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法人成りのタイミング

この記事の結論
  • 所得税は課税所得に応じて5%〜45%の7段階で上がる超過累進課税(所得税法第89条、国税庁タックスアンサーNo.2260)、法人税は資本金1億円以下の中小法人なら年800万円以下の部分が軽減税率15%・超える部分が23.2%(法人税法第66条、租税特別措置法第42条の3の2、国税庁タックスアンサーNo.5759)
  • 「利益800万円で法人成り」という目安は国税庁・財務省が公式に定めた基準ではなく、税理士・会計事務所が示す経験則(2026年8月時点で一次情報なし)
  • 個人事業主は基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者になる(消費税法第9条)一方、資本金1,000万円未満の新設法人は原則設立第1期・第2期が消費税免除(消費税法第12条の2第1項)であり、この「免税の作り直し」が法人成りのタイミングを左右するもう一つの軸
  • 法人は健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になり代表者本人も被保険者になる(健康保険法、厚生年金保険法)
この記事の内容
  1. 結論:見るのは「売上」ではなく「利益」と「消費税」
  2. 個人の税率構造:所得税は超過累進、住民税は一律10%
  3. 法人の税率構造:年800万円を境に税率が変わる
  4. 「利益800万円」という目安の出どころと限界
  5. もう一つの軸:消費税の免税をどう扱うか
  6. 社会保険は法人成りで強制加入になる
  7. タイミングの考え方を一覧にする
  8. 実体験について、正直に書きます
  9. 次にやること

この記事は、個人事業主として事業をしていて、そろそろ法人成り(法人化)すべきか迷っている人に向けて書いています。 結論から言うと、見るべきは「売上」ではありません。「利益(課税所得)がいくらか」と「消費税の免税をどう扱うか」の2つです。よく言われる「利益800万円で法人成り」という目安は税率の話に過ぎず、消費税と社会保険を見落とすと判断を誤ります。

こんな状態ではありませんか
  • 売上が増えてきて、法人成りすべきタイミングが分からない
  • 「利益800万円」という目安を見たが、それだけで決めていいのか不安
  • 消費税や社会保険がどう変わるのか、税率以外の影響が分からないまま検討している

結論:見るのは「売上」ではなく「利益」と「消費税」

「法人成り 売上」で検索すると「売上1,000万円で」「売上いくらで」という切り口をよく見かけますが、税金の計算のもとになるのは売上そのものではなく、経費を引いたあとの利益(課税所得)です。売上が大きくても経費が多ければ課税所得は小さく、法人成りのメリットはまだ出ません。

そのうえで、判断軸は大きく2つに分かれます。1つは「個人の所得税・住民税と、法人の法人税のどちらが安いか」という税率の交差点。もう1つは「消費税を課税事業者として払うタイミングをどう扱うか」という消費税の軸です。この2つは別の制度に基づいており、必ずしも同じタイミングで結論が出るとは限りません。

ここが要点

「売上が1,000万円を超えたから法人成りしよう」という判断は、税率だけを見れば早すぎることも遅すぎることもあります。 まず自分の課税所得(利益)がいくらかを確定申告書で確認するところから始めてください。

個人の税率構造:所得税は超過累進、住民税は一律10%

所得税は、課税所得の金額に応じて5%から45%まで7段階で税率が上がる超過累進課税です(所得税法第89条、国税庁タックスアンサーNo.2260「所得税の税率」)。これに加えて、住民税(所得割)が原則として一律10%かかります(地方税法)。

課税所得の目安 所得税率
195万円以下 5%
195万円超330万円以下 10%
330万円超695万円以下 20%
695万円超900万円以下 23%
900万円超1,800万円以下 33%
1,800万円超4,000万円以下 40%
4,000万円超 45%

(所得税法第89条、国税庁タックスアンサーNo.2260。実際の税額は控除額を差し引く速算表で計算するため、上表は税率区分の目安)

