未払費用と前払費用の決算処理
- 前払費用=一定の契約に従い継続して役務の提供を受ける場合、まだ提供を受けていない役務に対し支払った対価。未払費用=すでに提供を受けた役務に対し、まだ対価の支払いが終わっていないもの(企業会計原則注解5「経過勘定項目について」)
- 損益計算書原則一Aで、未払費用・未収収益は当期の損益計算に計上し、前払費用・前受収益は当期の損益計算から除去すると定められている(発生主義の原則)
- 前払費用は役務提供契約以外の契約による前払金と区別しなければならない(企業会計原則注解5)。未払費用も個別取引で確定した債務である未払金と区別される
- 法人税の損金算入は原則として債務確定主義。事業年度終了日までに(1)債務が成立し(2)具体的な給付原因となる事実が発生し(3)金額を合理的に算定できる、の3要件を満たす費用に限る(法人税法22条3項2号、国税庁No.5387「販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定」)
- 前払費用は支出時に資産計上し役務提供を受けた時に損金算入するのが原則だが、支払った日から1年以内に提供を受ける役務で、継続してその支払日の属する事業年度の損金にしている場合は支払時点での損金算入が認められる(短期前払費用の特例。国税庁No.5380「短期前払費用として損金算入ができる場合」)。ただし借入金を運用する場合の支払利子など収益と対応させる必要がある費用は対象外
この記事の内容
この記事は、初めて決算を迎える一人社長・小規模法人の経営者で、「未払費用」「前払費用」という言葉は聞いたことがあるが、自分の会社のどの取引が該当するのか、計上しないとどう損をするのかが分からない人に向けて書いています。 結論から言うと、未払費用は計上しないと当期の経費(損金)が過少になって税金を余計に払うことになり、前払費用は逆に計上しないと当期の経費が過大になって決算書の利益が不正確になります。以下、それぞれの定義、似た科目(未払金・前払金)との違い、税務上のルール、計上を忘れやすい典型例の順に整理します。
- 「未払費用」「前払費用」という科目名は知っているが、自社のどの支払いが該当するのか分からない
- 「未払金」「前払金」との違いがあいまいで、決算のときにどちらで処理すればいいか迷う
- 計上を忘れると具体的に何が損なのか、実感が湧かない
結論:未払費用の計上漏れは税金の払い過ぎ、前払費用の計上漏れは利益のゆがみ
未払費用と前払費用は、決算日をまたいで継続的にサービス(役務)の提供を受ける契約について、「支払ったタイミング」と「実際にサービスを受けたタイミング」のズレを決算書上で正しく合わせるための科目です。企業会計原則ではこの2つを含めて「経過勘定項目」と呼びます(企業会計原則注解5「経過勘定項目について」)。
未払費用は、決算日までにすでにサービスの提供を受けているのに、まだ代金を払っていないものです。これを計上し忘れると、本来当期の経費にできるはずの金額が抜け落ち、その分利益が大きく出て、法人税を余計に払うことになります。
前払費用は、決算日の時点でまだサービスの提供を受けていない部分について、先に代金を払ってしまっているものです。これを経費のまま放置すると、まだ受けていないサービスの分まで当期の経費にしてしまい、利益が実態より小さく表示されます。
どちらも「損」の中身が違います。 未払費用の計上漏れは税金の払い過ぎ、前払費用の計上漏れは決算書の利益の見た目が実態とズレることが「損」です。金融機関や取引先に決算書を見せる機会がある一人社長ほど、後者の影響も軽視できません。
前払費用とは|まだ受けていない役務への支払い
企業会計原則は前払費用を「一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価」と定義しています(企業会計原則注解5)。
典型例は、決算日をまたいで契約している家賃・保険料・リース料・サブスクリプション利用料などです。たとえば3月決算の会社が2月に向こう半年分(2月〜7月)の保険料を払った場合、決算日(3月末)の時点で4月〜7月分はまだサービスの提供を受けていません。この未経過分を「前払費用」として資産に振り替え、当期の経費(保険料)から除きます。
