資本金はいくらにするか
- 2006年施行の会社法により最低資本金制度が撤廃され、株式会社・合同会社とも資本金1円から設立できる(会社法、J-Net21)
- 資本金1,000万円未満の新設法人は、設立第1期・第2期は原則として消費税の納税義務が免除される(消費税法12条の2第1項、国税庁)
- 資本金1,000万円以下・従業員50人以下の法人にかかる法人住民税の均等割は、東京23区の場合で年7万円が標準(地方税法、鮎澤パートナーズ)
- 日本政策金融公庫は2024年4月1日から、新規開業資金における自己資金要件(融資額の10分の1以上)を撤廃した(日本政策金融公庫)
この記事の内容
この記事は、会社設立の準備を進めていて、資本金をいくらにすればいいのか決めかねている一人起業の人に向けて書いています。 結論から言うと、資本金は法律上1円でも設立できますが、実務では避けたほうがよく、目安は「当面の運転資金」と「消費税が免税になる1,000万円未満」の2つを軸に決めるのが無難です。以下、1円設立ができる理由、それでもやめた理由、資本金額が関わる税務の分岐点の順に整理します。
- 資本金は1円からでも会社が作れると聞いたが、本当にそれでいいのか不安
- 資本金を多くすると税金が増えると聞いたことがあり、どのくらいが適正なのか分からない
- 自分のような一人起業の場合、何を基準に金額を決めればいいのか判断材料がない
結論:1円は「できる」が、選ばない
資本金1円での会社設立は、法律上まったく問題なくできます。ただし「できる」ことと「やっていい」ことは別です。運転資金・対外的信用・融資審査の3つの実務上の理由から、1円という選択は避けたほうが無難というのがこの記事の結論です。上げすぎるのも良くなく、消費税が免税になる「1,000万円未満」というラインを意識して決めるのが、多くの一人起業にとって現実的な目安になります。
資本金は「会社の体力」を数字で表したものです。 高ければいいわけでも、低ければ節税になるわけでもありません。当面の運転資金として使える額と、税務上の分岐点の両方から逆算して決める性質のものです。
資本金の下限は2006年に撤廃されている
そもそもなぜ「1円設立」という言葉が存在するのか。2006年5月施行の会社法により、それまであった最低資本金制度(旧有限会社300万円、旧株式会社1,000万円)が撤廃されたためです(J-Net21「新会社法って何ですか?」)。この改正以降、株式会社・合同会社のいずれも、資本金1円から設立の登記自体は可能になっています。
改正前は、資本金1円で株式会社を作る場合、設立後5年以内に最低資本金まで増資するという条件付きでした。 このハードルが起業のしにくさの一因になっていたことが、制度撤廃の背景です。裏を返せば、現在1円設立を止める法律上の制約は無く、止める理由はすべて実務上の判断ということになります。
1円をやめた理由1:初期費用を資本金から払えない
資本金は、会社が事業を始めるための元手です。登記の登録免許税、印鑑や備品の購入費、当面の通信費や交通費など、設立直後にかかる出費を資本金の口座から支払うのが基本の流れになります。
資本金が1円しかなければ、初期費用は最初から自分の個人資金を追加で会社に入れる(貸付金として処理する等)ことになり、会社の口座は実質的に開設直後から赤字扱いになります。運転資金として機能しない金額を資本金に設定する意味は薄く、最低でも当面3〜6か月分の固定費をまかなえる額を目安にするのが実務上の考え方です。「3〜6か月分」という月数を裏付ける公的機関の統一基準は見つかりませんでした。日本政策金融公庫の創業融資の記入例解説や創業支援業者の記事では「月商3か月分」を基準にしつつ、業種の入金サイクルによって3〜6か月分まで幅を持たせる考え方が共通して紹介されています。以下はこの民間の目安に沿った数字です。
1円をやめた理由2:対外的な信用に響く
資本金の額は登記簿(履歴事項全部証明書)に記載され、誰でも取得できる公開情報です。信用調査会社や取引先は、この金額を会社の体力を測る材料の一つとして見ます。
資本金1円という数字は、法律上は何の問題もなくても、初めて取引する相手に「本気度」を疑われる材料になりかねません。 特にBtoBで法人相手に取引する予定がある場合、資本金額が与信枠や取引開始の判断に影響する場面があります。この「資本金額が与信判断にどれだけ影響するか」を示す公的統計は見つかりませんでした。中小企業庁・e-Statの「中小企業実態基本調査」には資本金階級別の財務データはありますが、取引先の与信判断への影響を示す調査ではありません。与信基準は各企業の内部運用のため、業種や取引相手によって重みが変わる、という前提で判断する必要があります。
