個人事業の廃業手続き
- 法人成り後は個人事業の廃業手続きが別途必要で、「個人事業の開業・廃業等届出書」は廃業日から1か月以内に税務署へ提出する(所得税法229条、国税庁)
- 青色申告をしていた場合は「所得税の青色申告のとりやめ届出書」を廃業年の翌年3月15日までに提出
- 消費税の課税事業者だった場合は「消費税の事業廃止届出書」を速やかに提出(消費税法57条)
- 従業員がいた場合は「給与支払事務所等の廃止届出書」も必要
- 都道府県税事務所への事業廃止の届出は自治体ごとに期限が異なり、東京都は廃業日から10日以内と短い(複数の専門家サイトで確認。2026年9月確認)
- 国民健康保険から法人の健康保険への切り替えでは資格喪失届の提出が必要で、多くの自治体で期限は14日以内(名古屋市の例。自治体により異なる)
- 個人の事業用資産を法人へ引き継ぐ方法は売買・賃貸借・現物出資・贈与の4通りがあり、対価を伴う引き継ぎには消費税がかかる
- 廃業した年分についても通常どおり所得税の確定申告が必要(所得税法120条)
この記事の内容
この記事は、個人事業主として活動していた人が法人を設立(法人成り)したあと、「個人事業の側で何をしなければいけないのか」が分からず止まっている人に向けて書いています。 結論から言うと、法人成りしても個人事業は自動的には終わりません。税務署・都道府県・市区町村への届出、社会保険の切り替え、事業用資産の引き継ぎを、それぞれ別の手続きとして行う必要があります。以下、抜けやすい順に整理します。
- 会社は作ったが、もともとの個人事業をどう終わらせればいいか分からない
- 「廃業届」以外にも出すものがあると聞いたが、何がいくつあるのか把握できていない
- 健康保険や年金の切り替えを後回しにして、あとで面倒なことにならないか不安
結論:法人成りしても個人事業は自動的に終わらない
法人を設立すると、事業の実態は法人に移りますが、税務署・都道府県・市区町村の側では、個人事業主としての登録がそのまま残り続けます。個人事業側の「廃業」は、法人設立とは別に、自分で届け出て初めて完了します。
出す先は大きく3つです。税務署(国税)、都道府県税事務所(個人事業税)、市区町村(国民健康保険・国民年金)。それぞれ書類の名前と期限が違うため、次の見出しから順に整理します。
税務署へ出す届出|4種類ある
税務署に出す届出は、状況によって次の4種類まで増える可能性があります。
| 届出書 | 対象になる人 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 全員 | 廃業日から1か月以内(所得税法229条) |
| 所得税の青色申告のとりやめ届出書 | 青色申告をしていた人 | 廃業した年の翌年3月15日まで |
| 消費税の事業廃止届出書 | 消費税の課税事業者だった人 | 速やかに(消費税法57条) |
| 給与支払事務所等の廃止届出書 | 従業員を雇っていた人 | 廃業日から1か月以内(所得税法230条) |
「個人事業の開業・廃業等届出書」は、開業のときに出したものと同じ様式で、廃業の日から1か月以内に所轄税務署へ提出する義務が所得税法229条で定められています(国税庁)。この1枚は全員が対象です。
これに加えて、青色申告をしていた人は「取りやめ届出書」、消費税の課税事業者だった人は「事業廃止届出書」、従業員がいた人は「給与支払事務所等の廃止届出書」が、状況に応じて追加で必要になります。 自分がどれに該当するかを、廃業届と同時に確認しておくと出し漏れを防げます。
消費税の事業廃止届出書は「速やか」に、という表現にとどまり、開業・廃業等届出書のように「1か月以内」という明確な期限が定められているわけではありません。ただし、確定申告や次の課税期間の判定に関わるため、廃業届と同時に出しておくのが実務上の目安です。
都道府県・市区町村へ出す届出|期限が短い
税務署とは別に、個人事業税を管轄する都道府県税事務所にも、事業を廃止した旨の届出が必要です。この届出は、税務署の廃業届よりも期限が短い自治体があります。 例えば東京都は「事業開始(廃止)等申告書」を廃業の日から10日以内に提出することになっており(東京都主税局)、大阪府は「事業開始・変更・廃止申告書」を廃業した日から遅滞なく提出するとされています(大阪府。ただし廃止年分の個人事業税の申告自体は廃止日から1か月以内)。自治体ごとに様式・期限が異なるため、実際の提出前に管轄の都道府県税事務所に確認してください(2026年9月確認)。
市区町村への届出は、主に後述する国民健康保険・国民年金の切り替えに関わるものになります。個人事業税の廃止届と、健康保険・年金の切り替えは別窓口になっている自治体が多いため、役所に行く際は両方まとめて手続きできるか事前に確認しておくと二度手間を避けられます。
社会保険の切り替え|国保から法人の保険へ
法人成りすると、個人事業主本人は新しく設立した法人の役員になり、法人が社会保険の適用事業所として届出をすれば、健康保険・厚生年金保険に加入することになります。これにともない、それまで加入していた国民健康保険・国民年金(第1号被保険者)から抜ける手続きが必要です。
国民健康保険は、法人の健康保険に加入したからといって自動的に脱退になるわけではなく、市区町村役場に「国民健康保険資格喪失届」を提出して初めて脱退が確定します。提出期限は自治体によって定められており、名古屋市の例では職場の健康保険への加入にともなう資格喪失届の提出期限は14日以内とされています(名古屋市公式サイト。他の自治体でも同様の期限を設けている例が複数あります。自治体ごとの確認が必要)。届出には、法人の健康保険証のコピーや資格取得を証明する書類の添付が求められるのが一般的です。
手続きを後回しにすると、国民健康保険料の請求が止まらなかったり、保険証が二重に有効な状態になったりする可能性があります。 法人の健康保険証が手元に届いたら、早めに市区町村役場で資格喪失の手続きを済ませておくことをおすすめします。国民年金についても、日本年金機構への種別変更の手続きが必要になる場合があります(日本年金機構)。
