小規模企業共済と経営セーフティ共済
- 小規模企業共済は役員登記をした会社役員が加入でき(常時使用従業員は20人以下、商業・サービス業<宿泊業・娯楽業を除く>は5人以下)、掛金月額1,000〜70,000円が全額所得控除になる(小規模企業共済等掛金控除、中小機構)
- 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は「継続して1年以上事業を行っている」ことが加入条件で、設立直後の一人社長は原則加入できない(中小機構)
- 経営セーフティ共済は2024年10月1日以降に解約して再加入すると、解約の日から2年を経過する日までに支出する掛金を損金・必要経費に算入できない改正が入った(中小機構)
- 小規模企業共済は任意解約かつ掛金納付240か月(20年)未満だと元本割れし、12か月未満は掛け捨てになる(中小機構)
この記事の内容
この記事は、一人社長として会社を経営していて、「小規模企業共済」「経営セーフティ共済」という節税枠の名前は聞いたことがあるが、自分がどちらを・いつから使えるのか整理できていない人に向けて書いています。 結論から言うと、この2つは名前が似ていても中身は別物で、設立直後の一人社長がすぐに使えるのは小規模企業共済だけです。経営セーフティ共済には「事業を1年以上継続していること」という条件があり、設立したばかりの会社は原則対象外になります。この記事では、それぞれの加入資格・掛金・税制優遇・出口の仕組みと、一人社長としての使い分け方を整理します。
- 節税になると聞いて調べ始めたが、2つの制度の違いがよく分からない
- 一人社長でも入れるのか、会社を作ってすぐ入れるのか分からない
- 「解約すると元本割れする」と聞いて、途中でやめるとどうなるのか不安
結論:設立直後に使えるのは小規模企業共済だけ
小規模企業共済と経営セーフティ共済(正式名称:中小企業倒産防止共済)は、どちらも独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する制度ですが、設計の目的がまったく違います。 小規模企業共済は「経営者自身の退職金を積み立てる制度」、経営セーフティ共済は「取引先が倒産したときの連鎖倒産を防ぐための共済制度」です。そして加入条件にも違いがあります。小規模企業共済は役員登記をした会社役員であれば設立直後でも加入できますが(中小機構の加入資格ページに事業年数の条件はありません。2026年9月確認)、経営セーフティ共済は「継続して1年以上事業を行っている」ことが条件のため、設立したばかりの会社は原則として加入できません。 一人社長がまず検討できるのは小規模企業共済で、経営セーフティ共済は事業が1年続いた時点で改めて検討する制度、というのが実務上の順序になります。
「節税枠が2つあるから両方すぐ使える」わけではありません。 経営セーフティ共済には1年の実績要件があるため、設立直後は選択肢に入らない点を先に押さえておくと、無駄な検討時間を減らせます。
小規模企業共済とは何か
小規模企業共済は、小規模企業の個人事業主や会社役員が、廃業・退任にそなえて自分で退職金を積み立てる制度です(中小機構)。国が全額出資する中小機構が運営しており、加入者が毎月一定額の掛金を積み立て、廃業や退任のタイミングで共済金として受け取ります。会社員の退職金に相当するものを、経営者自身が自分で用意する仕組みと考えると分かりやすくなります。
小規模企業共済:一人社長が加入できる条件
加入資格は「常時使用する従業員の数が下の人数以下で、役員登記をして事業に従事している会社役員」です(中小機構の加入資格ページ、2026年9月確認)。
| 業種 | 常時使用する従業員数 |
|---|---|
| 建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業・宿泊業・娯楽業 | 20人以下 |
| 商業(卸売業・小売業)・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) | 5人以下 |
一人社長で従業員を雇っていない会社であれば、どちらの区分でもこの人数要件は満たします。
ただし注意点が1つあります。役員として登記されていることが条件です。 相談役・顧問など実質的な経営者とみなされる人でも、履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)に役員登記されていなければ加入できません。また、使用人兼務役員(従業員を兼ねている役員)は加入できないと同ページに書かれています(中小機構、2026年9月確認)。自社で役員登記を済ませた一人社長であれば、この条件は満たしやすい立場です。
小規模企業共済:掛金と節税の仕組み
掛金は月額1,000円から70,000円まで、500円刻みで自由に設定・増減できます(中小機構)。掛金月額は途中で500円単位で増額・減額でき、資金繰りが厳しいときは最低1,000円まで下げることもできます。ただし同じ月の中で再変更はできません(中小機構の掛金ページ、2026年9月確認)。
