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消費税の簡易課税と本則課税

この記事の結論
  • 簡易課税制度は基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できる(消費税法第37条、国税庁)
  • みなし仕入率は事業区分によって90%(卸売業)から40%(不動産業)まで6段階(消費税法第37条、消費税法施行令第57条、国税庁)
  • 簡易課税の適用をやめる場合、選択の効力が生じた課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ不適用届出書を提出できない(消費税法施行令第57条の2、国税庁)
  • 新設法人は事業を開始した課税期間の末日までに届出書を提出すればその課税期間から適用を受けられる(消費税法第37条第1項、消費税法施行令第56条第1項第1号、国税庁)
  • インボイス登録により免税事業者から課税事業者になった小規模事業者向けの「2割特例」は2026年9月30日を含む課税期間までが対象(国税庁)
この記事の内容
  1. 結論:「みなし仕入率」と実際の経費率を比べて決める
  2. 簡易課税とは何か、本則課税と何が違うか
  3. 簡易課税を選べる条件:基準期間の課税売上高5,000万円以下
  4. 事業区分とみなし仕入率
  5. 一人法人のサービス業で簡易課税が有利になりやすい理由
  6. 本則課税が有利になるケース:設備投資と還付
  7. 届出のタイミングと2年間の継続適用ルール
  8. インボイス登録した設立初期は「2割特例」が先に来る
  9. 判断の分かれ目
  10. 実体験について、正直に書きます
  11. 次にやること

この記事は、一人で法人を経営していて、消費税の申告を「簡易課税」にすべきか「本則課税(原則課税)」のままにすべきか迷っている人に向けて書いています。 結論から言うと、どちらが得かは事業区分ごとの「みなし仕入率」と、自社の実際の経費率を比べて決まります。以下、両者の仕組みの違い、簡易課税を選べる条件、事業区分ごとのみなし仕入率、どちらが有利になりやすいかの判断軸、届出のタイミングと2年間の継続適用ルールの順に整理します。

こんな状態ではありませんか
  • 簡易課税と本則課税、結局どちらが自分の会社にとって得なのか計算の仕方が分からない
  • 一人社長のサービス業だと簡易課税が有利だと聞いたが、根拠が分からない
  • 届出のタイミングを逃すと1年待つことになると聞いて、いつまでに何をすればいいのか不安

結論:「みなし仕入率」と実際の経費率を比べて決める

簡易課税制度は、基準期間(原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できる、消費税の簡便な計算方法です(消費税法第37条、国税庁)。選べるかどうかは売上規模だけで決まりますが、選んだほうが得かどうかは業種ごとに定められた「みなし仕入率」と、自社の実際の経費率(課税仕入れの割合)のどちらが高いかで決まります。 経費率がみなし仕入率より低い会社は簡易課税のほうが納税額が少なくなり、経費率がみなし仕入率より高い会社、あるいは大きな設備投資をする年は本則課税のほうが得になります。

ここが要点

「一人社長は簡易課税が得」という単純な話ではありません。 経費がほとんどかからないサービス業なら有利になりやすい傾向はありますが、最終的には自分の会社の実際の数字で比較する必要があります。

簡易課税とは何か、本則課税と何が違うか

消費税の納税額は、原則として「売上にかかった消費税額」から「仕入れ・経費にかかった消費税額」を差し引いて計算します。この原則的な計算方法を本則課税(原則課税)と呼びます。本則課税では、日々の取引ごとに課税仕入れかどうかを判定し、インボイス(適格請求書)を保存して集計する手間がかかります。

これに対して簡易課税は、実際の課税仕入れを集計せず、売上にかかる消費税額に業種ごとに定められた「みなし仕入率」を掛けて、控除できる金額をみなしで決める計算方法です(消費税法第37条)。実際の経費がいくらだったかにかかわらず、みなし仕入率だけで納税額が決まるため、経理の負担が本則課税より軽くなります。

簡易課税を選べる条件:基準期間の課税売上高5,000万円以下

簡易課税制度を選択できるのは、基準期間(法人の場合は原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の事業者に限られます(消費税法第37条、国税庁「簡易課税制度」)。基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた課税期間は、簡易課税を選択する届出をしていても自動的に本則課税に戻ります。

なお、設立1期目・2期目のように基準期間が存在しない新設法人は、この5,000万円という上限の判定対象になる基準期間自体がないため、資本金1,000万円未満であれば別途、消費税自体が免除される制度があります。この免税の仕組みについては設立から2年間の消費税免税|インボイスでどう変わったかで整理しています。簡易課税を検討するのは、免税の対象外になった課税期間、またはインボイス登録によって自ら課税事業者になった課税期間からです。

