法人の経費はどこまで認められるか
- 損金の額に算入できるのは原価・費用・損失のうち債務が確定しているもので、別段の定め(租税特別措置法等)がある場合はそちらが優先される(法人税法第22条第3項、国税庁)
- 資本金1億円以下の法人は、交際費の年800万円までの定額控除か、飲食費の50%相当額の損金算入かを選べる(租税特別措置法第61条の4、国税庁タックスアンサーNo.5265)
- 1人当たり10,000円以下の飲食費は交際費等から除外され全額損金算入できる(令和6年4月1日以後の支出から。改正前は5,000円以下)
- 福利厚生費として認められるには全従業員が対象であることと支出額が社会通念上妥当であることが要件(国税庁タックスアンサーNo.5261)
- 帳簿書類の保存期間は確定申告書の提出期限翌日から7年間、青色申告で欠損金が生じた事業年度は10年間(国税庁タックスアンサーNo.5930)
この記事の内容
この記事は、法人で経費を計上するときに「これは経費にしていいのか」と毎回迷っている一人社長・小規模法人の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、経費(損金)にできるかどうかは「事業のために使ったか」「金額が妥当か」「証拠が残っているか」の3点で決まり、この3点を満たさないものは、たとえ実際に会社の口座から払っていても、税務調査で否認されるリスクがあります。以下、法律上の根拠、迷いやすい費目ごとの線引き、証憑の保存ルールの順に整理します。
- 交際費なのか会議費なのか、飲食代のレシートを見るたびに迷う
- 自宅を事務所にしているが、家賃や光熱費をどこまで法人の経費にしていいか分からない
- 「経費で落とす」という言い方に引っ張られて、私的な支出まで法人に付け回してしまいそうになる
結論:経費(損金)にできるかは3つの要件で決まる
法人が支払ったお金がすべて税務上の経費(損金)になるわけではありません。損金に算入できるかどうかは、大きく分けて次の3点で判断されます。
- 業務関連性:その支出が会社の事業を行う上で必要だったか
- 金額の妥当性:支出額が事業の規模や内容に照らして常識的な範囲か(社会通念上相当か)
- 証憑の有無:誰に・いつ・何のために・いくら支払ったかを示す領収書や請求書が残っているか
この3点のどれかが欠けると、会社の口座から出金していても、税務調査で「経費として認められない(損金不算入)」「役員への給与とみなされる」といった指摘を受ける可能性があります。特に一人社長の会社では、会社のお金と個人のお金の境界があいまいになりやすく、この3点を意識しているかどうかで判断のブレが変わります。
法律上の根拠:法人税法第22条第3項
法人の所得(利益)は、益金(収益)から損金(費用等)を差し引いて計算します。何を損金にできるかは法人税法第22条第3項で定められています。
損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次の3つの額とされています(法人税法第22条第3項)。
- その事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
- 販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で、その事業年度終了の日までに債務が確定していないものを除く)の額
- その事業年度の損失の額で、資本等取引以外の取引に係るもの
ポイントは括弧内の「債務が確定していないものを除く」という部分です。実際に支払っていなくても、その事業年度中に金額と支払義務が確定していれば損金にできますが、逆に前払いしただけで役務の提供を受けていない費用などは、原則としてその事業年度の損金にはできません(債務確定主義)。
また「別段の定めがあるものを除き」という文言のとおり、交際費のように租税特別措置法で上限や特例が定められている費目は、この原則よりも個別のルールが優先されます。次章以降で扱う迷いやすい費目は、まさにこの「別段の定め」に該当する部分です。
迷いやすい費目1:交際費と会議費の境界
交際費等は、原則として全額を損金にできません(租税特別措置法第61条の4)。 これが「接待は経費にならない」と言われる理由です。ただし、資本金1億円以下の法人には特例があり、次の2つのうちいずれか低い金額を超える部分だけが損金不算入になります(国税庁タックスアンサーNo.5265)。なお、資本金5億円以上の法人(大法人)による完全支配関係がある法人は、資本金が1億円以下であってもこの特例の対象外になります(国税庁タックスアンサーNo.5800)。
- 定額控除限度額:800万円にその事業年度の月数を乗じ、12で除して計算した金額(通常の12か月決算なら年800万円)
- 50%損金算入特例:接待飲食費の額の50%に相当する金額を超える部分
