法人の印紙税
- 印紙税は印紙税法別表第一(課税物件表)に列挙された1号〜20号の「課税文書」を作成した者に課税され(印紙税法3条)、号に当たらない契約書には印紙税がかからない
- 業務委託契約書は「請負」(仕事の完成を約する)なら第2号文書として課税、「委任・準委任」(役務提供自体が目的)なら不課税になり得るが、契約書の名称ではなく条項の実質で判定される(国税庁「第2号文書」通達)
- 継続的取引の基本契約書(第7号文書)は金額に関係なく一律4,000円(国税庁タックスアンサーNo.7141)
- 建物の賃貸借契約書は課税物件表のいずれの号にも該当せず不課税、土地の賃貸借契約書は第1号文書として課税される(国税庁タックスアンサーNo.7101・No.7106)
- 領収書(第17号文書)は記載金額5万円未満なら非課税(同No.7141)
- 紙で作成せず電磁的記録で契約を締結すれば、課税物件表の「文書」に当たらず印紙税はかからない(国税庁質疑応答事例)
- 貼り忘れに気づかず税務調査で指摘されると過怠税は原則3倍、自主的に申し出れば1.1倍になる(印紙税法20条)
この記事の内容
この記事は、会社を設立して業務委託契約書・秘密保持契約書(NDA)・賃貸借契約書・領収書などを交わす場面が増えてきた一人社長・小規模法人の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、印紙税は印紙税法が定める1号から20号までの「課税文書」に当たる契約書だけにかかる税金で、当たらなければ収入印紙は不要です。何が課税文書に当たるかは契約書のタイトルではなく条項の中身で決まるため、「業務委託契約書だから」「契約書だから」という理由だけでは判断できません。以下、法人の実務でよく出てくる契約書を軸に、貼る・貼らないの分かれ目を整理します。
- 業務委託契約書に収入印紙が必要かどうか、契約のたびに迷う
- NDA(秘密保持契約書)や雇用契約書にも貼るべきか分からない
- 貼り忘れていたことに気づいたが、どうなるのか不安
結論:課税物件表の号に当たる文書だけに印紙税がかかる
印紙税は、印紙税法別表第一(課税物件表)に列挙された1号から20号までの文書を作成した場合に課税されます(印紙税法3条)。逆に言えば、この表のどの号にも該当しない文書には、金額の大小にかかわらず印紙税はかかりません。 秘密保持契約書(NDA)や雇用契約書の多くが不課税文書とされているのは、単に「軽い契約だから」ではなく、そもそも課税物件表の号に当たる記載(不動産の譲渡、請負、金銭の受取など)を含まないためです。
「契約書」という言葉に反応して一律に印紙を貼る、あるいは一律に貼らないと決めるのは危険です。 判断の単位は文書の種類ではなく、その文書に何が書かれているかです。
印紙税とは何か:「紙の文書」に課税される税金
印紙税は、課税物件表に定める文書を「作成」した者に課税されます(印紙税法3条)。ここでいう作成とは、紙の文書に契約当事者が署名・押印するなどして、その文書を交付できる状態にすることを指します。つまり印紙税は取引そのものではなく、その取引を証明する紙の文書という「モノ」に課税される税金です。この性質が、後述する電子契約の扱いに直結します。
法人がよく交わす契約書、貼る/貼らない一覧
一人社長・小規模法人が実務で交わす機会の多い文書を、課税文書かどうかで整理します。
| 契約書 | 課税文書か | 号数・税額 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 業務委託契約書(請負性あり) | 課税 | 第2号文書。契約金額により200円〜60万円 | 国税庁タックスアンサーNo.7102 |
| 業務委託契約書(委任・準委任) | 不課税になり得る | 該当号なし(条項の実質で判定) | 国税庁「第2号文書」通達 |
| 継続的取引の基本契約書 | 課税 | 第7号文書。一律4,000円 | 国税庁タックスアンサーNo.7141 |
| 秘密保持契約書(NDA) | 多くは不課税 | 該当号なし | 課税物件表(印紙税法別表第一) |
| 雇用契約書(労働契約書) | 不課税 | 該当号なし | 課税物件表(印紙税法別表第一) |
| 建物の賃貸借契約書 | 不課税 | 該当号なし | 国税庁タックスアンサーNo.7106 |
| 土地の賃貸借契約書 | 課税 | 第1号文書。契約金額により200円〜60万円 | 国税庁タックスアンサーNo.7101 |
| 金銭消費貸借契約書(役員借入等) | 課税 | 第1号文書。契約金額により200円〜60万円 | 国税庁タックスアンサーNo.7101 |
| 領収書(受取金額5万円以上) | 課税 | 第17号文書。金額により200円〜 | 国税庁タックスアンサーNo.7141 |
| 領収書(受取金額5万円未満) | 非課税 | 第17号文書だが非課税物件 | 国税庁タックスアンサーNo.7141 |
法人の実印を押す文書だからといって一律に課税されるわけではない、という点がこの表から見えてきます。とくに「建物」の賃貸借契約書は不課税である一方、「土地」の賃貸借契約書は課税文書になる、という区別は見落としやすいところです。事務所を借りる契約書に建物の所在地や敷地面積が書かれていても、賃貸借の対象が建物である限り、土地の記載があること自体は課税判定に影響しません(国税庁タックスアンサーNo.7106)。
業務委託契約書は「請負」か「委任」かで結論が変わる