個人事業主にはこれに加えて、事業所得に対する個人事業税(業種により税率が異なり、多くの業種で5%。地方税法)がかかる場合があります。

法人の税率構造:年800万円を境に税率が変わる

法人税は、資本金1億円以下の中小法人であれば、年800万円以下の所得部分に軽減税率15%、それを超える部分に基本税率23.2%が適用されます(法人税法第66条、租税特別措置法第42条の3の2、国税庁タックスアンサーNo.5759「法人税の税率」)。これに加えて法人住民税(所得割・均等割)、法人事業税もかかります。均等割は赤字の年でも発生する定額の税金で、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の区分では東京23区の場合で年7万円が標準です(地方税法。詳しくは別記事法人住民税の均等割|赤字でも年7万円かかる仕組みで整理しています)。

個人の最高税率(所得税+住民税で55%、復興特別所得税は別途)に対し、法人の実効税率はおおむね20%台〜30%台前半に収まるため、利益(課税所得)が一定水準を超えると、法人のほうが税負担の割合が低くなるという構造です。

「利益800万円」という目安の出どころと限界

個人と法人の税負担が逆転する水準として、「利益800万〜900万円あたり」という目安がよく紹介されます。これは、個人の所得税率が695万円超で20%を超え、900万円超で33%まで上がっていくのに対し、法人は800万円までなら15%で頭打ちになる、という税率構造の交差を指しています。

【一次情報なし:個人と法人の税負担が逆転する所得水準について、国税庁・財務省が公表した公式な基準は見つかりませんでした】この目安は税理士・会計事務所が経験則として示しているものであり、次のような個別事情によって実際の交差点は前後します。

  • 青色申告特別控除(最大65万円、租税特別措置法第25条の2)や各種所得控除の有無
  • 個人事業税・法人住民税均等割など、税率表には出てこない付随コストの有無
  • 利益を法人に残して再投資するか、役員報酬としてすぐ引き出すか(引き出す場合は次に述べる社会保険料が乗る)

税率だけを比較するなら「利益800万円」は一つの目安として使えますが、この記事のもう一つの軸である消費税と社会保険を無視すると、判断を誤ります。

もう一つの軸:消費税の免税をどう扱うか

個人事業主は、原則として基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者になります(消費税法第9条)。売上が1,000万円を超えたタイミングから2年後に、消費税の納税義務が発生する計算です。

一方、資本金1,000万円未満で法人を設立した場合、新設法人には基準期間が存在しないため、原則として設立第1期・第2期は消費税が免除されます(消費税法第12条の2第1項)。個人事業で消費税の課税事業者になるタイミングが近づいている人が、その直前に法人成りすると、消費税の免税期間を最大2期分「作り直せる」ことになります。これが、法人成りのタイミングとして「売上(課税売上高)が1,000万円に近づいたころ」がよく語られる理由です。

ただし、この免税には2つの注意点があります。

  • 特定期間の判定:設立第1期の前半6か月(特定期間)の課税売上高、または特定期間中に支払った給与等の金額のいずれかが1,000万円を超えると、第2期から課税事業者になります(消費税法第9条の2。国税庁「特定期間の判定」)。「両方」ではなく「どちらか一方」の基準です。2期分の免税は保証ではありません。
  • インボイス登録との両立不可:適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録をすると、その時点で課税事業者になり、この免税の恩恵は使えなくなります。登録の要否については別記事インボイス登録は設立時にやるかで整理しています。

取引先が事業者中心で、インボイス登録がほぼ必須になる事業モデルの場合、消費税の免税というメリットはそもそも使えない前提になります。 その場合、法人成りのタイミングは税率と社会保険の軸だけで考えることになります。

ここが要点

「売上1,000万円が近いから法人成りする」という判断は、インボイス登録が必要な事業では成立しないことがあります。 まず自分の取引先が課税事業者中心のBtoBかどうかを先に確認してください。

