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個人事業主と法人どちらで始めるか

この記事の結論
  • 法人税は資本金1億円以下の中小法人なら年800万円以下の所得部分に軽減税率15%、超える部分に23.2%(法人税法第66条、租税特別措置法第42条の3の2)。個人の所得税は5%〜45%の超過累進課税で、この税率構造の交差点が「課税所得800万〜900万円」という目安の根拠(所得税法第89条、国税庁タックスアンサーNo.2260・No.5759)
  • 法人住民税の均等割は赤字の年でも発生し、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の区分で東京23区の場合は年7万円が標準(地方税法)。個人事業にはこの定額負担がない
  • 赤字の繰越控除は個人の青色申告特典が3年(所得税法第70条)、法人は10年(法人税法第57条)
この記事の内容
  1. 結論:判断材料は「800万円」「7万円」「3年と10年」の3つ
  2. 1つ目の数字:課税所得800万円が税率の分かれ目
  3. 2つ目の数字:赤字でも消えない7万円(法人住民税の均等割)
  4. 3つ目の数字:赤字を繰り越せる期間の差(3年と10年)
  5. 比較表:個人事業主と法人の違い一覧
  6. 数字以外に見るべき点:社会保険とインボイス
  7. それでも「800万円に届いていない」なら個人事業主でいい理由
  8. 実体験について、正直に書きます
  9. 次にやること

この記事は、これから起業するにあたって、個人事業主として始めるか、最初から法人を作るかで迷っている人に向けて書いています。 結論から言うと、判断材料は無数に語られていますが、実際に効いてくるのは「課税所得800万円」「均等割7万円」「赤字繰越3年と10年」という3つの数字だけです。この3つを自分の見込み利益・資金繰りに当てはめれば、判断はそれほど難しくありません。

こんな状態ではありませんか
  • 個人事業主で始めるべきか、最初から会社にすべきか、ネットの情報が多すぎて決められない
  • 「利益800万円で法人化」という話は見たが、根拠がよく分からないまま鵜呑みにしていいのか不安
  • 税金以外に、法人にすると何が増えて何が減るのかを整理できていない

結論:判断材料は「800万円」「7万円」「3年と10年」の3つ

個人事業主と法人のどちらで始めるかを比較する記事は多くの論点を並べますが、これから起業する人が最初に見るべきなのは次の3つの数字です。

  1. 課税所得800万円:個人の所得税と法人の法人税の税率構造が交差してくる目安のライン
  2. 均等割7万円:法人だけにかかる、赤字でも消えない定額の税金
  3. 繰越3年と10年:赤字を将来の黒字と相殺できる期間の差(個人3年・法人10年)

このうち最初に見るべきは1つ目の課税所得のラインです。 見込み利益がこのラインに届かないなら、2つ目・3つ目の数字は法人化のデメリット側として効いてきます。届きそうなら、法人のメリットが数字として出てきます。以下、それぞれ見ていきます。

1つ目の数字:課税所得800万円が税率の分かれ目

個人の所得税は、課税所得の金額に応じて5%から45%まで7段階で税率が上がる超過累進課税です(所得税法第89条、国税庁タックスアンサーNo.2260「所得税の税率」)。これに住民税(所得割、原則一律10%、地方税法)を足すと、個人にかかる税率の上限は所得税45%+住民税10%=55%(復興特別所得税は別途)まで上がります。

課税所得の目安 所得税率
195万円以下 5%
195万円超330万円以下 10%
330万円超695万円以下 20%
695万円超900万円以下 23%
900万円超1,800万円以下 33%
1,800万円超4,000万円以下 40%
4,000万円超 45%

(所得税法第89条、国税庁タックスアンサーNo.2260。実際の税額は控除額を差し引いて計算する速算表があり、上表は税率区分の目安)

