自宅兼事務所の家賃は経費にできるか
- 個人事業主は家賃のうち事業で使う割合を按分して経費にできるが、法人はこの家事按分の仕組みを使えない(国税庁 タックスアンサーNo.2600)
- 法人が家賃を経費にする代表的な方法は、法人名義で契約し役員に社宅として貸す「社宅方式」で、役員から一定額(賃貸料相当額)を徴収すれば給与として課税されない
- 賃貸料相当額は床面積が132㎡以下(木造など)・99㎡以下(鉄筋コンクリート造など)の「小規模な住宅」なら、固定資産税の課税標準額を基にした3項目の合計で計算する(国税庁)
- 徴収額が賃貸料相当額を下回ると、差額は役員に対する経済的利益(現物給与)として給与課税の対象になる
- 個人名義のまま社宅扱いにするには賃貸借契約を法人名義に切り替える必要があり、大家の承諾と保証会社の再審査が実務上のハードルになる
この記事の内容
この記事は、自宅を事務所として使いながら会社を設立しようとしていて、家賃を経費にできるかどうか気になっている一人社長・一人起業の人に向けて書いています。 結論から言うと、個人事業主のときに使っていた「家事按分」という仕組みは法人には使えません。法人が家賃を経費にするには、法人名義で契約して役員に社宅として貸し、役員から一定額の家賃(賃貸料相当額)を徴収する「社宅方式」を取る必要があります。以下、個人事業主との違い、賃貸料相当額の計算の考え方、契約を法人名義に切り替える実務上の壁の順に整理します。
- 個人事業主のときと同じ感覚で、家賃の半分くらいを経費にすればいいと思っている
- 「社宅」という言葉は聞いたことがあるが、役員自身に貸す場合も対象になるのか分からない
- いま住んでいる賃貸物件の契約者は個人のままで、法人の経費にできるのか判断がつかない
「賃貸 自宅兼事務所」で調べてきた人へ、先に答えを置きます。
- 賃貸でも自宅兼事務所にできる場合はありますが、まず見るのは税金より先に、賃貸借契約書の「使用目的」の欄です
- 「居住専用」と書かれていれば、事務所として使うには家主(管理会社)の承諾が要ります。無断で使うと契約違反になりかねません
- 承諾が取れたら、個人事業主は家事按分、法人は社宅方式で家賃を経費にします(詳しくは下の本文)
- 断られたときは、住まいと事務所を分ける道があります(下の「賃貸で自宅兼事務所にする手順」)
結論:法人は「家事按分」ではなく「社宅」の仕組みを使う
自宅の一部を事務所として使う場合、個人事業主であれば家賃のうち事業で使っている面積・時間の割合を計算して、その分だけを経費にする「家事按分」という方法が使えます。しかし法人にはこの家事按分という考え方自体がありません。 法人の家賃は、法人が支払った時点で全額が法人の経費(地代家賃)になるか、ならないかのどちらかです。
自宅兼事務所を法人の経費にしたい場合は、法人がその住宅を借りて(または法人名義で契約して)、そこに住む役員に「社宅」として貸すという形を取ります。この場合、法人は家賃の全額を経費にできますが、代わりに役員から一定額の家賃(賃貸料相当額と呼びます)を徴収する必要があります。この徴収額が少なすぎると、法人が肩代わりした分が役員への現物給与とみなされ、給与課税の対象になります(国税庁 タックスアンサーNo.2600「役員に社宅などを貸したとき」)。
「法人だから家賃を全部経費にできる」わけではありません。 全額を経費にする代わりに、役員側が一定の家賃を法人に払う仕組みになっている、という順番で理解しておくと整理しやすくなります。
個人事業主の家事按分と何が違うのか
個人事業主の家事按分は、「1つの支払いのうち事業で使っている割合だけを経費にする」という考え方です。家賃10万円のうち事務所として使っている面積が30%なら、3万円を経費にする、というイメージです。
法人の場合はこの発想を使いません。法人が住宅を借りて役員に貸す「社宅」という別の制度の中で、家賃の全額を法人の経費にした上で、役員から相応の対価を取ることで帳尻を合わせます。按分ではなく、法人と役員個人の間でお金のやり取りを発生させる仕組みだ、という点が最大の違いです。
