法人のNDAの最低限
この記事の内容
商談前に取引先から「先にNDAを」と言われた、あるいは自分から結ぼうとしているが、弁護士に頼む前に自分でひな形を作りたいと考えている法人担当者へ。この記事は、自分でNDA(秘密保持契約書)を作る場合に、最低限入れておくべき条項と、抜けると起きる具体的な不利益を示す。
NDAに最低限入れる条項は何個か
自分で作る場合、次の8条項が抜けていると、後で「言った言わない」の争いになるか、秘密情報を守れない契約になる。
| 条項 | 抜けるとどうなるか |
|---|---|
| 目的(何のためにやり取りする情報か) | 情報を渡す範囲の歯止めが無くなる |
| 秘密情報の定義 | 何が秘密情報か争いになった時に立証できない |
| 目的外使用の禁止 | 渡した情報を別の商談・自社製品開発に転用されても止められない |
| 第三者開示の禁止 | 取引先の別会社・下請けに情報が渡っても契約違反に問えない |
| 例外事項 | 元から公知の情報まで秘密保持の対象になり、相手の通常業務を縛ってしまう |
| 有効期間・秘密保持期間 | 契約終了後に情報が野放しになる、または逆に無期限で自社が縛られる |
| 返還・破棄義務 | 契約終了後も相手の手元に資料が残り続ける |
| 損害賠償・管轄裁判所 | 違反が起きた時に、どの裁判所で何を請求できるか決まっていない |
NDAは民法上の典型契約ではなく、契約自由の原則(民法521条)に基づいて当事者が内容を決める契約である。決めなかった事項は民法の一般規定(債務不履行は415条、消滅時効は166条)で処理されるため、上の8項目のうち特に「秘密情報の定義」「例外事項」「期間」は、書かないと不利な形で残る。
秘密情報の定義はどう書くか
書き方は大きく2通りある。
- 包括定義: 「本契約に関連して開示された一切の情報を秘密情報とする」。抜け漏れが無い一方、相手からは「渡した情報が全部縛られる」と警戒され、交渉で嫌がられることがある
- 限定列挙+ラベル方式: 「書面は『秘密』と明記したもの、口頭は開示後◯日以内に書面で秘密である旨を通知したものに限る」。範囲は明確だが、ラベル付けを忘れると保護対象から漏れる
自分で作る場合は、包括定義を基本にしつつ、例外事項(次項)で公知の情報を明確に外す形が、運用の手間が少ない。
目的外使用・第三者開示の禁止はどう書くか(文例)
次の2条は、契約書の本体として両方とも入れておく。片方だけでは、情報を転用はされないが漏らされる、あるいはその逆が起き得る。
第◯条(目的外使用の禁止)
甲及び乙は、相手方から開示された秘密情報を、本契約第◯条に定める目的のためにのみ使用し、
事前に相手方の書面による承諾を得ない限り、その他の目的に使用してはならない。
第◯条(第三者への開示禁止)
甲及び乙は、相手方から開示された秘密情報を、事前に相手方の書面による承諾を得ない限り、
第三者(自己の役員・従業員を除く)に開示又は漏洩してはならない。
自己の役員・従業員に開示する場合は、本契約と同等の秘密保持義務を課すものとする。
「自己の役員・従業員を除く」を書き忘れると、社内共有すら契約違反になりかねない一方、「本契約と同等の秘密保持義務を課す」を書き忘れると、社員が退職後に情報を持ち出しても契約上は縛れない。
例外事項を外すとどうなるか
次の4つは、秘密保持義務の対象から外すのが一般的な書き方である。
- 開示を受けた時点で既に公知だった情報
- 開示後、自己の責によらず公知となった情報
- 開示を受けた時点で既に自ら保有していた情報
- 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに取得した情報
この4つを書かずに包括定義だけにすると、相手は「業界で誰でも知っている情報まで縛られる」と感じ、契約自体を渋られる原因になる。逆に自社が情報を受け取る側なら、この4つが無いと「元々知っていた」という抗弁ができなくなる。
有効期間・秘密保持期間は何年にするか
契約の有効期間(情報をやり取りしてよい期間)と、秘密保持義務の存続期間(契約終了後も秘密を守る義務が続く期間)は分けて書く。
| 項目 | 実務でよく見る書き方 |
|---|---|
| 契約の有効期間 | 技術情報など陳腐化しやすい情報では2〜5年、契約期間を1年と定めて自動更新する例もある |
| 秘密保持義務の存続期間 | 契約終了後1〜5年程度で定める例が多く、重要度の高い情報では無期限とする例もある |
この年数に法律上の定めは無い。経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(令和6年2月改訂版)のひな形でも、有効期間の条文は「本契約の有効期限は、本契約の締結日から起算し、満○年間とする」と年数が空欄のままになっており、公的な基準は存在しない(2026年9月確認)。実務では業界・情報の性質に応じて当事者間の交渉で決めており、技術情報・製造ノウハウなど陳腐化しにくい情報を扱う場合は、存続期間を無期限とする契約例もある。
返還・破棄義務、損害賠償・管轄裁判所はどう書くか
- 返還・破棄義務: 契約終了時または相手方の請求があった時に、書面・データを返還または破棄し、破棄した場合は証明書の提出を求める条項を入れる
- 損害賠償: 秘密保持義務違反があった場合、民法415条の債務不履行に基づき損害賠償を請求できる。NDAに損害賠償の条項が無くても請求自体はできるが、違約金額を契約書に定めておくと、実際の損害額の立証負担が下がる
- 管轄裁判所: 「本契約に関する紛争については、◯◯地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」と明記する。書かないと民事訴訟法4条の規定(被告の住所地等が管轄の基準になる)に従うため、遠方の裁判所で争うことになる場合がある
自分で作ったNDAの最終確認チェックリスト
送付する前に、次を1つずつ確かめる。
- □ 目的の条文に、今回の商談・提携の具体的な内容が書いてあるか
- □ 秘密情報の定義と、例外事項(公知情報等の4項目)の両方があるか
- □ 目的外使用の禁止と、第三者開示の禁止が別々の条文になっているか
- □ 自社の役員・従業員への開示と、同等の秘密保持義務を課す旨が書いてあるか
- □ 契約の有効期間と、秘密保持義務の存続期間が別に書いてあるか
- □ 返還・破棄義務の条文があるか
- □ 管轄裁判所が明記されているか
- □ 会社名・代表者名・押印欄に誤りが無いか
自分で作ってよい場面と、弁護士に確認したほうがよい場面はどう分けるか
すべてのNDAを弁護士に依頼する必要はない。ただし、次のような場合は自分で作った条文をそのまま使わず、専門家の確認を挟んだほうが安全である。
| 場面 | 判断の目安 |
|---|---|
| 一般的な商談・見積もり前の情報交換 | 自分で作った条文で進めてよい場合が多い |
| 特許出願前の技術情報・製造ノウハウのやり取り | 定義・例外事項の書き方一つで権利化に影響し得るため専門家に確認する |
| 相手企業が独自のNDAひな形を提示してきた場合 | 相手の条文をそのまま受け入れず、上の8項目が入っているか照らして確認する |
| M&A・資本提携など金額の大きい取引 | 秘密情報の範囲が広く損害額も大きくなりやすいため専門家に確認する |
相手から提示されたNDAに署名する場合も、この記事の8項目がどう書かれているかを照らし合わせて読むと、自社に不利な条文(例外事項が無い、存続期間が無期限で片務的、など)に気づきやすい。
次にやること
自分で作ったNDAは、送付・署名の前に上のチェックリストで8項目を1つずつ確認する。