法人設立ワンストップサービスは使えるか
- 法人設立ワンストップサービスはマイナポータルを窓口に、定款認証・設立登記・法人設立届出など税務関係約20種類・社会保険や労働保険の一部・GビズIDプライムアカウント発行をまとめて申請できる仕組み(freee公式解説)
- 対象は株式会社・合同会社で、代表者本人のマイナンバーカードとICカードリーダーまたはスマホが必須(freee公式解説)
- 助成金・補助金の申請、法人口座の開設、印鑑証明書の窓口受け取りは対象外(freee公式解説)
- 電子定款を単独で先に済ませると一括申請の流れに乗れない、登記・供託オンライン申請システムがWindows専用の場面がある、健康保険の被保険者資格取得届や被扶養者異動届はe-Govの別申請が必要という3つの落とし穴がある(株式会社NewBeginnings公式ブログ)
- 合同会社には会社法575条により定款認証の規定がなく、定款認証と登記を同時に出す一括申請のメリットはそもそも生じない
この記事の内容
この記事は、会社設立の手続きを自分で進めようとしていて、「法人設立ワンストップサービス」というマイナポータルの仕組みを見つけたものの、実際にどこまでの手続きがまとまるのか分からず判断できずにいる人に向けて書いています。 結論から言うと、このサービスは定款認証・設立登記・税務署や自治体への届出・社会保険と労働保険の一部・GビズIDの発行を1つの窓口からまとめて申請できる仕組みですが、書類そのものを作ってくれるわけでも、法人口座を開いてくれるわけでもありません。以下、対応している範囲と、使う前に知っておくべき限界を整理します。
- 「ワンストップ」と聞いて、設立に関するすべての手続きがこれ1つで終わると思っていたが、本当にそうなのか確認したい
- 株式会社と合同会社で対象や使い方が変わるのか分からない
- マイナンバーカードがあれば誰でもすぐ使えるのか、事前に何を揃えておけばいいのか知りたい
結論:届出はまとまるが、書類作成と口座開設は対象外
法人設立ワンストップサービスは、マイナポータルを窓口として、法務局・税務署・自治体・年金事務所・労働基準監督署など複数の機関に別々に出していた届出を、1回の入力でまとめて申請できる仕組みです(freee公式解説)。定款認証・設立登記の申請から、法人設立届出書や青色申告承認申請書などの税務関係書類、健康保険・厚生年金保険の新規適用届、GビズIDプライムアカウントの発行までが対象に含まれます。ただし、対応しているのは「出す」部分だけです。 定款の中身を考えて作成する作業、法人口座の開設審査、助成金・補助金の申請、印鑑証明書の窓口受け取りはこのサービスの範囲外で、別途自分で対応する必要があります(freee公式解説)。「ワンストップ」という名前から、設立にまつわる作業全部が1つで終わると誤解しないことが最初のポイントです。
「ワンストップ」は「提出先が1つになる」という意味で、「作業が1つで終わる」という意味ではありません。 定款の内容を考える、資本金の額を決める、事業目的を書くといった判断作業は、このサービスを使っても自分でやることに変わりありません。
法人設立ワンストップサービスとは何か
このサービスは、複数の行政手続きをマイナンバーカードによる本人確認・電子署名で一括申請できるようにする、国のオンライン窓口です。2020年から提供が始まり、2021年からは定款認証や設立登記も含めて、法人設立に関わる手続きの多くがこの窓口からまとめて申請できるようになりました(freee公式解説)。窓口となるアプリはマイナポータル上にあり、入力した情報が法務局や税務署など各機関のシステムへ連携される仕組みです。従来は法務局に登記を申請したあと、税務署・都道府県税事務所・市区町村・年金事務所・労働基準監督署・公共職業安定所へそれぞれ個別に書類を出す必要がありましたが、この仕組みを使えば入力そのものは1か所にまとめられます。
対応している手続き一覧
freeeの公式解説によると、対応している手続きは大きく4つに分かれます。
| 分類 | 対応する手続きの例 |
|---|---|
| 定款認証・設立登記 | 定款認証、設立登記申請、商業登記電子証明書の発行申請 |
| 国税・地方税関連 | 法人設立届出書、青色申告承認申請書、消費税課税事業者選択届出書、適格請求書発行事業者登録申請書など約20種類 |
| 社会保険・労働保険関連 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届、労働保険関係成立届、雇用保険事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届 |
| GビズID発行 | プライムアカウント(最短即日発行可能) |
インボイス登録(インボイス登録は設立時にやるか)や青色申告の承認申請(設立後に税務署へ出す書類一覧)など、設立直後に必要になりがちな税務届出がまとめて含まれている点は、このサービスの実利が大きい部分です。一方で、健康保険・厚生年金保険は「新規適用届」だけが対象で、被保険者(自分自身を含む役員)の資格取得届や被扶養者異動届はこのサービスの外、e-Govという別のシステムから申請する必要があります(株式会社NewBeginnings公式ブログ)。なお雇用保険については、事業所設置届に加えて被保険者資格取得届もワンストップサービスの対象に含まれます(freee公式解説)。一人社長で社会保険に加入する場合の全体像は会社設立後の社会保険手続きで整理しています。
対象になる法人形態と、必要なもの
対象になるのは株式会社と合同会社です。一般社団法人など、それ以外の法人形態はこのサービスの対象に含まれていません。使うために必要なものは次のとおりです(freee公式解説)。
- 法人代表者本人のマイナンバーカード(代表者以外のカードでは代用できない)