法人が家賃を経費にする2つの契約パターン
自宅兼事務所を法人の経費にする場合、賃貸物件では大きく2つの契約パターンがあります。
- 法人名義で契約し直す(借上社宅):法人が家主と直接賃貸借契約を結び、その住宅を役員に社宅として貸す。実務上、最も税務上の扱いがすっきりする方法です
- 個人名義の契約のまま、法人が又貸しを受ける形にする(転貸):役員個人が家主と結んでいる契約はそのままに、その物件を法人に転貸し、法人がさらに役員に貸す形を取る。家主(大家)の承諾を得られない場合や、契約変更の手続きが煩雑な場合に選ばれることがあります
どちらのパターンでも、法人と役員個人の間で「賃貸借契約書」を別途取り交わし、事務所として使う部分と住居として使う部分が明確に区分できることが前提になります。持ち家の場合も同様に、法人と役員個人との間で賃貸借契約を結ぶ必要があります。
役員から徴収する「賃貸料相当額」の計算の考え方
役員から徴収すべき家賃の下限額を「賃貸料相当額」と呼びます。国税庁のタックスアンサーNo.2600によると、住宅の床面積によって計算方法が変わります。
床面積が「小規模な住宅」にあたる場合(法定耐用年数30年以下の木造家屋などは132㎡以下、法定耐用年数30年を超える鉄筋コンクリート造などは99㎡以下)、賃貸料相当額(月額)は次の3項目の合計です。
- その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- 12円 × (その建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3㎡)
- その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
小規模な住宅にあたらない場合は計算方法が異なり、法人が自ら所有する社宅か、法人が家主から借りて貸す社宅(賃借社宅)かでも計算式が変わります。賃借社宅の場合、法人が家主に支払う家賃の50%と、自社所有の場合の計算式で出した金額とを比べて、いずれか多い金額が賃貸料相当額になります(国税庁)。
固定資産税の課税標準額は、市区町村から届く固定資産税の納税通知書や、家主・管理会社への照会で確認する必要があります。 賃貸物件の場合は自分で入手できないこともあるため、実務上は税理士に計算を依頼するのが確実です。
徴収額が少ない・ゼロだとどうなるか
役員から徴収する家賃が、上記で計算した賃貸料相当額を下回っていると、その差額は役員に対する経済的利益(現物給与)とみなされ、役員の給与として所得税・住民税の課税対象になります(国税庁)。法人側でも、この分を給与として源泉徴収していなければ、後から追徴課税を受けるリスクがあります。
「役員だから家賃はもらわなくていい」「自分の会社だから徴収しなくても問題ない」という判断は、この現物給与の扱いを見落としていることが多い判断です。社宅方式を使う場合は、法人と役員個人の間で家賃のやり取りを実際に発生させる(通帳上の記録を残す)ことが前提になります。
豪華な住宅は対象外になる
上で紹介した賃貸料相当額の計算式は、あくまで一般的な社宅を想定したものです。床面積が240平方メートルを超える住宅は、取得価額・支払賃貸料の額・内外装の状況などを総合的に勘案して「豪華社宅」と判定される場合があり、この場合は上記の計算式は使えず、通常支払うべき使用料に相当する額(実勢の家賃相当額)がそのまま賃貸料相当額になります(国税庁)。自宅兼事務所として一般的な広さの賃貸物件を想定している場合、この基準に該当するケースは多くありませんが、床面積が大きい住宅を検討している場合は留意が必要です。
個人名義の契約を法人名義に切り替える実務の壁
社宅方式を使うために最も現実的なハードルになりやすいのが、賃貸契約を個人名義から法人名義に切り替える手続きです。
- 家主(大家)の承諾が必要:賃貸借契約の名義変更、または個人契約のまま法人へ転貸する場合のいずれも、家主の承諾なしには進められません