事業区分とみなし仕入率

簡易課税のみなし仕入率は、事業の内容によって6段階に区分されています(消費税法第37条、消費税法施行令第57条、国税庁「簡易課税制度の事業区分」)。

事業区分 みなし仕入率 該当する事業の例
第一種事業 90% 卸売業
第二種事業 80% 小売業、飲食料品を扱う農林漁業
第三種事業 70% 農林漁業(飲食料品以外)、鉱業、建設業、製造業
第四種事業 60% 第一種〜第三種・第五種・第六種のいずれにも該当しない事業(飲食店業など)
第五種事業 50% 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く)
第六種事業 40% 不動産業

複数の事業を一つの法人で営んでいる場合は、売上を事業区分ごとに区分して記帳し、それぞれのみなし仕入率で計算するのが原則です。区分していない売上がある場合は、その部分については最も低いみなし仕入率が適用される取り扱いになっているため、複数事業を行う一人法人ほど、売上の区分管理をきちんとしておく価値があります(国税庁「簡易課税制度の事業区分」)。

一人法人のサービス業で簡易課税が有利になりやすい理由

一人社長のコンサルティング業・IT系の受託業務・士業など、いわゆる第五種事業(サービス業)に該当する業態は、みなし仕入率が50%です。外注費や仕入原価がほとんどかからず、経費の大半が家賃・通信費・ソフトウェア利用料といった固定費中心の会社の場合、実際の課税仕入れの割合が50%を下回ることが多く、簡易課税のほうが本則課税より納税額が少なくなる傾向があります。

仮に、税抜売上1,000万円、実際の課税仕入れ(外注費・経費)が300万円の第五種事業(みなし仕入率50%)の会社があるとします(標準税率10%で試算)。

  • 本則課税:売上にかかる消費税100万円 − 仕入にかかる消費税30万円 = 納税額70万円
  • 簡易課税:売上にかかる消費税100万円 ×(1 − 50%)= 納税額50万円

この例では、簡易課税を選んだほうが20万円納税額が少なくなります。この差が生まれる理由は、実際の経費率(30%)がみなし仕入率(50%)より低いためです。 逆に、実際の経費率がみなし仕入率を上回る年があれば、本則課税のほうが得になります。

本則課税が有利になるケース:設備投資と還付

簡易課税が常に有利とは限りません。大きな設備投資(パソコン・車両・オフィス什器など高額な課税仕入れ)をする課税期間は、本則課税であれば実際に払った消費税額を全額控除でき、場合によっては消費税の還付を受けられます。 簡易課税ではみなし仕入率でしか控除できないため、こうした年に簡易課税を選んでいると、本則課税なら受けられたはずの還付を受けられません。

さらに、調整対象固定資産や高額特定資産(一定額以上の設備投資)を取得した場合には、その取得した課税期間から一定期間、簡易課税制度選択届出書を提出できない、あるいは簡易課税の適用を受けられない制限が別途設けられています(消費税法第37条第3項、国税庁)。大きな設備投資を予定している課税期間がある場合は、簡易課税を選ぶ前にこの制限に触れないかを確認する必要があります。

届出のタイミングと2年間の継続適用ルール

簡易課税制度の適用を受けるには、原則として適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります(消費税法第37条第1項、国税庁)。決算月をまたいでからでは、その期には間に合いません。

ただし、新設法人については特例があります。 事業を開始した日の属する課税期間(設立事業年度)については、その課税期間の末日までに届出書を提出すれば、その課税期間から簡易課税の適用を受けられます(消費税法第37条第1項、消費税法施行令第56条第1項第1号、国税庁)。設立初年度から簡易課税を使いたい場合は、この特例を使えば決算日を待たずに届出できます。

もう一つ注意が必要なのが、いったん簡易課税を選択すると、最低2年間は本則課税に戻れないというルールです。事業を廃止した場合を除き、選択の効力が生じた課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、簡易課税をやめる「不適用届出書」を提出できません(消費税法施行令第57条の2、国税庁)。設備投資の予定がある年が近いうちに来る見込みなら、簡易課税を選ぶ前にその年のことも織り込んでおく必要があります。

