一人会社のサイトに必要な法的表記
- 特定商取引法の表示義務(特商法11条・同法施行規則8条)は「通信販売」、つまりサイト上で消費者から商品・役務の申込みを受ける場合に生じる。会社概要と問い合わせフォームだけのコーポレートサイトは対象外になりうる
- 住所・電話番号は「請求があれば遅滞なく開示する」旨を明記すれば非表示にできる(消費者庁の運用)
- プライバシーポリシーは2017年5月30日施行の改正個人情報保護法で「5,000件以下は対象外」の要件が撤廃され、一人会社でも個人情報を1件でも取得すれば個人情報取扱事業者になる(個人情報保護法17条・21条・32条)
この記事の内容
この記事は、一人会社を作った(または作る予定の)人で、自社サイトに何を載せればいいか分からず止まっている人に向けて書いています。 結論から言うと、特定商取引法の表記が要るかどうかはサイトの中身次第、プライバシーポリシーはほぼ全員に関係します。この2つを混同すると、片方だけ用意して片方を忘れる、という抜けが起きやすいので、ここで条文の根拠まで含めて整理します。
- 会社のサイトを作っているが、特商法の表記が自分の場合も必要なのか分からない
- 住所や電話番号を公開したくない(自宅を法人登記に使っている、一人でやっているなど)
- プライバシーポリシーは大企業だけの話だと思っていたが、本当にそうか不安になった
結論:「サイトで何をするか」で必要な表記が変わる
一人会社のサイトに必要な法的表記は、大きく分けて2種類あります。特定商取引法に基づく表記とプライバシーポリシーです。この2つは根拠になる法律も、義務が発生する条件も別物なので、まず切り分けます。
- 特定商取引法に基づく表記:サイト上で消費者から商品・役務・権利の申込みを受ける「通信販売」に該当する場合に必要
- プライバシーポリシー:サイトの問い合わせフォームなどで氏名・メールアドレスといった個人情報を1件でも取得するなら、ほぼ必要
会社概要と問い合わせフォームだけの名刺代わりのコーポレートサイトなら、特商法の表記は不要な場合があります。一方でプライバシーポリシーは、フォームがある時点でほぼ全員に関係してきます。この違いを知らずに「特商法さえ書けばいい」と思い込むと、プライバシーポリシーが抜けたまま公開してしまうことになります。
特定商取引法の表記が要るサイト・要らないサイト
特定商取引法(以下、特商法)第11条は、「通信販売をする場合」の広告に一定の事項を表示するよう義務づけています。ここでいう通信販売とは、郵便・電話・インターネットなどの方法で消費者から売買契約の申込みを受ける取引のことです(消費者庁「通信販売の表示についてのルール」)。
つまり判定の軸は、サイト上で消費者に対して商品・役務・権利の申込みを完結させているかどうかです。
| サイトの内容 | 特商法表記 |
|---|---|
| ネットショップ(商品をサイトで注文させる) | 必要 |
| オンライン講座・コンサルをサイトの申込フォームで契約完結させる | 必要 |
| 会社概要・実績紹介のみで、問い合わせは商談・見積もりで別途契約する | 不要になりうる |
| BtoB専業で、サイト上で個人向けの通信販売を行っていない | 不要になりうる |
「不要になりうる」としているのは、最終的にはサイトの申込みフローの実態によって判断が分かれるためです。フォーム送信だけで契約が成立する仕組みにした瞬間、通信販売に該当する可能性が出てきます。判断に迷う場合は、契約書や約款の文言も含めて、一度専門家(弁護士・行政書士)に確認しておくと安全です。
特商法の表記が要らないサイトでも、問い合わせフォームがある時点でプライバシーポリシーは別途必要になります。次の章で理由を説明します。
特商法表記に書く項目
特商法の表記が必要な場合、特定商取引法施行規則第8条などに基づき、次の事項を記載します(消費者庁「通信販売の表示についてのルール」2026年9月7日確認)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売事業者の氏名(名称) | 会社名または個人事業主の氏名 |
| 住所 | 現に活動している住所 |
| 電話番号 | 確実に連絡が取れる番号 |
| 運営統括責任者 | 法人がインターネットで広告する場合、代表者または通信販売業務の責任者の氏名 |
| 販売価格・対価 | 消費税等を含む総額 |
| 商品代金以外の必要料金 | 送料・手数料など |
| 引渡し時期 | 代金支払いから商品引渡しまでの期間 |
| 支払方法・支払時期 | 利用可能な決済手段と時期 |
| 返品・交換の可否と条件 | 特約がある場合はその内容 |
このほか、商品によっては動作環境(デジタルコンテンツの場合)などの記載も求められます。実際に書く際は、消費者庁の「通信販売の表示についてのルール」ページに最新の必須項目一覧が載っているので、公開前に照らし合わせてください。
住所・電話番号を公開したくないときの対処法
一人会社だと、登記上の住所が自宅そのものだったり、電話番号も個人の携帯だったりすることが少なくありません。これをそのままサイトに載せるのは避けたい、という相談はよくあります。
消費者庁の運用では、「請求があれば遅滞なく開示する」旨を広告に明記し、実際に請求があった場合に遅滞なく提供できる体制を整えていれば、住所・電話番号の表示を省略できるとされています(特定商取引法ガイド)。ここでいう「遅滞なく」は、購入の判断に間に合う範囲、つまり申込み前に十分な時間的余裕をもって開示することを指します。
具体的には、特商法表記のページに次のような文言を入れる形になります。
- 「住所及び電話番号については、お客様のご請求により遅滞なく開示いたします」
