役員個人の立替経費の精算方法
- 役員の立替経費を法人の損金にするには、法人税法上の証憑保存(法人税法施行規則59条、青色申告法人は7年間保存)と、消費税の仕入税額控除の要件(消費税法30条、帳簿及び請求書等の保存)の両方を満たす必要がある
- 立替払いの場合、領収書・適格請求書の宛名は役員個人になるため、経費の支払先が会社の取引であることを示す「立替金精算書」の作成と保存が実務上の対応になる(国税庁インボイスQ&A問94「立替金」)
- 精算書には日付・支払先・内容・税率区分ごとの金額・立替者名に加え、インボイス発行事業者からの購入分は登録番号の記載が必要とされる
- 立替を精算せずに残高として放置すると、決算書上「役員借入金」として計上され続け、相続財産化などの別の問題を引き起こす(詳細は関連記事)ため、都度精算(最低でも月1回)が実務上の基本線
この記事の内容
この記事は、会社の経費を役員個人のお金やプライベートのクレジットカードで立て替えることがあり、どう精算すればいいのか型を知りたい一人社長・小規模会社の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、立替払いをしたら「立替金精算書」を作り、そのつど会社から役員へ実費を払い戻すのが基本の型です。領収書の宛名が役員個人になっていても、精算書と原本の保存をセットにすれば、法人の経費として計上でき、消費税の仕入税額控除も受けられます。この記事では、精算書に書く項目と、放置した場合に起きる問題を整理します。
- 会社の経費を自分のカードで払ってしまい、どう会社に請求すればいいか分からない
- 領収書の宛名が自分の名前になっているが、これで法人の経費にできるのか不安
- 立替がたまっていて、精算せずに放置してしまっている
役員の立替経費の答えを先に3行で書きます。
- 事業に使った支出なら、役員が立て替えても会社の経費にできます。私的な支出は経費にできません
- 立て替えた時点では会社の借入(役員借入金)として帳簿に載せ、払い戻した時点で消します
- 払い戻しの前に、立替金精算書と領収書の原本をセットで残します。詳しい手順は「役員の立替経費の手順」の節にまとめました
結論:立替経費は「精算書+原本の保存」で処理する
役員が会社の経費を個人のお金やプライベートカードで立て替えた場合、その都度「立替金精算書」を作成し、記載した金額を会社から役員個人の口座へ振り込む(または現金で払い戻す)のが基本の処理です。立替払いをした時点では、支払い自体は役員個人名義で行われているため、領収書やレシート、適格請求書の宛名も役員個人になります。これをそのまま会社の帳簿に計上すると、「誰が何のために払ったお金か」の対応関係が外から見えなくなります。立替金精算書は、この対応関係を書面で残すための書類で、法人税の経費計上と消費税の仕入税額控除の両方で保存が求められる資料です。
なぜ精算書が必要か:経費として認められる条件
会社の経費として損金に算入するには、まず取引の相手方から受け取った領収書・請求書などの証憑書類を保存している必要があります。青色申告法人は、注文書・契約書・送り状・領収書その他これらに準ずる書類を整理し、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間、納税地に保存することが義務付けられています(法人税法施行規則59条、国税庁No.5930「帳簿書類等の保存期間」)。役員が立て替えた場合も、この保存義務の対象になる証憑書類そのものは変わりません。
もう1つ、消費税の仕入税額控除を受けるための保存要件があります。事業者が課税仕入れに係る消費税額の控除(仕入税額控除)を受けるには、一定の事項を記載した帳簿と、適格請求書等の請求書等の両方を保存する必要があり、保存がない場合は仕入税額控除が適用されません(消費税法30条、国税庁No.6496「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」)。保存期間は、課税期間末日の翌日から2か月経過後7年間です。
