副業の会社設立は勤務先にバレるか
- 登記事項証明書は誰でも交付請求できる(商業登記法第10条)が、氏名から法人を逆引き検索できる公的な仕組みは無く、国税庁の法人番号公表サイトも検索できるのは商号・所在地のみ
- 個人住民税は給与支払者に特別徴収の義務があり(地方税法第321条の4)、複数の勤務先から給与がある場合は原則として主たる給与の支払者(通常は本業)に合算後の税額がまとめて通知される仕組みになっている(東京都主税局)
- 住民税所得割の標準税率は10%(道府県民税4%+市町村民税6%、政令指定都市は道府県民税2%+市町村民税8%)、均等割は標準年4,000円+森林環境税(国税)年1,000円(総務省)
- 役員報酬(給与所得)でもらうと原則合算通知の対象になるが、配当や事業所得は確定申告で「自分で納付(普通徴収)」を選べる制度がある
この記事の内容
この記事は、会社員のまま副業で会社を設立しようとしていて、勤務先にバレないか不安な人に向けて書いています。 結論から言うと、バレる経路として実務上よく語られるのは「登記簿」と「住民税」の2つですが、性質はまったく別物です。登記簿は誰でも取得できるものの、氏名から会社を逆引きされる可能性は低い一方、住民税は本業の給与担当者が気づく仕組みが実際に存在します。
- 会社を作ると法務局に登記簿が残るが、誰でも見られるものなら勤務先にすぐバレるのではないか不安
- 住民税が原因でバレると聞いたことはあるが、具体的にどういう仕組みで気づかれるのか分からない
- 役員報酬と配当、どちらでお金を受け取れば住民税の扱いが変わるのか整理できていない
結論:登記簿と住民税、バレる経路は別物
副業で会社を作った場合の「バレる」不安は、実務上ほぼ「登記簿」と「住民税」の2つに集約されます。登記簿は法務局が公開している公的な書類なので、誰でも会社名や所在地さえ分かれば取得できます。ただし、勤務先の同僚や上司が「この人が役員をしている会社」を氏名だけを手がかりに調べ当てる公的な検索手段は用意されていません。一方、住民税は制度上の仕組みとして、複数の勤務先から給与を受け取っている人の税額が、本業の給与担当者の目に触れる形で通知される場合があります。不安の中身によって、確認すべき制度が違います。
登記簿(登記事項証明書)は誰でも取れるが逆引きはできない
株式会社や合同会社を設立すると、商号・本店所在地・役員の氏名・住所などが登記され、登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)として誰でも交付請求できます。これは商業登記法第10条に定められた制度で、取得に資格証明は不要です(法務省「会社・法人の登記事項証明書等を請求される方へ」。2026年9月確認)。
ここで押さえておきたいのは、この制度は「会社名を知っている人が、その会社の情報を取りに行く」ための仕組みであって、「人の氏名から、その人が関わっている会社を検索する」ための仕組みではないという点です。国税庁が公開している法人番号公表サイトも、検索できるのは商号(会社名)と所在地のみで、代表者や役員の氏名では検索できません(国税庁法人番号公表サイト「ご利用方法について」。2026年9月確認)。
つまり、勤務先の誰かが「あなたの氏名」だけを起点にあなたが設立した会社を見つけ出すには、社名を偶然知る、SNSや取引先の情報から辿り着くといった別の経路が必要になります。登記簿そのものが自動的に勤務先へ通知される制度ではありません。
住民税で気づかれる仕組み
会社員の個人住民税は、給与から天引きされる「特別徴収」が原則です。給与の支払者(勤務先)には、所得税を源泉徴収する事業者である以上、住民税についても特別徴収を行う義務があります(地方税法第321条の4)。
問題は、副業として自分の会社から役員報酬(給与)を受け取った場合の扱いです。2か所以上から給与を受け取っている人の住民税は、原則として「主たる給与」の支払者(通常は年末調整を行う本業の勤務先)に対して、すべての給与所得を合算した税額の特別徴収税額決定通知書が届く仕組みになっています(東京都主税局「個人住民税と特別徴収について」。2026年9月確認)。本業の給与担当者は、社員一人ひとりの給与水準に対して通常想定される住民税額のおおよその見当がつくため、通知された税額が明らかに多いと、「給与以外の所得があるのでは」と気づくきっかけになり得ます。
「バレる」と一言でまとめられがちですが、正確には「本業の給与担当者が、天引きする住民税額の通知を見て気づく可能性がある」という制度上の経路です。誰かが意図的に調べているわけではなく、毎年届く通知書を処理する過程で起きる、という理解をしておくと過度に身構えずに済みます。
役員報酬か配当かで住民税の扱いが変わる
副業の会社からお金を受け取る形は、役員報酬(給与所得)だけではありません。会社に利益を残して配当として受け取る場合や、そもそも給与ではなく事業所得・雑所得として扱われる収入がある場合は、住民税の徴収方法を選べる余地があります。
| 受け取り方 | 所得区分 | 住民税の徴収方法 |
|---|---|---|
| 役員報酬(自分の会社から給与として) | 給与所得 | 原則、特別徴収で本業に合算通知(地方税法第321条の4) |
