認できていない。2026年9月確認)。
なお、国税庁のタックスアンサー No.7191には支店の設置(6万円)・支店の移転(3万円)の税額は個別に記載されているが、支店の廃止についてはこのページに項目立てての記載が見当たらない(2026年9月確認)。廃止の登録免許税は登録免許税法別表第一24号に基づき申請1件につき3万円とされている。
2022年9月改正:支店所在地における登記は廃止された
支店の登記を調べていると、「支店所在地でも登記が必要」という古い情報を見かけることがありますが、これは2022年(令和4年)9月1日施行の改正で廃止されています(出典:法務省「商業登記規則等が改正され、令和4年9月1日から施行されます」)。
| 改正前 | 改正後(2022年9月1日〜) | |
|---|---|---|
| 登記が必要な登記所 | 本店所在地の登記所に加え、支店所在地の登記所にも登記が必要だった | 本店所在地の登記所のみで完結する |
| 支店所在地での登記事項 | 商号・本店所在場所・支店所在場所の3つを支店所在地でも登記していた | 支店所在地における登記記録そのものが廃止された |
| 根拠 | 会社法旧930条〜932条(支店の所在地における登記) | 該当条文が削除され、本店所在地における「支店の所在場所」の登記(911条3項3号・914条3号など)のみが残った |
この改正により、本店の管轄区域外に支店を出す場合でも、支店所在地の法務局への別申請が不要になり、手続きと費用の両方が簡略化されました。ネット上の古い解説記事を参照するときは、この改正前の情報が混在していないか、日付を確認することをおすすめします。
合同会社など持分会社の場合
ここまで株式会社を中心に説明してきましたが、合同会社(持分会社)についても考え方は同じです。合同会社の設立登記では「本店及び支店の所在場所」が登記事項とされており(会社法914条3号)、設立後に支店を設けた場合も、株式会社と同様に本店所在地の登記所で変更登記を行います。登録免許税の金額(1か所6万円)も株式会社と共通です。添付書類は業務執行社員の過半数の一致を証する書面など、株式会社とは異なる点があるため、実際に手続きを進める際は会社の機関設計に沿って確認してください。
支店にあたるかどうかのチェックリスト
新しい拠点が会社法上の「支店」にあたるかどうか、ここまでの基準に沿って1つずつ確かめてください。当てはまる項目が多いほど、登記が必要な支店に近づきます。
- □ その拠点だけで見積もり・契約・請求までを完結できる(本店の決裁を経ずに取引を成立させられる)
- □ 責任者が常駐し、一時的な出張ではなく継続的に業務を行っている
- □ 名刺・案内・請求書などにその拠点の住所が「営業拠点」として記載されている
- □ 資材や在庫を置くだけの倉庫、社員が立ち寄るだけの連絡所ではない
- □ 本店の指示がなくても、その場で独自に取引先とやり取りできる権限がある
上の5項目のうち複数に該当する場合は、社内で「営業所」と呼んでいても実質は支店に近いと考え、登記の要否を司法書士に確認することをおすすめします。逆にほとんど該当しない場合は、倉庫・連絡所など登記不要の拠点である可能性が高いといえます。
次にやること
新しく構える拠点が、その場所だけで契約締結や取引先対応を行う実質を持つかどうかを、まず社内で整理してください。 実質が支店に近いと判断した場合は、支店を設けてから2週間以内に本店所在地の登記所で変更登記を行う必要があります(登録免許税6万円/1か所)。判断に迷う場合や、複数拠点を同時に整理する場合は、過料のリスクを避けるためにも、早めに司法書士へ相談することをおすすめします。
出典(2026年9月8日調査)
- 会社法(e-Gov法令検索)(本文中で挙げた第911条3項3号・第914条3号・第915条1項・第976条1号の条文を確認)
- 国税庁タックスアンサー No.7191「登録免許税の税額表」(支店の設置6万円・支店の移転3万円を確認。支店の廃止の税額は同ページに個別記載が見当たらなかった)
- 法務省「商業登記規則等が改正され、令和4年9月1日から施行されます」(2022年9月1日施行で支店所在地における登記が廃止されたことを確認)