税制優遇の中心は、掛金の全額が所得控除になる点です(小規模企業共済等掛金控除)。役員報酬から掛金を積み立てると、その全額がその年の所得から差し引かれ、所得税・住民税の計算対象となる所得が小さくなります。掛金上限の月70,000円(年84万円)まで積み立てた場合、所得税・住民税を合わせた税率が20〜33%であれば、年間の節税額は目安としておよそ17万円〜28万円になります(84万円×20%=16.8万円、84万円×33%=27.72万円)。この税率の幅は、課税される所得金額が195万円超900万円以下の人を想定したものです。所得税は195万円超330万円以下で10%、330万円超695万円以下で20%、695万円超900万円以下で23%(国税庁の所得税速算表)、住民税の所得割は標準税率10%(総務省)なので、合計すると20〜33%になります。復興特別所得税(所得税額の2.1%。令和9年分以降は税率が1.1%に下がるが、同時に防衛特別所得税1%相当が新設されるため合計は変わらず、課税期間も令和29年分まで延長される。国税庁・財務省)や、政令指定都市の住民税の配分は含めていない概算です。自分の課税所得が実際にどの区分に当たるかは役員報酬の額や他の控除で変わるため、【各自確認:自分の課税所得がどの税率の区分に当たるか。国税庁の所得税速算表と、前年の住民税の決定通知書で確認。個別の金額は税理士へ】
現在の予定利率は年1.0%です(中小機構、2026年9月確認)。掛金は単なる貯金ではなく、この利率で運用されたうえで将来の共済金として戻ってくる仕組みです。また、掛金の範囲内で低利の貸付制度(一般貸付制度、2026年9月確認時点の利率は年1.5%)も用意されており、急な資金需要にも対応できます。
小規模企業共済:お金を受け取るとき(共済金と元本割れ)
積み立てた掛金は、請求する理由によって次の4種類に区分され、受け取れる金額の割合が変わります(中小機構)。
| 受取区分 | 主な該当ケース(法人役員の場合) |
|---|---|
| 共済金A | 法人が解散したとき |
| 共済金B | 病気・怪我による退任、65歳以上での退任、契約者本人が亡くなったとき |
| 準共済金 | 病気・怪我・65歳以上以外の理由で役員を退任したとき |
| 解約手当金 | 任意で解約したとき(掛金を12か月以上滞納して中小機構から解約されたときも含む) |
ここで押さえておくべきなのが、任意解約した場合の元本割れです。 掛金の納付が12か月未満のうちに解約すると解約手当金はなく、掛け捨てになります。 12か月以上では納付月数に応じて掛金合計額の80%から最高120%(720か月以上)となり、納付額以上になるのは掛金納付月数が240か月(20年)以上からです(中小機構の解約手当金の算定方法ページ、2026年9月確認)。20年未満で任意解約すると、払い込んだ額を下回る金額しか戻ってきません。長期の積立を前提とした制度であり、数年で解約する可能性がある人は、掛金額を無理のない範囲に抑えておくことが実務上のポイントになります。
経営セーフティ共済とは何か
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先事業者が倒産して売掛金などの回収が困難になった際に、連鎖倒産や経営難を防ぐために、無担保・無保証人・無利子で資金を借りられる共済制度です(中小機構)。小規模企業共済が「自分の退職金」を積み立てる制度なのに対し、経営セーフティ共済は「取引先の倒産リスクへの備え」が本来の目的で、掛金の損金算入・必要経費算入という税制優遇が副次的に付いている、という位置づけです。
経営セーフティ共済:設立1年未満は使えない
加入資格は「継続して1年以上事業を行っている中小企業者」であることです(中小機構)。設立直後の会社はこの1年要件を満たさないため、原則として加入できません。
つまり、会社員から独立して初めて法人を設立する一人社長の場合、設立から1年が経過するまでは経営セーフティ共済に加入できません。 これは小規模企業共済との一番大きな違いであり、「節税枠が2つある」と聞いて両方すぐ使おうとすると、ここでつまずくことになります。
経営セーフティ共済:掛金・貸付・2024年改正の注意点
加入できるようになった後の制度内容は次のとおりです。
- 掛金は月額5,000円から200,000円まで、5,000円刻みで設定でき、積立限度額は800万円(中小機構)
- 掛金は法人の場合は税法上の損金、個人事業の場合は事業所得の必要経費に算入できる
- 取引先事業者が倒産して売掛金などの回収が困難になった場合、無担保・無保証人・無利子で、掛金総額の10倍(上限8,000万円) まで借入れできる(回収困難となった債権額と、掛金総額の10倍のいずれか少ない額。中小機構)。ただし貸付を受けると、貸付額の10分の1に相当する掛金の権利が消滅する
- 任意解約した場合の解約手当金は、掛金納付月数12か月未満は掛け捨て(受取ゼロ)、12〜23か月で80%、24〜29か月で85%、30〜35か月で90%、36〜39か月で95%、40か月(3年4か月)以上で掛金全額(100%) が戻る(中小機構)
掛金は「損金算入」であって「非課税」ではありません。 掛金を損金に算入していた法人が解約手当金を受け取ると益金に、掛金を必要経費に算入していた個人事業主の場合は事業所得の収入金額になります(中小機構のよくあるご質問、2026年9月確認)。加入している間の税負担を将来に先送りする「課税の繰延べ」の効果が中心で、恒久的に税金が消えるわけではない点は誤解しやすいところです。
さらに2024年10月1日以降、共済契約を解約したあとに再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は、損金・必要経費に算入できなくなる改正が入りました(中小機構「税制の特例に関する内容の変更について」、2026年9月確認。同ページに適用除外の記載はありません)。再加入そのものができなくなったわけではなく、あくまで税務上の扱いが変わった点には注意が必要です。
