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65歳からの起業

この記事の結論
  • 在職老齢年金は老齢厚生年金を受給しながら厚生年金保険の被保険者として報酬を得ている人が対象(厚生年金保険法第46条)
  • 個人事業主は厚生年金の被保険者にならないため対象外、株式会社の役員として報酬を受け取ると原則対象になる(厚生年金保険法第6条・第9条、昭和24年7月28日保発第74号通達)
  • 支給停止調整額は2026年4月から月65万円に引き上げ(令和7年法律第74号、改正前は月51万円)
  • 計算式は(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2が支給停止額
この記事の内容
  1. 結論:個人事業主なら対象外、株式会社の役員なら対象になる
  2. 在職老齢年金とは何か
  3. なぜ起業の形態で扱いが変わるのか
  4. 支給停止額はいくらになるか【計算例】
  5. 支給停止を避ける・減らす選択肢
  6. 年金事務所に相談する文例
  7. 起業前に確かめるチェックリスト
  8. 次にやること

この記事は、65歳を過ぎてから起業しようとしていて、「年金が減らされるのでは」と不安な人に向けて書いています。 結論から言うと、年金がカットされるかどうかは起業の形態によって変わります。個人事業主として起業する場合、老齢厚生年金は在職老齢年金の対象外で、全額そのまま受け取れます。一方、株式会社を設立して自分がその会社から役員報酬を受け取る場合は、原則として厚生年金の被保険者になり、在職老齢年金の対象になります。以下、制度の仕組みと、2026年4月から変わった基準額、実際に数字を仮置きした計算例を整理します。

こんな状態ではありませんか
  • 65歳から起業したいが、年金が減らされるのか分からない
  • 個人事業主と株式会社、どちらで起業すると年金への影響が違うのか知らない
  • 役員報酬をいくらに設定すれば年金がカットされないのか計算したことがない

結論:個人事業主なら対象外、株式会社の役員なら対象になる

在職老齢年金は、老齢厚生年金を受け取りながら、厚生年金保険の被保険者として報酬を得ている人の年金の一部を止める仕組みです(厚生年金保険法第46条)。個人事業主は厚生年金保険の被保険者にならないため、この仕組みの対象外です。 65歳から個人事業主として起業しても、老齢厚生年金は減額されずに全額受け取れます。

一方、株式会社を設立して自分がその会社の代表取締役となり、法人から報酬を受け取る場合は話が変わります。役員も「法人から労務の対償として報酬を受ける者」として厚生年金保険の被保険者になるのが原則です(厚生年金保険法第9条・第6条、昭和24年7月28日保発第74号通達)。加入できる報酬額の下限は法律上定められておらず、日本年金機構の疑義照会でも一律の最低額基準は設けていませんが、標準報酬月額の最低等級(88,000円)を大きく下回るような著しく低い報酬は、労務の対償として社会通念上相当かどうかを年金事務所が個別に判断する扱いです。この場合、老齢厚生年金と役員報酬の合計額によっては、年金の一部が支給停止される可能性があります。

在職老齢年金とは何か

在職老齢年金は、老齢厚生年金の受給者が厚生年金保険の被保険者(70歳以上は「厚生年金保険70歳以上被用者」)として働いている場合に、年金の基本月額と給与・賞与を合わせた総報酬月額相当額の合計が一定額(支給停止調整額)を超えると、超えた分の半分を年金から差し引く制度です(厚生年金保険法第46条)。対象になるのは老齢厚生年金のみで、老齢基礎年金はこの仕組みの対象外です。65歳から起業する場合、老齢基礎年金部分は起業の形態にかかわらず全額支給されます。

支給停止調整額は毎年度改定され、2025年度は月51万円でしたが、2026年4月から月65万円に引き上げられています。 これは「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(令和7年法律第74号、2025年6月13日成立・6月20日公布)による改正です。厚生労働省の資料「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の概要」によれば、2022年度末時点で65歳以上の在職老齢年金受給権者308万人のうち約50万人が支給停止の対象になっており、今回の引き上げで約20万人が新たに全額受給できる見込み(支給停止対象者は約30万人に減る計算)とされています。2026年9月時点では、この65万円が現行の基準額です。