つまり、年800万円までの交際費か、飲食費の50%相当額かを会社側で選べる仕組みです。さらに、1人当たりの飲食費が10,000円以下の場合は、そもそも交際費等の範囲から除外され、全額を損金にできます(国税庁タックスアンサーNo.5265)。この基準額は令和6年度税制改正で5,000円から10,000円に引き上げられ、令和6年4月1日以後に支出した飲食費から適用されています。
1人当たりの金額は「参加した人数」で割ります。 自分だけで飲食した場合の金額ではなく、取引先を含めた参加人数で割った金額が10,000円以下かどうかで判定します。10,000円を超えた場合は超えた部分だけでなく、その全額が交際費等に該当する点に注意が必要です。
一方、会議費は、社内外の打ち合わせに通常要する費用(会議室使用料、会議中の茶菓・弁当代など)で、社会通念上、会議に必要な範囲の支出であれば交際費等に含まれず全額損金にできます。「交際費か会議費か」の実務上の判断は、上記の1人当たり10,000円基準と、実態が接待・供応にあたるかどうかで見ることになります。
迷いやすい費目2:福利厚生費と給与の境界
従業員の慰安を目的とした支出は、要件を満たせば交際費等ではなく福利厚生費として扱われ、全額損金にできます。国税庁タックスアンサーNo.5261では、次のような支出が福利厚生費の例として挙げられています。
- 創立記念日や国民の祝日などに、従業員等におおむね一律に社内で提供する通常の飲食に要する費用
- 従業員等またはその親族の慶弔(結婚祝、出産祝、香典、病気見舞いなど)に、一定の基準に従って支給する金品の費用
- 従業員向けの運動会、演芸会、旅行などのために通常要する費用
福利厚生費として認められる共通の条件は、①全従業員(または特定の役職に限らない広い範囲)が対象であること、②支出額が社会通念上妥当な範囲であることの2点です。役員や一部の従業員だけを対象にした支出、あるいは金額が過大な支出は、福利厚生費ではなく役員報酬・給与とみなされ、所得税の源泉徴収漏れや、法人側でも損金算入の要件(定期同額給与など)を満たさず損金不算入になるリスクがあります。「全員に公平か」「金額は常識の範囲か」の2点で、まず自分の支出を確認することが実務上の出発点になります。
迷いやすい費目3:自宅兼事務所の家事按分
個人事業主であれば、自宅の家賃・光熱費のうち事業で使用している割合を按分して経費にする「家事按分」という考え方が一般的です。法人の場合は少し事情が異なります。 法人が負担してよいのは、あくまで会社の事業のために使用した部分に限られ、社長個人のプライベートな生活費相当分を法人が負担すると、その部分は役員への経済的利益の供与(実質的な給与)とみなされる可能性があります。
自宅を法人の本店所在地・事務所として使う場合の代表的な整理は、次のような形です。
- 社長個人が賃借している自宅の一部を法人に転貸し、法人から社長個人へ賃料を支払う形にする(法人側は地代家賃として損金、社長個人側は不動産所得として申告)
- 法人が直接賃貸借契約を結び、事務所として使用する(この場合、居住用途の部分との按分や、住宅扱いの物件で法人契約が可能かの事前確認が必要)
いずれの形でも、事業で使っている面積・時間の割合を合理的に説明できる根拠(図面上の使用面積比、業務時間の比率など)を残しておくことが前提になります。この按分の仕方は契約形態や物件の条件によって扱いが変わるため、個別の按分割合の妥当性は税理士に確認することをすすめます。
比較表:費目ごとの判断ポイント
| 費目 | 損金算入の考え方 | 迷ったときに見る基準 |
|---|---|---|
| 交際費(接待・贈答) | 原則不算入。中小法人は年800万円 or 飲食費50%のいずれか低い方まで損金可(租税特別措置法第61条の4) | 1人当たり飲食費が10,000円以下なら交際費等から除外(全額損金) |
| 会議費 | 会議に通常必要な範囲であれば全額損金 | 実態が接待・供応にあたらないか。金額が会議として常識的か |
| 福利厚生費 | 全従業員対象・社会通念上妥当な金額なら全額損金 | 対象が一部の役員・従業員に偏っていないか。金額が過大でないか |
| 自宅兼事務所の家賃等 | 事業に使用した部分のみ損金 | 使用面積・時間の按分根拠を説明できるか。契約形態(転貸か法人直接契約か) |
| 役員個人の私的支出 | 損金不算入。役員への経済的利益(給与)とみなされ得る | 業務との関連性を説明できるか。説明できなければ経費にしない |
証憑(証拠書類)の保存ルール
損金として認められるためには、支出の事実と内容を示す証憑(領収書・請求書・契約書など)を残しておく必要があります。証憑がなければ、実際に業務のための支出であっても、税務調査で経費と認められない可能性が高くなります。
帳簿書類の保存期間は、確定申告書の提出期限の翌日から7年間です。ただし、青色申告をしている法人で欠損金(赤字)が生じた事業年度の帳簿書類は、10年間の保存が必要です(国税庁タックスアンサーNo.5930)。設立初期は赤字になりやすく、この10年保存が適用される場面は少なくないため、レシートや領収書を早めに処分してしまわないよう注意が必要です。