企業会計原則の損益計算書原則では、この考え方を「発生主義の原則」として次のように定めています。未払費用及び未収収益は当期の損益計算に計上し、前払費用及び前受収益は当期の損益計算から除去しなければならない(企業会計原則 損益計算書原則一A)。支払った・受け取ったという現金の動きではなく、実際にサービスが発生したかどうかで期間帰属を決めるのがこの原則の考え方です。
未払費用とは|すでに受けた役務への未払い
未払費用は、前払費用の逆で「一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、すでに提供された役務に対し、いまだその対価の支払が終わらないもの」です(企業会計原則注解5)。
典型例は、決算日時点でまだ支払日が来ていない給与の未払い分、借入金の利息、当月分の水道光熱費・通信費などです。たとえば給与の締め日が20日で支払いが翌月5日の会社の場合、決算日が月末であれば、21日〜月末までの給与はすでに労働の提供(役務)を受けているのに、まだ支払っていません。この部分を「未払費用」として負債に計上し、当期の経費に含めます。
未払費用を計上しないと、経費が実態より少なく計上され、利益が大きく出ます。 法人税は利益に対してかかるため、計上漏れはそのまま税金の払い過ぎにつながります。決算作業では「まだ支払っていないもの」を見落としがちなので、未払費用のチェックは意識して行う必要があります。
前払金・未払金との違い|「継続的な役務」かどうかで分ける
前払費用・未払費用と紛らわしい科目に、前払金・未払金があります。企業会計原則注解5も「前払費用は、かかる役務提供契約以外の契約等による前払金とは区別しなければならない」と明記しています。区別の基準は、継続的な役務提供契約かどうかです。
| 対象 | 具体例 | |
|---|---|---|
| 前払費用 | 継続的な役務提供契約の、未経過分の前払い | 家賃・保険料・リース料の前払い分 |
| 前払金 | 個別の取引(モノの購入など)の、引き渡し前の前払い | 商品の仕入代金の内金、設備購入の手付金 |
| 未払費用 | 継続的な役務提供契約の、すでに提供を受けた分の未払い | 給与の未払い分、借入金の利息 |
| 未払金 | 個別の取引で、すでに確定した債務の未払い | 備品購入代金、外注費、修繕費の未払い分 |
前払費用・未払費用は「時間の経過とともにサービスが発生する契約」が対象であるのに対し、前払金・未払金は「モノの引き渡しや個別の役務完了という1回限りの事実」が対象という違いです。決算処理でどちらの科目を使うか迷ったときは、この「継続的か、個別取引か」を基準に判断します。
税務上の扱い|法人税は債務確定主義
会計上の未払費用の考え方(発生主義)と、法人税法上の損金算入のルールは、必ずしも同じではありません。法人税法22条3項2号は、販売費・一般管理費その他の費用について、その事業年度終了の日までに債務が確定しているものに限り損金の額に算入すると定めています。これを債務確定主義と呼びます。
国税庁は債務確定の判定基準として、次の3要件をすべて満たすことを求めています(国税庁No.5387「販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定」)。
- 事業年度終了の日までに、その費用に係る債務が成立していること
- 事業年度終了の日までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
- 事業年度終了の日までに、その金額を合理的に算定することができること
給与の未払い分や借入金の利息の未払い分は、契約と経過期間から金額が明確に算定できるため、通常この3要件を満たし、未払費用として損金算入できます。一方、金額の見積りがまだ客観的にできない費用は、たとえ会計上は発生していても、税務上はその事業年度の損金にはできません。
会計上「発生している」ことと、税務上「損金にできる」ことは別の判定です。 未払費用を計上する際は、金額が契約や実績から合理的に算定できるかどうかを確認してください。金額が固まらない見込み費用は、未払費用ではなく引当金の論点になり、税務上の扱いがさらに変わります。
短期前払費用の特例|1年以内なら支払時に経費にできる
前払費用は原則として、支出した時点では資産に計上し、実際にサービスの提供を受けた時点で経費(損金)に振り替えます。ただし、一定の条件を満たす場合は、支払った時点で全額を経費にできる特例があります(国税庁No.5380「短期前払費用として損金算入ができる場合」)。
