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不動産賃貸業を法人で始める

この記事の内容
  1. 結論:利益が小さいうちは差が小さい。大きくなるほど法人が有利になる
  2. 個人と法人で、何が違うのか
  3. 計算例:利益800万円と1,500万円で、税額はいくら違うか
  4. 法人に残した利益は、自分のお金ではない
  5. 法人にすると増える費用と手間
  6. 赤字が出たときは、個人と法人で使い道が違う
  7. 個人のままでも使える制度がある:事業的規模と65万円の控除
  8. チェックリスト:法人にする前に確かめること
  9. 迷うのは、誰にでもあること
  10. 次にやること

アパートや戸建てを貸して家賃収入を得ようとしている人(すでに始めている人も含む)が、名義を個人にするか、法人にするかで迷ったときに読む記事だ。「法人のほうが税金が安いと聞いた」「でも設立や決算の手間が増えるらしい」という迷いに、税金の計算例で答える。

周りから「不動産は法人でやったほうがいい」と言われて、焦っている人もいると思う。どちらが得かは、家賃から経費を引いたあとの利益の大きさでほぼ決まる。利益が小さいうちは、法人にしても個人とほとんど変わらない。

結論:利益が小さいうちは差が小さい。大きくなるほど法人が有利になる

この記事の計算例(仮置き)では、次のようになった。

家賃から経費を引いた利益 個人の税額 法人の税額 差
800万円 約194.9万円 約189.0万円 約6万円(法人が軽い)
1,500万円 約515.4万円 約446.6万円 約68.8万円(法人が軽い)

800万円では差が約6万円しかない。法人には、設立費用と、赤字でもかかる税金(住民税の均等割)、決算の手間がついてくる。この差では、法人にした分が消えることがある。

1,500万円まで利益が増えると、差は約69万円に開く。ただし落とし穴が1つある。法人に残したお金は、自分の財布のお金ではない。

個人と法人で、何が違うのか

個人 法人
税金の種類 所得税・住民税・個人事業税 法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税など
税率の形 利益が増えるほど税率が上がる(5%〜45%の7段階) 中小法人は、利益800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%
自分への給料 出せない(利益がそのまま自分の所得) 役員報酬として出せる。出せば社会保険の加入が絡む
赤字の繰越 青色申告なら翌年以後3年間 青色申告なら10年間
設立の費用 なし(開業届のみ) 登録免許税が株式会社15万円、合同会社6万円から

個人の税率は、国税庁「No.2260 所得税の税率」で、課税所得195万円以下が5%、1,800万円超4,000万円以下が40%、4,000万円超が45%と書かれている(2026年9月22日確認)。法人の税率は、国税庁「No.5759 法人税の税率」で、資本金1億円以下の中小法人は年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.20%とされている(令和7年4月1日以後、2026年9月22日確認)。

個人は利益が増えるほど税率が上がり、法人は800万円を超えると23.2%で頭打ちに近くなる。ここが差の出どころだ。

計算例:利益800万円と1,500万円で、税額はいくら違うか

前提(すべて仮置き)

  • 家賃収入から経費を引いた利益:800万円と1,500万円の2通り。個人・法人で同額とする
  • 個人:ほかに所得はなく、所得控除は合計100万円(所得税・住民税で同額)とする
  • 個人:貸付の規模が個人事業税の課税基準に達している場合を想定する
  • 法人:資本金1億円以下、東京23区に本店、法人税額が年1,000万円以下(東京都の不均一課税の対象。法人税割が7.0%になる条件)、役員報酬は出さず、利益は法人に残す
  • 復興特別所得税は基準所得税額の2.1%で計算する(国税庁「No.2260」には、令和9年1月1日以後は1.1%に下がるという記載もある。2026年10月4日確認)
  • 住民税の均等割(個人・法人とも)と、税理士や決算の費用は入れない

個人の税額(利益800万円の場合)

項目 計算 金額
課税所得 800万円 − 100万円 700万円
所得税 700万円 × 23% − 63.6万円 97.4万円
復興特別所得税 97.4万円 × 2.1% 約2.05万円
住民税(所得割) 700万円 × 10% 70万円
個人事業税 (800万円 − 290万円)× 5% 25.5万円
合計 約194.9万円

