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マイクロ法人と個人事業の二刀流

この記事の結論
  • 会社の代表者・役員は、役員報酬を受け取ると厚生年金・健康保険への加入義務が生じる(健康保険法・厚生年金保険法の適用事業所の考え方)。役員報酬を低く設定すれば、個人事業側でどれだけ売上があっても社会保険料の算定基礎はその報酬額にとどまる、という仕組みを使うのがマイクロ法人と個人事業の「二刀流」
  • 所得500万円(40歳・配偶者あり)のケースで国民健康保険料が年間約90万円、マイクロ法人活用時の社会保険料が年間約28万円で差額約62万円、という試算例が保険情報サイトの解説記事で紹介されている(2026年9月時点、一次資料である協会けんぽ・自治体の保険料表そのものではなく解説記事の試算。実際の差額は自治体・所得・家族構成で変わるため自治体窓口・協会けんぽ保険料額表で個別に確認する案内とした)
  • 同族会社(株主の大半が同族関係者で占められる会社)の行為または計算が、所得税の負担を不当に減少させると認められる場合、税務署長はその行為・計算を否認して更正・決定できる(所得税法第157条)。法人税についても同様の規定がある(法人税法第132条)
  • 複数の税理士事務所の解説記事が共通して指摘しているのは、個人事業と法人の事業内容・取引先・入金口座が客観的に区分できていることが二刀流の前提であり、同じ取引先からの同じ内容の仕事を恣意的に個人と法人に振り分けるような形は否認リスクがあるという点
この記事の内容
  1. 結論:下がるのは保険料、リスクになるのは分け方
  2. マイクロ法人と個人事業の二刀流とは何か
  3. 社会保険料が下がる仕組み
  4. 本体は「何を分けるか」
  5. 同族会社の行為計算否認という法的リスク
  6. 二刀流に向く場合・向かない場合を並べる
  7. 実体験について、正直に書きます
  8. 次にやること

この記事は、マイクロ法人を作って個人事業と併用する「二刀流」に興味があり、社会保険料が下がるという話は聞いたものの、実際に何をどう分ければいいのか分からない人に向けて書いています。 結論から言うと、二刀流の本体は「社会保険料が下がる仕組み」そのものではなく、法人に置く事業と個人に残す事業をどう分けるかという部分です。分け方を誤ると、下がったはずの保険料より大きいリスクを抱えることになります。

こんな状態ではありませんか
  • マイクロ法人で社会保険料が下がるという話は聞いたが、仕組みが分からないまま検討している
  • 個人事業と法人、どの仕事をどちらに置けばいいのか判断基準が分からない
  • 「二刀流は危険」という記事も見かけて、何が危険なのか分からないまま不安になっている
  • 自分の場合、今の仕事をそのまま分けていいのか、それとも別の事業を法人で始めるべきか迷っている

結論:下がるのは保険料、リスクになるのは分け方

マイクロ法人と個人事業の二刀流は、法人の役員として社会保険に加入しつつ、個人事業の売上は別に持ち続けるという構成です。役員報酬を低く抑えれば、加入する社会保険(健康保険・厚生年金)の保険料は役員報酬の額を基準に決まるため、個人事業側でどれだけ稼いでいても、社会保険料はその低い報酬額を基準にした水準にとどまります。

ここまでが「保険料が下がる仕組み」です。しかし、この仕組みが成立するための前提が1つあります。法人の事業と個人の事業が、客観的に別の事業として区分できていることです。この前提が崩れると、税務署から「事業を分けたことにして税負担・保険料負担を不当に減らしている」と見られるリスクが出てきます。つまり、二刀流を検討するときに本当に決めなければいけないのは、保険料の計算方法ではなく、何を法人に置き、何を個人に残すかという切り分けのほうです。

マイクロ法人と個人事業の二刀流とは何か

マイクロ法人とは、正式な法律用語ではなく、従業員を雇わず自分1人(または家族)だけで運営する小規模な株式会社・合同会社を指す通称です。二刀流とは、このマイクロ法人の代表者を務めながら、同時に個人事業主としても別の仕事を続ける働き方を指します。

一人の人間が法人の代表者であることと、個人事業主として開業していることは、法律上どちらも矛盾なく成立します。会社の代表者・取締役の資格を定める会社法の条文にも、個人事業を持っていてはいけないという規定はありません。問題になるのは「法律上できるかどうか」ではなく、次に説明する「実際にどう運用するか」の部分です。

社会保険料が下がる仕組み

会社の代表者・役員であっても、役員報酬がゼロであれば、その会社を通じた厚生年金・健康保険への加入義務は生じません。 保険料の算定基礎になる報酬が無いためです。一方で、役員報酬を受け取る設計にすれば、その報酬額を基礎に厚生年金・健康保険への加入義務が発生します(健康保険法・厚生年金保険法の適用事業所・被保険者資格の考え方)。

