電子帳簿保存法の最小対応
- 電子帳簿保存法で義務化されているのは「電子取引データの保存」だけで、会計帳簿の電子化やスキャナ保存は任意(電子帳簿保存法第7条)
- 令和6年(2024年)1月1日から電子取引データの電子保存が完全義務化された(令和4〜5年は宥恕措置)
- 保存要件は真実性の確保(タイムスタンプ・訂正削除履歴が残るシステム・事務処理規程のいずれか。電子帳簿保存法施行規則第4条第1項)と可視性の確保(検索機能など。同施行規則第2条第2項・第6項第5号)の2本立て
- 一人会社の最小対応は「国税庁の事務処理規程サンプルを備え付ける」+「ファイル名を規則的にしてフォルダ保存する」で足りるケースが多い
- 基準期間(前々事業年度)の売上高が5,000万円以下なら検索機能の確保そのものが不要になり(同施行規則第4条第1項柱書)、税務調査等でダウンロードの求めに応じられればよい
- 要件を満たせなくても「相当の理由」があり、ダウンロードの求め・出力書面の提示提出に応じられれば保存自体は認められる猶予措置(同施行規則第4条第3項)があり、令和6年1月1日以降は恒久的な措置になっている
この記事の内容
この記事は、一人社長の合同会社・株式会社を設立(または設立準備中)で、「電子帳簿保存法」という名前は聞いたことがあるが何をすればいいか分からない人に向けて書いています。 結論から言うと、一人会社が対応を迫られているのは会計帳簿の電子化ではなく「メールやサイトでやり取りした請求書・領収書などのデータを、データのまま保存すること」の1点だけです(電子帳簿保存法第7条)。以下、義務の範囲、保存要件、一人会社の最小対応、検索要件が不要になる特例の順に整理します。
- 「電子帳簿保存法」で何もかも電子化しないといけないと思い込み、手が止まっている
- 請求書をPDFで受け取っているが、印刷して紙で保存すれば済むと思っていた
- 対応を怠るとどうなるのか、どこまでやれば十分なのかが分からない
結論:義務なのは「電子取引データの保存」だけ
電子帳簿保存法には3つの制度がありますが、法律で保存を義務づけられているのは「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」(電子帳簿保存法第7条)、いわゆる電子取引データ保存だけです。会計帳簿をデータのまま保存すること(電子帳簿等保存)や、紙の請求書をスキャンして保存すること(スキャナ保存)はどちらも任意で、これまで通り紙のまま保存しても問題ありません。
「電子帳簿保存法対応」と聞いて会計ソフトの入れ替えやスキャナ導入を思い浮かべる人が多いですが、それは任意の部分です。 一人会社が最低限やらなければならないのは、メール添付やクラウドサービスからダウンロードした請求書・領収書などを、紙に印刷して終わりにせず、データのまま保存することだけです。この違いを取り違えると、不要な作業に時間を使うことになります。
電子帳簿保存法には3つの制度がある
| 制度 | 対象 | 義務か任意か |
|---|---|---|
| 電子帳簿等保存 | 自分で作成した会計帳簿・決算書類等をデータのまま保存 | 任意 |
| スキャナ保存 | 紙で受け取った請求書・領収書等をスキャンして保存 | 任意 |
| 電子取引データ保存 | 最初からデータでやり取りした取引情報(請求書PDF等)の保存 | 義務(電子帳簿保存法第7条) |
会計帳簿を紙の帳簿(または紙に打ち出した状態)で管理し続けても法律上の問題はありませんし、紙で受け取った請求書をわざわざスキャンして電子化する必要もありません。一人会社が向き合う必要があるのは、上表いちばん下の「電子取引データ保存」だけです。
何が「電子取引」に当たるか
電子取引とは、取引情報(注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などに通常記載される事項)を電磁的方式でやり取りする取引のことです。一人会社の日常業務では、次のようなものが該当します。
- メールに添付されて届いた請求書・領収書のPDF
- クラウド請求書発行サービス(Misoca、freee請求書など)で発行した請求書の控え
- Amazonや各種ECサイトでダウンロードする領収書・購入明細