加えて、消費者庁は一定の条件を満たせば、個人事業者がバーチャルオフィスや通信販売プラットフォーム事業者の住所・電話番号を代わりに表示することも認める見解を示しています。バーチャルオフィスを契約している場合は、契約先が特商法表記への利用を認めているかどうかを事前に確認しておくと安心です。
「遅滞なく開示する」と書いた場合、実際に開示請求が来たら本当に対応できる体制を作っておく必要があります。書くだけ書いて対応できないのは表示義務違反になり得るので注意してください。
プライバシーポリシーは会社の規模に関係なく必要になった
「プライバシーポリシーは大きな会社の話で、一人会社には関係ない」というイメージを持たれることがありますが、これは古い情報です。
かつての個人情報保護法には、取り扱う個人情報が5,000件を超えない小規模事業者を「個人情報取扱事業者」の定義から除外する要件がありました。この5,000件要件は、2017年5月30日に全面施行された改正個人情報保護法で撤廃されています。この改正以降、個人情報を1件でも事業活動で取り扱っていれば、会社の規模を問わず個人情報取扱事業者に該当し、個人情報保護法の各種義務の対象になります。
一人会社のサイトでも、問い合わせフォームで氏名やメールアドレスを1件でも受け取る仕組みがあれば、この対象です。「うちは小さいから関係ない」という判断は、現行法のもとでは通用しません。
プライバシーポリシーに書く項目
個人情報保護法上、個人情報取扱事業者には主に次の義務があります(個人情報保護委員会Q&A、条文は個人情報保護法第17条・第21条・第32条)。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 利用目的の特定(第17条) | 個人情報をどう使うかを、本人が合理的に予測できる程度に具体的に定める |
| 利用目的の通知・公表(第21条) | 個人情報を取得する際、あらかじめ公表しているか、取得後速やかに本人に通知・公表する |
| 保有個人データに関する公表等(第32条) | 事業者名、利用目的、開示請求の受付方法などを本人が知り得る状態に置く |
プライバシーポリシーは、これらの義務(特に利用目的の公表)をまとめて満たすために、多くのサイトで採用されている実務上の方法です。一般的には、次のような項目を盛り込みます。
- 事業者名・連絡先
- 取得する個人情報の項目(氏名・メールアドレス・住所など)
- 利用目的(問い合わせ対応、サービス提供、メルマガ配信など、目的ごとに明記)
- 第三者提供の有無と条件
- 開示・訂正・削除等の請求への対応窓口
- Cookie等の取得状況(アクセス解析ツールを使う場合)
- 制定日・改定日
表記の置き場所と更新のタイミング
特商法表記もプライバシーポリシーも、サイトのどのページからでも1〜2クリックで辿り着けることが前提です。実務上は次のようにしているサイトが多く見られます。
- フッターに「特定商取引法に基づく表記」「プライバシーポリシー」のリンクを常設する
- 申込みフォームの直前・直後に特商法表記へのリンクを置く(通信販売に該当する場合)
- 住所や取扱いサービスが変わったら、その都度該当ページだけ更新し、末尾の改定日も直す
放置しがちなのが「事業内容が増えたのに利用目的の記載を更新していない」パターンです。新しいサービス(メルマガ、有料会員サービスなど)を始めたら、個人情報の利用目的にその分を追記する、という運用を決めておくと抜けが起きにくくなります。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、独立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ法人を設立しておらず、一人会社として自社サイトの特商法表記を実際に作成した経験はありません。個人サイトの運営で問い合わせフォームを設置した経験はあるものの、それは今回の一人会社のケースとは前提が異なります。そのため、この記事は法律の条文と消費者庁・個人情報保護委員会の公式説明を確認した上での整理であり、体験談ではありません。この点は正直に書いておきます。実際に法人化してサイトの表記を整備した段階で、一次情報として別記事にまとめる予定です。
次にやること
まず、自社サイトが「サイト上で消費者から商品・役務の申込みを受けているか」を確認してください。 該当するなら特商法表記の準備を、該当しなくても問い合わせフォームがあるならプライバシーポリシーの準備を進めます。住所・電話番号を公開したくない場合は、「請求があれば遅滞なく開示する」旨の一文と、実際に開示できる体制をセットで用意してください。判断に迷う場合は、公開前に弁護士・行政書士に一度確認することをおすすめします。
※本記事は2026年9月7日時点で確認した消費者庁・個人情報保護委員会の公式情報および法令に基づく一般的な整理です。個別の事業内容によって適用の有無は変わるため、実際の表記作成にあたっては専門家に確認してください。
出典 - 特定商取引法第11条、特定商取引に関する法律施行規則第8条(消費者庁「通信販売の表示についてのルール」2026年9月7日確認) - 消費者庁「特定商取引法ガイド 通信販売広告Q&A」(住所・電話番号の開示請求による表示省略について、バーチャルオフィス・プラットフォーム事業者の住所代用について、2026年9月7日確認) - 個人情報の保護に関する法律 第17条(利用目的の特定)、第21条(取得に際しての利用目的の通知等)、第32条(保有個人データに関する事項の公表等)(個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」条文番号を2026年9月7日確認) - 個人情報保護委員会「よくある質問」(個人情報取扱事業者の該当範囲について、2026年9月7日確認) - 2015年改正個人情報保護法(2017年5月30日全面施行)による5,000件要件の撤廃(個人情報保護委員会公表資料、2026年9月7日確認)