法人の源泉徴収と年末調整
- 役員報酬を支払う会社は、支払時に所得税を源泉徴収し翌月10日までに納付する義務がある(所得税法183条)
- 社員数に関係なく、役員本人1人だけの会社でも対象になる
- 年末調整は「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人が対象(所得税法190条)で、一人社長は自分の会社宛にこの申告書を出すことで対象になる
- 給与収入が2,000万円を超える場合は年末調整の対象外で確定申告が必要(所得税法190条)
- 常時10人未満の会社は源泉所得税の納期の特例で年2回の納付にまとめられる(所得税法216条・217条)
- この記事は法令・国税庁の公式情報を整理したものであり、筆者自身が源泉徴収・年末調整を実際に運用した体験ではない
この記事の内容
この記事は、社員が自分だけの会社を作ろうとしていて、「源泉徴収や年末調整は、社員がいなくても自分にも必要なのか」を知りたい人に向けて書いています。 結論から言うと、必要です。役員報酬を受け取る以上、一人社長は「給与を払う会社」であり同時に「給与をもらう給与所得者」でもあるため、源泉徴収と年末調整の両方の当事者になります。この記事では、毎月何をするのか、年末に何をするのか、どこでつまずきやすいかを整理します。
- 社員が自分しかいないのに、源泉徴収や年末調整が必要なのか分からない
- 扶養控除等申告書を誰に、どうやって出せばいいのか分からない
- 年末調整をしなくていいケースがあるのか知りたい
結論:一人社長でも役員報酬に源泉徴収義務がある
会社が役員や従業員に給与(役員報酬を含む)を支払う場合、支払う会社は所得税を天引き(源泉徴収)し、原則として翌月10日までに税務署に納付する義務があります(所得税法183条)。この義務は、給与を受け取る人数が何人であっても変わりません。社員が社長本人1人だけの会社であっても、役員報酬を支払っている限り、会社は「源泉徴収義務者」になります。
さらに、その役員報酬を受け取る本人は「給与所得者」として、年末に1年分の所得税を精算する年末調整の対象になります(所得税法190条)。つまり一人社長は、
- 会社として: 自分自身の役員報酬から所得税を源泉徴収し、納付する
- 個人として: 自分の会社に扶養控除等申告書を提出し、年末調整を受ける
という、支払う側と受け取る側の両方の立場を、同じ人が兼ねる形になります。
毎月やること|源泉徴収の仕組みと納付
会社を設立して役員報酬を払い始める場合、まず税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する義務があります(所得税法230条)。これを出すことで、税務署側に「この会社は源泉徴収義務者だ」という前提ができます。
毎月の流れは次のとおりです。
- 役員報酬の額と、扶養控除等申告書の提出有無・扶養親族の数をもとに、国税庁が毎年公表する「源泉徴収税額表」(月額表)に当てはめて源泉徴収税額を求める
- 役員報酬支払時に、その税額を天引きする
- 天引きした所得税を、原則として支払った月の翌月10日までに税務署へ納付する
扶養控除等申告書を提出している場合は「甲欄」、提出していない場合は「乙欄」の税額を使うため、天引きされる金額が変わります(国税庁「源泉徴収税額表」)。一人社長の場合、自分の会社にこの申告書を提出するかどうかで、毎月の天引き額が変わってくる点は覚えておく必要があります。
年末にやること|年末調整の仕組み
毎月の源泉徴収は、生命保険料控除や住宅ローン控除などを反映していない概算額です。そのため年末に、1年間に源泉徴収した合計額と、本来納めるべき年税額とを比べて過不足を精算します。これが年末調整です(所得税法190条)。
年末調整の対象になるのは、その年最後の給与の支払を受ける時までに「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人です(所得税法190条)。一人社長の場合、この申告書は自分自身が、給与の支払者である自分の会社に対して提出するという形式になります。書類上は自分から自分の会社への提出ですが、この提出がなければ年末調整の対象にならず、代わりに確定申告で精算することになります。
年末調整では、次のような控除を反映して年税額を再計算します。
- 生命保険料控除、地震保険料控除
- 配偶者控除、扶養控除
- 社会保険料控除(自分の役員報酬から天引きされている社会保険料)
- 住宅借入金等特別控除(2年目以降。1年目は確定申告が必要)
計算の結果、源泉徴収した合計額の方が多ければ還付、少なければ追加徴収となります(所得税法190条)。国税庁「年末調整のしかた」に精算月を12月・1月のどちらかに指定する記載はなく、実務上は多くの会社で12月の年末給与または翌年1月の給与にあわせて精算している(2026年9月確認)。
一人社長ならではの注意点