交際費として飲食費を計上する場合は、飲食等のあった年月日・参加者の氏名や関係・参加人数・飲食費の金額・店名や所在地を記載した書類の保存が必要です(国税庁「接待飲食費に関するFAQ」)。1人当たり10,000円以下かどうかの判定に人数が必須になるためで、この記載がないと10,000円基準を適用できず交際費等として扱わざるを得なくなります。
判断に迷ったときのチェックリスト
個別の支出について「経費にしていいか」を迷ったときは、次の順番で確認すると判断しやすくなります。
- その支出は、会社の事業を行う上で必要だったか(業務関連性)。私的な用途が混じっていないか
- 金額は、事業の規模・内容に照らして常識的な範囲か(妥当性)。役員だけが極端に優遇されていないか
- 誰に・いつ・何のために・いくら払ったかを示す証憑が残っているか。飲食費は参加人数のメモも残っているか
- 交際費・会議費・福利厚生費のどれに当たるか、上の比較表で当てはめられるか
- 1〜4のどれかで「説明できない」「根拠が薄い」と感じたら、その時点では経費にせず、税理士に確認してから計上する
「経費にできるかどうか迷う」こと自体は自然なことです。迷った支出を勢いで計上してしまうと、後から修正申告や追徴課税につながる可能性があるため、迷ったら一旦保留にして確認するという順番を崩さないことが、結果的に手間を減らします。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ法人としての経費計上を実務で行った経験がありません。そのため、この記事は法人税法・租税特別措置法の条文と、国税庁の公開情報(タックスアンサー)を基にした調査整理であり、実際に自分が交際費や福利厚生費として計上した支出の実例ではありません。
自宅兼事務所の家事按分についても、現時点では転貸契約にするか法人で直接契約するかを決めていません。設立後、実際に経費計上を始めた段階で、判断に迷った具体例と、その処理をこの記事に追記します。
次にやること
まず、直近で「これは経費にしていいのか」と迷った支出を1つ思い浮かべ、この記事のチェックリスト(業務関連性・妥当性・証憑・費目の当てはめ)の順に自分で当てはめてみてください。 それでも判断がつかない場合は、その支出はいったん経費にせず保留にし、顧問税理士がいれば確認し、まだ契約していない場合は決算・申告のタイミングでまとめて税理士に相談することをすすめます。日々の記帳や経費の仕訳を自分で行いたい場合は、freee会社設立のように勘定科目の入力補助がある会計ソフトを使うと、迷いやすい費目の分類でのミスを減らしやすくなります。
※本記事は2026年9月時点の法人税法・租税特別措置法の条文と国税庁の公開情報、および筆者個人の状況に基づくものです。税制は改正されることがあるため、実際の申告にあたっては最新の情報を国税庁の公表資料で確認するか、税理士にご相談ください。個別の支出が経費として認められるかどうかの最終判断は、税理士または税務署にご確認ください。
出典 - 法人税法第22条第3項(損金の額に算入すべき金額:原価・費用・損失、債務確定主義、別段の定めの優先。e-Gov法令検索で条文原文を確認。2026年9月4日確認) - 第1款 売上原価等|国税庁(2026年9月1日確認) - 租税特別措置法第61条の4(交際費等の損金不算入、中小法人の定額控除限度額・飲食費50%特例) - No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算|国税庁(2026年9月1日確認。定額控除限度額800万円、飲食費50%特例、1人当たり10,000円基準〈令和6年4月1日以後の支出に適用〉を確認) - No.5800 一定の大法人等の100%子法人等における中小企業向け特例措置の不適用について|国税庁(2026年9月4日確認。資本金5億円以上の大法人による完全支配関係がある法人は、資本金1億円以下でも中小法人向け特例〈交際費の定額控除限度額を含む〉の対象外になる旨を確認) - 接待飲食費に関するFAQ|国税庁(2026年9月4日確認。1人当たり10,000円基準の適用には、飲食等の年月日・参加者の氏名や関係・人数・金額・店名等を記載した書類の保存が必要である旨を確認) - No.5261 交際費等と福利厚生費との区分|国税庁(2026年9月1日確認。福利厚生費の例、全従業員対象・社会通念上妥当という要件の記載を確認) - No.5930 帳簿書類等の保存期間|国税庁(2026年9月1日確認。保存期間7年、青色申告で欠損金が生じた事業年度は10年の記載を確認) - 自宅兼事務所の家事按分・役員への経済的利益供与の一般的な整理:法人税基本通達の役員給与・経済的利益に関する取扱いを踏まえた実務上の考え方(個別の按分割合の妥当性は税理士確認が必要)