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士業の法人化

この記事の内容
  1. 結論:資格者だけに認められた仕事は、株式会社では受けられない
  2. 「会社にすれば全部移せる」と思っていた人へ
  3. 士業法人は「資格者だけで作る会社」だ
  4. 士業法人でも、できない仕事や条件つきの仕事がある
  5. 株式会社に置ける仕事と置けない仕事
  6. 計算例:売上のうち、株式会社に置けるのはどれくらいか
  7. チェックリスト:法人の形を決める前に、契約を仕分けする
  8. 次にやること

税理士・行政書士・司法書士・社会保険労務士・弁護士として個人で開業していて、法人にするとき、いちばん最初に止まるのが「株式会社にしても、いまの仕事を全部そこで受けられるのか」という点だ。この記事は、その線引きを条文で整理する。株式会社で受けられない仕事、士業法人でも条件がつく仕事、株式会社に置ける仕事を分け、最後に、自分の契約を仕分けするチェックリストを付けた。

結論:資格者だけに認められた仕事は、株式会社では受けられない

士業の法律は、それぞれ「資格者(または士業法人)でない者は、この仕事をしてはいけない」と書いている。株式会社は資格者ではないので、この仕事を会社の名前で受けて報酬を得ることはできない。

士業 資格者以外を禁じる条文 法人の呼び名
税理士 税理士法52条 税理士法人
行政書士 行政書士法19条 行政書士法人
司法書士 司法書士法73条 司法書士法人
社会保険労務士 社会保険労務士法27条 社会保険労務士法人
弁護士 弁護士法72条 弁護士法人

(e-Gov法令検索、2026年9月21日確認。条文の対象は、税理士は税務代理・税務書類の作成・税務相談、行政書士は官公署に提出する書類などの作成、司法書士は登記・供託の手続の代理などの業務、社労士は労働・社会保険の手続書類などの作成、弁護士は法律事件の代理・鑑定などの法律事務)

つまり、株式会社を作っても、税務申告の代理や許認可の申請書類づくりといった中心の仕事は、株式会社の売上にはできない。この仕事は、個人のまま続けるか、士業法人に置くことになる。

「会社にすれば全部移せる」と思っていた人へ

ここで肩を落とす人は多いと思う。会社にすれば、売上も経費も一つの箱にまとまって、名刺の見た目も整うはずだった、という期待があるからだ。

ただ、この線は、始めてから顧客に指摘されるよりも、始める前に分かるほうがずっといい。線を知ったうえで作り分ければ、個人・士業法人・株式会社のそれぞれに、置けるものがある。以下、その置き場所を順に見る。

士業法人は「資格者だけで作る会社」だ

士業の法律には、税理士法人、行政書士法人などの制度が、それぞれ用意されている。株式会社との違いは、大きく4つある。

項目 士業法人の決まり
社員になれる人 資格者だけ(税理士法48条の4、弁護士法30条の4、行政書士法13条の5、司法書士法28条、社会保険労務士法25条の8)
社員の人数 税理士法人は、社員が1人になって6か月間2人以上にならなければ解散する(税理士法48条の18第2項)。弁護士法人・行政書士法人・司法書士法人・社会保険労務士法人の解散の理由には、社員が1人になったことは載っておらず、社員がいなくなったとき(社員の欠亡)が理由になっている
責任 法人の財産で債務を完済できないとき、各社員が連帯して弁済の責任を負う(社会保険労務士法25条の15の3、司法書士法38条、弁護士法の法人の章に同様の定め)
個人の事務所 税理士は、法人の社員になると税理士業務を行う個人の事務所を設けられない(税理士法40条4項)。社会保険労務士も同様(社会保険労務士法18条)

(すべてe-Gov法令検索、2026年9月21日確認)

株式会社の出資者は、出したお金の範囲でしか責任を負わない。士業法人の社員は違う。会社の財産で足りない分を、社員が連帯して負う。共同で法人を作るなら、相手が抱えた案件の責任を自分も負うことになる。ここは、組む前に相手と話しておくところだ。

ただし、司法書士法人・弁護士法人には、簡易裁判所の代理や指定事件のように、責任を負う社員が特定の社員に限られる場合の例外がある(司法書士法38条、弁護士法の法人の章)。例外の範囲は条文で確かめる。

士業法人でも、できない仕事や条件つきの仕事がある

「士業法人にすれば、個人でやっていた仕事は全部できる」とも限らない。次の3つは、条文に書いてある。

士業法人 仕事 条件
行政書士法人 許認可などに関する審査請求の代理 社員のうちに特定行政書士がいる法人に限る(行政書士法1条の4第1項2号・2項、13条の6)
司法書士法人 簡裁訴訟代理等関係業務 社員のうちに、法律で定める要件を満たした司法書士(司法書士法3条2項に規定する司法書士)がいる法人に限る(司法書士法29条)
弁護士法人 裁判所での事件の代理など 法人が受けたうえで、社員や所属の弁護士の中から代理人などを選ぶ形になる(弁護士法30条の6)

もう一つ、税理士法人と弁護士法人は、本来の仕事のほかに行える仕事を「定款で定めるところにより」と書いている(税理士法48条の5、弁護士法30条の5)。定款に書いていない仕事は、法人の仕事にならない。