2つの制度を比較する
| 項目 | 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 |
|---|---|---|
| 目的 | 経営者自身の退職金の積立 | 取引先倒産時の連鎖倒産防止 |
| 一人社長の加入資格 | 役員登記をした会社役員であれば設立直後から可(従業員20人以下。商業・サービス業<宿泊業・娯楽業を除く>は5人以下) | 事業を継続して1年以上行っていることが条件。設立直後は原則不可 |
| 掛金 | 月額1,000〜70,000円(500円刻み) | 月額5,000〜200,000円(5,000円刻み)、積立上限800万円 |
| 税制優遇 | 掛金全額が所得控除 | 掛金が損金・必要経費に算入(課税の繰延べ) |
| 元本割れの目安 | 任意解約かつ納付240か月(20年)未満で元本割れ | 任意解約かつ納付40か月(3年4か月)未満で元本割れ、12か月未満は掛け捨て |
| 受取時の課税 | 共済金・準共済金を一括で受け取ると退職所得。任意解約の解約手当金は65歳未満なら一時所得、65歳以上なら退職所得(中小機構) | 解約手当金は法人なら益金、個人事業主なら事業所得の収入金額(中小機構) |
一人社長はどう使い分けるか
設立直後の一人社長であれば、実務上の検討順序は次のようになります。
- 設立直後にまず検討できるのは小規模企業共済のみ。 役員報酬の額を決めたタイミングで、掛金をいくらに設定するかを合わせて検討する
- 経営セーフティ共済は、事業が1年続いた時点で改めて検討する。 それまでは加入資格自体が無いため、選択肢として考える必要はない
- どちらも「掛金を出せば税金が安くなる」だけの制度ではない点を踏まえる。 小規模企業共済は20年未満、経営セーフティ共済は40か月未満の解約で元本割れするため、事業のキャッシュフローに無理のない金額から始めるほうが安全
会社を作ったばかりの段階で優先度が高いのは、資金繰りを圧迫しない範囲で小規模企業共済の掛金を決めることで、経営セーフティ共済は将来の選択肢として頭の片隅に置いておく、という位置づけになります。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点でまだ登記は完了しておらず、小規模企業共済にも経営セーフティ共済にも加入していません。役員報酬の額もまだ確定させていないため、小規模企業共済の掛金をいくらにするかも未検討の段階です。経営セーフティ共済については、設立してから1年間は加入資格が無いことが調べて分かったので、当面は検討の対象外として頭から外しています。登記が完了し役員報酬を決めた段階で、小規模企業共済への加入と掛金額をこの記事に追記します。
計算例:月5万円を積み立てて、途中で解約するといくら戻るか
本文で確認できた数字だけを使った試算です。解約の時期で、戻る金額がこれだけ変わります。
| 解約の時期 | 払い込んだ合計 | 解約手当金 | 払込額との差 | 所得控除で軽くなった税(税率20〜33%) |
|---|---|---|---|---|
| 11か月目 | 55万円 | 0円(掛け捨て) | −55万円 | 11万〜18.15万円 |
| 12か月目 | 60万円 | 48万円(80%) | −12万円 | 12万〜19.8万円 |
| 240か月目(20年) | 1,200万円 | 1,200万円以上(100%以上) | ±0円以上 | 毎年12万〜19.8万円 |
前提: 月額50,000円を毎月納付し、11か月・12か月の行は1月から始めて同じ年の中で解約した場合とします。課税される所得金額は195万円超900万円以下(税率は所得税+住民税で20〜33%、復興特別所得税は含めない)。解約手当金の受取時にかかる税(一時所得または退職所得)は、この表に含めていません。支給率は中小機構の解約手当金の算定方法ページ(12か月未満は0%、12〜83か月は80%、240か月以上は100%以上)によります。
読み方: 12か月目に解約すると、払い込んだ60万円のうち12万円が戻りません。軽くなった税は12万〜19.8万円なので、差し引きは0円〜プラス7.8万円にとどまり、受取時の課税を考えるとこれより小さくなります。11か月目だと差し引きはマイナス約37万〜44万円です。短く使うほど、節税より損のほうが大きくなる制度です。自分の月額に置き換えるときは、表の「55万円」「60万円」を、月額×11・月額×12に読み替えてください。
次にやること
まず、自分の会社が設立から何年経っているかを確認してください。 設立直後であれば、経営セーフティ共済は検討する必要がなく、小規模企業共済への加入と掛金額の検討から始めることになります。掛金は役員報酬の額が決まってから無理のない範囲で設定するのが基本なので、まだ役員報酬を決めていない場合は、freee会社設立のような設立手続きサービスで会社の基本事項を先に固めたうえで、中小機構の公式サイトで最新の加入手続きを確認するとよいでしょう。
※本記事は2026年9月1日時点で調査した中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)公表情報と、筆者個人の状況に基づくものです。掛金額や解約のタイミングなど個別の判断は税理士にご確認ください。
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