社会保険は法人成りで強制加入になる

法人は、常時従業員がいるかどうかにかかわらず、健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になり、代表者本人もその被保険者になります(健康保険法、厚生年金保険法)。個人事業主が使う国民健康保険・国民年金と比べて、保険料の計算方法も納付先も変わります。

個人事業主のままなら、常時使用する従業員が5人未満の場合、または5人以上でも法定17業種(製造業・建設業・物の販売業など。農林漁業や飲食店を含むサービス業の一部は対象外)に該当しない場合は、健康保険・厚生年金への加入は任意です(厚生年金保険法第6条で強制適用事業所の範囲を規定、健康保険法第3条第3項で任意適用事業所を規定)。法人成りすると、この任意の枠がなくなり、役員報酬に応じた社会保険料が強制的に発生します。税率の比較では見えてこないこのコストを、法人成りの判断に織り込む必要があります。

タイミングの考え方を一覧にする

3つの軸を整理すると、次のようになります。

法人成りを後押しする状況
税率(利益・課税所得) 課税所得が800万円前後に近づき、個人の税率区分が20%台後半以上になっている
消費税 基準期間の課税売上高が1,000万円に近づいており、かつインボイス登録が不要(または登録済みで免税メリットを既に使っていない)な事業モデル
社会保険 役員報酬を低めに設定しても事業として成り立ち、社会保険料の増加分を吸収できる利益水準にある

3つの軸すべてが揃うタイミングは必ずしも一致しません。どの軸を優先するかは、事業の性質(利益をどれだけ再投資に回すか、取引先が事業者中心かどうか)によって変わります。 決算月の決め方は別記事会社の決算月はいつにするか、資本金の決め方は資本金はいくらにするかで扱っているので、法人成りの時期を絞り込んだあとに合わせて確認してください。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年6月末に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、個人事業主として一定期間事業を行ったうえで法人成りした経験はありません。私のケースは最初から法人を設立する形であり、既存の個人事業を法人に切り替える手続き(個人の資産・負債の引き継ぎ、取引先への契約切り替えなど)は経験していません。この記事は、法人成りを検討している個人事業主向けに税制と社会保険の仕組みを調べて整理したものであり、本人の一次情報ではありません。この点は正直に書いておきます。

次にやること

まず、直近の確定申告書で自分の課税所得(利益)がいくらかを確認し、あわせて基準期間の課税売上高が1,000万円にどれだけ近いかを確認してください。 そのうえで、取引先が課税事業者中心のBtoBかどうかで消費税の軸の重みが変わり、役員報酬をいくらに設定できそうかで社会保険の軸の重みが変わります。3つの軸を自分の事業に当てはめた正確なシミュレーションは、税理士に自分の数字で試算してもらうのが確実です。freee会社設立やマネーフォワード会社設立のようなサービスでも、簡易な税額シミュレーション機能を提供している場合があります。


※本記事は2026年9月時点の法令に基づく情報整理と、筆者個人の状況に基づくものです。個人と法人の税負担が逆転する所得水準の正確な交差点は、国税庁・財務省が公表した公的な基準が存在しない()ため、個別の試算が前提になります。実際の法人成りの判断は、必ず税理士・社会保険労務士に自分の数字で確認してください。

出典 - 所得税法 第89条(超過累進税率) - 法人税法 第66条(法人税の税率) - 租税特別措置法 第42条の3の2(中小法人等の法人税率の特例) - 租税特別措置法 第25条の2(青色申告特別控除) - 消費税法 第9条(小規模事業者に係る納税義務の免除) - 消費税法 第9条の2(前年又は前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例) - 消費税法 第12条の2第1項(基準期間がない法人の納税義務の免除の特例) - 地方税法(個人住民税の所得割、個人事業税、法人住民税の均等割) - 健康保険法 第3条第3項、厚生年金保険法 第6条(任意適用・強制適用事業所) - 国税庁タックスアンサー No.2260「所得税の税率」 - 国税庁タックスアンサー No.5759「法人税の税率」 - No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁 - 特定期間の判定|国税庁 - 適用事業所と被保険者|日本年金機構

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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