決算期の変更手続き
- 事業年度(決算期)は株式会社・合同会社いずれも登記事項に含まれておらず(会社法911条3項、914条)、決算期の変更は法務局への変更登記が不要・登録免許税もかからない
- 変更には定款変更の意思決定(株式会社は株主総会特別決議、会社法309条2項11号・466条。合同会社は総社員の同意、会社法637条)と、納税地の所轄税務署等への異動届出書の提出が必要(国税庁「C1-8 異動事項に関する届出」)
- 変更した事業年度は1年に満たない期間になり、その事業年度の法人住民税均等割は月数按分される(地方税法52条・312条)
- 消費税は基準期間(2期前)の課税売上高で納税義務を判定するのが原則で(消費税法9条)、基準期間のない設立1期目・2期目は資本金1,000万円未満であれば原則として免税だが、資本金1,000万円以上だと課税事業者になる(消費税法12条の2第1項、国税庁タックスアンサーNo.6503)。さらに事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の「特定期間」の課税売上高または給与等支払額が1,000万円を超えると課税事業者になる(消費税法9条の2、国税庁タックスアンサーNo.6501)。決算期変更で事業年度の区切りが動くと、この特定期間の判定もやり直しになる
この記事の内容
この記事は、会社設立の時に決めた決算期(事業年度の終わりの月)を、あとから変更したいと考えている一人社長・小規模法人の経営者に向けて書いています。 結論から言うと、決算期の変更に法務局への登記は不要で、費用もかかりません。必要なのは定款変更の意思決定と税務署等への届出です。ただし、繁忙期を避ける目的なら大きな落とし穴は少ない一方、消費税の免税期間を延ばす目的で動かす場合は判定のやり直しが必要になり、単純に「得」とは言い切れません。以下、手続きの流れと、それぞれの目的で選び直すときに確認すべき点を整理します。
- 設立時に決算期をよく考えずに決めてしまい、繁忙期と申告作業が毎年重なっている
- 消費税の免税期間をもっと長く取れたはずだと後から気づいた
- 決算期は一度決めたら変えられないと思い込んでいる
結論:決算期の変更に登記は不要。定款変更と届出で完結する
決算期(事業年度)は、株式会社・合同会社のいずれにおいても登記事項には含まれていません(会社法911条3項、914条)。そのため、決算期を変更しても法務局への変更登記は不要で、登録免許税もかかりません。この点は、決算期を最初にどう決めるかを扱った別記事「会社の決算月はいつにするか」でも触れましたが、後から見直す場合も同じ扱いです。
決算期の変更で発生するのは「社内の意思決定」と「税務署等への届出」の2つだけです。 何にお金と手間がかかり、何にかからないかを先に押さえておくと、変更するかどうかの判断がしやすくなります。
決算期変更とは何か:定款が定める事業年度の区切りを動かすこと
事業年度(会計期間)は、法人税法上、定款等に定めがあればそれによるとされています(法人税法13条)。多くの会社は定款に「当会社の事業年度は毎年〇月〇日から翌年〇月〇日までとする」といった条文を置いており、決算期の変更とはこの条文を書き換える手続きです。
決算期を変える理由は主に2つに分かれます。ひとつは、決算・申告の作業時期が本業の繁忙期と重なって負担が大きい、あるいは税理士事務所の繁忙期(3月決算の申告が集中する2〜5月ごろ)と重なって相談しづらいといった実務上の負担が理由のもの。もうひとつは、設立時に決算期をよく検討せずに決めてしまい、資本金1,000万円未満の新設法人に認められる消費税の免税期間を最大化できていなかったという税務上の後悔が理由のものです。どちらの理由でも、手続き自体は同じです。
手続きの流れ:株式会社と合同会社の違い
決算期の変更に必要な手続きは、会社の種類によって意思決定の方法が異なります。
| 手続き | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 定款変更の意思決定 | 株主総会の特別決議(会社法309条2項11号、466条) | 総社員の同意(定款に別段の定めがなければ。会社法637条) |
| 税務署等への届出 | 異動届出書を納税地の所轄税務署等へ提出(国税庁「C1-8 異動事項に関する届出」) | 同左 |
| 法務局への登記 | 不要 | 不要 |
