業務委託の単価はどう決めるか
この記事の内容
会社を辞めて業務委託や個人事業主として働く際、「会社員時代の給与と同じ金額を請求すればいい」と考えていないか。この記事は、会社員時代の給与から業務委託の単価を逆算する具体的な手順と、その金額に何を上乗せすべきかを示す。
会社員時代の給与をそのまま単価にしてはいけない理由は何か
会社員の給与は、会社があなたに直接払う金額の他に、会社が別枠で負担している費用がある。社会保険料の会社負担分、雇用保険、労災保険、有給休暇、退職金の積立などである。業務委託になると、これらは会社から支給されなくなり、自分で用意するか、無くなったまま働くことになる。
そのため「もらっていた給与額」をそのまま単価にすると、実質的な収入は会社員時代より下がる。これは意欲が足りないからではなく、会社員という働き方に付いていた保障を、外から見えにくい形で失うために起きる。まず何が消えるかを把握してから、単価に組み込むかどうかを決める。
独立すると消える「会社負担分」は何か
会社員時代、会社は給与とは別に次の費用を負担している。
| 項目 | 会社員時代 | 業務委託になると |
|---|---|---|
| 厚生年金保険料の会社負担(18.3%の半分=9.15%、日本年金機構) | 会社が半分負担 | 自分で国民年金(または法人化後は会社と個人の両方の立場で)全額を用意する |
| 健康保険料の会社負担(協会けんぽ全国平均10%の半分=約5%、令和7年度) | 会社が半分負担 | 国民健康保険等の保険料を全額自己負担する |
| 雇用保険(令和7年度、一般事業は労使合計14.5/1,000) | 加入(失業給付あり) | 個人事業主・業務委託は原則加入できない |
| 労災保険(業種ごとの料率、事業主が全額負担) | 加入 | 原則対象外。特別加入制度には「中小事業主等」「一人親方その他の自営業者」「特定作業従事者」「海外派遣者」の4区分がある(厚生労働省)。建設業・貨物運送業などの一人親方は「一人親方その他の自営業者」に、2021年9月に対象が追加されたITフリーランス(情報処理業務)は「特定作業従事者」に区分される。雇用者のいない個人事業主は、自分の職種がどの区分の対象業種に当たるかで加入可否が決まる【各自確認:自分の職種が特別加入のどの区分・対象業種に当たるか。厚生労働省の特別加入制度の案内、または加入窓口となる労働保険事務組合・特別加入団体で確認】 |
| 有給休暇(労働基準法39条) | 法律で保障 | 制度自体が無く、稼働しない日は収入がその分減る |
| 退職金 | 積立がある場合は将来受け取れる | 制度が無く、自分で準備しない限り無い |
厚生年金・健康保険の会社負担分だけを合計すると、給与のおおむね15%前後にあたる。ここに雇用保険・労災保険の会社負担分も加わるため、実際の会社負担は給与の15%をやや上回る水準になる。この割合は健康保険料率が都道府県で異なることと、労災保険料率が業種で異なることから、自分の勤務先・業種に当てはめて確認したほうが正確である。
業務委託の単価はどう逆算するか(計算例)
次の4段階で、会社員時代の給与から業務委託の単価を逆算する。
前提(この記事内だけの仮置き。自分の数字に置き換えて計算する)
- 会社員時代の年収600万円(月給与50万円、40歳未満で介護保険料は考慮しない)
- 会社負担分の目安を給与の15%とする
- 独立後の稼働率を70%と仮定する(営業・見積もり・請求書作成・確定申告の準備などに時間を取られる分。この数字に一次情報の裏付けは無く、自分の業務量に応じて置き換える前提の仮置きである)
- 月の稼働日数を20日と仮定する
ステップ1: 会社負担分を給与に足す
50万円 ×(1 + 0.15)= 57万5,000円
これが「会社員時代に会社が実際に払っていた金額」に相当する、独立後に確保したい月額の下限の目安になる。
ステップ2: 稼働率で割る
57万5,000円 ÷ 0.7 ≒ 82万1,000円
