法人の火災保険・賠償責任保険
- 法人に火災保険への加入を義務づける法律は見当たらない(2026年9月確認)
- 賃貸借契約では貸主が借家人賠償責任保険を含む火災保険への加入を契約条件にしているケースが一般的(業界解説サイトの整理)
- 借主の失火については「失火ノ責任ニ関スル法律」(明治32年法律第40号)により軽過失なら民法709条の不法行為責任は問われないが、賃貸借契約上の原状回復義務(債務不履行責任・民法415条)には失火責任法が適用されないため、借主は大家への賠償責任を免れない(全日本不動産協会の解説)
- 施設賠償責任保険は来客・従業員への対人・対物事故に備える保険で、火災保険とは補償範囲が別
- 製造業・販売業向けのPL保険は「中小企業PL保険制度」が2020年6月に終了しビジネス総合保険制度へ一本化された(商工会議所会員向け保険制度サイトの案内)
この記事の内容
この記事は、会社を設立したばかりで「保険は何に入ればいいのか」が分からない一人社長・小規模法人向けに書いています。 結論から言うと、法人に火災保険への加入を義務づける法律はありません。 ただし賃貸オフィス・賃貸店舗を借りている場合は、契約上ほぼ確実に加入を求められます。この記事では、法律上の建付けと、実務でまず検討すべき保険の種類を整理します。
- 会社を作ったが、火災保険や賠償責任保険に入る義務があるのか分からない
- 賃貸オフィスの契約書に「借家人賠償責任保険」という聞き慣れない言葉があり、何を守る保険か分からない
- 保険会社に相談する前に、自分の事業にどの保険が必要かの当たりをつけておきたい
結論:火災保険そのものに法律上の加入義務はない
会社法・保険業法などを確認した範囲では、法人に火災保険や賠償責任保険への加入を義務づける法律は見当たりません(2026年9月確認)。 個人事業でも法人でも、自社ビル・自宅兼事務所であれば、火災保険に入るかどうかは経営判断です。
ただし現実には、次の2つの場面でほぼ強制的に検討が必要になります。
- 賃貸オフィス・賃貸店舗を借りている場合:貸主との賃貸借契約で、火災保険(借家人賠償責任保険付き)への加入が契約条件になっているのが一般的です
- 来客・従業員・取引先を事業所に入れる場合:法律上の義務ではなくても、事故が起きたときの賠償金は保険なしでは会社の資金繰りを直撃します
つまり「法律の義務」ではなく「契約上の義務」と「経営リスクへの備え」の2つの理由で、多くの法人が結局は何らかの保険に入ることになります。
賃貸オフィスなら「借家人賠償責任保険」が事実上必須級
賃貸オフィス・賃貸店舗を借りている法人にとって、最初に確認すべきは自社の建物ではなく「借りている物件」に対する賠償責任です。
賃貸借契約では、貸主(オーナー)が借主に対して、借家人賠償責任保険を含む火災保険への加入を契約条件として求めるのが一般的です(賃貸仲介・保険会社の解説サイトの整理)。これは法律の義務ではなく、契約書に書かれた個別の契約条件です。契約書の「保険」に関する条項、または重要事項説明に相当する書面を確認してください。
借家人賠償責任保険は、借りている部屋・オフィスを自分の火災・爆発・水漏れなどで損傷させてしまった場合に、貸主に対する原状回復・損害賠償の負担を補償する保険です。自分の会社の什器・パソコンなどの損害を補償する「動産保険」とは対象が別なので、両方が必要かどうかは契約内容によって変わります。
借家人賠償責任保険は「貸主への賠償」、施設賠償責任保険(後述)は「来客・第三者への賠償」を守る保険です。どちらか一方に入れば足りるわけではなく、賃貸オフィスで来客もある事業なら両方を検討する対象になります。
なぜ賠償責任が残るのか|失火責任法と原状回復義務
「自分の不注意で火を出しても、隣の家を燃やさなければ賠償しなくていいのでは」と考える人もいますが、これは半分だけ正しく、半分は誤解です。
「失火ノ責任ニ関スル法律」(明治32年法律第40号。通称・失火責任法)により、軽い過失(軽過失)による火災については、民法709条の不法行為責任(他人に損害を与えたら賠償する責任)は問われません。 これは隣家など、契約関係のない第三者に対する原則です。
ところが賃貸借契約を結んでいる借主には、これとは別に「借りた物を元の状態に戻して返す」という原状回復義務があります(民法上の債務不履行責任・民法415条)。 全日本不動産協会の解説によれば、この原状回復義務には失火責任法が適用されないため、借主が軽過失で火災を起こした場合でも、大家に対しては賠償・原状回復の責任を免れません。
つまり整理するとこうなります。
| 相手 | 根拠となる責任 | 失火責任法の適用 |
|---|---|---|
| 契約関係のない第三者(隣家など) | 不法行為責任(民法709条) | 軽過失なら適用され、免責される |
| 賃貸借契約の貸主(大家) | 債務不履行責任・原状回復義務(民法415条) | 適用されない。軽過失でも責任を負う |
賃貸オフィスを借りている法人が「うちは重大な失火さえしなければ大丈夫」と考えるのは誤りで、軽い不注意による火災でも、貸主への原状回復責任は残ります。 ここを補償するのが借家人賠償責任保険です。
来客・従業員への備えは「施設賠償責任保険」
借家人賠償責任保険が「貸主への賠償」をカバーするのに対して、施設賠償責任保険は、事業所の管理不備や業務の遂行が原因で、来客・取引先・通行人など第三者にケガをさせたり物を壊したりした場合の賠償責任を補償する保険です(業界解説サイトの整理)。
