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定款の事業目的の書き方

この記事の結論
  • 株式会社の定款には「目的」の記載が会社法上義務づけられており(会社法27条1号)、合同会社などの持分会社も同様(会社法576条1項1号)
  • 法人は定款で定めた目的の範囲内で権利義務を持つとされ(民法34条)、目的に無い事業は本来できない建前になっている
  • 設立後に事業目的を追加・変更するには定款変更の手続きと登記が必要で、登記事項の変更には登録免許税がかかる(登録免許税法別表第一・二十四号(一)ツ、資本金の額の増加を伴わない変更登記は一件につき3万円)
  • 建設業・古物商・人材紹介業などの許認可は、その事業が定款の目的に明記されていないと申請できない場合がある
この記事の内容
  1. 結論:今やらない事業も、可能性があるなら書いておく
  2. そもそも「目的」は定款に書くことが法律で決まっている
  3. 目的の範囲外の事業は本来できないという建前
  4. あとから目的を追加すると、なぜ金がかかるのか
  5. 事業目的の書き方:3つの要素
  6. 許認可が絡む事業は、先に文言を確認する
  7. 目的の数はいくつが適切か
  8. 実際にどう並べるか、型で考える
  9. 実体験について、正直に書きます
  10. 次にやること

この記事は、会社設立の準備を進めていて、定款の「事業目的」欄に何をどこまで書けばいいのか迷っている一人起業の人に向けて書いています。 結論から言うと、いま実際にやる事業だけでなく、数年以内にやる可能性がある事業まで含めて書いておくのが基本です。理由は単純で、設立後に目的を追加するには定款変更の手続きと登記が必要になり、そこに登録免許税と専門家報酬がかかるからです。以下、事業目的が法律上どういう記載事項なのか、なぜ後から足すと金がかかるのか、具体的にどう書けばいいかの順に整理します。

こんな状態ではありませんか
  • 「事業目的」という欄があることは知っているが、何をどこまで書けばいいのか基準が分からない
  • 今やる予定が無い事業まで書いておく意味があるのか疑問
  • あとから追加すればいいと思っていたが、それに費用がかかると聞いて不安

結論:今やらない事業も、可能性があるなら書いておく

定款の事業目的は、いま現に行う予定の事業だけでなく、数年以内に着手する可能性がある事業まで含めて記載しておくのが基本です。理由は、設立後に目的を追加・変更しようとすると、定款変更の手続きに加えて法務局への変更登記が必要になり、そこに登録免許税と(自分で申請しない場合は)専門家報酬がかかるためです。設立時であれば、目的をいくつ書いても登記にかかる費用は変わりません。「今は使わないかもしれないが、書くこと自体は無料」の段階で書けるだけ書いておいたほうが、あとで払う金額は小さくなります。

ここが要点

「今やる事業だけを正直に書く」のは誠実に見えますが、法務上は損な選択になりがちです。 目的の追加は将来いつでもできますが、無料ではありません。

そもそも「目的」は定款に書くことが法律で決まっている

定款の「目的」は、思いつきで書く欄ではなく、法律上必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)の一つです。

  • 株式会社:定款に記載・記録しなければならない事項として「目的」が一番目に挙げられている(会社法27条1号)
  • 合同会社などの持分会社:同じく「目的」が絶対的記載事項の一番目(会社法576条1項1号)

目的が欠けている定款、または内容が不明確すぎる定款は、公証人の認証(株式会社の場合)や法務局の登記審査で補正を求められます。事業目的は「あってもなくてもいい説明欄」ではなく、会社の存在そのものを定める条項の一つという位置づけです。

目的の範囲外の事業は本来できないという建前

なぜ目的をきちんと書く必要があるのか、その根っこにあるのが民法の規定です。

法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う(民法34条)。

つまり法律上の建前としては、定款に書いていない事業を法人として行うことは想定されていません。もっとも実務上、目的の範囲は判例を通じてかなり広く解釈されてきました。会社の政治献金が争われた事件で、最高裁は「会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するわけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解するのを相当とする」という考え方を示しています(最高裁大法廷判決・昭和45年6月24日〔昭和41年(オ)第444号〕民集24巻6号625頁、いわゆる八幡製鉄事件)。この判断の枠組みにより、目的外の取引が即座に無効になるような場面は実務上多くありません。ただし「定款に書いていない事業は、そもそも会社の事業として想定されていない」という建前自体は変わっていません。特に次の「許認可」の場面では、この建前がそのまま実務上の壁になって現れます。

あとから目的を追加すると、なぜ金がかかるのか

設立後に事業目的を追加・変更する場合、次の手続きが必要になります。

  1. 社員(株式会社なら株主)の総会で定款変更を決議する(合同会社は原則、総社員の同意。会社法637条)
  2. 変更後の目的で、法務局に「目的変更」の登記を申請する

