増資の手続き
- 増資(募集株式の発行)は非公開会社の場合、原則として株主総会の特別決議で募集事項を定める(会社法199条2項・309条2項5号)。公開会社は有利発行でなければ取締役会決議で足りる(会社法201条1項)
- 出資者が払込みを終えると資本金が増え、変更登記は資本金の額が変わってから2週間以内(会社法915条1項)。怠ると代表者個人に100万円以下の過料の可能性(会社法976条1号)
- 登録免許税は増加した資本金の額の1000分の7、これが3万円に満たないときは3万円(登録免許税法別表第一・二十四号(一)ニ、国税庁No.7191)。司法書士報酬は日本司法書士会連合会の2018年報酬アンケート(募集株式500万円分・関東地区平均52,819円)や複数事務所の公開料金を見ると5万円程度が目安(2026年9月調査)
この記事の内容
この記事は、会社を設立したあとに資本金を増やしたい経営者に向けて書いています。 結論から言うと、増資は「募集事項を決議する→出資者にお金を払い込んでもらう→法務局に変更登記する」の3段階で進み、登記には増加した資本金額に応じた登録免許税がかかります。この記事では、どの順番で何をすればいいかを、根拠になる条文と金額の計算方法付きで整理します。
- 増資をしたいが、株主総会をどう決議すればいいのか分からない
- 登録免許税がいくらになるのか、計算の仕方が分からない
- 現物出資や第三者割当など、方法によって手続きが違うのか知りたい
結論:決議→払込→変更登記の順で進む
会社設立後に資本金を増やす手続き(増資)は、大きく3段階に分かれます。
- 募集事項の決議:誰にいくらで何株発行するかを、株主総会または取締役会で決める
- 出資の履行:引受人が指定された銀行口座に払込みを行う。払込みが終わった時点で資本金が増える
- 変更登記:法務局に資本金の額の変更登記を申請する。登録免許税がかかる
登記が完了して初めて、登記簿上も資本金の額が変わったことになります。この記事では順番に見ていきます。
増資の方法は3種類ある
増資は、誰から出資を受けるかによって呼び方と手続きが変わります。会社法上はどれも「募集株式の発行」(会社法199条以下)という同じ枠組みで扱われますが、実務上は次の3つに分けて説明されることが多いです。
| 方法 | 内容 | 主に使われる場面 |
|---|---|---|
| 株主割当 | 既存株主全員に、持株比率に応じて新株を割り当てる | 既存株主の持株比率を変えたくないとき |
| 第三者割当 | 特定の第三者(役員・取引先・投資家など)に新株を割り当てる | ベンチャー投資、事業提携先からの出資 |
| 公募 | 不特定多数の投資家に新株を募集する | 上場企業など。非上場の中小企業ではほぼ使われない |
中小企業の増資では、既存株主や特定の投資家から出資を受ける第三者割当が使われることが大半です。以降はこの前提で説明します。
株主総会の決議はどこまで要るか
募集株式の発行にあたっては、募集事項(発行株式数・払込金額・払込期日など)を定める必要があります(会社法199条1項)。誰の決議で定めるかは、会社の種類と発行条件によって変わります。
| 会社の状態 | 決議機関 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 非公開会社(株式に譲渡制限がある会社。中小企業の大半はこちら) | 株主総会の特別決議 | 会社法199条2項・309条2項5号 |
| 公開会社で、時価に比べて特に有利な価格で発行しない場合 | 取締役会決議で足りる | 会社法201条1項 |
| 公開会社で、時価より特に有利な価格(有利発行)で発行する場合 | 株主総会の特別決議(取締役が有利発行の理由を説明) | 会社法199条3項・201条1項 |
中小企業の多くは株式に譲渡制限を付けている非公開会社にあたるため、原則として株主総会の特別決議(議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が原則。会社法309条2項)が必要になります。
決議で決めるのは「誰が」「いくらで」「何株」引き受けるかまでです。決議のあとに、実際にお金を払い込んでもらう手続きが必要です。次の章で説明します。
出資の履行(払込)と株主になるタイミング
募集事項の決議が終わったら、引受人は会社が指定した払込期日または払込期間内に、指定の銀行口座へ払込金額の全額を払い込みます(会社法208条1項)。この払込みが出資の履行にあたります。
引受人は、出資を履行した払込期日(払込期間を定めた場合はその出資を履行した日)に株主となります(会社法209条1項)。つまり、決議をしただけでは資本金は増えず、実際に払込みが完了して初めて資本金が増えるという順序になります。
払込みがあったことを証明するため、実務では次の書類を用意するのが一般的です。