所得税の控除額63.6万円は、課税所得695万円超900万円未満の区分の値だ(国税庁「No.2260」)。住民税の所得割は、標準で10%(道府県民税4%、市町村民税6%)とされている(総務省「個人住民税」、2026年9月22日確認)。個人事業税は、不動産貸付業が第1種事業で税率5%、事業主控除が年290万円だ(東京都主税局「個人事業税」、2026年9月22日確認)。

法人の税額(利益800万円の場合)

項目 計算 金額
法人税 800万円 × 15% 120万円
地方法人税 120万円 × 10.3% 12.36万円
法人都民税(法人税割) 120万円 × 7.0% 8.4万円
法人事業税(所得割) 400万円 × 3.5% + 400万円 × 5.3% 35.2万円
特別法人事業税 35.2万円 × 37% 約13.02万円
合計 約189.0万円

地方法人税は、法人税額の10.3%だ(国税庁「地方法人税の税率の改正のお知らせ」ほか、2026年9月22日確認)。法人事業税の所得割は、資本金1億円以下で年400万円以下が3.5%、400万円超800万円以下が5.3%、800万円超が7.0%、法人都民税の法人税割は23区内で、資本金1億円以下かつ法人税額が年1,000万円以下なら7.0%(超える場合は10.4%)、特別法人事業税は法人事業税(基準法人所得割額)の37%(いずれも東京都主税局、2026年10月4日確認)。

利益1,500万円の場合

個人 法人
国の税金 所得税 308.4万円+復興特別所得税 約6.48万円 法人税 282.4万円+地方法人税 約29.09万円
住民税 140万円 法人税割 約19.77万円
事業税 個人事業税 60.5万円 法人事業税 84.2万円+特別法人事業税 約31.15万円
合計 約515.4万円 約446.6万円

この計算から言えること

  • 800万円では差が約6万円。個人事業税がかからない規模なら、個人が約169.4万円で、むしろ個人のほうが軽い
  • 1,500万円では差が約69万円。法人のほうが軽い
  • 法人側は、ここに均等割と、設立・決算の費用が上乗せされる。均等割の額は、東京都のページ本文には数字が書かれておらず、税率表のPDFに別掲とされている(2026年9月22日確認)。自分の自治体の額を調べて足してほしい

個人事業税がかかる規模の目安は、東京都の場合、住宅の一戸建てなら棟数が10以上、または総床面積600平方メートル以上で年間の賃貸料収入1,000万円以上、などとされている(東京都主税局、2026年9月22日確認)。基準は都道府県で違う可能性があるので、物件のある県の税事務所で確かめてほしい。

法人に残した利益は、自分のお金ではない

上の計算は「利益を法人に全部残す」前提だった。これが落とし穴になる。

法人と自分は、法律上は別の人だ。法人の口座に残ったお金を生活費に使うには、自分に役員報酬を出すか、法人から借りるか、配当を受け取ることになる。役員報酬を出せば、その分は自分の給与所得として所得税・住民税がかかる。社会保険についても、日本年金機構の案内では、法人の事業所は事業主1人でも健康保険・厚生年金保険の適用事業所になるとされ、役員報酬を受け取る場合は加入の手続きが要る(日本年金機構「適用事業所と被保険者」、2026年9月22日確認)。

つまり、法人化の効果は「生活費を引いたあとの、使わない利益」にしか効かない。1,500万円の利益があっても、生活に800万円が要るなら、法人に残せるのは700万円ほどだ。計算例の差がそのまま手元に残るわけではない。

法人にすると増える費用と手間

増えるもの 内容
設立の費用 登録免許税は、資本金の額の0.7%で、株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円(法務省「株式会社の設立手続(発起設立)について」「合同会社の設立手続について」、2026年10月4日確認)。株式会社は、このほかに公証役場での定款認証の手数料などがかかる。合同会社は定款の認証が不要
赤字でもかかる税金 法人都民税の均等割は、決算が赤字でも、資本金等の額と従業者の数に応じて課税される(東京都主税局、2026年9月22日確認)
社会保険 役員報酬を出すなら、健康保険・厚生年金保険の手続きと保険料の負担が発生する
決算・申告 法人税の申告書は個人の確定申告より項目が多い。税理士に頼む場合はその報酬がかかる
名義の移し替え すでに個人名義の物件を法人へ移す場合は、売買や現物出資として扱われ、譲渡所得の税金や登録免許税・不動産取得税がかかりうる