二刀流のスキームは、この後者を使います。役員報酬を低い金額(月数万円程度)に設定して法人の社会保険に加入し、個人事業側の所得がいくら大きくても、社会保険料の算定基礎は法人の役員報酬額だけにとどめる、という組み方です。

ここが要点

個人事業主のまま国民健康保険・国民年金に加入していると、保険料は前年の所得(個人事業の利益)に連動して増えていきます。一方、法人の社会保険は役員報酬の額だけで決まるため、個人事業の利益をいくら伸ばしても、法人の保険料はほぼ変わりません。この「連動する・しない」の差が、二刀流で保険料が下がると言われる理由の核心です。

参考にした保険情報サイトの解説記事では、所得500万円(40歳・配偶者ありのケース)で試算した場合、国民健康保険料が年間約90万円になるのに対し、マイクロ法人活用時の社会保険料(協会けんぽ・厚生年金、役員報酬を低く設定した場合)は年間約28万円で、差額は約62万円になるという試算例が紹介されています(2026年9月時点)。この数字はあくまで1つの解説記事による試算例であり、協会けんぽの保険料表や各自治体の国民健康保険料の算定方法そのものを確認した一次データではありません。 国民健康保険料は自治体ごとに料率が異なるため、別の所得・年齢・家族構成での実際の差額は決まった早見表がありません。自分の場合の差額を知りたいときは、国民健康保険側は住んでいる自治体の国民健康保険の窓口(または自治体サイトの保険料試算ページ)で自分の所得・家族構成を伝えて確認し、法人側は協会けんぽの都道府県別保険料額表で想定する役員報酬の等級を引いて、両者を比べてください。

また、健康保険料は被保険者本人の標準報酬月額だけで算定され、被扶養者が何人いても保険料が変わらないという仕組みは、富士通健康保険組合の公式Q&Aで確認できます。協会けんぽの保険料額表も、標準報酬月額の等級だけで保険料が一意に決まる作りで被扶養者数による区分はなく、同じ算定方式です(協会けんぽ公式サイト、2026年9月確認)。この仕組みも、扶養家族が多い世帯ほど二刀流の効果が大きくなる理由として挙げられています。

本体は「何を分けるか」

ここまでが「保険料が下がる仕組み」の説明です。ここからが、この記事のタイトルにした本体の部分です。

税理士事務所や税務専門メディアの解説記事が共通して指摘しているのは、個人事業と法人の事業内容・取引先・売上と経費の流れが、客観的に区分できていることが二刀流の前提だという点です。契約書や請求書の名義、入金される口座が個人と法人で分かれていることに加えて、実際の業務の中身も「これは法人の仕事、これは個人の仕事」と説明できる状態になっている必要があります。

問題になりやすいのは、同じ取引先から受けている同じ内容の仕事を、恣意的に「これは個人の売上」「これは法人の売上」と振り分けるような形です。 収入の入口(契約主体)そのものが分かれていて、法人は法人としてサービスを提供し、個人事業は個人事業として別の業務を行う、という状態であれば、それぞれ別の事業として成立しやすくなります。逆に、実態としては1つの仕事を書類上だけ2つに割っているような場合は、区分が崩れていると見られるリスクがあります。

つまり、二刀流を検討するときに最初に決めるべきなのは「役員報酬をいくらにするか」ではなく、「今やっている仕事、これから始める仕事のうち、どれを法人に置き、どれを個人に残すか」です。この切り分けが曖昧なまま保険料の計算だけを先に進めると、あとで区分の説明ができない状態になります。

同族会社の行為計算否認という法的リスク

事業の区分が崩れた場合に関わってくるのが、同族会社の行為計算否認という規定です。

同族会社(株主の大半が同族関係者で占められる会社)の行為または計算が、所得税の負担を不当に減少させる結果になると認められるとき、税務署長はその行為・計算を通常あるべき形に引き直して更正・決定を行うことができます(所得税法第157条)。法人税についても、同様の趣旨の規定があります(法人税法第132条)。

マイクロ法人は多くの場合、代表者本人とその家族だけで株式を持つ同族会社に該当します。「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」かどうかは、実際に行われた行為・計算に基づく税額と、通常あるべき行為・計算に引き直した場合の税額との差によって、個別の事案ごとに判断されるとされています。画一的な基準線があるわけではなく、事業の実態がどこまで説明できるかが判断材料になります。