この2番目の登記申請に、登録免許税がかかります。資本金の額の増加を伴わない登記事項(商号・目的など)の変更は、申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一・二十四号(一)ツ)。これに加えて、自分で申請書類を作らず司法書士に依頼する場合は、別途専門家報酬がかかります。金額については、日本司法書士会連合会が「報酬は司法書士ごとに自由に定めるもので、全国一律の基準は存在しない」旨を公式に案内しており【一次情報なし:司法書士報酬は自由化されており全国共通の相場を示す公式資料はありません。以下は複数の司法書士事務所・法人設立サービスの案内に共通する目安です】、実務上は数万円程度が目安として案内されています。

一方、設立時の登記であれば、目的の記載をどれだけ増やしても登録免許税は変わりません(合同会社の設立登記は資本金の0.7%か6万円の高い方。詳しくは合同会社設立の全手順を参照)。「設立時に書き足すのは無料、あとから足すと1回あたり数万円」という非対称性が、このタイトルの理由です。

事業目的の書き方:3つの要素

伝統的に、事業目的の記載は次の3つを満たす必要があるとされてきました。

要素 内容
適法性 法律で禁止されている事業でないこと
営利性 営利を目的とする会社の事業として成り立つ内容であること
明確性 第三者が読んで、どんな事業か一般的に理解できる表現であること

このうち「明確性」については、かつて法務局の登記実務がかなり厳しく審査していた時期がありますが、平成18年(2006年)5月の会社法施行にあわせて発出された通達「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて」(平成18年3月31日付法務省民商第782号)が「会社の設立の登記等において、会社の目的の具体性については、審査を要しないものとする」と定めたことで、目的の具体性そのものは登記官の審査対象ではないという運用に変わりました。この結果、業界で一般的に使われる言葉であれば比較的通りやすくなっています。とはいえ、あまりに抽象的すぎる表現(例:「その他の事業」だけを単独で書く、など)は認められないため、具体的な事業名を軸に書き、最後に包括条項を添えるのが定番の型です。

許認可が絡む事業は、先に文言を確認する

建設業許可、古物商許可、人材紹介業(有料職業紹介事業)、旅行業、宅地建物取引業など、許認可が必要な事業は、その許認可の審査で「定款の目的にその事業が明記されているか」を確認されます。 目的に書かれていない事業について許認可を申請することはできず、先に定款変更(と登記)を済ませてから申請することになります。

さらに許認可によっては、目的欄に決まった言い回しを求められる場合があります。たとえば古物商許可では、所轄警察署の審査で目的欄に「古物営業法に基づく古物商」といった、古物営業であることが読み取れる記載が求められます。建設業許可では、目的欄の文言から許可を受けたい業種(建築工事業・土木工事業など)を読み取れることが必要で、どこまで具体的な表現を求めるかは許可行政庁(都道府県・国土交通大臣)ごとに違いがあります。人材紹介業(有料職業紹介事業)では、厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」(令和8年7月31日適用版・第3 許可基準)が、定款の目的の中に「有料職業紹介事業を行う」旨の記載を求めています(目的中の他の項目からそう解釈できる場合は、明示的な記載は不要)。旅行業では、たとえば東京都の新規登録案内が、目的欄を「必ず『旅行業』又は『旅行業法に基づく旅行業』とすること」と指定しています。宅地建物取引業では、たとえば東京都の免許申請の手引が、目的欄に宅建業を営む旨の記載を求め、記載例として「宅地建物取引業」「不動産の売買、媒介」を挙げたうえで、「不動産業」のようなあいまいな表現は認められないとしています(いずれも2026年9月1日に一次資料で確認。旅行業・宅建業は東京都の例で、登録先の道府県により運用が異なる場合があります)。将来的に許認可を取る可能性がある事業を想定している場合は、設立前に該当する許認可の窓口(警察署・都道府県庁・運輸局など)に、目的欄の書き方について確認しておくと、あとの変更登記を避けられます。

目的の数はいくつが適切か

目的の数そのものに法律上の上限はありません【一次情報なし:法務省・法務局に「目的は何項目まで」という公式の統計や基準は公表されていません。以下は司法書士事務所・法人設立サービスの実務解説に共通する目安です】。実務解説では、現在行う事業に加えて、数年以内に着手する可能性がある事業を含めて、10項目前後まで書くケースがよく紹介されています。