法人を作るときは、いまの契約をどの箱に入れるかだけでなく、定款にどの仕事を書くかも、この時点で考えておくことになる。

株式会社に置ける仕事と置けない仕事

株式会社が受けられないのは、上の表の条文で「資格者だけ」とされている仕事だ。それ以外の仕事は、条文では資格者に限られていない。

仕事の例 株式会社で受けてよいか 理由
税務代理・税務書類の作成・税務相談 受けられない 税理士法2条1項・52条
官公署に提出する書類の作成 受けられない 行政書士法1条の3・19条
登記の申請などの代理 受けられない 司法書士法73条
社会保険・労働保険の手続書類の作成 受けられない 社会保険労務士法27条
法律事件の代理・鑑定 受けられない 弁護士法72条
会計帳簿の記帳の代行 線引きが要る 税理士法2条2項は「税理士業務に付随して」行うものとして記帳代行を書いている。税理士業務(2条1項)そのものとは別の項に置かれている
セミナー、教材の販売、業務ソフトの案内 条文では資格者に限られていない 上の表の条文に、これらの仕事は挙がっていない

記帳代行の行は、ここだけ「線引きが要る」としたのには理由がある。条文の作りでは、記帳代行は税務代理・税務書類の作成・税務相談とは別の項に書かれている。ただ、記帳代行を頼んできた顧客に、その場で税金の計算について答えると、税務相談にあたる恐れがある(税理士法2条1項3号)。株式会社で受けるなら、答えていい範囲と答えてはいけない範囲を、自分で分けておく必要がある。

また、この表は一般的な整理だ。個別の契約が資格者だけの仕事にあたるかは、所属する税理士会・行政書士会・司法書士会・社会保険労務士会・弁護士会などに、契約の中身を見せて聞くのが確実だ。この記事は、5つの士業の条文だけを確認した。ほかの士業(弁理士、公認会計士、土地家屋調査士など)は確認していない。

弁護士には、もう一つ手続がある。自分で営利を目的とする業務を営もうとするときや、営利を目的とする会社の取締役などになろうとするときは、あらかじめ所属の弁護士会に届け出る(弁護士法30条1項)。株式会社を作って役員になるなら、この届出が要る。

計算例:売上のうち、株式会社に置けるのはどれくらいか

線引きを数字にしてみる。税理士の仮の例で、売上の中身から数える。

前提(すべて仮置き):

  • 年間の売上は2,400万円
  • 中身は、顧問契約(申告書の作成・税務相談を含む)1,600万円、記帳代行だけの契約400万円、セミナー・教材の売上400万円
  • 記帳代行だけの契約は、税務相談にあたる回答をしない線引きができる場合に限り、株式会社に置けると仮定する
契約の種類 売上 置き場所
顧問契約(申告書の作成・税務相談を含む) 1,600万円 個人または税理士法人
記帳代行だけの契約 400万円 線引きの結果しだい(株式会社に置ける場合と、置けない場合がある)
セミナー・教材 400万円 株式会社に置ける

計算:

  • 株式会社に置けるのが確実な売上は、400万円 ÷ 2,400万円 = 約16.7%
  • 記帳代行を含めた最大は、(400万円 + 400万円)÷ 2,400万円 = 約33.3%
  • 残りの1,600万円(約66.7%)は、株式会社にしても、個人か税理士法人のまま

この仮の例では、「法人にすれば売上が全部移る」という前提は成り立たない。移せるのは、多くて3分の1だ。実際の比率は人によって大きく違うので、自分の契約で同じ表を作ってみるのが早い。

チェックリスト:法人の形を決める前に、契約を仕分けする

□ 直近1年の売上を、顧客の名前ではなく「仕事の中身」ごとに書き出した □ それぞれの仕事が、自分の士業法の条文で資格者だけとされている作業を含むか確かめた □ 資格者だけの作業を含む契約に「個人または士業法人」と印を付けた □ 含まない契約は、所属する士業会の窓口に、契約の中身を見せて株式会社が受けてよいか聞く予定にした □ 記帳代行など線引きが要る契約は、答えてよい範囲と答えてはいけない範囲を文章にした(税理士の場合) □ 士業法人にするなら、社員になる人が全員資格者かを確かめた □ 士業法人の社員が連帯して責任を負うことを、組む相手と話した □ 税理士・社労士の場合、社員になると個人の事務所は設けられないので、個人事務所を閉じる時期を決めた □ 弁護士の場合、株式会社の役員になる前に、所属の弁護士会に届出が要るか確かめた

すべてを一度に埋めなくていい。まず1つ目と2つ目だけ、今日やる。契約書と請求書の一覧があれば、その場でできる。

次にやること

直近1年の契約を1枚に書き出して、自分の士業法の条文で資格者だけとされている作業を含むものに、印を付ける。印の付かなかった契約が、株式会社に置く候補になる。


出どころ(すべてe-Gov法令検索、2026年9月21日確認):

  • 税理士法(2条、40条、48条の2〜48条の5、48条の18、52条)https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237
  • 弁護士法(30条、30条の2、30条の4〜30条の6、72条)https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205
  • 行政書士法(1条の3、1条の4、13条の3〜13条の6、13条の19、19条)https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000004
  • 司法書士法(28条、29条、38条、44条、73条)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
  • 社会保険労務士法(18条、25条の8、25条の15の3、25条の22、27条)https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC1000000089

この記事に、筆者本人の実体験はない。調査した範囲の内容を整理したものである。個別の契約が資格者だけの仕事にあたるかどうかは、事情によって変わるので、実際の判断は所属の士業会、または弁護士・税理士などの専門家にご確認ください。

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

この記事の作り方: 下書きにAIを使い、法令の条文と官公庁の公式ページに照らして事実確認したうえで公開しています。確認の取れない記述が残る記事は公開せず、一次資料が見つからない箇所は本文にそう書いています。確認の手順を見る →

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