1円をやめた理由3:融資審査で見られる
創業時に日本政策金融公庫の融資を検討している場合、資本金(自己資金)の額は審査材料の一つになります。
2024年3月末で「新創業融資制度」が廃止され、2024年4月から「新規開業資金」に一本化された際、それまで求めていた自己資金要件(融資額のおおむね10分の1以上)が撤廃されました(日本政策金融公庫。現行の制度案内ページに自己資金比率の要件は記載がなく、2026年8月時点でも同様であることを確認済み)。つまり制度上は自己資金ゼロでも申込み自体はできます。なお「新規開業資金」という名称は2025年3月に「新規開業・スタートアップ支援資金」へ変更されており、2024年4月時点ではまだ「新規開業・スタートアップ支援資金」という名称ではありませんでした(日本政策金融公庫「『新規開業・スタートアップ支援資金』に関するお知らせ」)。自己資金要件撤廃の正確な実施日を明記した公庫自身のプレスリリース原文には到達できませんでした(公庫サイトのプレスリリース一覧ページは403で参照不可、制度案内ページにも撤廃時期の記載なし)。「2024年3月末に新創業融資制度廃止・4月から自己資金要件撤廃」という内容は、税理士監修を含む複数の解説記事で一致しています。
ただし、これは「自己資金が無くても申込める」という意味であり、「自己資金が審査に影響しない」という意味ではありません。自己資金があることは、事業への準備度合いを示す材料として、審査の印象に良い影響を与える場合があるとされています。制度の建前と、審査の実際の見られ方は分けて考える必要があります。
資本金を上げすぎても得しない:税務の壁は1,000万円
資本金は多ければ多いほど信用が上がる、という単純な話でもありません。資本金1,000万円が、消費税の扱いが変わる明確な分岐点になります。
新設法人には消費税の計算に使う「基準期間」が無いため、設立第1期・第2期は原則として消費税の納税義務が免除されます。ただしその事業年度開始の日における資本金の額が1,000万円以上の場合は、この免除は適用されません(消費税法12条の2第1項、国税庁)。
資本金1,000万円未満に抑えることは「節税」ではなく「免税の要件を満たす」ことです。 ただし、親会社など「特定要件」に該当する他の者からの出資を受けて設立する「特定新規設立法人」に当たる場合は、資本金が1,000万円未満でも免除されないことがあります(国税庁「特定新規設立法人の納税義務免除の特例」)。一人起業で自己資金のみで設立する場合は通常関係しませんが、出資者が別にいる場合は確認が必要です。
資本金額と法人住民税・均等割の関係
もう一つ、資本金額に連動して自動的に決まる税金があります。法人住民税の「均等割」です。これは赤字の年であっても、資本金と従業員数の区分に応じて必ず発生する定額の税金です(地方税法)。
東京23区(特別区)の場合、資本金等の額1,000万円以下・従業員数50人以下の区分では、均等割は年7万円です(道府県民税相当2万円+市町村民税相当5万円の合計、地方税法、東京都主税局)。資本金額の区分が上がるほど均等割の金額も段階的に上がっていく仕組みのため、資本金を大きくすること自体に、毎年の固定コストが増えるという副作用があります。この7万円は東京23区の金額であり、均等割の具体的な区分・金額は自治体によって異なるため、実際の設定額での正確な金額は、本店所在地の自治体に確認するのが確実です。
目安の一覧表
ここまでの内容を、資本金額の目安として一覧にまとめます。
| 資本金額の目安 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 1円〜数万円 | 出資の負担がほぼ無い | 運転資金として機能しない。対外的信用・融資審査で不利になりうる |
| 数十万〜300万円程度 | 当面の運転資金をまかないやすい。均等割は最低区分(東京23区で年7万円) | 消費税免税(1,000万円未満)の恩恵はこの区分でも同じく受けられる |