一人社長・小規模法人の実務でもっとも判断に迷うのが業務委託契約書です。契約書のタイトルではなく、契約書に「仕事の完成」と「その完成に対する報酬の支払い」の2つが条項として盛り込まれているかどうかで判定されます。 これに当たれば、契約が委任という名称であっても第2号文書(請負に関する契約書)として扱われます(国税庁法令解釈通達「第2号文書」)。逆に、成果物の完成ではなく役務の提供自体を目的とする委任・準委任の性質が強い契約は、課税物件表の号に当たらず不課税になり得ます。
自社で使っている業務委託契約書のひな形が、成果物の納品と検収を前提にしたものか、稼働時間や役務提供そのものを対価にしたものかを、条項レベルで確認してください。同じ「業務委託契約書」という名前でも、中身次第で結論が変わります。判断に迷う契約書は、印紙を貼る前に税務署や税理士に確認するのが安全です。
継続的取引の基本契約書は金額に関係なく4,000円
売買取引基本契約書・特約店契約書・代理店契約書・業務委託の基本契約書・銀行取引約定書など、契約期間が3か月を超え、かつ更新の定めがある(または3か月以内でも更新の定めがある)継続的な取引の基本契約書は、第7号文書として契約金額の記載の有無にかかわらず一律4,000円の印紙税がかかります(国税庁タックスアンサーNo.7141)。個別の発注書ごとに契約書を作らず、基本契約書1本で継続的に取引する形にする会社は多いですが、この基本契約書自体が課税文書になる点は見落とされがちです。
領収書は5万円未満なら非課税
金銭または有価証券の受取書(領収書)は第17号文書として課税されますが、記載金額が5万円未満のものは非課税です(国税庁タックスアンサーNo.7141)。5万円以上100万円以下は200円、以降は金額に応じて段階的に上がっていきます。消費税額等が区分して記載されている領収書では、消費税額を除いた金額で5万円未満かどうかを判定します。少額の現金決済が多い業種では、この5万円のラインを社内の経理ルールに組み込んでおくと、貼り忘れ・貼りすぎの両方を防げます。
電子契約なら印紙税はかからない
印紙税は「紙の文書」の作成に課税される税金です。契約を電磁的記録(PDFへの電子署名、電子契約サービスでの締結など)として作成し、紙の文書を作成しない場合、その電磁的記録は課税物件表に定める「文書」に該当しないため、印紙税は課税されません。国税庁の質疑応答事例でも、注文請書の内容を電磁的記録に記録して電子メールで送信した場合について、ファクシミリ通信と同様に課税文書を作成したことにはならないという見解が示されています(国税庁質疑応答事例「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」)。
契約自体の効力は紙でも電子でも変わりませんが、印紙税がかかるかどうかは「紙の文書を作成したかどうか」で決まります。 継続的取引の基本契約書のように一律4,000円がかかる文書を電子契約に切り替えれば、その分の印紙税はかからなくなります。
貼り忘れたらどうなるか:過怠税は原則3倍
課税文書を作成しながら印紙を貼らなかった場合、税務調査などで指摘されると、納付しなかった印紙税額とその2倍に相当する金額の合計、つまり本来の税額の3倍が過怠税として徴収されます(印紙税法20条)。一方、税務調査を予知する前に自主的に「貼っていなかった」と所轄税務署へ申し出た場合は、納付しなかった印紙税額の1.1倍に軽減されます(同条)。貼り忘れに気づいた時点で自分から申し出るかどうかで、負担が3倍と1.1倍のどちらになるかが変わります。 過去の契約書をまとめて見直す機会があれば、貼り忘れがないか確認しておく価値はあります。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ登記が完了しておらず、法人として契約書に収入印紙を貼った経験はありません。設立準備を進める中で、業務委託の基本契約書のひな形を作る過程でこの「収入印紙は要るのか」という点が気になって調べたのがこの記事のきっかけです。実際に法人として契約書を交わす段階になったら、そのとき判断に迷った点や税理士に確認した内容を実体験として追記します。
次にやること
まず、今後よく使う予定の契約書のひな形を1つ手元に置き、「仕事の完成と報酬の支払いが条項に書かれているか」「金銭の受け渡しや不動産に関する条項があるか」を確認してください。 これだけで、多くの契約書は課税文書か不課税文書かのおおよその見当がつきます。継続的取引を電子契約サービスで締結する形に切り替えれば、基本契約書1本ごとにかかる4,000円の印紙税を避けられます。判断が難しい契約書は、印紙を貼る前に所轄の税務署か顧問税理士に確認してください。
※本記事は2026年9月6日時点で確認した法令・国税庁公式情報と、筆者個人の状況に基づくものです。契約書が課税文書に当たるかどうかは条項の記載内容によって個別に判断が変わるため、実際の契約書については所轄税務署または税理士に確認してください。
出典 - 印紙税法 第3条(納税義務者) - 印紙税法 第20条(過怠税) - 印紙税法 別表第一(課税物件表) - No.7101 不動産の譲渡・土地の賃貸借・消費貸借・運送等に関する契約書|国税庁 - No.7102 請負に関する契約書|国税庁 - No.7106 建物の賃貸借契約書|国税庁 - No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁 - No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで|国税庁 - 第2号文書(法令解釈通達)|国税庁 - 取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い(質疑応答事例)|国税庁 - 印紙を貼り付けなかった場合の過怠税(質疑応答事例)|国税庁