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妻・夫を役員にするか従業員にするか

この記事の結論
  • 役員報酬は法人税法上「定期同額給与」でなければ損金算入できず、事業年度の途中で自由に金額を変えられない(法人税法第34条第1項第1号、国税庁タックスアンサーNo.5211)
  • 役員は原則として雇用保険・労災保険の対象外(雇用保険法第4条、労働者災害補償保険法の特別加入制度)、従業員は原則として適用対象
  • 使用人であっても持株割合等の要件を満たし経営に従事している場合は税務上「みなし役員」として扱われることがある(法人税法施行令第7条、国税庁タックスアンサーNo.5200)
  • 役員の氏名は登記事項として誰でも取得できる履歴事項全部証明書に記載される(会社法第911条第3項、第914条)
この記事の内容
  1. 結論:見るべき違いは3つ
  2. 税務の違い:役員報酬は「定期同額」、従業員給与は自由
  3. 社会保険・労働保険の違い:役員は雇用保険・労災の対象外が原則
  4. 見落としがちな罠:「従業員のつもり」が税務上は役員扱いになることがある
  5. 登記の公開性:役員の氏名は誰でも取得できる
  6. 比較表:配偶者を役員にする場合と従業員にする場合
  7. 実体験について、正直に書きます
  8. 次にやること

この記事は、会社を設立するにあたって配偶者に事業を手伝ってもらう予定があり、役員にするか従業員として雇うかで迷っている人に向けて書いています。 結論から言うと、見るべき違いは「税務上の給与の縛り」「社会保険・労働保険の適用範囲」「登記で氏名が公開されるかどうか」の3つです。さらに、“従業員のつもり”で雇っても、持株割合によっては税務上「役員」扱いになる罠があるため、株式(持分)を渡すかどうかとセットで考える必要があります。

こんな状態ではありませんか
  • 配偶者に手伝ってもらう予定だが、役員と従業員のどちらにすればいいのか判断材料がない
  • 「役員報酬は自由に変えられない」と聞いたことがあるが、具体的に何が制限されるのか分からない
  • 従業員として雇うつもりでも、税務上は役員として扱われることがあると聞いて不安

結論:見るべき違いは3つ

配偶者を会社に関わらせる形は、大きく分けると「役員(取締役・業務執行社員)にする」か「従業員として雇用する」かの2択です。判断材料として効いてくるのは次の3つです。

  1. 税務上の給与の縛り:役員報酬は事業年度の途中で自由に変えられない
  2. 社会保険・労働保険の適用範囲:役員は雇用保険・労災保険の対象外が原則
  3. 登記の公開性:役員は氏名が誰でも取得できる登記簿に載る

このほかに、株式(持分)をどれだけ持たせるかによって、従業員のつもりでも税務上は役員として扱われる「みなし役員」という論点があります。 これは見落とされやすく、後から税務調査で指摘されると影響が大きいため、別立てで整理します。

税務の違い:役員報酬は「定期同額」、従業員給与は自由

役員に対する給与を会社の経費(損金)にするには、原則として「定期同額給与」でなければなりません。 定期同額給与とは、支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、かつ各支給時期の支給額が同額である給与のことです(法人税法第34条第1項第1号、国税庁タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm)。通常改定(業績連動などではなく定時株主総会での決議による改定)は原則として事業年度開始から3か月以内に行う必要があり、業績が良くなったからといって期の途中で自由に増額することはできません。

賞与を出す場合も同様で、あらかじめ税務署に届け出た金額・時期どおりに支給する「事前確定届出給与」でなければ、原則として損金に算入できません(法人税法第34条第1項第2号)。

ここが要点

役員報酬をこの縛りを無視して変更・支給すると、変更した部分(場合によっては全額)が損金不算入になり、会社の法人税が余計にかかることがあります。 「配偶者への役員報酬をボーナス的に増減させる」という運用は、税務上はリスクがある行為です。

一方、従業員としての給与には、こうした縛りがありません。 月々の金額を変えることも、業績に応じて賞与を出すことも、原則として通常の人件費として損金に算入できます(法人税法第22条第3項)。柔軟に金額を動かしたいなら従業員のほうが扱いやすいという面があります。

社会保険・労働保険の違い:役員は雇用保険・労災の対象外が原則

社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、報酬を受ける役員も従業員も、原則としてどちらも加入対象です(健康保険法第3条、厚生年金保険法第9条)。この点は役員・従業員で大きな差はありません。 ただし、非常勤で実質的に経営に関与していない役員や、無報酬の役員は加入対象外となる場合があり、常勤性・報酬の有無などから個別に判断されます。実際の加入要否は、自分のケースを年金事務所に確認してください。

差が出るのは雇用保険と労災保険です。

  • 雇用保険:役員は「労働者」に該当しないため、原則として被保険者になれません(雇用保険法第4条)。実態として工場長や部長などの職務を兼務し、報酬の相当部分が労働の対価と認められる「兼務役員」は例外的に対象となる場合がありますが、ハローワークでの個別認定が必要です。従業員は、週20時間以上・31日以上の雇用見込みなどの要件を満たせば原則として加入対象になります(雇用保険法第6条)。
  • 労災保険:役員は労働者ではないため原則として対象外です。中小事業主等については、労働者災害補償保険の特別加入制度を使えば任意で加入できます。従業員は原則として自動的に適用対象です。

配偶者が実際に現場で作業する時間が長く、ケガのリスクがある業務に従事するなら、労災保険が自動適用される従業員のほうが安心できる面があります。

見落としがちな罠:「従業員のつもり」が税務上は役員扱いになることがある

これが配偶者を関わらせる場合に特有の論点です。税務上は、肩書きが「従業員」でも、一定の株式(出資)を持ち、かつ経営に従事している人は「みなし役員」として役員と同じ扱いを受けることがあります(法人税法施行令第7条、国税庁タックスアンサーNo.5200「役員の範囲」、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm)。

