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コンサルタントの法人化

この記事の内容
  1. 結論:個人で結んだ契約は、法人に自動では移らない
  2. 取引先への切り替えは、3つの方法から選ぶ
  3. 「誰が担当するか」を契約に書いておく
  4. 請求書:登録番号は、法人が新しく受ける
  5. 源泉徴収:法人への支払いは条文の対象に入らない
  6. 計算例:月50万円の顧問料で、入金額はいくら変わるか
  7. 個人事業は、廃止か併存かを決める
  8. フリーランス法の保護は、法人になっても続くのか
  9. 文例:取引先に切り替えをお願いするメール
  10. チェックリスト:切り替え月にやること
  11. 次にやること

個人事業主のコンサルタントが法人を作るとき、悩ましいのは税金よりも「いまの取引先との契約は、そのまま法人に移せるのか」という点だと思う。この記事は、契約の相手が個人から法人に変わると、契約・請求書・源泉徴収・インボイス・フリーランス法で何が変わるかを条文で整理する。最後に、取引先に送る文例と、切り替え月のチェックリストを付けた。

結論:個人で結んだ契約は、法人に自動では移らない

契約の相手は、あなた個人だ。法人は別の人(法人格)なので、法人を作っても契約は移らない。移すには、取引先の承諾が要る。

  • 契約の当事者の一方が第三者と契約上の地位を譲る合意をし、相手方が承諾したときに、地位はその第三者に移る(民法539条の2)
  • 契約をするか、誰とするかは、法令に特別の定めがない限り自由(民法521条)

取引先が「法人とは契約しない」と言えば、止める条文はない。切り替えは「お願い」から始まる。動くものは次のとおり。

項目 個人のとき 法人にしたあと
契約の相手 あなた個人 法人(あなたは代表者)
請求書の登録番号 個人の登録番号 法人が新しく受ける登録番号
源泉徴収 報酬の種類によっては引かれる 法人への支払いは条文の対象に入らない
フリーランス法 従業員がいなければ対象 一人だけの法人なら対象
個人事業 続いている 廃止するなら届出が要る

取引先への切り替えは、3つの方法から選ぶ

個人のあなたを見込んで頼んでいる取引先が、突然の「今月から法人です」に戸惑うのは自然な反応だ。渋られても、あなたの側に落ち度はない。

方法 中身 向いている場面
① 合意解約して法人と新契約 個人との契約を合意で終え、法人と新しい契約書を交わす 期間の途中で替えたいとき。書面がいちばん明確
② 契約上の地位の譲渡 個人・法人・取引先の3者で合意し、条件はそのまま法人に移す 条件を変えたくないとき
③ 満了を待って更新から法人 いまの契約は個人のまま満了させる 急がないとき。取引先の負担が小さい

どれも取引先の承諾が要る。承諾が得られなければ、個人の契約のまま続けてもいい。法人を作ることと、全部の契約を移すことは別の話だ。

気をつけたい点が一つある。コンサル契約は「準委任」になることが多く、委任の規定が準用される(民法656条)。委任は各当事者がいつでも解除できる(同法651条1項)ので、契約書に別の定めがなければ、話がこじれたとき取引先が個人との契約を終える道もある。切り出し方は丁寧にしたい。準委任にあたるかは契約の中身で変わる。

「誰が担当するか」を契約に書いておく

取引先が期待しているのは、あなた本人の仕事だ。法人が受けるときも、担当者にあなたの氏名を書き、替えるときは事前に知らせて了承を得る、と一文入れておくと食い違いが減る。委任の受け手は、委任者の許諾かやむを得ない事由がなければ、代わりに動く人(復受任者)を選べないからだ(民法644条の2第1項)。

請求書:登録番号は、法人が新しく受ける

適格請求書には「氏名又は名称」と「登録番号」を書く(消費税法57条の4第1項1号)。登録は事業者ごとに受ける(同法57条の2第1項)。個人と法人は別の事業者なので、個人の登録番号を法人の請求書には使えない。法人は自分で登録を申請する。

個人事業を廃止して、事業を廃止した旨の届出書を出すと(同法57条1項3号)、個人の登録は廃止した日の翌日に効力を失う(同法57条の2第10項2号)。

消費税の納め方も見ておく。基準期間が無い新設法人は、資本金1,000万円以上なら1期目から課税になる(同法12条の2第1項)。資本金がそれ未満でも、免税の対象は適格請求書発行事業者を除くため(同法9条1項)、登録を受ければ課税事業者になる。登録申請の期限は政令で定められている(同法57条の2第2項)。実際の期限は国税庁の案内で確かめてほしい(この記事では条文の確認にとどめた)。

源泉徴収:法人への支払いは条文の対象に入らない

個人のとき、報酬から所得税を引かれて振り込まれたことがあると思う。源泉徴収の条文は「居住者に対し」支払う者に徴収を求めている(所得税法204条1項)。居住者は個人をいう(同法2条1項3号)ので、法人への支払いは、この条文の対象に入らない。

個人のときのコンサル報酬が対象だったかは、条文でこう読める。

  • 204条1項2号は士業などの報酬を挙げ、「これらに類する者で政令で定めるもの」を含む
  • その政令に「企業診断員(企業経営の改善及び向上のための指導を行う者を含む。)」がある(施行令320条2項)
  • 204条1項1号は講演料を挙げ、「これらに類するもので政令で定める報酬又は料金」を含む
  • その政令に「知識の教授の報酬若しくは料金」がある(施行令320条1項)