立替払いの場合、この請求書等(領収書・適格請求書)の宛名が役員個人になっている点が問題になります。 そのままでは「会社が受け取った請求書等」とは言えないため、国税庁のインボイス制度Q&Aでは、立替払いを行った者(役員)から立替金精算書等の交付を受けることなどによって、経費の支払先が会社の取引であることが明らかにされている場合には、その適格請求書と立替金精算書等をあわせて保存することで、請求書等の保存要件を満たすという取扱いが示されています(国税庁「消費税の仕入税額控除制度に関するQ&A」問94「立替金」)。つまり、領収書の宛名が個人名のままでも、立替金精算書を作ってセットで保存すれば経費計上・仕入税額控除のどちらも成立する、というのが実務上の対応です。
領収書の宛名を毎回「会社名」に書き換えてもらう必要はありません。 立替金精算書を作って原本とセットで保存すれば足ります。ただし、精算書を作らずに個人名の領収書だけを経理に渡す運用は、証憑としての対応関係が説明できなくなるため避けてください。
立替金精算書に書く項目(型)
立替金精算書に決まった様式はありませんが、法人税の証憑としても消費税の仕入税額控除の資料としても使えるようにするには、最低限、次の項目を入れておく必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 精算日・立替日 | 立替を行った年月日、精算書を作成した年月日 |
| 立替者 | 立て替えた役員の氏名 |
| 支払先 | 実際に支払った店舗・事業者名 |
| 取引内容 | 何を購入・利用したか(勘定科目の判断材料) |
| 金額(税率区分ごと) | 標準税率10%・軽減税率8%を分けて記載 |
| 消費税額 | 税率ごとの消費税額 |
| 登録番号 | 支払先が適格請求書発行事業者の場合、その登録番号 |
| 承認 | 承認者(一人社長の場合は自分自身の確認記録でも可) |
このうち「税率区分ごとの金額」「消費税額」「登録番号」は、消費税の仕入税額控除を受けるために立替金精算書へ記載することが必要とされている項目です。日々の買い物のレシートをそのまま経費精算に回すのではなく、精算書という形でいったん情報を集約しておくと、決算時に慌てずに済みます。
インボイス制度で変わったこと:適格請求書と精算書の関係
インボイス制度が始まる前は、立替経費の精算は「実費を払い戻す」という会社と役員個人の間の話でほぼ完結していました。インボイス制度以降は、会社側が仕入税額控除を受けられるかどうかが、立替払いの証憑の残し方にかかってくるようになった点が変化点です。
具体的には、支払先が適格請求書発行事業者であれば、役員個人宛に交付された適格請求書(またはそのコピー)を立替金精算書に添えて保存する必要があります。多数の立替が発生する場合にコピーの添付をどこまで省略できるかなど、細かい運用は取引の実態によって変わるため、件数が多い場合や金額が大きい場合は、精算書の様式を税理士に一度確認してもらうのが安全です。
支払先が適格請求書発行事業者でない(免税事業者などの)場合は、そもそも仕入税額控除の対象になりません。この場合も経費計上自体はできますが、立替金精算書の金額欄で「控除対象外」であることが分かるようにしておくと、決算時の集計が楽になります。
精算のタイミング:放置すると役員借入金になる
立替経費の精算サイクルについて、法令上「月に1回」のような頻度の定めがあるわけではありません(国税庁の公表資料に精算頻度の基準は見当たらない。2026年9月確認)。ただし、都度、遅くとも月に1回はまとめて精算する運用を目安として挙げる会計ソフト事業者の解説があります(頻度の目安は解説によって幅があり、月2回・週次を挙げるものもあります)。精算せずに立替が積み重なっていくと、会社が役員に対して負っている未払いの状態が続くことになり、決算書上は「役員借入金」として計上され続けます。役員借入金そのものが違法というわけではありませんが、返済しないまま役員が亡くなった場合、その貸付金債権は原則として額面どおり相続財産に算入されるなど、別の問題を引き起こします(この点は役員貸付金・役員借入金とはで詳しく整理しています)。
立替経費を都度きちんと精算する運用は、役員借入金を発生させない・膨らませないための一番手前の対策でもあります。精算のサイクルを「月末締め・翌月〇日払い」のように決めておき、経費精算のルールとして固定しておくと、精算漏れも防げます。
よくある立替でつまずく場面