- クレジットカード・銀行のWeb明細(取引情報が記載されているもの)
- FAXをインターネットFAXサービス等でデータのまま受信した場合
これらは「最初からデータでやり取りしたもの」であるため、紙に印刷して保存するだけでは電子帳簿保存法の要件を満たしません。データそのものを保存しておく必要があります。逆に、取引先から紙で受け取った請求書は電子取引には当たらないため、これまで通り紙のまま保存すれば足ります。
保存の要件は2つ|真実性の確保と可視性の確保
電子取引データを保存する際は、次の2つの要件を満たす必要があります。真実性の確保は電子帳簿保存法施行規則第4条第1項、可視性の確保は同施行規則第2条第2項・第6項第5号がそれぞれの根拠です。
真実性の確保(以下のいずれか1つを満たせばよい。施行規則第4条第1項各号)
- タイムスタンプが付された後のデータを受け取る(第1号)
- データを受け取った後、速やかにタイムスタンプを付す(第2号)
- 記録の訂正・削除を行った場合にその事実と内容を確認できる、または訂正・削除ができないシステムでデータを授受・保存する(第3号)
- 正当な理由がない訂正・削除を防止する事務処理規程を定め、これに沿って運用する(第4号)
可視性の確保
- 保存場所にパソコン・プログラム・ディスプレイ・プリンタ及び操作説明書を備え付け、画面や書面に整然かつ明瞭な状態で出力できるようにする(施行規則第2条第2項)
- 取引年月日・取引金額・取引先の3項目で検索できる機能を確保する(同条第6項第5号)(ただし、税務職員からのデータのダウンロードの求めに応じられる場合は、日付・金額の範囲指定検索や複数項目の組み合わせ検索までは不要)
一人会社にとって現実的な選択肢は、真実性の確保の4つの方法のうち「4」の事務処理規程です。 タイムスタンプの付与にはコストがかかり、訂正削除履歴が残るシステムの導入も過剰投資になりがちですが、事務処理規程は書類を1つ作って備え付けるだけで満たせます。
一人会社の最小対応|事務処理規程+ファイル名ルール
一人会社が電子帳簿保存法の要件を満たすための、現実的な最小対応は次の2つです。
1. 国税庁の事務処理規程サンプルを使って備え付ける
国税庁は「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」のひな形を法人用・個人事業者用に分けてWord形式で公開しています。法人用は目的・適用範囲・管理責任者・電子取引の範囲・保存方法・訂正削除の禁止と手続き等の項目で構成され、個人事業者用はより簡素な構成です。一人社長であっても法人であれば法人用を使い、代表者の名前や会社名など必要箇所を書き換えて備え付ければ、真実性の確保の要件を満たせます。タイムスタンプの費用も専用システムの導入も不要です。
2. ファイル名を規則的にしてフォルダに保存する
可視性の確保(検索機能)は、専用システムを使わなくても、クラウドストレージ(Google Drive、Dropboxなど)にフォルダを作り、ファイル名を「日付_取引先_金額」のように統一して保存すれば、OSやストレージサービス標準の検索機能で条件検索ができる状態を作れます。年度別・取引先別にフォルダを分けておけば、税務調査等でデータの提示を求められた際にもすぐに対応できます。
この2点、つまり「事務処理規程を備え付ける」と「規則的なファイル名でデータを保存する」を実行しておけば、専用の電子帳簿保存法対応システムを導入しなくても、一人会社としての最低限の対応は成立します。
検索要件そのものが不要になる特例|売上高5,000万円以下
さらに一人会社にとって重要な特例があります。判定期間の基準期間(法人の場合は前々事業年度)の売上高が5,000万円以下の事業者は、可視性の確保のうち検索機能の確保そのものが不要とされています(電子帳簿保存法施行規則第4条第1項柱書)。この場合、税務調査等の際にデータのダウンロードの求めに応じることができれば、検索できる状態を整えていなくても要件を満たしたものとして扱われます。
設立直後の一人会社は、前々事業年度の実績がまだ無いか、あっても売上高5,000万円を超えることはまれです。多くの一人会社はこの特例の対象になり、検索機能の整備まで考える必要はなく、「データを消さずに、聞かれたら出せる状態にしておく」ことが実質的な最低ラインになります。