一方、法人税は資本金1億円以下の中小法人であれば、年800万円以下の所得部分に軽減税率15%、それを超える部分に基本税率23.2%が適用されます(法人税法第66条、国税庁タックスアンサーNo.5759「法人税の税率」)。この15%は法人税法本則(19%)に対する租税特別措置法第42条の3の2による時限的な軽減措置で、2026年8月時点では2027年(令和9年)3月31日までに開始する事業年度に適用されます(令和7年度税制改正で2年延長)。これに法人住民税・法人事業税が加わりますが、それでも法人の実効税率はおおむね20%台〜30%台前半に収まります。

個人の最高税率(55%)と法人の実効税率(20〜30%台)を比べると、課税所得が一定水準を超えたところで、法人のほうが税負担の割合が低くなるという構造です。この水準がよく「800万〜900万円」と言われるのは、法人税の軽減税率の境目(800万円)と、所得税が23%から33%に上がる境目(900万円)が近い位置にあるためです。

ここが要点

正確な交差点は、所得控除の状況・自治体の税率・社会保険料の負担なども絡むため、この800万円はあくまで目安です。 国税庁の所得税・法人税の税率表(前掲No.2260・No.5759)を確認したが、「個人と法人の税負担が逆転する所得ライン」を示した公式資料は見当たらなかった(2026年8月時点で確認)。800万円という数字は各解説記事で共通して使われている単純比較の目安であり、正確な交差点は所得控除・自治体の税率差・社会保険料を含めて個別に計算しないと出せません。自分の見込み利益がこのラインの近くにあるなら、目安のまま判断せず、実際の数字で試算することをおすすめします。

2つ目の数字:赤字でも消えない7万円(法人住民税の均等割)

法人には、利益が出ているかどうかに関係なく、毎年必ず発生する税金があります。法人住民税の均等割です。均等割は資本金等の額と従業員数で区分されており、資本金1,000万円以下・従業員50人以下という最も小さい区分でも、東京23区の場合で年7万円が標準額です(地方税法。均等割の区分は資本金の額に連動するため、資本金の設定と合わせて別記事[資本金はいくらにするか|1円設立をやめた理由]でも扱っています)。

個人事業主には、この定額負担にあたるものがありません。 個人の場合、赤字の年は所得税も住民税の所得割も発生しないため、事業に関わる税負担はゼロに近づきます。法人は赤字でも均等割が発生するため、開業直後で利益が出ない期間が続く見込みがあるなら、この7万円は毎年の固定費として織り込む必要があります。

3つ目の数字:赤字を繰り越せる期間の差(3年と10年)

事業を始めた直後は赤字になることも珍しくありません。その赤字を翌年以降の黒字と相殺できる期間にも、個人と法人で差があります。

  • 個人(青色申告):純損失の繰越控除は3年間(所得税法第70条)
  • 法人(青色申告):欠損金の繰越控除は10年間(法人税法第57条、2018年4月1日以後に開始する事業年度に生じた欠損金額から適用)

開業初期に大きな設備投資や広告費がかかり、黒字化まで数年かかる見込みがある事業ほど、この繰越期間の差は実際の税負担に効いてきます。3年で使い切れなかった赤字は個人の場合そのまま消えますが、法人なら10年かけて相殺できます。

比較表:個人事業主と法人の違い一覧

項目 個人事業主 法人
税率構造 所得税5%〜45%の超過累進+住民税10% 法人税15%(800万円以下)〜23.2%、実効税率20〜30%台
赤字時の定額負担 なし 法人住民税均等割(最低区分で年7万円が標準)
赤字の繰越控除 3年(所得税法第70条) 10年(法人税法第57条)
社会保険 国民健康保険・国民年金 健康保険・厚生年金保険への強制加入(代表者本人も対象)
設立の手間・費用 開業届の提出のみ、費用なし 登記が必要、登録免許税など実費が発生
決算・申告の事務 確定申告(青色申告特別控除あり) 法人決算+法人税申告、税理士費用がかかることが多い

出典:所得税法第89条・第70条、法人税法第66条・第57条、租税特別措置法第42条の3の2、地方税法、国税庁タックスアンサーNo.2260・No.5759、健康保険法・厚生年金保険法

