経費精算アプリは一人社長に要るか
この記事の内容
従業員がいない、または自分しかいない会社の社長で、「経費精算アプリ」を導入すべきか、Excelや会計ソフトへの手入力で済ませるべきか迷っている人へ。この記事は、経費精算アプリが本来解決する課題は何かを分解し、一人社長にはどこから先が不要になるのかの境目を示す。
経費精算アプリ・会計ソフトの経費機能・手入力は何が違うか
同じ「レシートを記録に残す」作業でも、3つの手段は前提にしている使う人数が違う。
| 手段 | 中心機能 | 承認フロー | 電子帳簿保存法への対応 |
|---|---|---|---|
| 経費精算アプリ(楽楽精算など専用ツール) | 申請・承認・経理反映のワークフロー | あり(申請者と承認者を分ける前提) | 対応(専用機能を持つ製品が多い) |
| 会計ソフトの経費機能(freee会計・マネーフォワードクラウド会計など) | レシート撮影による自動読み取り・仕訳 | 基本プランはなし。上位プランには複数承認者を設定できる申請経路機能がある製品もある(freee会計はアドバンスプラン以上。freeeヘルプセンター「経費などの申請経路を設定する」より。※2026年9月時点確認) | 対応(会計ソフト側の保存機能を利用) |
| 手入力(Excel・紙の台帳) | 自分で科目・金額を転記 | なし | 別途対応が必要(保存要件は自分で満たす) |
専用の経費精算アプリが解決している課題は、突き詰めると「申請する人」と「承認する人」が別にいて、その間のやり取りを紙やメールでやると時間がかかる、という問題だ。一人社長はこの申請者と承認者が同一人物なので、この機能の効果がそのまま出にくい。
一人社長に「承認フロー」はどこまで要るか
承認フローが要るかどうかは、会社の人数構成で決まる。
- 従業員が自分一人だけの会社:申請しても承認する相手が自分自身になるため、ワークフロー機能の価値はほぼ発生しない
- 家族を役員・従業員にしている会社:提出と確認を分けたい場面が出てくるため、簡易な確認機能があると記録が残る
- 今後人を雇う予定がある会社:入れる基準が変わるのは「人を雇ったとき」であって「設立したとき」ではない。先回りして導入する必要はない
つまり、経費精算アプリを検討する動機として一般に語られる「承認の手間を減らす」というメリットは、承認する相手がいない一人社長にはそのまま当てはまらない。
手入力で足りるかを分ける3つの目安
承認フロー以外で見るべきなのは、次の3点だ。
| 目安 | 手入力で足りる目安 | 専用アプリ・会計ソフトの機能が効く目安 |
|---|---|---|
| 月のレシート・領収書の枚数 | 少ない(目安として月10枚程度まで) | 多い(出張・仕入れなどで月30枚を超える) |
| 交通系ICカードやクレジットカードの明細連携 | 使う決済手段が少なく、都度手で転記しても負担が小さい | 決済手段が複数あり、明細を自動で取り込みたい |
| 電子帳簿保存法のスキャナ保存要件を自分で満たせるか | 満たせる(次の見出しの要件を自分で運用できる) | 満たすシステムに任せたい |
枚数や決済手段の多さは会社によって差があるため、「何枚から専用アプリが要る」という一律の基準は無い。自分の月間の枚数と決済手段の数を数え、上の表のどちら側に近いかで判断する。
電子帳簿保存法はアプリを使っても手入力でも避けられない
どの手段を選んでも、免除されない法律上の義務が2つある。
1つ目は、電子取引データの保存義務だ。国税庁によると、2024年1月1日以降に授受した電子的な請求書・領収書等のデータは、紙に印刷して保存するのではなく、電子データのまま保存することが原則としてすべての事業者に義務づけられている(電子帳簿保存法)。ネットショップの領収書やPDFで受け取った請求書がこれに該当する。
2つ目は、紙で受け取ったレシートをスキャンして電子保存する場合(スキャナ保存)の要件だ。国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」によると、原則としてタイムスタンプの付与が必要だが、2022年1月1日以降にスキャナ保存を行う場合は、訂正・削除の履歴が残るシステム(そもそも訂正・削除ができないシステムを含む)を使い、入力期間内に保存したことが確認できれば、タイムスタンプの付与に代えることができるとされている。