インボイス登録した設立初期は「2割特例」が先に来る

免税事業者だった一人法人が、インボイス登録(適格請求書発行事業者の登録)によって自ら課税事業者になった場合、簡易課税の届出をしていなくても使える「2割特例」という負担軽減措置があります。これは売上にかかる消費税額の2割を納税額にできる制度で、事実上みなし仕入率80%の簡易課税を選んだのと近い効果になります。ただしこの2割特例は2026年9月30日を含む課税期間までが対象です(国税庁「2割特例の概要」)。インボイス登録と簡易課税の関係の詳細はインボイス登録は設立時にやるか|免税の恩恵と取引先の都合で整理しています。

ここが要点

設立して間もない一人法人がインボイス登録した場合、2割特例が使える期間は、簡易課税の届出を急ぐ必要は基本的にありません。 2割特例のほうがみなし仕入率が高く有利なことが多いため、2割特例が終わる課税期間を見据えて、そこから簡易課税に切り替えるか本則課税にするかを検討する順番になります。

判断の分かれ目

状況 選び方の目安
基準期間の課税売上高が5,000万円を超える見込み 簡易課税は選べない。本則課税一択
実際の経費率が事業区分のみなし仕入率より低い(粗利が高いサービス業) 簡易課税のほうが納税額が少なくなりやすい
実際の経費率がみなし仕入率より高い、または高額な設備投資を予定している年がある 本則課税のほうが有利になりやすい(還付の可能性も)
インボイス登録によって課税事業者になったばかりで、2026年9月30日を含む課税期間内 2割特例を優先し、簡易課税の届出は急がない
経理を自分一人でやっていて、日々の課税仕入れの集計にかける時間を減らしたい 事務負担の軽さを優先するなら簡易課税

自分の事業区分のみなし仕入率、実際の経費率、直近の設備投資予定の3つを並べて、どのパターンに当てはまるかを確認するのが判断の出発点になります。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点でまだ登記は完了しておらず、簡易課税と本則課税のどちらを選ぶかも決めていません。想定している事業はコンサルティング・情報発信に近いため第五種事業(みなし仕入率50%)に該当する見込みですが、外注をどの程度使うかがまだ固まっていないため、実際の経費率がみなし仕入率を上回るのか下回るのか、この記事を書いている段階では試算できていません。数字が見えてきた段階で、実際にどちらを選んだか、その理由をこの記事に追記します。

次にやること

まず、自分の事業がどの事業区分に該当するか(国税庁「簡易課税制度の事業区分」)を確認し、そのみなし仕入率と、直近1年の実際の経費率(課税仕入れ ÷ 売上)を並べて比べてください。 みなし仕入率のほうが高ければ簡易課税、実際の経費率のほうが高い、または近い将来に大きな設備投資を予定していれば本則課税が候補になります。すでにインボイス登録をして間もない場合は、2026年9月30日を含む課税期間内であれば2割特例が使えないかを先に確認してください。届出のタイミングを自分で管理する自信がない場合は、freee会社設立のような会計ソフトの申告機能を使うと、簡易課税・本則課税それぞれの試算を早い段階で確認できます。


※本記事は2026年9月4日時点で調査した内容と、筆者個人の状況に基づくものです。簡易課税と本則課税のどちらが有利かは、事業区分の判定・実際の経費構成・設備投資の予定によって個別に変わるため、実際の選択は税理士または税務署にご確認ください。

出典 - 消費税法 第37条(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例=簡易課税制度。第1項に新設法人等の届出時期の特例、第3項に調整対象固定資産・高額特定資産取得時の届出制限を含む) - 消費税法施行令 第56条(事業を開始した日の属する課税期間等の範囲=新設法人特例の対象となる課税期間の定義) - 消費税法施行令 第57条(事業区分及びみなし仕入率) - 消費税法施行令 第57条の2(簡易課税制度の選択をやめる場合の届出の特例=2年間の継続適用) - No.6505 簡易課税制度|国税庁(2026年9月4日確認。適用要件・届出のタイミング・2年間の継続適用ルールを確認) - No.6509 簡易課税制度の事業区分|国税庁(2026年9月4日確認。第一種〜第六種の事業区分とみなし仕入率を確認) - D1-22 消費税簡易課税制度選択届出手続|国税庁(2026年9月4日確認。届出書の提出時期、新設法人の特例に関する案内を確認) - 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要|国税庁(2026年9月4日確認。2割特例の対象期間が2026年9月30日を含む課税期間までであることを確認) - 設立から2年間の消費税免税|インボイスでどう変わったか(基準期間がない新設法人の免税制度との関係を参照) - インボイス登録は設立時にやるか|免税の恩恵と取引先の都合(インボイス登録と簡易課税の関係を参照)

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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