想定される事故の例としては、次のようなものが挙げられます(業界解説サイトの整理)。
- 店舗・オフィスの看板や什器が落下し、通行人・来客がケガをした
- 床の水濡れに気づかず放置し、来客が転倒した
- 従業員が業務中の作業で、来客・取引先にケガをさせた、または物を壊した
事務所を構えて来客や取引先の出入りがある法人であれば、家賃や什器の損害以上に、対人事故の賠償金額の方が経営に与える影響が大きくなりやすいという性質があります。保険料の具体的な水準は事業の業種・規模・補償限度額によって大きく変わるため、この記事では相場を断定せず、実際に見積もりを取って確認することをおすすめします。
製造業・販売業は「PL保険(生産物賠償責任保険)」も検討する
自社で製品を製造・販売している、または飲食店のように「提供したもの」が原因で事故が起きうる事業の場合は、PL保険(生産物賠償責任保険。Product Liability保険)も検討対象になります。
PL保険は、製造・販売した製品や提供したサービスの結果が原因で、他人の生命・身体・財産に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合の賠償金・訴訟費用などを補償する保険です(日本商工会議所の案内)。
商工会議所会員向けには、日本商工会議所が長らく「中小企業PL保険制度」を運営し、全国商工会議所のスケールメリットによる低廉な保険料で加入できる団体保険として提供してきました(商工会議所会員向け保険制度サイトの案内)。この制度は2020年6月に終了し、PL補償を含んだビジネス総合保険制度へ一本化されています(商工会議所会員向け保険制度サイトの案内)。 商工会議所に加入している、または加入を検討している場合は、まず自社が所属する(予定の)商工会議所の窓口でビジネス総合保険制度の内容を確認するのが近道です。
PL保険は製造業・販売業・飲食業など「モノやサービスの結果」が事故につながりうる業種向けです。オフィスワーク中心で来客もほとんどない事業であれば、優先度は施設賠償責任保険・借家人賠償責任保険より下がります。自社の事業に合わない保険を並べて入る必要はありません。
3つの保険の違いを1枚で整理する
ここまで出てきた3つの保険は、守る対象がそれぞれ異なります。
| 保険の種類 | 守る対象 | 主に必要になる事業者 |
|---|---|---|
| 借家人賠償責任保険 | 借りている物件の貸主への原状回復・賠償責任 | 賃貸オフィス・賃貸店舗を借りている全法人 |
| 施設賠償責任保険 | 来客・取引先・通行人など第三者への対人・対物賠償 | 来客・取引先の出入りがある事業所 |
| PL保険(生産物賠償責任保険) | 製造・販売した製品やサービスの結果による賠償責任 | 製造業・販売業・飲食業など |
優先順位で迷ったら、まず「賃貸借契約書に保険の指定条項があるか」を確認してください。 契約書に指定があれば、それは選択の余地がない契約上の義務です。そのうえで、来客の有無・扱う商品やサービスの性質に応じて、施設賠償責任保険・PL保険の要否を判断する、という順番になります。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。この記事を書いている2026年9月7日時点で、私自身はまだ合同会社の設立準備の段階にあり、法人としての賃貸オフィス契約も、火災保険・賠償責任保険への加入も行っていません。
そのためこの記事は、実際に自分の会社で保険に加入した経験ではなく、失火責任法・民法の条文と、賃貸オフィス・保険業界の公開情報を基にした「調査した範囲では」の整理です。実際に事務所を借りて保険を検討する段階になったら、契約書のどの条項で何を求められたか、どの保険にいくらで加入したかを、この記事に実体験として追記します。
次にやること
賃貸オフィス・賃貸店舗を借りている(借りる予定がある)場合は、まず賃貸借契約書の「保険」に関する条項を確認してください。 借家人賠償責任保険を含む火災保険への加入が契約条件になっていないかを確認し、指定がある場合はその条件に沿って加入します。契約書に指定がない場合や、これから物件を探す段階の場合は、来客の有無と事業内容(製造・販売の有無)を整理したうえで、施設賠償責任保険・PL保険の要否を保険会社または商工会議所の窓口に相談することをおすすめします。
※本記事は2026年9月7日時点で確認した法令(失火ノ責任ニ関スル法律・民法)と、賃貸オフィス・保険業界の公開情報を基にした一般的な制度の説明であり、筆者個人が実際に法人として保険に加入した結果ではありません。個別の契約における加入要否・保険料は、賃貸借契約書の内容と保険会社の見積もりで確認する必要があります。
出典 - 失火ノ責任ニ関スル法律(明治32年法律第40号)(軽過失による失火は民法709条の不法行為責任を免れる旨の根拠。2026年9月確認) - 借家人の失火による損害|公益社団法人 全日本不動産協会(2026年9月確認。原状回復義務に失火責任法が適用されないことの解説) - 「中小企業PL保険制度」終了時期(2020年6月)のお知らせ|商工会議所会員向け保険制度(日本商工会議所の経営協力による運営)(2020年6月に制度終了、ビジネス総合保険制度へ一本化された旨。2026年9月確認)