| 1,000万円未満 | 消費税の免税事業者になれる(設立第1期・第2期、特定新規設立法人に該当しない場合) | 金額が上がるほど、当面使わない資金を会社に固定することになる |
| 1,000万円以上 | 対外的な信用は上がりやすい | 消費税の免税が受けられない(消費税法12条の2第1項)。均等割の区分も上がる |
一人起業ならどう決めるか
一人起業で自己資金のみで会社を作る場合、実務上の考え方は次の順番になります。
- 当面の運転資金(3〜6か月分の固定費)を洗い出す:登記費用、備品、通信費、当面の生活費に充てる役員報酬など
- 1,000万円未満に収まっているか確認する:消費税免税の恩恵を受けたい場合、この上限を超えないようにする
- 均等割の区分を確認する:多くの一人起業の場合、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の最低区分に収まる
この3段階を順に確認すれば、1円という極端な金額にも、根拠のない高額にも寄らない、実務に沿った金額に落ち着きやすくなります。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。この記事を書いている2026年8月31日時点で、私自身はまだ合同会社の登記を完了していません。ただし、資本金額についてはこの記事に書いた理由から「1円にはしない」という判断はすでに固めています。運転資金として機能する額であること、消費税免税の1,000万円未満に収まっていることの2点を軸に検討している段階で、最終的な金額そのものはまだ確定していません。
具体的な金額と、その金額に決めた理由の内訳は、定款作成が完了した段階でこの記事に実額つきで追記する予定です。憶測で数字を先に書くことはしません。
次にやること
まず、設立から半年間にかかる固定費(登記費用・備品・当面の役員報酬など)を紙に書き出してください。 その合計額が、資本金の下限の目安になります。そのうえで、消費税の免税を受けたいなら1,000万円未満に収める、という上限を意識すれば、極端に低い金額にも根拠のない高額にも振れずに決められます。金額のシミュレーションは、freee会社設立のようなサービスの設立フォームでも簡易に試算できるので、自分で計算するのが手間な場合は活用してください。
※本記事は2026年8月時点の法令・公的機関の公式情報と、筆者個人の状況に基づくものです。資本金額の決定は事業内容・取引先・資金計画によって最適解が変わるため、実際に金額を確定する前には税理士・司法書士などの専門家に確認してください。対外的信用への影響の程度は公的統計が存在しないため、日本政策金融公庫の自己資金要件撤廃の正確な実施日は公庫自身のプレスリリース原文に到達できなかったためとしています(いずれも本文中に調べた範囲を記載)。法人住民税均等割の自治体ごとの正確な区分・金額は自治体によって異なるため、実際の設定額での確認は本店所在地の自治体に直接お問い合わせください。
出典 - 会社法(2006年5月1日施行、最低資本金制度の撤廃) - 消費税法 第12条の2第1項(基準期間がない法人の納税義務の免除の特例) - 地方税法(法人住民税の均等割) - 新会社法とは?資本金1円でも株式会社が設立可能に!|マネーフォワード クラウド会社設立 - 新会社法って何ですか?資本金1円でも会社が設立できると聞きました。|J-Net21(2006年5月施行、旧有限会社300万円・旧株式会社1,000万円、5年以内増資条件の「確認会社」の記述を確認) - No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁(根拠条文が消費税法12条の2であることを確認) - 特定新規設立法人の納税義務免除の特例|国税庁 - 法人事業税・法人都民税|仕事と税金|東京都主税局(均等割税率表:資本金等の額1,000万円以下・従業員数50人以下・23区内で年7万円と確認。都民税分2万円・特別区民税分5万円の内訳は複数の税理士監修記事で一致を確認) - 新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫(現行の制度案内ページ。自己資金比率の要件記載なしを確認・2026年8月時点) - 「新規開業・スタートアップ支援資金」に関するお知らせ|日本公庫スタートアップ支援ポータル(2025年3月に「新規開業資金」から名称変更されたことを確認)