会社の決算を自分でやれるか
- 自分の会社の決算・申告書作成を自分(代表者)で行うこと自体は税理士法に違反しない。税理士業務は「他人の求めに応じ」行う税務代理・税務書類作成・税務相談と定義されており(税理士法2条1項)、自分自身の申告はこれに該当しないため(税理士でない者が「他人の」税務代理等を業として行うことを禁じているのが税理士法52条)
- 法人税の確定申告書は各事業年度終了の日の翌日から2月以内に提出しなければならない(法人税法74条1項、国税庁)。法人住民税・法人事業税・消費税もおおむね同じく事業年度終了日の翌日から2月以内が原則の期限
- 株式会社は貸借対照表・損益計算書などの計算書類を作成し10年間保存する義務がある(会社法435条)
- 定款の定めや会計監査人設置などの事情で決算確定が2か月以内に間に合わない常況にある場合は、届出により申告期限を1か月延長できる(法人税法75条の2)
この記事の内容
この記事は、一人起業や小規模法人の経営者で、税理士に頼まず自分で決算・申告をやれるかを知りたい人に向けて書いています。 結論から言うと、自分の会社の決算・申告を自分でやること自体は法律上問題ありません。問題は「できるかどうか」ではなく「自分の状況で現実的にやり切れるかどうか」です。この記事では、自分でやることが違法にならない根拠、決算から申告・納税までの具体的な流れと期限、実際にどこでつまずきやすいかの順に整理します。
- 顧問税理士を雇う余裕がまだなく、自分で決算・申告ができないか調べている
- そもそも自分でやっていいのか、税理士でないと違法なのかがよく分からない
- 「自分でやる」と「税理士に頼む」の間で、どこまでが自分の負担になるのか具体的に知りたい
結論:自分でやることは違法ではない。ただし負担は相応に大きい
自分の会社の決算書・申告書を、代表者自身が作って提出することは、税理士法に違反しません。 税理士でない者が禁止されているのは「他人の」税務代理・税務書類の作成・税務相談を業として行うことであり(税理士法52条、税理士業務の定義は税理士法2条1項)、自分自身の申告はこの「他人の求めに応じ」に当たらないためです。
ただし、法律上できることと、実務として無理なく回せることは別問題です。法人の決算は、帳簿を締めて終わりではなく、決算整理・計算書類の作成・複数の申告書の作成・納税までを、いずれも期限内にこなす必要があります。この記事では、その具体的な中身を順に見ていきます。
「自分でやっていいか」で迷っているなら、そこはすでに解決しています。 迷うべきは「自分の取引の量と複雑さで、期限内に正確にやり切れるか」の一点です。
決算とは、具体的に何をすることか
法人の決算は、大きく分けると次の4段階で構成されます。
- 日々の記帳を締める:1年分(1事業年度分)の売上・経費・入出金を漏れなく帳簿に反映させる
- 決算整理仕訳を行う:減価償却費の計上、在庫の棚卸、未払費用・前払費用の計上など、日々の記帳だけでは反映されない項目を年度末にまとめて処理する
- 計算書類を作成する:貸借対照表・損益計算書などを作成する。株式会社は、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表などの計算書類および事業報告を作成し、作成した時から10年間保存する義務を会社法上負っている(会社法435条)
- 申告書を作成し、税務署・都道府県・市区町村へ提出、納税する:法人税・地方法人税・消費税(課税事業者の場合)・法人住民税・法人事業税、それぞれの申告書を作る
この4段階のうち、1と2は会計・簿記の作業、3は会社法上の書類作成義務、4は税務申告です。「決算」という一つの言葉の中に、性質の異なる作業が積み重なっている点が、難易度を測りにくくしている理由の一つです。
自分の会社の決算を自分でやっても税理士法違反にはならない
ここは誤解が多いポイントなので、先に法的な整理をしておきます。
税理士法は、税理士業務を「他人の求めに応じ、租税に関し、税務代理、税務書類の作成及び税務相談を行うことを業とすること」と定義しています(税理士法2条1項)。そのうえで、税理士・税理士法人でない者がこの税理士業務を行うことを禁じています(税理士法52条)。
この条文の主語は一貫して「他人の」税務です。自分自身の会社の申告書を、代表者本人が作成・提出する行為は、この「他人の求めに応じ」に当たらないため、税理士法の規制対象外です。 確定申告書等作成コーナーのページでも「税理士等でない方が他人の確定申告書等を作成することは法律で禁止されています」と明記されており(国税庁)、裏を返せば自分自身の申告書作成は禁止の対象になっていません。