個人の事業用資産を法人へ引き継ぐ方法
個人事業で使っていた在庫・什器備品・車両などの資産は、法人を作っただけでは自動的に法人のものにはなりません。個人から法人へ引き継ぐには、売買・賃貸借・現物出資・贈与のいずれかの契約形式を選ぶ必要があります(複数の税理士事務所サイトで確認)。
| 引き継ぎ方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 売買契約 | 個人が法人に資産を売却する | 法人側に買い取り資金が必要。対価が発生するため消費税の課税対象になり得る |
| 賃貸借契約 | 個人が資産を法人に貸す | 法人が個人に賃料を支払う。賃料にも消費税がかかり得る |
| 現物出資 | 資産そのものを法人の資本金に充てる | 手続きがやや複雑になりやすい |
| 贈与 | 対価なしで法人に譲る | 対価がないため消費税はかからないが、個人側の税務上の扱いに注意が必要 |
対価を伴う売買・賃貸借・現物出資では、原則として消費税の課税対象になります(複数の税理士事務所サイトで確認)。また、賃貸物件やリース契約、営業許可などは個人事業主名義のままでは法人に引き継げず、法人名義で新たに契約・取得し直す必要がある点にも注意してください。
どの方法を選ぶかによって、個人側・法人側それぞれの税務処理が変わります。資産の種類と金額によって有利・不利が変わるため、この判断だけは税理士に相談してから決めることをおすすめします。
廃業した年も確定申告は必要
個人事業を廃業したからといって、その年の確定申告が不要になるわけではありません。廃業した年の1月1日から廃業日までの所得についても、通常どおり翌年2月16日から3月15日の期間に所得税の確定申告を行う義務があります(所得税法120条)。消費税の課税事業者だった場合は、消費税の確定申告も同様に必要です。
法人の初年度決算と、個人事業の最終年分の確定申告が、時期として重なることがあります。両方を並行して準備することになるため、廃業のタイミングでどちらも見落とさないようにしてください。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ設立登記が完了しておらず、個人事業として活動した実績も、廃業届を出した経験もありません。そのため、この記事は自分の手続き記録ではなく、所得税法・消費税法の条文と、複数の税理士事務所・専門家サイトの公開情報をもとにした「調査した範囲では」の整理です。
将来、実際に個人事業を経て法人成りする場面があれば、その時に出した届出と実際にかかった期限の実感を、この記事に実体験として追記します。
次にやること
まず、税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を廃業日から1か月以内に出せているかを確認してください。 そのうえで、青色申告をしていたか・消費税の課税事業者だったか・従業員を雇っていたかの3点を自分でチェックし、該当するものがあれば追加の届出書も揃えます。都道府県税事務所への届出は自治体によって10日程度と期限が短い場合があるため、税務署の届出と同時並行で進めてください。健康保険証が法人のものに切り替わったら、国民健康保険の資格喪失届も忘れずに市区町村役場で提出してください。判断に迷う資産の引き継ぎ方法については、早めに税理士に相談することをおすすめします。
※本記事は2026年9月時点で確認できた国税庁の公式ページおよび複数の税理士事務所・専門家サイトの解説記事、筆者個人の状況に基づく調査整理です。都道府県税事務所への届出期限、国民健康保険の資格喪失届の期限は自治体により異なるため、実際の手続き前には必ず所轄の税務署・都道府県税事務所・市区町村役場、または税理士に最新の情報を確認してください。この記事は一般的な整理であり、個別の税務・法律相談の代わりにはなりません。
出典 - 所得税法第229条(事業の開廃業等の届出) - 所得税法第230条(給与等の支払をする事務所の開設等の届出) - 所得税法第120条(確定所得申告) - 消費税法第57条(小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出等) - A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁(廃業日から1か月以内の提出期限を確認) - 廃業する場合|国税庁(青色申告のとりやめ届出書・消費税の事業廃止届出書・給与支払事務所等の廃止届出書の記載を確認) - 廃業届は必要?個人事業主が法人化(法人成り)する際に押さえるべき手続きと注意点|経理ドリブン(税務署・都道府県税事務所への届出、青色申告のとりやめ届出書の期限を確認) - 個人事業主は廃業届をいつ出すべき?その書き方と廃業方法|小谷野税理士法人(都道府県税事務所への届出期限が自治体により異なる旨を確認) - 【電子届出】国民健康保険被保険者資格喪失届(職場の健康保険への加入に伴う資格喪失)|名古屋市公式ウェブサイト(電子届出の手続きページ) - 国民健康保険の加入・脱退|名古屋市公式ウェブサイト(資格喪失届の提出期限14日以内の記載を確認) - 事業開始(廃止)等申告書(個人事業税)|東京都主税局(廃止から10日以内の提出期限を確認) - 個人が事業を廃止するときは、府税事務所への届けが必要ですか。|大阪府(廃止から遅滞なくの提出期限を確認) - 国民健康保険等へ切り替えるときの手続き|日本年金機構 - 法人成りで個人事業主の資産を引き継ぐ方法は?資産の種類、注意点も解説!|小谷野税理士法人(資産引き継ぎ4方法・消費税の課税関係を確認) - 【実践的】法人成りの4つの資産引継ぎ方法|事例や注意点まで解説|HT税理士法人(同上)