数字以外に見るべき点:社会保険とインボイス

上の3つの数字は税金の話ですが、法人化すると税金以外のコストも変わります。

  • 社会保険への強制加入:法人は健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所となり、代表者本人も被保険者になります(健康保険法第3条、厚生年金保険法第6条)。個人事業主の国民健康保険・国民年金と比べて、保険料の算定方法も負担の出方も変わります。具体的な保険料額は役員報酬の設定額によって変わるうえ、健康保険料率は都道府県ごとに毎年見直され差がある(全国健康保険協会「都道府県毎の保険料率」で公表)ため、全国一律の金額は存在しません。 自分の役員報酬額での試算は、年金事務所や社会保険労務士に確認してください。
  • インボイス登録の要否:法人にすると自動的に課税事業者になるわけではありませんが、設立時の消費税の扱い(インボイス登録の要否)は別途判断が必要です。この点は別記事[会社設立はインボイス登録は設立時にやるか|免税の恩恵と取引先の都合]で扱っています。
  • 決算・申告の事務負担:法人は個人の確定申告より決算・申告が複雑になり、税理士に依頼する前提で費用を見込む必要が出てくることが多くなります。

それでも「800万円に届いていない」なら個人事業主でいい理由

これから起業する段階で、事業計画上の見込み利益が課税所得800万円に届く見通しが立っていないなら、無理に最初から法人にする必要はありません。

個人事業主のまま始める場合、開業届を出すだけで始められ、登記費用も登録免許税もかかりません。均等割の7万円も発生せず、事業が軌道に乗って利益が見えてきた段階で、あらためて法人化(法人成り)を検討する順番でも遅くありません。「最初から法人のほうが信用される」という話もありますが、e-Stat(政府統計の総合窓口)・国税庁の会社標本調査・財務省の法人企業統計を確認した範囲では、個人事業主と法人の取引信用度を直接比較した公的統計は見当たりませんでした(2026年8月時点で確認)。 取引先が法人でないと契約できない業種かどうかは、事前に具体的な取引先に確認したほうが実態に即した判断ができます。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年6月末に前職を退職し、起業準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点で、個人事業主のまま始めるか、最初から法人にするかをまだ最終確定していません。今のところ、開業初期の見込み利益が課税所得800万円に届く確度は高くないため、個人事業主として始めて、利益の状況を見ながら法人化のタイミングを判断する案に傾いています。ただしこれは検討段階での判断であり、実際に開業・設立した後の一次情報ではありません。決めた理由と、実際にどちらを選んだかは、手続きが終わった段階で別記事にまとめる予定です。

次にやること

まず、自分の事業計画上の見込み利益(課税所得ベース)が、開業から1〜2年の間に800万円に届きそうかどうかを紙に書き出してください。 届く見込みがあるなら、均等割7万円と赤字繰越の差を踏まえたうえで法人を検討し、届かない見込みなら、まず個人事業主として開業届を出して始めることをおすすめします。正確な損益分岐点は、税理士に自分の数字でシミュレーションしてもらうのが確実です。freee会社設立やマネーフォワード会社設立のようなサービスでも、簡易な税額シミュレーション機能を提供している場合があります。


※本記事は2026年8月時点の法令に基づく情報整理と、筆者個人の状況に基づくものです。個々のケースでの正確な損益分岐点、社会保険料の具体額、法人の信用度については、公的機関の統計・資料を確認した範囲では一般化できる数字・裏付けが見当たらなかった旨を本文中に明記しており、断定していません。実際の判断は、必ず税理士・社会保険労務士に自分の数字で確認してください。

出典 - 所得税法 第89条(超過累進税率) - 所得税法 第70条(純損失の繰越控除) - 法人税法 第66条(法人税の税率) - 法人税法 第57条(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除) - 租税特別措置法 第42条の3の2(中小企業者等の法人税率の特例。時限措置で2026年8月時点は2027年3月31日までに開始する事業年度に適用) - 地方税法(法人住民税の均等割) - 健康保険法 第3条、厚生年金保険法 第6条(法人の強制適用事業所) - 国税庁タックスアンサー No.2260「所得税の税率」 - 国税庁タックスアンサー No.5759「法人税の税率」

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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