会計ソフトや専用アプリの多くはこの訂正削除履歴の機能を持たせて要件を満たしているが、Excelや紙の台帳による手入力の場合は、この要件を自分で満たす仕組みを別に用意する必要がある(要件を満たせないまま紙のレシートを廃棄すると、保存義務を果たしていないことになる)。
さらに、帳簿書類そのものの保存期間にも法律の定めがある。国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」および法人税法施行規則59条等によると、帳簿書類は原則として7年間の保存が必要で、起算日は確定申告書の提出期限(通常は事業年度終了日の翌日から2か月を経過した日)の翌日とされる。青色申告法人で欠損金が生じた事業年度など一定の場合は10年に延長される。手入力で運用する場合も、この保存期間は同じようにかかる。
計算例:月のレシート枚数別に手入力とアプリ導入の時間差を試算する
条件を仮置きし、実際の時間まで出す。以下は仮の数字であり、実際の作業時間は取引内容や入力に慣れているかで変わる。
前提: - 手入力(Excel+会計ソフトへの転記)での1枚あたりの作業時間:科目判断・金額転記・保存を含め5分 - 会計ソフトのレシート撮影機能を使った場合の1枚あたりの作業時間:撮影と科目確認のみで1.5分 - 作業者の時間単価:2,500円(自分の時間を人件費換算)
月10枚の場合: - 手入力:10枚 × 5分 = 50分 → 約2,083円 - 撮影機能あり:10枚 × 1.5分 = 15分 → 625円 - 差額は約1,458円/月。年間では約17,500円
月30枚の場合: - 手入力:30枚 × 5分 = 150分(2.5時間) → 6,250円 - 撮影機能あり:30枚 × 1.5分 = 45分 → 1,875円 - 差額は4,375円/月。年間では52,500円
枚数が少ないうちは差額が小さく、会計ソフトの月額料金(freee会計・マネーフォワードクラウド会計など、経費精算専用ではなく会計ソフト本体の一機能として提供されることが多い。※2026年9月時点の一般的な傾向で、具体的な料金は各社の公式サイトで確認する)を考えると、手入力のままでも採算が合う場合がある。枚数が増えるほど、撮影・自動読み取り機能を使う側の時間削減効果が大きくなる。
なお、複数人の承認フローまで含む専用の経費精算アプリ(楽楽精算など)は、初期費用と月額費用が別建てで、月額は利用人数に応じた従量制になっている製品が多い(2026年9月時点の公式サイト調査。金額は製品・契約条件によって幅があるため契約前に見積もりを取る)。承認フローを使わない一人社長がこの種の専用アプリを選ぶと、使わない機能の分だけ料金が割高になりやすい。
チェックリスト:導入前に確認すること
- □ 会社の従業員(役員含む)が自分一人だけか、承認フローを分けたい相手がいるかを確認した
- □ 直近1〜3か月のレシート・領収書の平均枚数を数えた
- □ 使っている決済手段(現金・法人カード・交通系ICカードなど)の数を数えた
- □ すでに使っている、または使う予定の会計ソフトに、レシート撮影・自動読み取り機能が含まれているかを確認した
- □ 電子取引データ(PDF請求書・ネット領収書等)を電子データのまま保存する運用になっているかを確認した
- □ 紙のレシートをスキャン保存する場合、訂正・削除履歴が残るシステムを使うか、タイムスタンプを別途付与する運用かを決めた
- □ 帳簿書類の保存期間(原則7年、欠損金がある場合等は10年)を踏まえた保存場所を用意した
次にやること
まず直近1か月分のレシート・領収書の枚数を実際に数える。月10枚程度までなら、今使っている(または導入予定の)会計ソフトの撮影・自動読み取り機能と手入力の組み合わせで足り、承認フローを持つ専用の経費精算アプリを別に契約する必要は薄い。