独立すると、営業や事務作業に使う時間は稼働(お金を生む時間)にならない。その分を単価に織り込むと、月に確保したい請求額の目安は約82万1,000円になる。
ステップ3: 稼働日数で割って日額を出す
82万1,000円 ÷ 20日 ≒ 4万1,000円/日
これが、会社員時代に年収600万円だった人が、業務委託でも実質的な生活水準を維持するために目安とする1日あたりの単価になる。
ステップ4: 前提を自分の数字に置き換える
上の年収・稼働率・稼働日数はすべて仮置きである。自分の年収、健康保険料率(自分の都道府県の協会けんぽ料率)、想定する稼働率、実際に稼働できる日数に置き換えて、同じ4ステップで計算し直す。
稼働率をどう見積もるか
上の計算例で最も個人差が出るのが稼働率である。私自身は2026年に会社員を辞めてハローワークで失業保険の手続きを経験したが、業務委託の単価交渉そのものはまだ経験していない。独立初期の稼働率を裏付ける公的な統計は見当たらない(2026年9月確認)。フリーランス向けの解説記事で共通して指摘されるのは、次の作業に時間を取られ稼働率が下がりやすいという点である。
- 新規の営業・商談(特に契約が決まるまでの数ヶ月)
- 見積書・請求書・契約書の作成
- 確定申告・帳簿付けの準備
- 既存クライアントへの定例報告・打ち合わせ
独立直後は稼働率を高めに見積もらず、7割程度で一度計算しておき、実際の稼働記録が数ヶ月分溜まった時点で単価を見直す、という進め方が無理を避けやすい。
消費税(インボイス)は単価に乗せるか
課税事業者かどうかで、請求額に消費税を乗せられるかが変わる。
| 立場 | 消費税の扱い |
|---|---|
| 免税事業者(インボイス未登録) | 消費税分を請求に乗せても、取引先はその分の仕入税額控除ができない。乗せるかどうかは取引先との交渉次第 |
| 適格請求書発行事業者(インボイス登録済み) | 単価に消費税10%を乗せて請求できる。ただし自分も消費税を納める側になる |
免税事業者からインボイス登録して課税事業者になった事業者(個人事業主・法人とも、基準期間の課税売上高1,000万円以下が条件)には、消費税の負担を軽くする「2割特例」という制度がある(国税庁)。ただしこの特例は2026年9月30日を含む課税期間までで終了し、延長は予定されていない(2026年度税制改正大綱、国税庁)。単価を決める段階では、消費税を上乗せできる前提で計算するか、消費税分も含めて単価に織り込むかを先に決めておく。
業務委託料に源泉徴収は必要か
業務委託契約の発注側(支払う側)に源泉徴収の義務があるかどうかは、報酬の種類で決まる。所得税法204条は、原稿料・講演料、弁護士・税理士など特定の資格者への報酬、外交員報酬など8種類の報酬を源泉徴収の対象として列挙している。この8種類に当たらない報酬(多くのITエンジニア・コンサルタント・制作業務の業務委託料はこれに該当しないことが多い)には、源泉徴収の義務が無い(国税庁)。
発注側が源泉徴収するかどうかで受け取れる金額が変わるため、契約前に「源泉徴収の対象になる業務かどうか」を確認しておくと、請求額と実際の入金額のズレで慌てずに済む。
単価を決める前の最終チェックリスト
見積もりを出す前に、次を1つずつ確かめる。
- □ 会社員時代の年収に、会社負担分(社会保険料など、目安15%前後)を足したか
- □ 自分の想定する稼働率(営業・事務作業を除いた実働の割合)を数字で置いたか
- □ 稼働率と稼働日数で割って、月額・日額の単価まで出したか
- □ 消費税を単価に乗せるか、乗せないかを決めたか(免税事業者か適格請求書発行事業者かで変わる)
- □ この契約が所得税法204条の源泉徴収対象に当たるかを確認したか
- □ 稼働記録が数ヶ月分溜まったら、仮置きした稼働率を実際の数字で見直す予定を決めたか
次にやること
自分の年収・都道府県の健康保険料率・想定稼働率を使って、上の4ステップの計算をもう一度やり直し、月額と日額の単価を数字で出す。