条件は次の2つです。
- 支払った日から1年以内に提供を受ける役務であること
- 継続して、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入していること
たとえば決算月にオフィスの家賃1年分を前払いした場合、この特例を使えば支払った期の経費として全額計上できます。決算前にまとまった支出をして利益を圧縮したい場合に使われることがある一方、継続適用が条件であるため、今期だけ使って来期はやめる、といった使い方はできません。また、借入金を預金や有価証券などに運用している場合の、その借入金にかかる支払利子のように、収益の計上と対応させる必要がある費用は、この特例の対象から除かれています(国税庁No.5380)。
計上を忘れやすい典型例
一人社長・小規模法人の決算で、計上を見落としやすい未払費用・前払費用の典型例を整理します。
| 科目 | 見落としやすい例 |
|---|---|
| 未払費用 | 決算日直前締めの給与の未払い分、決算月の借入金利息、決算月分の水道光熱費・通信費(検針・請求が翌月になるもの) |
| 前払費用 | 年払いの保険料・会費・サブスクリプション利用料、決算をまたぐリース料、翌期分を含めて前払いした家賃 |
いずれも、決算日の少し前後に支払い・請求が発生する取引に多く見られます。会計ソフトが自動で経過勘定を判定してくれるわけではないため、決算処理の際に「継続的な契約で、決算日をまたいでいるものがないか」を個別に洗い出す作業が必要です。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ登記が完了しておらず、法人として決算を迎え、未払費用・前払費用を計上した経験はまだありません。この記事は企業会計原則と国税庁が公開している一次情報を調べて整理したものであり、自分自身が決算処理として経過勘定の仕訳を切った経験を書いているわけではないことを断っておきます。実際に法人として初めての決算を迎え、未払費用・前払費用の洗い出しを行う段階になったら、実務でつまずいた点や判断の経緯について追記します。
次にやること
まず、自社が結んでいる契約の中に「決算日をまたいで継続するもの」がないかを一覧にしてください。 家賃・保険料・リース料・サブスクリプション利用料は前払費用の候補、給与の締め日と支払日のズレ・借入金の利息・当月分の水道光熱費は未払費用の候補です。候補が見つかったら、それぞれ「継続的な役務提供契約か、個別取引か」を基準に前払金・未払金と区別し、金額を契約書や実績から合理的に算定できるかを確認してください。金額が固まらない場合は、その事業年度の損金にできるかどうかを含めて税理士に確認することをおすすめします。
※本記事は2026年9月5日時点で調査した内容と、筆者個人の状況に基づくものです。未払費用・前払費用の該当有無や税務上の損金算入の可否は、契約内容・支払条件・事業年度の状況によって変わるため、実際の決算処理前に税理士にご確認ください。
出典 - 企業会計原則 注解5「経過勘定項目について」(1949年〈昭和24年〉経済安定本部企業会計制度対策調査会の中間報告として設定。その後大蔵省企業会計審議会が昭和29・38・49・57年に改正。2026年9月5日確認。前払費用・未払費用・未収収益・前受収益の定義、前払費用と前払金の区別を確認。原文の直接参照先が確認できなかったため、複数の税理士事務所・会計解説サイトの引用を突き合わせて確認) - 企業会計原則 損益計算書原則一A(発生主義の原則。2026年9月5日確認。未払費用・未収収益は当期の損益計算に計上し、前払費用・前受収益は当期の損益計算から除去する旨を確認。「一B」は総額主義の原則、「一C」は費用収益対応の原則であり別条項) - No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合|国税庁(2026年9月5日確認。短期前払費用の特例の2要件、収益計上と対応させる必要がある費用が対象外である旨を確認) - No.5387 販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定|国税庁(2026年9月5日確認。債務確定の3要件を確認) - 法人税法22条3項2号(債務確定主義の根拠条文。2026年9月5日確認。国税庁No.5387の解説を通じて条文の適用内容を確認)