- 交通系ICカードのチャージ: チャージした時点では何に使うか確定しないため、原則としてチャージ時ではなく実際に利用した(乗車した)分だけを経費として精算します。利用履歴のダウンロード等で業務利用分を切り分ける運用が必要です。
- 接待交際費の現金精算: 領収書が個人名義で出た場合も、立替金精算書に相手先・目的・参加人数などを記載しておくと、交際費としての説明がしやすくなります。
- 消耗品・書籍など少額の立替: 少額でも証憑(レシート)は必ず保存し、精算書にまとめて記載します。金額が小さいからといって証憑保存の義務が免除されるわけではありません。
役員の立替経費の手順:認められる範囲と仕訳
経費になる立替と、ならない立替の分かれ目
分かれ目は「事業のための支出か、役員個人の生活のための支出か」です。
- 事業に使ったと説明できるもの(事務用品、打ち合わせの飲食、出張の交通費など): 経費にできます
- 役員個人の生活費、家族の分、私的な旅行・買い物: 経費にできません。会社が払い戻すと、税務上は役員への給与などとして扱われ、問題になる場合があります
- 判断が分かれやすいもの(接待交際費、海外渡航費、健康診断費、ゴルフ・社交団体の入会金など): 使い道と金額の妥当性で扱いが変わります。解説では、海外渡航は業務上の必要性と金額の妥当性、健康診断は全従業員が対象かどうかが判断材料とされています。迷う分は払い戻す前に税理士へ
手順:立替から払い戻しまで
- 支払うときに、領収書・レシートを必ずもらう(宛名が個人名でも構いません)
- 支払った日のうちに、何の目的か(取引先名・用件)をレシートの裏かメモに書く
- 月末など決めた日に、立替金精算書を1枚にまとめる(項目は上の表のとおり)
- 精算書を承認する(一人社長は自分の確認日を記録)
- 会社の口座から役員の口座へ、税込の実費を振り込む。現金で渡さず、振込の記録を残す方が後で説明しやすくなります
- 精算書・領収書の原本・振込記録をまとめて保存する。保存期間は上で書いた7年間です
仕訳の例
上の計算例(税込11,000円の消耗品と、税込5,400円の茶菓子)を使います。勘定科目は会社の運用で変わるため、一例です。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 立て替えた分を計上する | 消耗品費 10,000円・仮払消費税等 1,000円 | 役員借入金 11,000円 |
| 同上(茶菓子) | 会議費など 5,000円・仮払消費税等 400円 | 役員借入金 5,400円 |
| 払い戻したとき | 役員借入金 16,400円 | 普通預金 16,400円 |
立て替えた時点では現金が会社から出ていないので、貸方は「役員借入金」(会社によっては未払金)になります。払い戻した時点で役員借入金が消えて、残高は0円に戻ります。
次に詰まりやすい点:領収書を失くした・宛名も内容もない場合
- 領収書が再発行できるなら、店に再発行を頼みます
- 再発行できないときは、日付・支払先・金額・内容・目的を書いた出金伝票(支払証明)を自分で作り、カード明細や通帳の記録を添えます。経費として説明する材料にはなりますが、適格請求書が無い分は、原則として消費税の仕入税額控除は受けられません(消費税法30条。上で書いたとおり、帳簿と請求書等の両方の保存が要件です)
- 会社にお金が無くて払い戻せないときは、精算書だけ先に作り、役員借入金の残高として帳簿に残します。ただし放置すると前の節のとおり別の問題が出るので、払える月に払い戻します
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、起業準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ自分の会社を設立しておらず、役員として立替経費を実際に精算した経験はありません。この記事は国税庁の公表資料(法人税・消費税の保存要件、インボイス制度Q&A)をもとに整理した実務の型であり、自分が精算書を運用してみて困った点をまとめた体験談ではありません。この点は正直に書いておきます。設立後、実際に立替経費が発生した段階で、運用してみて分かったことを一次情報として別記事にまとめる予定です。
計算例:税率区分ごとの消費税額を出す