「自分に自分で書類を出す」という手続きが多いのが、一人社長の年末調整の特徴です。 扶養控除等申告書も、保険料控除申告書も、本来は従業員が会社に提出する書類ですが、一人社長の会社では提出する人と受け取る人が同一人物になります。形式的に見えても、この提出の有無で税額表の「甲欄・乙欄」が変わり、年末調整の対象になるかどうかも変わるため、省略せずに作成・保管しておく必要があります。
会計ソフト(freee人事労務、マネーフォワードクラウド給与など)を使えば、年末調整の計算自体は自動化されますが、次の点は自分で判断・準備する必要があります。
- 生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書など、控除証明書の原本を自分で保管しておくこと
- 年末調整の結果を反映した「源泉徴収票」を自分自身に交付すること(所得税法226条)
- 年末調整の結果を反映した源泉徴収票を税務署へ提出すること(所得税法226条)、給与支払報告書を市区町村へ提出すること(地方税法317条の6)
一人社長だからといって、これらの書類作成義務がなくなるわけではありません。
年末調整の対象から外れるケース
以下に当てはまる場合は、年末調整の対象外となり、確定申告での精算が必要です(所得税法190条、国税庁「確定申告が必要な方」)。
| ケース | 扱い |
|---|---|
| 年間の給与収入が2,000万円を超える | 年末調整の対象外。確定申告が必要 |
| その年最後の給与の支払を受ける時までに扶養控除等申告書を提出していない | 年末調整の対象外(乙欄適用のまま) |
| 2か所以上から給与を受けていて、他社に「主たる給与」として申告書を出している | 自社では年末調整の対象外 |
| 住宅ローン控除を初めて適用する年(1年目) | 年末調整では反映できず、確定申告が必要 |
一人社長で役員報酬が2,000万円を超えるケースは多くありませんが、副業収入が別にある場合や、他の会社の役員も兼務している場合は、どちらが「主たる給与」かによって扱いが変わるため注意が必要です。
納期の特例で年2回にまとめる
源泉徴収した所得税は、原則として毎月納付する必要がありますが、給与の支給人員が常時10人未満の会社は、税務署に申請することで年2回にまとめて納付できる「納期の特例」を使えます(所得税法216条・217条)。
- 1月〜6月分:7月10日までに納付
- 7月〜12月分:翌年1月20日までに納付(納期限の特例に関する規定あり)
一人社長の会社は当然「常時10人未満」に該当するため、この特例の対象になります。毎月の納付事務を減らせるため、設立時に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」をあわせて提出しておくと、その後の事務負担が軽くなります。
調査した範囲について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、起業準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ自分の会社を設立しておらず、役員報酬の源泉徴収や年末調整を実際に運用した経験はありません。この記事は、所得税法の該当条文、国税庁の公式解説(源泉徴収税額表、年末調整のしかた、確定申告が必要な方)を2026年9月に確認し、内容が一致する部分を整理したものです。会計ソフトでの実際の操作感については、公式サイトの機能説明を確認したのみで、自分で入力・運用した経験ではありません。
次にやること
会社設立と同時に「給与支払事務所等の開設届出書」と「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出してください。 どちらも役員報酬を払い始める前に出しておくと、その後の源泉徴収・納付・年末調整の事務がスムーズになります。具体的な税額表の当てはめ方や、自分のケースで年末調整が必要かどうかの判断に迷う場合は、顧問税理士に確認してください。
※本記事は2026年9月時点で確認できた法令・国税庁の公式情報の整理です。制度は変更されることがあり、実際の手続きは必ず税務署または税理士に確認してください。
出典 - 所得税法183条(源泉徴収義務) e-Gov法令検索 - 所得税法190条(年末調整) e-Gov法令検索 - 所得税法194条(給与所得者の扶養控除等申告書) e-Gov法令検索 - 所得税法216条・217条(源泉所得税の納期の特例) e-Gov法令検索 - 所得税法226条・230条(源泉徴収票、給与支払事務所等の開設届出書) e-Gov法令検索 - 地方税法317条の6(給与支払報告書) e-Gov法令検索 - 国税庁「令和8年分 源泉徴収税額表」(nta.go.jp) - 国税庁「年末調整のしかた」(nta.go.jp) - 国税庁 No.2020「確定申告」・年末調整の対象とならない人の要件(nta.go.jp)