- 保証会社の再審査が入ることがある:法人名義に切り替える場合、保証会社による法人としての与信審査が改めて行われることがあります。この点について公的機関の統計はなく、以下は不動産業者の解説記事に共通する内容ですが、決算書がまだ無い設立直後の法人は審査に通りにくく、事業計画書や代表者の経歴といった補足資料の提出、追加の保証金を求められるといった対応が必要になる場合があります
- 契約変更に伴う費用が発生することがある:契約書の巻き直しに伴う事務手数料や、更新のタイミングを待つよう求められるケースもあります
これらの事情から、設立直後は個人名義の契約のまま「転貸」の形で対応し、契約更新のタイミングで法人名義への切り替えを検討する、という進め方を取る一人社長もいます。いずれの場合も、事前に家主・管理会社へ相談しておくことが前提になります。
比較表:個人事業主と法人の違い
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 経費にする仕組み | 家事按分(事業で使う割合を按分) | 社宅方式(法人が全額負担し、役員から賃貸料相当額を徴収) |
| 契約の名義 | 個人のまま | 法人名義への切り替え、または転貸 |
| 徴収の要否 | 不要(按分するだけ) | 必要(徴収額が不足すると現物給与として課税) |
| 徴収額を決める基準 | 面積・時間などの合理的な割合 | 固定資産税の課税標準額を基にした国税庁の計算式 |
| 主な実務のハードル | 按分割合の合理的な説明 | 家主の承諾・保証会社の再審査 |
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。この記事を書いている2026年9月1日時点で、私自身はまだ合同会社の設立準備の段階にあり(合同会社設立の全手順の記事で書いた通りです)、法人としての賃貸契約や社宅方式の運用はまだ行っていません。現在住んでいる賃貸物件を自宅兼事務所として使う想定ではいますが、法人名義への契約切り替えについて家主・管理会社に相談する段階にはまだ至っていません。
そのため、この記事の内容は実際に社宅方式を運用した記録ではなく、国税庁の公開情報を基にした「調査した範囲では」の整理です。実際に法人を設立し、賃貸契約の扱いを家主に相談する段階になったら、承諾が得られたか、保証会社の審査でどのような条件を提示されたかを、この記事に実際の経緯とともに追記します。
計算例:賃貸料相当額はいくらになるか
上の計算式(#j4)だけを使い、仮の数字で最後まで計算します。実在の物件の数値ではなく、計算の流れを確認するための仮置きです。
| 項目 | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
| ① 建物の固定資産税課税標準額 × 0.2% | 500万円 × 0.2% | 10,000円 |
| ② 12円 × (総床面積 ÷ 3.3㎡) | 12円 × (60㎡ ÷ 3.3㎡) | 約218円 |
| ③ 敷地の固定資産税課税標準額 × 0.22% | 800万円 × 0.22% | 17,600円 |
| 賃貸料相当額(月額) | ①+②+③ | 約27,818円 |
前提:床面積60㎡の木造住宅(法定耐用年数30年以下、132㎡以下の「小規模な住宅」に該当)、建物の固定資産税課税標準額500万円、敷地の固定資産税課税標準額800万円と仮に置いた場合の数字です。固定資産税課税標準額は物件ごとに異なるため、実際の金額は納税通知書や家主・管理会社への照会で確認してください。
この仮定の場合、役員から月27,818円以上を徴収していれば、法人が家賃を全額経費にしても役員側に給与課税は発生しません。徴収額がこれを下回ると、差額が現物給与として課税対象になります(#j5)。
賃貸で自宅兼事務所にする手順と、断られたときの道
賃貸の自宅兼事務所で最初に詰まるのは、経費の計算ではなく「そもそも事務所として使ってよいのか」です。個人事業主でも法人でも、この順番で進めます。
- 契約書を開く。 「使用目的」「用途」「禁止事項」の欄を探します。「居住専用」「事務所・店舗利用不可」とあれば、承諾なしには使えません