| 配当 | 配当所得 | 確定申告で「自分で納付(普通徴収)」を選択できる |
| 個人事業の副業収入 | 事業所得・雑所得 | 確定申告で「自分で納付(普通徴収)」を選択できる |
確定申告書(第二表)には「給与、公的年金等に係る所得以外の所得に係る住民税の徴収方法」を選ぶ欄があり、事業所得や配当所得についてはここで「自分で納付」(普通徴収)を選べば、その分の住民税は自治体から自宅に直接納付書が届く形になります(国税庁 確定申告書の様式・記載要領。2026年9月確認)。役員報酬という給与の形で受け取る限り、この選択肢は原則として使えません。受け取り方を決める段階で、この違いを知っておく価値があります。
住民税の増加額を試算する【計算例】
本業の給与担当者が気づく可能性がある増加額を、簡易に試算してみます。
前提:本業の年収500万円の会社員が、自分で設立した会社から役員報酬として年60万円(月5万円)を受け取る場合
- 住民税所得割の標準税率は10%(道府県民税4%+市町村民税6%。指定都市は道府県民税2%+市町村民税8%。総務省「個人住民税」資料。2026年9月確認)
- 給与所得控除は本業・副業を合わせた給与収入の合計額に対して1回だけ適用されるため、ここでは簡略化し、副業の役員報酬60万円がほぼそのまま課税所得に上乗せされると仮定する
- 増加する所得割額(概算):60万円 × 10% = 6万円/年 ≒ 5,000円/月
つまりこのケースでは、本業の給与から天引きされる住民税額が、副業をしていない場合に比べて月あたり5,000円前後多くなる計算になります。均等割(標準額は道府県民税1,000円+市町村民税3,000円の年4,000円。2024年度からは森林環境税(国税)年1,000円が併せて徴収される。総務省「個人住民税」資料。2026年9月確認)は世帯単位でほぼ一定のため、この試算には含めていません。あくまで簡略化した概算であり、実際の税額は所得控除の内容によって変わります。
会社にバレる可能性を下げるためのチェックリスト
□ 副業の会社からのお金の受け取り方を、役員報酬(給与)にするか配当にするか決めているか □ 事業所得・配当所得として受け取る場合、確定申告書で「自分で納付(普通徴収)」を選ぶ欄にチェックを入れているか □ 役員報酬(給与)として受け取る場合は、原則として本業への合算通知を避けられない前提で金額を決めているか □ 勤務先の就業規則で副業や兼業(役員就任を含む)がどう扱われているかを、制度面の対策より先に確認したか
次にやること
副業の会社からお金をどう受け取るか(役員報酬か配当か)を、住民税の徴収方法の違いを踏まえたうえで決めてください。判断に迷う場合は、税理士か最寄りの税務署・市区町村の住民税担当窓口に、自分の収入額を示したうえで具体的に相談することをおすすめします。
なお、この記事は制度の調査に基づいて書いています。筆者本人は2026年に会社を退職しており、在職中に副業で会社を設立した実体験はありません。
出典(2026年9月9日調査)
- 法務省「会社・法人の登記事項証明書等を請求される方へ」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji11.html(登記事項証明書は商業登記法第10条により誰でも交付請求できることを確認。本文の記述と一致)
- 国税庁法人番号公表サイト「ご利用方法(検索・閲覧、ダウンロード機能)について」https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/website/riyo-hoho/index.html(検索できる項目が商号・所在地であり、代表者・役員の氏名では検索できないことを確認。本文の記述と一致)
- 東京都主税局「個人住民税と特別徴収について」https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/life/kojin_ju/tokubetsu/about(2か所以上から給与を受け取る場合、主たる給与の支払者に合算後の税額が通知される仕組みを確認。本文の記述と一致)
- 総務省「個人住民税」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_06.html(住民税所得割の標準税率10%〈道府県民税4%+市町村民税6%、指定都市は道府県民税2%+市町村民税8%〉、均等割の標準額年4,000円〈道府県民税1,000円+市町村民税3,000円〉を確認。本文の数字と一致)
- 総務省「森林環境税及び森林環境譲与税について」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/04000067.html(2024年度から森林環境税〈国税〉年1,000円が個人住民税均等割と併せて徴収されていることを確認。本文の数字と一致)
- 国税庁「確定申告書等作成コーナー-住民税の徴収方法の選択」https://www.keisan.nta.go.jp/r7yokuaru/cat1/cat13/cat132/cat1324/cid395.html(給与所得以外の所得〈配当所得・事業所得等〉について、確定申告書第二表で「自分で納付」〈普通徴収〉を選択できることを確認。本文の記述と一致)