つまり「自分でやってよいか」という問いに対する答えは明確に「よい」です。判断すべきなのは、次に見る具体的な作業量と期限に、自社の状況で対応できるかどうかです。
決算から申告・納税までの具体的な流れと期限
決算日を迎えてから、実際に何をいつまでに終える必要があるかを整理します。
| 項目 | 期限の原則 | 根拠 |
|---|---|---|
| 法人税・地方法人税の確定申告書提出・納税 | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内 | 法人税法74条1項(国税庁) |
| 消費税の確定申告書提出・納税(課税事業者の場合) | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内 | 国税庁「法人に係る消費税の確定申告書の提出期限について」 |
| 法人住民税・法人事業税の申告書提出・納税 | 原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内 | 地方税の申告期限は法人税に準じる(申告先の都道府県・市区町村によって様式・提出方法の細部は異なる) |
期限がすべて「2か月以内」に集中している点が、自分でやる場合の一番の制約になります。帳簿を締めるところから申告書を仕上げて提出するところまで、実質2か月弱で完結させる必要があるということです。
定款の定めにより、決算の確定が事業年度終了後2か月以内に間に合わない常況にある法人は、届出により法人税の申告期限を原則1か月延長できます。さらに、会計監査人を置いており、定款の定めにより事業年度終了後3か月以内に定時株主総会が招集されない常況にある法人は、4か月を超えない範囲で税務署長が指定する月数まで延長できます(法人税法75条の2、国税庁「第75条の2(確定申告書の提出期限の延長の特例)関係」)。ただし、これは申告書の提出期限の延長であり、納税期限は原則どおり2か月以内のままである点に注意が必要です(延長した期間分の利子税が別途発生します)。小規模な一人起業では、この特例を使う場面はあまり多くありません。
自分でやる場合、実際にどこが難しいのか
税理士法上の制約が無いとしても、実務でつまずきやすい箇所は次のとおりです。
- 決算整理仕訳の判断:減価償却費の計算(耐用年数の選定を含む)、在庫の評価、未払・前払の計上漏れなど、複式簿記の知識が要る判断が集中する
- 申告書の種類の多さ:法人税だけでも申告書は複数の別表(所得金額の計算・税額計算・利益積立金の明細など)に分かれており、それぞれに整合性が必要になる。加えて消費税・法人住民税・法人事業税は、それぞれ別の申告書を作ることになる
- 期限管理:2か月という期間の中で、記帳の締め・決算整理・書類作成・提出・納税をすべて終える必要がある。日々の記帳が溜まっていると、この2か月で一気に処理することになり負担が集中する
- 間違えたときの是正コスト:申告内容に誤りがあった場合、修正申告や更正の請求で対応することになる。追徴税額が発生すれば延滞税・加算税の対象になりうる(具体的な税額計算は個別の事情によるため、税務署または税理士へ確認が必要)
難しいのは「決算という行為」そのものではなく、「複式簿記の判断」と「複数の申告書を期限内に整合させる作業量」です。 取引数が少なく、経理処理が単純な会社ほど、この負担は小さくなります。
会計ソフトを使うと難易度はどう変わるか
freee会計やマネーフォワードクラウド会計などのクラウド会計ソフトには、決算書・申告書の作成を補助する機能があります。日々の記帳を溜めずに入力していれば、決算整理仕訳や計算書類のひな形作成の負担はソフトを使わない場合よりも軽くなります。
ただし、会計ソフトが代行してくれるのは主に「入力した数字の集計・書類への転記」です。何を減価償却するか、どの取引をどの勘定科目で処理するかといった判断そのものは、依然として自分で行う必要があります。 ソフトの選定や機能の詳細については、この記事では扱いません(会計ソフト各社の機能・料金は変更されることがあるため、利用時点で各社公式サイトの最新情報を確認してください)。
税理士に依頼する場合との比較
自分でやる場合と税理士に依頼する場合の違いを、負担の種類で整理します。
| 自分でやる場合 | 税理士に依頼する場合 | |