立替金精算書に、実際にどう数字を入れるかを1件仮置きして計算します。以下は本文中の税率(標準10%・軽減8%)だけを使った仮の例で、金額・店舗名・登録番号はすべて説明用の仮置きです。
前提: 役員Aが、ある月に次の2件を個人のクレジットカードで立て替えたとします。
| 項目 | 明細1 | 明細2 |
|---|---|---|
| 立替者 | 役員A | 役員A |
| 支払先(仮) | ○○文具店 | ××茶菓店 |
| 取引内容 | 事務用消耗品の購入 | 来客用の茶菓子の購入 |
| 税込金額 | 11,000円 | 5,400円 |
| 税率区分 | 標準税率10% | 軽減税率8% |
| 登録番号(仮) | T1234567890123 | T9876543210987 |
税抜金額と消費税額は、税込金額を「1+税率」で割って出します。
- 明細1(標準10%): 11,000円 ÷ 1.10 = 税抜10,000円、消費税額は 11,000円 − 10,000円 = 1,000円
- 明細2(軽減8%): 5,400円 ÷ 1.08 = 税抜5,000円、消費税額は 5,400円 − 5,000円 = 400円
この2件をまとめると、立替金精算書の合計欄には次のように記載します。
| 区分 | 税抜金額 | 消費税額 | 税込金額 |
|---|---|---|---|
| 標準税率10%対象 | 10,000円 | 1,000円 | 11,000円 |
| 軽減税率8%対象 | 5,000円 | 400円 | 5,400円 |
| 合計 | 15,000円 | 1,400円 | 16,400円 |
この合計税込16,400円を、会社から役員Aの口座へ実費として払い戻します。人数・件数が増えても、明細ごとにこの2行の計算(税込÷1.10または1.08 → 差額が消費税額)を繰り返して積み上げるだけです。
次にやること
まず、直近1〜2か月分で自分が立て替えたままになっている経費(レシート・領収書)が無いかを確認してください。 あれば、支払先・日付・金額・税率区分を書き出して簡単な立替金精算書を1枚作り、会社の口座から実費を払い戻すところまでを一度やってみることが、証憑の保存漏れと役員借入金化の両方を防ぐ一番早い一歩です。
※本記事は2026年9月時点の法人税法・消費税法・国税庁公表資料に基づく整理と、筆者個人の状況に基づくものです。制度は変更されることがあり、また個別の精算書の様式・記載範囲は取引の実態によって判断が変わるため、実際の運用の前には税理士に相談してください。
出典(2026年9月確認) - 法人税法施行規則59条(帳簿書類の整理保存。青色申告法人は取引に関して相手方から受け取った領収書等を含む帳簿書類を保存する義務がある) - 国税庁No.5930「帳簿書類等の保存期間」(確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存を確認、nta.go.jp) - 消費税法30条(仕入れに係る消費税額の控除。同条7項は帳簿及び請求書等の保存がない場合に控除が適用されない旨を規定) - 国税庁No.6496「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」(保存期間は課税期間末日の翌日から2か月経過後7年間であることを確認、nta.go.jp) - 国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(インボイスQ&A)」問94「立替金」(立替払いを行った者から立替金精算書等の交付を受ける等により経費の支払先が明らかにされている場合、適格請求書と立替金精算書等をあわせて保存すれば請求書等の保存要件を満たす旨を確認、nta.go.jp)。このQ&A(平成30年6月公表)は複数回改訂されており、2026年9月確認時点の最新版は令和8年5月(2026年5月)改訂版。 - マネーフォワード クラウド会計「役員の立替経費」解説(経費になる3分類と仕訳例の確認、2026年10月確認、biz.moneyforward.com) - 創業手帳「社長の立替金の処理」解説(役員借入金としての処理、認められるケース・認められないケースの確認、2026年10月確認、sogyotecho.jp)