ただし、事業内容と無関係な目的を大量に並べると、法人口座を開設する銀行の審査で「実態が分かりにくい会社」と見られることがある、という指摘もあります。金融機関は犯罪収益移転防止法に基づき、法人が口座開設を申し込んだ際に本人特定事項・取引を行う目的・事業の内容・実質的支配者を確認する義務(取引時確認)を負っており(犯罪収益移転防止法4条)、事業の内容の確認書類として定款が使われます。もっとも「目的が読み取れない定款だと追加の説明を求められやすい」という因果関係そのものを金融庁が公式に述べたものではなく【一次情報なし:個々の銀行の審査基準は非公開で、目的の数・具体性と口座開設可否を直接結びつけた公式資料はありません。以下は司法書士事務所の実務解説に共通する内容です】、実務解説で広く共有されている目安です。「思いつく限り全部書く」のではなく、「今の事業」と「数年以内に現実的にやりそうな事業」を軸に絞り込み、それ以外は包括条項に任せるのが妥当な線引きです。

実際にどう並べるか、型で考える

事業目的欄は、次の順番で並べるのが一般的な型です。

  1. 今すぐ行う事業を、具体的に(何を・誰に・どう提供するかが分かる表現で)
  2. 数年以内に着手する可能性がある事業を、同じ粒度で
  3. 最後に「前各号に附帯又は関連する一切の事業」といった包括条項を1行

3番目の包括条項は、1・2で書いた事業に付随する周辺業務(物品販売業に対する在庫管理サービスなど)をカバーするためのもので、これ単独で新しい業種を追加する効果はありません。あくまで1・2の具体的な記載が主で、3は保険という位置づけです。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点で、まだ定款そのものを作成していません(合同会社設立の全手順でも同じ段階だと書いた通りです)。事業目的については、今すぐ行う予定の事業(コンサルティング・業務支援など)に加えて、数年以内にやる可能性がある事業をどこまで含めるかを検討している段階で、まだ最終的な文言は固めていません。目的欄を確定させ、実際に登記を終えた段階で、最終的にいくつの目的を並べたか、包括条項をどう書いたかをこの記事に追記します。

次にやること

まず、今すぐ行う事業と、数年以内にやる可能性がある事業を、思いつく限り紙に書き出してください。 その中から許認可が絡みそうな事業(建設業・古物商・人材紹介など)があれば、定款作成の前に所轄の窓口へ目的欄の書き方を確認しておくと、あとから変更登記をせずに済みます。目的欄を含めた定款の作成そのものは、freee会社設立やマネーフォワード会社設立のようなサービスでひな形から作ることもできるので、書き出した事業リストを持って進めると手戻りが少なくなります。


※本記事は2026年8月31日時点で確認できた法令(会社法・民法・登録免許税法・犯罪収益移転防止法)、判例、通達、法務省・日本司法書士会連合会の公式情報、および筆者個人の状況に基づくものです。人材紹介業・旅行業・宅地建物取引業の目的欄の要件は、厚生労働省の業務運営要領と東京都の登録案内・免許申請の手引で確認しています(2026年9月1日。旅行業・宅建業は東京都の例です)。司法書士報酬の相場、目的の適切な項目数、目的の具体性と銀行審査の可否の関係については、公式の統一基準や統計が存在しないことを確認した上で、実務解説に共通する目安としてと付記しています。実際の定款作成にあたっては、公証人役場・法務局、または司法書士・行政書士に最新の運用をご確認ください。

出典 - 職業紹介事業の業務運営要領(令和8年7月31日適用版)第3 許可基準厚生労働省(定款の目的への「有料職業紹介事業を行う」旨の記載要件を確認、2026年9月1日) - 旅行業の新規登録を申請される方へ東京都産業労働局(目的欄は「必ず『旅行業』又は『旅行業法に基づく旅行業』とすること」を確認、2026年9月1日) - 宅地建物取引業免許申請の手引〔1〕免許のあらまし東京都住宅政策本部(目的欄への宅建業を営む旨の記載要件と記載例を確認、2026年9月1日) - 会社法 第27条1号(株式会社の定款の絶対的記載事項:目的) - 会社法 第576条1項1号(持分会社の定款の絶対的記載事項:目的) - 会社法 第637条(持分会社の定款変更の原則:総社員の同意) - 民法 第34条(法人の権利能力の範囲) - 最高裁大法廷判決 昭和45年6月24日〔昭和41年(オ)第444号〕民集24巻6号625頁(八幡製鉄事件:会社の目的の範囲の解釈。判決文原文で「目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく…」の文言を確認、2026年9月1日確認) - 法務省民商第782号「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて」(平成18年3月31日付通達。会社の目的の具体性は登記官の審査を要しない旨を明記、2026年9月1日確認) - 登録免許税法 別表第一 二十四号(一)ツ(資本金の増加を伴わない登記事項の変更登記:1件につき3万円) - 日本司法書士会連合会「司法書士の報酬について」(報酬は司法書士ごとの自由設定である旨の公式案内、2026年9月1日確認) - 犯罪による収益の移転防止に関する法律 第4条(法人との取引時における本人特定事項・取引目的・事業の内容・実質的支配者の確認義務)

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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