- 払込みがあったことを証する書面(払込先口座の通帳のコピーなど)
- 総数引受契約書(引受人が1名で、募集株式の総数を引き受ける場合に用いられることが多い)
現物出資をする場合の注意点
出資は金銭に限らず、不動産や設備などの現物でも行えます(現物出資)。ただし、現物出資には過大評価を防ぐための特別なルールがあります。
原則として、現物出資をする場合は裁判所が選任する検査役の調査を受ける必要があります(会社法207条1項)。ただし、次のような場合は検査役の調査が不要です(会社法207条9項各号)。
- 現物出資財産の価額の総額が500万円を超えない場合(会社法207条9項2号)
- 市場価格のある有価証券について、市場価格を超えない価額を定めた場合(会社法207条9項3号)
- 現物出資財産の価額が相当であることについて、弁護士・公認会計士・税理士等の証明を受けた場合(会社法207条9項4号。不動産の場合はさらに不動産鑑定士の鑑定評価も必要)
検査役の調査には数週間〜数か月かかることもあるため、現物出資を検討する場合は、500万円以下に収めるか、専門家の証明を受ける方法で進めるケースが実務では多く見られます。
変更登記の進め方と登録免許税の計算
出資の履行が完了して資本金の額が変わったら、法務局に資本金の額の変更登記を申請します。資本金の額(会社法911条3項5号)と発行済株式の総数(同項9号)はいずれも登記事項であり、会社法915条1項により、変更が生じてから2週間以内に登記をしなければなりません。正当な理由なく怠ると、代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります(会社法976条1号)。
登録免許税の計算方法は次の通りです。
| 項目 | 金額 | 根拠・備考 |
|---|---|---|
| 登録免許税(資本金の額の増加の登記) | 増加した資本金の額×1000分の7。ただし計算した額が3万円に満たないときは3万円 | 登録免許税法別表第一・二十四号(一)ニ(国税庁No.7191「登録免許税の税額表」) |
| 履歴事項全部証明書(登記事項証明書) | 窓口・書面での請求は1通600円。オンライン請求だと郵送受取520円・最寄りの登記所や証明サービスセンターでの窓口受取490円(50枚まで) | 法務省「オンラインによる登記事項証明書及び印鑑証明書の交付請求について」 |
| 司法書士への依頼(申請書作成・提出) | 5万円程度が目安(登録免許税等の実費は別途) | 日本司法書士会連合会の報酬アンケート(2018年1月実施・募集株式500万円分想定・関東地区平均52,819円)および2026年9月時点の複数事務所の公開料金調査 |
たとえば500万円を増資する場合、登録免許税は500万円×0.7%=3万5,000円になります。増資額が小さく計算結果が3万円を下回る場合(増資額が約428万円以下のとき)は、一律3万円になります。
増資後にやること(税務・社会的信用)
登記が完了したあとも、直す先や気を付けたい点が残ります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 税務署への異動届出 | 資本金の額が変わった場合、異動届出書の提出が必要になる場合がある(所轄税務署に確認) |
| 資本金1,000万円ラインの確認 | 期首の資本金が1,000万円以上になると、設立1期目・2期目でも消費税の課税事業者になり免税が受けられなくなる場合がある(国税庁No.6503「基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」)。事業年度の途中で増資した場合の扱いも含め、税理士に確認するのが確実 |
| 対外的な信用 | 資本金の額は登記簿に公開されるため、取引先や金融機関からの与信判断の材料になることがある |
| 既存株主への影響 | 第三者割当の場合、既存株主の持株比率が下がる(希薄化する)ため、事前に株主間で説明・合意しておく |
資本金の額と税務上の取り扱いの関係は制度改正の影響を受けやすい分野のため、実際に増資額を決める際は税理士に確認することをおすすめします。
実体験について、正直に書きます
このテーマ(増資)について、本人の実体験はまだありません。会社設立自体を検討している段階で、実際に増資を行った経験はないため、この記事は条文と各機関の公式情報を調査した範囲でまとめています。実際に増資を進めた際に、想定外のつまずきがあれば追記します。
次にやること
増資を決めたら、まず会社が非公開会社か公開会社か、有利発行にあたるかどうかを確認し、必要な決議(株主総会の特別決議、または取締役会決議)の段取りを組んでください。決議のあと、払込みが完了した日から2週間以内に本店所在地の法務局へ資本金の額の変更登記を申請するところまでを一つのスケジュールとして押さえておくと、過料のリスクを避けられます。