最後の行は見落とされやすい。これから買う物件を最初から法人名義にするのと、いま持っている物件を法人に移すのとでは、費用がまるで違う。移し替えは個別の判断が要るので、税理士か司法書士に相談してほしい。

赤字が出たときは、個人と法人で使い道が違う

購入直後は、減価償却費や借入利息で帳簿上の赤字になることがある。赤字の扱いは個人と法人で分かれる。

個人 法人
他の所得との合算(損益通算) できる。ただし土地を取得するための借入金の利子にあたる部分は対象外(国税庁「No.1391」、2026年9月22日確認) 法人の中でしか使えない。自分の給与や他の所得とは合算されない
引ききれなかった赤字の繰越 青色申告なら翌年以後3年間(国税庁「No.2070」、2026年9月22日確認) 青色申告なら10年間(国税庁「No.5762」、2026年9月22日確認)

個人には、給与と不動産の赤字を合算して、天引きされた所得税を取り戻せる強みがある。法人には、長く赤字を引き継げる強みがある。どちらが向くかは、他の所得があるかで変わる。

個人のままでも使える制度がある:事業的規模と65万円の控除

国税庁「No.1373」では、建物の貸付が「事業」として扱われる目安を、貸間・アパートなら独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋ならおおむね5棟以上としている(2026年9月22日確認)。いわゆる「5棟10室」の目安だ。

区分 青色申告特別控除
事業的規模で、正規の簿記で記帳 最高55万円
上に加えて、電子帳簿保存またはe-Taxで申告 65万円
事業的規模ではない 最高10万円

控除額と条件は国税庁「No.2072 青色申告特別控除」、事業的規模の扱いは「No.1373」による(2026年10月4日確認)。「No.1373」(令和8年4月1日現在法令等)は、事業として行う不動産貸付けの55万円控除を「令和8年分までの青色申告特別控除については」と書いており、表は令和8年分までの扱いになる。【各自確認:令和9年分以後に申告する年の控除額と要件を、国税庁タックスアンサーNo.2072・No.1373の最新版で】

この控除は所得税の制度で、法人にはない。事業的規模に届かないうちは10万円しか引けず、個人のままでは節税の余地が小さい。

チェックリスト:法人にする前に確かめること

次の□を1つずつ確認する。3つ以上に「はい」がつくなら、法人化の検討を進めてよい。

□ 家賃から経費を引いた利益が、毎年安定して800万円を超えそうだ □ 生活費を引いても、法人に残せる利益がある(全部を役員報酬で出す必要がない) □ 個人の貸付の規模が「5棟10室」の目安に届いている(届いていないなら、個人のまま使える控除は10万円まで) □ ほかに大きな所得があり、不動産の赤字を合算する予定はない □ 物件を新しく法人名義で買う。またはいま持っている物件を法人に移した場合の費用を、見積もってある □ 設立費用と、毎年の決算・均等割の費用を、税額の差から引いても得が残る □ 法人の通帳・会計・申告を、自分または税理士が続けられる

「はい」が少ないなら、個人のまま続けて、利益が増えた年に見直すほうが手間も費用も小さい。

迷うのは、誰にでもあること

法人化は、一度やると戻しにくい。だから迷う。「早くやらないと損をする」と焦る人もいるが、利益が小さいうちは差も小さい。数字が見えてから動くほうが安全な場合がある。

調べた範囲では、この記事の内容はここまでだ。個別の物件や家族構成が絡むと結果は変わるので、最終的な判断は、税理士に自分の数字を見せて確かめてほしい。売却時の税金(個人は所有期間で税率が変わる)も、売る予定があるなら試算に入れる。

次にやること

直近の確定申告書(青色申告決算書の「不動産所得」)から、不動産所得の金額を1つだけ書き出す。それを、この記事の計算例の「利益」に入れて、個人と法人の差額を出してみる。差が数十万円以上あるなら、税理士に「法人にした場合の試算」を頼む。差が数万円なら、まだ個人のままでよい。

当サイト運営者

会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

この記事の作り方: 下書きにAIを使い、法令の条文と官公庁の公式ページに照らして事実確認したうえで公開しています。確認の取れない記述が残る記事は公開せず、一次資料が見つからない箇所は本文にそう書いています。確認の手順を見る →

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