- マイナンバーカードを読み取るためのICカードリーダーまたは対応スマートフォン
- マイナポータルアプリ
マイナンバーカード自体を持っていない場合、申請から取得まで一般に1〜2か月かかるとされているため(freee公式解説)、設立時期から逆算して早めに準備しておく必要があります。
使う前に知っておきたい3つの落とし穴
実際に使った利用者の記録として、株式会社NewBeginningsが公開しているブログでは、次の3つの注意点が挙げられています(同社公式ブログ、2026年版)。
- 電子定款を単独で先に済ませると、一括申請の流れに乗れなくなる。 紙の定款にかかる収入印紙代4万円(印紙税法、電子定款は課税文書に該当せず非課税)を節約するために電子定款だけを先に別で処理すると、「定款認証と登記を同時に申請する」というワンストップの前提が崩れ、結局は手続きが分かれてしまう
- 電子署名の環境でWindowsが必要になる場面がある。 ワンストップサービス自体はMacでも利用できるが、電子定款の署名を自分で行う場合、法務省の「登記・供託オンライン申請システム」がWindows専用のため、Mac中心の環境では別途用意が要る
- 社会保険の手続きが完全には一元化されていない。 健康保険・厚生年金保険の新規適用届はワンストップから申請できるが、被保険者の資格取得届や被扶養者異動届はe-Govからの別申請が必要になる(雇用保険の被保険者資格取得届はワンストップの対象に含まれる)
落とし穴の共通点は、「一括申請」というメリットは、決まった順番・決まった条件で使ったときにだけ発揮されるという点です。定款認証を先に単独で済ませてしまう、Mac環境で電子署名まで自分でやろうとする、社会保険の届出を全部これで終わらせようとする、といった順番のズレで恩恵が消えます。
合同会社の場合、メリットの中身が変わる
ここは見落とされがちな点です。株式会社は定款を公証役場で認証してもらう手続きが法律上必須ですが(会社法第30条第1項)、合同会社などの持分会社にはそもそも定款認証の規定がありません(会社法第575条、詳しくは株式会社の定款認証|合同会社との手間の差)。つまり合同会社で設立する場合、ワンストップサービスの目玉である「定款認証と設立登記を同時に申請する」というメリットはそもそも発生しません。合同会社にとってこのサービスの実利は、設立登記と、その後の税務署・自治体・年金事務所への届出をまとめて申請できる部分に限られます。株式会社での利用を前提にした解説記事を読むと定款認証の話が中心になりがちなので、合同会社で検討している場合は「自分には関係ない部分」と「関係ある部分」を区別して読む必要があります。
ワンストップサービスを使うか、代行サービスに頼むか
このサービスは無料で使える国の仕組みですが、入力項目は多く、法務局向けの登記申請書類や税務署向けの届出書は、書式や記載ルールを自分で理解した上で用意する必要があります。freeeやマネーフォワードなどの会社設立クラウドサービス(freeeとマネーフォワードの会社設立を比較)は、入力補助という形でこの負担を肩代わりする位置づけです。両者は競合するというより役割が異なり、クラウドサービスで書類一式を作成したうえで、提出そのものはワンストップサービス経由で行う、という組み合わせ方もできます。費用と手間のどちらを優先するかの判断軸は会社設立は自分でやるか代行に頼むかで整理したとおりです。「提出先をまとめる仕組み」と「書類を作る仕組み」は別物だと理解した上で、どちらか一方だけで完結させようとしないことが大切です。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点でまだ登記申請には至っておらず、法人設立ワンストップサービスを実際に使った経験はありません。マイナンバーカードは所持しているため利用条件自体は満たしていますが、上で書いたとおり合同会社には定款認証の手続きがないため、自分のケースでこのサービスから得られる実利は「登記と税務・社会保険届出のまとめ申請」の部分に限られると理解しています。実際に登記申請を進める段階になったら、届出がどこまでスムーズにまとまるのか、この記事に追記します。
次にやること
まず、自分が作ろうとしている法人が株式会社か合同会社かを確認し、対応するマイナンバーカードとICカードリーダー(またはスマートフォン)を用意してください。 株式会社で電子定款の印紙代を節約したい場合は、単独で先に電子定款だけを処理してしまうと一括申請のメリットが消える点に注意し、定款認証と登記をセットで申請する前提で準備を進めてください。社会保険の届出については、新規適用届以外はe-Govの別申請が必要になることを踏まえ、会社設立後の社会保険手続きも併せて確認しておくと手戻りが少なくなります。書類の作成そのものに不安がある場合は、freee会社設立のようなクラウドサービスで作成した書類を、提出はワンストップサービス経由で出す組み合わせも検討してください。
※本記事は2026年9月1日時点で調査した公開情報(freee公式解説、株式会社NewBeginnings公式ブログ)と、筆者個人の状況に基づくものです。マイナポータルの公式サイトへの直接アクセスは確認できていないため、実際の手続き画面や最新の対応範囲は利用時に公式サイト・専門家にご確認ください。
出典 - 法人設立ワンストップサービス|マイナポータル - マイナポータルの法人設立ワンストップサービスとは?手続きの種類や流れを解説!|クラウド会計ソフト freee - マイナポータルの「法人設立ワンストップサービス」を使ってみた|3つの落とし穴とつまずかない手順【2026年版】|株式会社NewBeginnings - 会社法 第30条第1項(株式会社の定款認証) - 会社法 第575条(持分会社の定款に認証規定が無いこと)