対応できていなくても即アウトではない|相当の理由による猶予措置
電子取引データの電子保存は、令和4年(2022年)1月1日の施行後、令和4〜5年は「宥恕(ゆうじょ)措置」として紙保存も一定条件のもとで認められていましたが、令和6年(2024年)1月1日からは電子取引データを電子保存すること自体が本格的に義務化されています。
ただし、これに代わる「相当の理由による猶予措置」が令和6年1月1日以降、恒久的な措置として設けられています(電子帳簿保存法施行規則第4条第3項)。保存要件(真実性・可視性の確保)に従って保存できなかったことについて税務署長が相当の理由があると認め、かつ、税務調査等の際にデータのダウンロードの求めと、そのデータを出力した書面の提示・提出の求めのいずれにも応じられる状態にしていれば、保存要件を満たしていなくても電子データの保存自体は認められます。
この猶予措置は「何もしなくていい」という意味ではありません。 データそのものは必ず保存しておく必要があり、猶予されるのはタイムスタンプや検索機能といった保存要件の部分です。「対応が間に合っていない今すぐの救済策」ではなく、「まずデータを消さずに残しておけば、細かい要件を完璧にできていなくても即座にアウトにはならない」という位置づけで理解しておくとよい部分です。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ登記が完了しておらず、実際に電子取引データを日常的に受け取って保存する業務は始まっていません。クラウド請求書発行サービスの利用を検討する中で、発行控えの保存方法をどう設計するかを調べる過程でこの記事の内容を整理しました。したがって、実際に税務調査でダウンロードの求めを受けた経験や、事務処理規程を実運用した経験を書いているわけではないことを断っておきます。事業年度が始まり、実際にデータの保存運用を始めた段階で、つまずいた点があれば追記します。
次にやること
まず、直近1〜2か月にメールやクラウドサービスで受け取った請求書・領収書のPDFを、印刷しただけで終わらせていないか確認してください。 印刷だけで済ませていたデータがあれば、まだ手元にファイルが残っているうちにクラウドストレージへ保存し直します。次に、国税庁の事務処理規程サンプル(法人用)をダウンロードして、会社名・代表者名など必要箇所を書き換えて備え付けてください。前々事業年度の売上高が5,000万円以下であれば、検索機能まで整える必要はなく、この2点で一人会社としての最低限の対応は完了します。
※本記事は2026年9月6日時点で調査した内容と、筆者個人の状況に基づくものです。国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和8年7月版)PDFの本文(問1・問18・問19・問30〜33・問51・問89〜93)を直接確認し、条文番号・要件・特例の内容を照合しました。事務処理規程についても、国税庁が公開する法人用サンプル(Word)を実際にダウンロードして構成を確認しています。実際の対応要否や事務処理規程の内容は、事業の実態によって変わるため、対応前に顧問税理士にご確認ください。
出典 - 電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)第7条(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存) - 電子帳簿保存法施行規則 第4条第1項(真実性の確保の要件・基準期間の売上高5,000万円以下の特例)、第3項(相当の理由による猶予措置)、第2条第2項・第6項第5号(可視性の確保・検索要件) - 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)|国税庁(2026年9月6日確認。問1・問18・問19・問30〜33・問51・問89〜93の本文を確認) - 参考資料(電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程 法人の例・個人事業者の例)|国税庁(2026年9月6日確認。法人用サンプルの構成を実際に確認)