なぜ起業の形態で扱いが変わるのか

在職老齢年金が適用されるかどうかの分かれ目は、「厚生年金保険の被保険者になるかどうか」です。

起業の形態 厚生年金保険の被保険者になるか 在職老齢年金の対象
個人事業主(開業届のみ) ならない(国民年金第1号被保険者) 対象外。老齢厚生年金は全額支給
株式会社・合同会社を設立し、自分が役員として報酬を受ける 原則なる(70歳未満は保険料負担あり、70歳以上は70歳以上被用者として届出のみ) 対象になる
株式会社を設立するが、自分は役員報酬をゼロ円にする ならない(無報酬の役員は被保険者としない扱いが一般的) 対象外(ただし無報酬の実態が問われる)

個人事業主として起業する場合、事業の売上や利益がいくらであっても、それは「事業所得」であって厚生年金保険上の「報酬」ではないため、在職老齢年金の計算には入りません。これに対し、法人から役員報酬という形で受け取る金額は、厚生年金保険法上の報酬(標準報酬月額)として扱われ、在職老齢年金の計算対象になります。同じ「起業して収入を得る」でも、事業の形をどちらにするかで年金への影響が変わる、という点がこの制度の分かりにくさです。

支給停止額はいくらになるか【計算例】

在職老齢年金の支給停止額は、次の計算式で決まります(日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」)。

支給停止額 = (基本月額 + 総報酬月額相当額 - 支給停止調整額) ÷ 2

  • 基本月額:老齢厚生年金の年額(加給年金額を除く)を12で割った月額
  • 総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額 + その月以前1年間の標準賞与額の合計 ÷ 12
  • 支給停止調整額:65万円(2026年4月〜)

前提

  • 65歳で株式会社を設立し、代表取締役として役員報酬を受け取る予定
  • 老齢厚生年金の基本月額:15万円(老齢基礎年金は別枠で全額支給されるため、ここでは計算に含めない)
  • 賞与はなしと仮定(総報酬月額相当額=月々の役員報酬額とする)

計算(役員報酬を月40万円にした場合)

  1. 基本月額15万円 + 総報酬月額相当額40万円 = 55万円
  2. 支給停止調整額65万円と比較すると、55万円 < 65万円なので基準額を超えていない
  3. 支給停止額は発生せず、老齢厚生年金15万円は全額支給される

計算(役員報酬を月55万円にした場合)

  1. 基本月額15万円 + 総報酬月額相当額55万円 = 70万円
  2. 70万円 - 支給停止調整額65万円 = 5万円(基準額の超過分)
  3. 支給停止額 = 5万円 ÷ 2 = 2.5万円
  4. 支給される老齢厚生年金 = 15万円 - 2.5万円 = 12.5万円(月額)

このように、基本月額と役員報酬の合計が65万円を超えた部分の半分だけが止まる仕組みなので、報酬を上げても年金と報酬の手取り合計が減ることは基本的にありません。ただし、支給停止された分は将来も原則として戻ってこない(繰下げ受給とは異なる)点には注意が必要です。

支給停止を避ける・減らす選択肢

在職老齢年金による支給停止を避けたい、または減らしたい場合、次のような選択肢が考えられます。

  • 個人事業主として起業する。 前述のとおり、厚生年金保険の被保険者にならないため在職老齢年金の対象外になる。ただし、事業のための資金調達や信用力、将来の事業承継など、法人化のメリットとの兼ね合いで判断する必要がある
  • 役員報酬を、基本月額との合計が支給停止調整額(65万円)以下に収まる範囲に設定する。 上記の計算例のとおり、報酬額を調整することで支給停止そのものを避けられる場合がある
  • 年金の受給開始を繰り下げる。 老齢厚生年金の受給開始を66歳以降に遅らせると、繰下げ加算により将来受け取る年金額が増える。在職老齢年金による支給停止と繰下げの関係は制度が複雑なため、個別の年金事務所への確認が必要になる

どの選択肢が合うかは、事業計画・生活費・資産状況によって変わる。一般的な制度の説明であり、個別の最適解を示すものではない。 実際の判断は年金事務所や社会保険労務士への相談を前提にしてください。

