請求書発行システムの選び方
この記事の内容
請求書発行システムを新しく導入する、またはExcelや紙から乗り換えようとしている個人事業主・中小企業の経理担当者へ。「インボイス対応」とうたうシステムが何十種類もあり、どこを見れば本当に対応できているのか分からない、という悩みに答える。この記事は、契約前に確認すべき機能項目を、法律上の根拠とあわせて示す。
なぜ「インボイス対応」の中身を確認する必要があるのか
2023年10月1日から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)では、買手が仕入税額控除を受けるために、売手が発行する請求書が「適格請求書」の記載要件を満たしている必要がある(消費税法30条9項。国税庁「No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)」)。この要件を満たさない請求書は、取引先の経理処理で差し戻しになったり、控除できないと判断されたりする可能性がある。
「インボイス対応」という表示だけを見て契約すると、実際には登録番号の表示欄があるだけで、税率ごとの区分表示や端数処理のルールまでは自動化されていないシステムに当たることがある。何を確認すればいいかを先に知っておくと、契約後に手作業での修正が残ってしまう事態を避けやすい。
適格請求書に必須の記載事項は何か
消費税法30条9項一号・57条の4第1項、国税庁「No.6625 適格請求書等の記載事項」によると、適格請求書には次の6項目の記載が必要とされている。
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 発行事業者の氏名・名称及び登録番号 | 会社名または個人事業主の氏名と、「T」から始まる13桁の適格請求書発行事業者番号(国税庁「適格請求書発行事業者公表サイト」) |
| 取引年月日 | 取引が発生した日付 |
| 取引内容 | 何を販売・提供したか。軽減税率対象品目であればその旨も記載 |
| 税率ごとに区分した対価の額・適用税率 | 8%対象分と10%対象分を分けて合計した金額と、それぞれの税率 |
| 税率ごとに区分した消費税額等 | 8%分・10%分それぞれの消費税額 |
| 交付を受ける事業者の氏名・名称 | 請求書の宛先(取引先名) |
このうち、システムの機能として特に差が出やすいのが「税率ごとの区分」と「消費税額の端数処理」の2つだ。
システム選定で確認すべき機能は何か
見た目のテンプレートではなく、次の機能があるかどうかで判断する。
| 確認項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 登録番号の自動表示 | 毎回手入力すると入力漏れ・誤入力のリスクが残る |
| 税率ごとの自動区分(8%・10%) | 混在する取引で対価と消費税額を分けて表示できるか |
| 消費税額の端数処理ルール | 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」で、1つの適格請求書につき税率ごとに1回の端数処理を行うとされている。品目ごとに端数処理をしてから合算する方式は認められない |
| 電子取引データの保存機能 | 電子帳簿保存法(電帳法)に沿った検索・保存ができるか(次の見出しで扱う) |
| 会計ソフトとの連携 | 発行した請求書データを会計・記帳側に手入力せずに反映できるか |
| 控え(写し)の保存期間 | 発行した請求書の控えを7年間保存できる仕組みがあるか(法人税法・消費税法上の帳簿書類の保存期間に合わせる) |
比較表を作る際は、この6項目を軸に候補システムを並べると、価格やデザインだけで選んでしまうことを避けやすい。
電子帳簿保存法にも対応しているか
請求書発行システムを使ってPDFなどの電子データで請求書を発行・授受する場合、その請求書データは電子帳簿保存法(電帳法)の「電子取引」の保存要件の対象になる。主な要件は次の2つに整理できる(国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」)。
- 真実性の確保:訂正・削除の履歴が残る、またはタイムスタンプが付与される仕組みがあるか
- 可視性の確保:取引年月日・取引金額・取引先名で検索できる状態になっているか
システム側でこれらを満たす保存機能を持っているか、それとも発行機能だけで保存は別途自社で対応する必要があるかは、サービスによって差がある。「発行はできるが保存要件は自己責任」というシステムもあるため、契約前に保存機能の有無を分けて確認する必要がある。
計算例:手作業とシステム導入の時間差を試算する
条件を1つ仮置きして、実際の時間と金額まで出す。以下は仮の数字であり、実際の作業時間は取引内容・請求書の枚数・担当者の慣れによって変わる。
前提: - 月間の請求書発行枚数:30枚 - 手作業(Excel等)での1枚あたりの作業時間:登録番号の転記・税率区分・端数処理の確認を含め15分 - システム導入後の1枚あたりの作業時間:内容入力のみで3分(登録番号・税率区分・端数処理は自動) - 作業者の時間単価:2,500円(経理担当の人件費換算)
手作業の場合: 30枚 × 15分 = 450分(7.5時間) → 7.5時間 × 2,500円 = 18,750円/月
システム導入後: 30枚 × 3分 = 90分(1.5時間) → 1.5時間 × 2,500円 = 3,750円/月
差額は18,750円 − 3,750円 = 15,000円/月。年間では15,000円 × 12か月 = 180,000円の作業時間削減になる計算だ。ここにシステムの月額利用料(サービスによって幅があるため契約前に見積もりを取る)を差し引いて、導入の採算を判断する。
文例:ベンダーへのインボイス対応状況の確認
契約前に、営業資料の「インボイス対応」表示だけで判断せず、具体的な機能を問い合わせる。
件名:貴社請求書発行システムのインボイス制度対応について
○○株式会社 ご担当者様
貴社の請求書発行システムの導入を検討しております。
契約前に、以下の点について教えていただけますでしょうか。
1. 登録番号(適格請求書発行事業者番号)は自動で請求書に反映されますか
2. 税率ごと(8%・10%)の対価の額・消費税額の区分表示は自動計算されますか
3. 消費税額の端数処理は、税率ごとに1回で処理される仕様ですか
4. 電子帳簿保存法の「電子取引」データ保存要件(真実性・可視性の確保)に
対応した保存機能はシステム内に含まれますか、別契約が必要ですか
5. 発行した請求書の控えは何年間保存されますか
お手数をおかけしますが、ご回答いただけますと幸いです。
○○株式会社
経理担当 ○○
メール:○○○@○○○.com
チェックリスト:契約前に確認すること
- □ 適格請求書の6つの記載事項(発行事業者名及び登録番号・取引年月日・取引内容・税率ごとの対価と税率・税率ごとの消費税額・交付先名)がすべて表示されるか確認した
- □ 消費税額の端数処理が「税率ごとに1回」で行われる仕様か確認した
- □ 電子帳簿保存法の保存要件(真実性・可視性の確保)にシステム単体で対応しているか、別途対応が必要かを確認した
- □ 会計ソフトとの連携方法(自動連携かCSV出力か)を確認した
- □ 発行した請求書の控えの保存期間が7年程度に対応しているかを確認した
- □ 月額料金・発行枚数の上限・追加費用の条件を見積もりで確認した
次にやること
まず現在候補にしているシステムに、上の文例をもとに5つの質問を送る。登録番号の自動反映と税率ごとの端数処理の仕様、この2点への回答があいまいなシステムは、契約前にもう一段階確認する。