経営を指導する仕事や研修・講演は、対象になりうる。ただ「経営コンサルタント」という名前そのものは条文に無い。自分の契約が対象だったかは、業務の中身と取引先の経理の扱いで決まる。個人のときの請求書や支払通知書に源泉徴収額が載っていたかを見れば分かる。

計算例:月50万円の顧問料で、入金額はいくら変わるか

前提(すべて仮置き):

  • 法人の取引先から、月50万円(消費税は考えない)の顧問料を受ける
  • 個人のとき、この報酬は源泉徴収の対象だった
  • 1回の支払が100万円以下なので、税率は10%(所得税法205条1項1号)
  • 復興特別所得税は所得税額の2.1%(復興財源確保法28条)
項目 個人のとき 法人のとき
報酬 500,000円 500,000円
所得税(10%) 50,000円 引かれない
復興特別所得税(2.1%) 1,050円 引かれない
入金額 448,950円 500,000円
  • 源泉徴収額は、500,000円 × 10% = 50,000円。復興特別所得税は50,000円 × 2.1% = 1,050円。合計51,050円
  • 入金額の差は月51,050円。年12か月で、51,050円 × 12 = 612,600円

これを「手取りが増えた」と読み違えないでほしい。個人のとき引かれた分は、確定申告で本来の税額と精算する前払いで、引かれすぎなら還付される(同法138条)。法人では前払いが無くなり、税の精算は法人の決算と申告に移る。増えた612,600円は、納税に向けて自分で取り置く金額だと考えたほうが、資金繰りを崩さずに済む。

個人事業は、廃止か併存かを決める

個人事業を廃止するなら、廃止の届出書を、その事実があった日の属する年分の確定申告期限までに税務署長へ出す(所得税法229条)。消費税の課税事業者なら、上の57条1項3号の届出も出す。法人で受けない仕事を個人で続けるなら、廃止せず併存させる。切り替えの月は、請求書を個人分と法人分に分けて出すことになるので、どの案件をどちらの名義で請求するかを月の頭に一覧にしておく。

フリーランス法の保護は、法人になっても続くのか

「特定受託事業者」は、①従業員を使わない個人、または②代表者以外に役員がなく、従業員も使わない法人だ(フリーランス法2条1項)。発注する事業者は、業務委託をしたら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面または電磁的方法で明示する(同法3条1項)。

代表者一人だけで従業員もいない法人なら、個人のときと同じく②にあたる。配偶者を役員にするなど、代表者のほかに役員を置くと、条文の文言上は②にあたらなくなる。従業員を使う場合も同じだ。役員や従業員を増やす前に、頭に置いておく。

文例:取引先に切り替えをお願いするメール

①の合意解約と新契約を想定した文面だ。○○を自分の内容に置き換えて使える。

件名:ご契約主体の法人への切り替えのご相談(○○)

○○株式会社
○○部 ○○様

いつもお世話になっております。○○です。

このたび、○○年○月○日に法人(株式会社○○)を設立いたしました。
つきましては、現在個人として結ばせていただいている
「○○業務委託契約」(契約日:○○年○月○日)を、
今後は法人との契約に切り替えていただけないか、ご相談です。

・業務内容、報酬、期間などの条件は、現在のまま変えません
・担当は、これまでどおり私(○○)が務めます
・切り替えの時期は、○○年○月分からを希望しております
・法人の登録番号(インボイス)は、登録が済み次第お知らせします

契約書の作り直し、または覚書での対応など、貴社のご都合のよい方法を
お教えください。履歴事項全部証明書が必要でしたら、すぐにお送りします。

ご検討のほど、よろしくお願いいたします。

株式会社○○ 代表取締役 ○○
電話:○○ メール:○○

「条件を変えない」「担当は自分」の2点は、取引先が気にしやすいので、入れたまま送る。

チェックリスト:切り替え月にやること

□ 個人名義の契約を全部書き出し、契約期間と更新日を確かめた □ 各契約を「法人に切り替える」「個人のまま続ける」に分けた □ 切り替える契約の取引先に、メールで相談した(承諾はまだ) □ 承諾を得た契約は、当事者・担当者・報酬・振込先を書き直した □ 法人のインボイス登録を受けるかを決め、申請期限を国税庁の案内で確かめた □ 個人の請求と法人の請求を、月の頭に一覧にして分けた □ 個人のときの源泉徴収の有無を過去の請求書で確かめ、入金額の変化を資金繰り表に入れた □ 個人事業を廃止するか決め、廃止なら所得税と消費税の届出を出す日を決めた

すべてを一度に終えなくていい。まず1つ目と2つ目だけ、今日やる。

次にやること

個人名義の契約を全部書き出し、契約書に「相手方の承諾なしに契約上の地位を譲れるか」の記載があるか確かめる。書き出したら、いちばん更新が近い取引先に、上の文例を1通送る。


出どころ(e-Gov法令検索、2026年9月21日確認):

  • 民法(521条、539条の2、644条の2、651条、656条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 所得税法(2条、138条、204条、205条、229条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
  • 所得税法施行令(320条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
  • 消費税法(9条、12条の2、57条、57条の2、57条の4)https://laws.e-gov.go.jp/law/363AC0000000108
  • 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(2条、3条)https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025
  • 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(28条)https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000117

この記事に、筆者本人の実体験はない。調査した範囲の内容を整理したものである。インボイスの登録申請の期限、個別の契約が源泉徴収の対象になるかどうかは、事情によって変わる。実際の判断は税務署、または税理士などの専門家にご確認ください。

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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