年金事務所に相談する文例

役員報酬の額を決める前に、年金事務所や街角の年金相談センターに相談する際の文例です。

お世話になっております。
[氏名]と申します。

65歳から株式会社を設立し、代表取締役として
役員報酬を受け取りながら老齢厚生年金を
受給する予定です。

現状は以下のとおりです。
・生年月日:[生年月日]
・老齢厚生年金の受給開始:[時期・見込み額]
・予定している役員報酬の月額:[金額]
・賞与の予定:[有無・金額]

つきましては、以下についてご相談させて
いただけますでしょうか。

・想定している役員報酬額で在職老齢年金の
 支給停止がどの程度発生するか
・支給停止を避けたい場合の報酬額の目安
・繰下げ受給を選んだ場合との比較

お忙しいところ恐れ入りますが、
ご案内いただけますと幸いです。

起業前に確かめるチェックリスト

  • □ 起業の形態を個人事業主にするか株式会社にするか、年金への影響を踏まえて決めたか
  • □ 株式会社にする場合、自分が受け取る役員報酬の見込み月額を数字で決めているか
  • □ 老齢厚生年金の基本月額(ねんきん定期便・ねんきんネットで確認できる見込み額)を把握しているか
  • □ 基本月額+役員報酬(総報酬月額相当額)が支給停止調整額65万円を超えるかどうか、自分の数字で計算したか
  • □ 賞与を出す予定がある場合、その分も総報酬月額相当額に含めて計算し直したか
  • □ 支給停止調整額は毎年度改定されるため、翌年度以降の数字を年金事務所や日本年金機構の発表で確認する予定があるか

次にやること

まず、ねんきん定期便かねんきんネットで、自分の老齢厚生年金の基本月額の見込みを確認してください。 その数字が分かったら、上記の計算例に自分の役員報酬予定額を当てはめて、支給停止が発生するかどうかを一度計算してみてください。個人事業主にするか株式会社にするかまだ決めていない場合は、年金への影響だけでなく、資金調達・信用力・事業承継まで含めて総合的に判断する必要があるため、税理士や社会保険労務士に一度相談することをおすすめします。

なお、この記事は制度の調査に基づいて書いています。調査した範囲では、筆者本人に65歳からの起業・在職老齢年金の受給に関する実体験はありません。


※本記事は2026年9月時点で確認した内容に基づく一般的な情報整理です。支給停止調整額は毎年度改定される可能性があり、個別の年金額・支給停止額の判定は年金事務所での確認が必要です。実際の手続きにあたっては日本年金機構・年金事務所・社会保険労務士に必ずご確認ください。

出典(2026年9月9日調査) - 厚生年金保険法(条文): e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000115_20230614_505AC0000000053(第46条=在職老齢年金による支給停止、第6条・第9条=適用事業所・被保険者の条文を確認) - 法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について(昭和24年7月28日保発第74号): 厚生労働省 法令等データベース https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta2492&dataType=1&pageNo=1(法人の代表者・業務執行者も労務の対償として報酬を受ける場合は被保険者として扱う旨の通達本文を確認) - 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/zaishoku/20150401-01.html(支給停止調整額が2026年4月から月51万円→月65万円に引き上げられたこと、支給停止額の計算式「基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2」を確認。本文の65万円はこのページの記載と一致) - 厚生労働省「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)の概要等」(第25回社会保障審議会年金部会資料、2025年6月30日)https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001592624.pdf(65歳以降で働く年金受給権者308万人、現在の支給停止者数50万人、見直し後の支給停止者数30万人、20万人が新たに全額受給可能という数字は本文と一致。同法の公布日が令和7年6月20日であることも確認。なお、この資料では支給停止基準額を「2024年度価格で50万円から62万円に引上げ」と説明しており、これは法定のベース額で、2026年度に賃金変動を反映した実際の適用額が日本年金機構の示す65万円になる。本文はこの実際の適用額で書いているため数字は修正していない) - 令和7年法律第74号の成立日(本文「2025年6月13日成立」)について、公式ページで日付そのものを確認できるものは見当たらなかった(2026年9月9日調査)。公布日(6月20日)は上記厚生労働省資料で確認済み

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

この記事の作り方: 下書きにAIを使い、法令の条文と官公庁の公式ページに照らして事実確認したうえで公開しています。確認の取れない記述が残る記事は公開せず、一次資料が見つからない箇所は本文にそう書いています。確認の手順を見る →

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