この規定がマイクロ法人と個人事業の二刀流のケースにそのまま適用された公表事例は、公式には確認できていません。 国税不服審判所の公表裁決事例には「同族会社の行為又は計算の否認」という区分があり、同族会社への過大な管理委託料の支払いを否認した事例など同条関連の裁決自体は公表されていますが、二刀流そのものへの適用を扱った公表事例は同サイト上では見当たりませんでした(2026年9月確認)。 ただし、規定の存在自体と、その適用要件(同族会社であること・税負担を不当に減少させると認められること)は、条文および複数の税務解説記事で共通して説明されている内容です。

二刀流に向く場合・向かない場合を並べる

論点 向きやすいケース 向きにくいケース
事業の中身 法人と個人で契約主体・取引先・業務内容が明確に分かれている 同じ取引先から同じ内容の仕事を受けていて、書類上だけ分けている
事業規模 個人事業の所得が安定して大きく、保険料の差額が事務負担を上回る 所得が小さく、法人の維持コスト(決算・申告・記帳)のほうが負担になる
経理体制 通帳・クレジットカードを個人と法人で分け、複式簿記の記帳ができる、または税理士に依頼できる 経理をひとりで回しきれず、お金の流れが混ざりやすい
説明責任 税務調査が入っても、事業の区分を資料付きで説明できる 「なぜ分けたか」を後から言語化できない

表の左側に当てはまる項目が多いほど、保険料が下がる仕組みの効果を、区分のリスクを抱えずに得やすくなります。 逆に右側に当てはまる項目があるなら、保険料の差額だけを見て二刀流に踏み込むのは早いというのが、複数の解説記事に共通する見立てです。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年6月末に前職を退職し、退職後に合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、マイクロ法人と個人事業を両方運営した実体験はありません。この記事は、二刀流を検討している人向けに、社会保険の仕組みと同族会社の行為計算否認という制度を調べて整理したものであり、本人の一次情報ではない点は正直に書いておきます。

次にやること

まず、今やっている仕事・これから始めたい仕事を1つずつ書き出し、「取引先が誰か」「契約主体を法人と個人のどちらにできるか」を横に書いてみてください。 この作業をやってみて、法人と個人で契約主体をはっきり分けられる仕事が複数あるなら二刀流の検討を先に進める価値があり、同じ取引先の同じ仕事を分けることしか思いつかないなら、いったん個人事業のまま続けるか、個人事業主と法人どちらで始めるかを読んで法人化そのものの判断基準を見直すほうが安全です。法人を作る場合の社会保険の手続きは会社設立後の社会保険手続きを、資本金や役員報酬の設計は税理士に自分の事業内容を伝えたうえで相談してください。会社設立の書類作成自体はfreee会社設立やマネーフォワード会社設立のようなサービスで進められますが、事業の区分と否認リスクの判断は、自分の状況を伝えたうえで税理士に確認するのが確実です。


※本記事は2026年9月時点の法令・公表資料および複数の税理士事務所の解説記事に基づく情報整理です。社会保険料の試算額は解説記事による例示であり、実際の金額は居住する自治体・所得水準・家族構成によって異なります。同族会社の行為計算否認の適用可否は個別の事案ごとに判断されるため、実際の判断は税理士に自分の状況を伝えて確認してください。

出典 - 所得税法 第157条(同族会社等の行為又は計算の否認等)(e-Gov法令検索、2026年9月確認) - 法人税法 第132条(同族会社等の行為又は計算の否認)(e-Gov法令検索、2026年9月確認) - 健康保険法、厚生年金保険法(適用事業所・被保険者資格の考え方) - 国民健康保険法(個人事業主の加入の考え方) - 家族を扶養から外した場合、保険料は変わりますか?(富士通健康保険組合公式、2026年9月確認。「被扶養者の有無にかかわらず、被保険者本人の標準報酬月額に保険料率をかけて算出しているので、被扶養者の増減により保険料が変わることはない」との明記あり) - 都道府県毎の保険料額表(協会けんぽ公式、2026年9月確認。標準報酬月額の等級だけで保険料額が一意に決まる表になっており、被扶養者数の区分は無い) - 同族会社の行為又は計算の否認|公表裁決事例等の紹介|国税不服審判所(2026年9月確認。同条関連の公表裁決の一覧。マイクロ法人と個人事業の二刀流そのものへの適用を扱った公表事例は同一覧に見当たらない) - 手取り激増!マイクロ法人を設立して個人事業主との「二刀流」で節税する究極のスキーム(2026年9月確認、社会保険料試算〔所得500万円・40歳・配偶者ありのケース〕の参考) - マイクロ法人と個人事業主の「二刀流」とは?仕組み・メリット・否認リスク・損益分岐点(2026年9月確認、否認リスクの整理の参考) - マイクロ法人と個人事業主の二刀流を攻略!光と影の完全ガイド(2026年9月確認、事業区分の実務の参考)

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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