- 管理会社(または家主)に連絡する。 書面かメールで、使い方を具体的に伝えます。来客の有無、看板や表札の掲示、従業員の出入り、会社の登記に住所を使うかどうかを書くと、返事が早くなります
- 返事を書面で残す。 口頭のOKだけにしません。承諾書や覚書、契約書の用途欄の書き換えのいずれかで残します
- 承諾の後に、経費の処理を決める。 個人事業主は家事按分、法人は上で説明した社宅方式です
| 契約書・管理会社の返事 | 次にすること |
|---|---|
| 「事務所利用可」「SOHO可」と書いてある | 登記や来客の条件がないかだけ確認して、手順4へ |
| 「居住専用」と書いてある | 手順2で承諾を依頼。承諾が出るまで事務所としては使わない |
| 契約書に用途の記載がない | 手順2で確認。口頭の返事で済ませず、手順3で書面にする |
| 承諾が出ない | 下の「断られたとき」へ |
家賃に消費税が関わる場合があります。 国税庁のNo.6201「非課税となる取引」では、住宅の貸付けは「契約で人の居住の用に供することが明らかにされているもの」が非課税とされ、事務所など住宅以外の建物の貸付けは非課税の一覧に載っていません。事務所利用が認められる際に、家賃などの条件が変わるかどうかも、手順2で一緒に聞いておくと後で慌てません。
承諾を依頼するときの文例です。名前や数字は自分の状況に置き換えてください。
件名:賃貸借契約の用途についてのご相談(○○マンション△号室)
○○管理株式会社 ご担当者様
○○マンション△号室を借りております、□□です。
この部屋の一部を、自宅兼事務所として
使えないかご相談です。
使い方は次のとおりです。
・使うのは、パソコン作業と電話が中心です
・来客は(なし/月に○回程度)です
・従業員の出入りは(なし)です
・看板や表札の掲示は(しません)
・会社の登記に住所を(使います/使いません)
承諾いただける場合は、書面でいただけますか。
条件の変更があれば、あわせて教えてください。
どうぞよろしくお願いいたします。
□□ (電話番号)
断られたとき:住まいと事務所を分ける
管理会社に断られた場合に、自宅で何とか続けるのは避けた方がよい進め方です。契約違反の状態が残り、のちに家賃の経費が問題になりかねません。住まいと仕事場を分ける方法はいくつかあります。
- コワーキングスペース・シェアオフィス:作業場所を外に持つ。家賃は自宅とは別の経費になります
- バーチャルオフィス:会社の登記や郵便物の受取に使う住所だけを借りる。自宅の契約は居住用のままで済みます
- 事務所利用が認められている物件に引っ越す:更新のタイミングで切り替える人もいます
どの方法でも、事務所の費用は自宅の家賃とは別に整理します。選ぶ前に、登記に使える住所かどうか、必要な来客対応ができるかを、それぞれの運営元に確認してください。
次にやること
まず、自宅を事務所として使う場合に法人名義への契約切り替えが可能かどうか、家主または管理会社に相談してください。 承諾が得られそうなら、賃貸料相当額の計算を税理士に依頼し、法人と役員個人の間で交わす賃貸借契約書の準備を進めます。名義変更が難しい、または時間がかかりそうな場合は、個人契約のまま転貸の形を取れないかを合わせて相談してください。どちらの方法を取るにしても、役員から実際に家賃を徴収し、通帳上の記録を残しておくことが給与課税を避けるための前提になります。次は、一人社長の税理士の必要性に関する記事も確認してください。
※本記事は2026年9月1日時点で調査した国税庁の公開情報と、筆者個人の状況に基づくものです。賃貸料相当額の具体的な計算、契約形態の選択は個別の事情によって判断が変わるため、実際の手続き前には税理士にご確認ください。
出典 - No.2600 役員に社宅などを貸したとき|国税庁(令和7年4月1日現在法令等。賃貸料相当額の計算式・小規模住宅の定義・豪華社宅の扱いの根拠。2026年9月1日確認) - No.6201 非課税となる取引|国税庁(令和8年4月1日現在法令等。住宅の貸付けが非課税となる条件の根拠。2026年10月9日確認)