みなし役員に該当すると、税務上は前段の役員報酬と同じ縛り(定期同額給与でなければ損金不算入、賞与は事前確定届出が必要)を受けます。「従業員として自由にボーナスを出すつもりだったのに、実は持株割合の要件でみなし役員に該当していて、賞与が全額損金不算入になっていた」という事態が起こり得ます。 判定には本人および配偶者など特殊関係者の持株割合と、実際に経営の意思決定に関わっているかどうかが関係します。国税庁タックスアンサーNo.5200によれば、同族会社の使用人がみなし役員に該当するのは、(1)第一順位の株主グループだけで持株割合が50%を超える、または第一順位から第二順位まで(もしくは第三順位まで)の株主グループの持株割合を合計して初めて50%を超える場合にそのグループに属しており、(2)本人が属する株主グループの持株割合が10%を超え、(3)本人(配偶者など特殊関係者を含む)の持株割合が5%を超える、という3つの要件をすべて満たし、かつ経営に従事している場合です。持株割合の具体的な数値要件は法人税法施行令第71条第1項第5号イ〜ハに定められており、同第7条第2号がこの要件を「役員」を「使用人」と読み替えて準用する形でみなし役員の判定基準としています(国税庁タックスアンサーNo.5200「役員の範囲」、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm)。自分がどの株主グループに属し、要件を満たすかどうかは個別の株主構成によって当てはまり方が変わるため、この記事では自分のケースへの当てはめまでは断定しません。自分の株主構成で該当するかは、税理士に確認してください。

ここが要点

配偶者に株式(持分)をどれだけ持たせるかを決める前に、みなし役員に該当する可能性があるかどうかを確認しておくことをおすすめします。 「役員にはしないが、株式は半分渡す」という設計は、税務上は役員扱いになる典型的なパターンです。

登記の公開性:役員の氏名は誰でも取得できる

役員(取締役・代表取締役、合同会社の業務執行社員)の氏名は、法務局で誰でも取得できる履歴事項全部証明書(登記簿謄本)に記載されます(会社法第911条第3項、合同会社の場合は第914条)。取引先や信用調査会社はもちろん、第三者が手数料を払えば取得できる公開情報です。

一方、従業員として雇う場合は登記事項ではなく、氏名は原則として公開されません。 配偶者を会社に関わらせている事実を対外的に見せたくない事情がある場合(例:配偶者が別に本業を持っている、プライバシーを重視したいなど)は、従業員のほうが公開範囲を絞れます。

比較表:配偶者を役員にする場合と従業員にする場合

項目 役員 従業員
給与の変更 原則、定期同額給与のみ損金算入(法人税法第34条第1項第1号) 期中の増減・賞与も原則損金算入(法人税法第22条第3項)
賞与 事前確定届出給与の届出が必要(法人税法第34条第1項第2号) 届出不要
社会保険(健康保険・厚生年金) 原則加入対象(常勤性・報酬による、健康保険法第3条ほか) 労働時間・日数の要件を満たせば加入対象
雇用保険 原則対象外(雇用保険法第4条) 週20時間以上等の要件で対象(雇用保険法第6条)
労災保険 原則対象外(特別加入制度で任意加入可) 原則自動適用
登記への記載 氏名が公開される(会社法第911条第3項・第914条) 記載されない
みなし役員のリスク 該当なし(すでに役員) 持株割合・経営関与によっては該当しうる(法人税法施行令第7条)

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年6月末に前職を退職し、起業準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点で、配偶者を会社に役員または従業員として関わらせる予定は具体的に固まっていません。そのため、この記事の内容は自分自身の体験ではなく、調査した範囲の制度情報の整理です。実際に配偶者を関わらせる判断をした場合は、その経緯と選んだ理由を、この記事に追記する形で報告する予定です。

次にやること

まず、配偶者に会社の経営判断に関わってもらうつもりがあるか、それとも実務作業だけを手伝ってもらうつもりかを紙に書き出してください。 経営に関わる比重が大きく、株式(持分)も一定割合渡す予定があるなら、役員として、または「みなし役員」に該当する前提で制度を確認したほうが安全です。実務作業だけを一定時間手伝ってもらう形なら、従業員として雇用保険・労災保険の対象にできる従業員形態のほうが扱いやすくなります。持株割合とみなし役員の該当可否は、必ず税理士に自分の株主構成で確認してください。


※本記事は2026年9月時点の法令に基づく情報整理と、筆者個人の状況に基づくものです。役員報酬・みなし役員の該当可否、社会保険の加入要否の正確な判定は個別の事情によって変わるため、断定していません。実際の判断は、必ず税理士・社会保険労務士に自分の状況で確認してください。

出典(2026年9月1日、国税庁・e-Gov法令検索等の公式ページで確認) - 法人税法 第34条第1項第1号・第2号(役員給与の損金不算入、定期同額給与・事前確定届出給与) - 法人税法 第22条第3項(損金の額に算入すべき金額) - 法人税法施行令 第7条第2号(役員の範囲、みなし役員。第71条第1項第5号イ〜ハの要件を「役員」を「使用人」と読み替えて準用) - 法人税法施行令 第71条第1項第5号(使用人兼務役員とされない役員の持株割合要件) - 国税庁タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm - 国税庁タックスアンサー No.5200「役員の範囲」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm - 健康保険法 第3条、厚生年金保険法 第9条(被保険者) - 雇用保険法 第4条・第6条(被保険者、適用除外) - 労働者災害補償保険法(中小事業主等の特別加入制度) - 会社法 第911条第3項、第914条(株式会社・持分会社の登記事項)

当サイト運営者

会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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