|---|---|---|
| 金銭的コスト | ソフト利用料程度に抑えられる | 顧問料・決算料が別途かかる(報酬額は税理士ごとに異なり、全国一律の相場は無い。税理士会が定めていた税理士報酬規程は、税理士業務に対する報酬の最高限度額に関する規定を削除する改正税理士法により2002年〈平成14年〉4月1日付で廃止され、以降は各事務所が自由に金額を設定している。具体的な相場感は個別に見積もりを取る必要がある) |
| 時間的コスト | 決算整理〜申告書作成〜提出まで自分の時間を使う | 資料を渡す・確認するやり取りの時間で済む |
| 誤りのリスク | 判断ミス・記載漏れのリスクを自分で負う(税務調査での指摘・修正申告のリスクを含む) | 税理士の専門知識でリスクを下げられる |
| 税務署とのやり取り | 自分で対応する | 税務代理権限のある税理士が窓口になれる |
| 経営判断への活用 | 決算内容を自分で把握しているため、数字の意味を理解しやすい | 税理士から説明を受ける形になる |
金銭的コストだけを見ると自分でやる方が有利に見えますが、時間的コストと誤りのリスクは数字に表れにくいため、比較の際に見落としやすい項目です。
どんな会社なら自分でやれるか
判断の目安を、取引の複雑さで整理します。
- 取引数が少なく、経理処理が単純(売上・経費の科目が限られており、在庫や複雑な資産の取得が無い)なら、会計ソフトを使いつつ自分でやる選択肢は現実的です
- 消費税の課税事業者になっている、複数の事業を行っている、資産の取得・処分が多いなど、判断が要る場面が多い場合は、誤りのリスクと時間的コストが自分でやる場合に見合うかを慎重に検討する必要があります
- 本業に使う時間を優先したい、または経理・税務の知識に不安がある場合は、決算だけを税理士にスポットで依頼する、あるいは記帳は自分で行い申告書作成のみ依頼するといった、部分的な外部委託も選択肢になります
「自分でやる」か「税理士に依頼する」かは二択ではなく、どこまでを自分で行いどこから外部に頼るかのグラデーションで考えるのが実務的です。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点では、まだ自分の会社の決算・申告を実際に経験していません。設立を予定しているのは2026年9月ごろで、最初の決算期を迎えるのはさらに先になります。そのため、この記事は自分の経験談ではなく、税理士法・法人税法・会社法などの根拠を調べたうえでの整理です。実際に最初の決算を経験したら、どこでつまずいたか・想定と違った点があったかを、この記事に追記します。
次にやること
まず、自分の会社の1年間の取引を思い浮かべて、「売上・経費の科目はいくつあるか」「在庫や固定資産の取得・処分があるか」「消費税の課税事業者かどうか」の3点を書き出してください。 これが少なく単純であれば、会計ソフトを使いながら自分で決算・申告に挑戦する選択肢は現実的です。判断に迷う項目が多い、あるいは本業に充てる時間を優先したい場合は、決算だけをスポットで税理士に依頼する、記帳のみ自分で行い申告書作成を依頼するといった部分的な外部委託を検討してください。決算月の決め方自体で悩んでいる場合は、会社の決算月はいつにするか|設立日から逆算する決め方を先に確認しておくと、この記事の期限の話とつながって理解しやすくなります。
※本記事は2026年9月1日時点で調査した国税庁・国税不服審判所公表情報等と、筆者個人の状況に基づくものです。実際の申告・納税に関する判断は税理士にご確認ください。
出典 - 税理士法 第2条第1項(税理士業務の定義) - 税理士法 第52条(税理士業務の制限) - 法人税法 第74条第1項(確定申告) - 法人税法 第75条の2(確定申告書の提出期限の延長の特例) - 会社法 第435条(計算書類等の作成及び保存) - 確定申告書の提出期限|国税庁 - No.6610 法人に係る消費税の確定申告書の提出期限について|国税庁 - 第2条《税理士業務》関係|国税庁 - No.9204 にせ税理士にご注意|国税庁 - 【確定申告書等作成コーナー】-税理士等でない方が他人の確定申告書等を作成することは法律で禁止されています|国税庁 - 第75条の2((確定申告書の提出期限の延長の特例))関係|国税庁 - 税理士法の一部を改正する法律(平成13年法律第38号、平成14年4月1日施行)による税理士業務報酬の最高限度額に関する規定の削除