一人社長で株式会社の場合、株主が自分だけであれば株主総会の特別決議も自分の意思決定で完結します。合同会社であれば、社員(出資者)が自分だけなら総社員の同意もそのまま得られます。決議・同意の内容は議事録として残し、税務署への異動届出書に添付する定款変更部分の写しと合わせて保管しておく必要があります。異動届出書は納税地の所轄税務署のほか、都道府県税事務所・市区町村役場にもそれぞれ提出が必要です(様式は提出先ごとに異なります)。事業所を置く自治体すべてが対象になるため、複数拠点がある場合は提出先を事前に確認してください。
変更した事業年度はどうなるか:期間が1年未満になる
決算期を変更すると、変更後の最初の事業年度は1年に満たない期間になります。 たとえば12月決算の会社が9月決算に変更する場合、その年の株主総会等で決議した時点から9月末までの期間が、変更後最初の(短い)事業年度になります。事業年度の期間は1年を超えることができないため(法人税法13条)、変更のタイミングによっては、この短い事業年度でいったん決算・申告をはさむことになります。
この変則的な事業年度については、法人住民税の均等割が事業年度の月数で按分計算されます。月数は暦に従って計算し、1か月に満たない端数は切り捨てます。ただし、事業年度の月数そのものが1か月に満たない場合は1か月として扱います(地方税法52条、312条)。均等割は赤字でも発生する税金であるため、決算期を変更する年は、この按分計算によって通常の年より均等割の負担が一時的に軽くなる(あるいは重くなる)ことがある点は押さえておいてください。
繁忙期を理由に選び直す場合
本業の繁忙期と申告作業の時期が重なっている場合、決算期を1〜2か月ずらすだけで負担が軽くなることがあります。確定申告書の提出期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内と定められているため(法人税法74条)、決算期を動かせば申告時期もそのまま動きます。
この目的での変更は、税務上の判定に複雑な影響を与えにくく、比較的シンプルです。確認しておきたいのは、変更後の決算・申告時期が、来年以降も繰り返し繁忙期を避けられる時期になっているかどうかです。一時的な繁忙(単発の大型案件など)を避けるために変更しても、翌年以降は事情が変わっている可能性があります。毎年繰り返される季節要因かどうかを確認してから決めることをおすすめします。
免税期間を理由に選び直す場合:特定期間の判定をやり直す
消費税の納税義務は、原則として基準期間(2期前の事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判定されます(消費税法9条)。設立1期目・2期目は基準期間そのものが存在しないため原則として免税事業者になりますが、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である場合はこの限りではなく、課税事業者になります(消費税法12条の2第1項、国税庁タックスアンサーNo.6503「基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」)。したがって、資本金1,000万円未満で設立した法人は、原則として設立の日から同日以後2年を経過する日までの間に開始した各事業年度について、消費税の納税義務が免除されます。 ただし、この原則にも例外があります。その事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間(特定期間)における課税売上高、または特定期間中に支払った給与等の金額のいずれかが1,000万円を超える場合、その事業年度は課税事業者になります(消費税法9条の2、国税庁タックスアンサーNo.6501「納税義務の免除」)。課税売上高と給与等支払額のどちらで判定するかは事業者が選べるため、片方が1,000万円を超えていても、もう片方が1,000万円以下であれば免税を維持できる場合があります。
決算期を変更すると、事業年度の区切りが動くため、特定期間の始まりと終わりも変わります。 変更前の予定では免税だった事業年度が、変更後の区切りで計算し直すと課税事業者に該当してしまう、あるいはその逆になることもあり得ます。免税期間を意識して決算期を動かす場合は、変更後の事業年度で特定期間を引き直し、課税売上高と給与等支払額の両方を確認してください。
免税期間は決算期変更で無限に延ばせるわけではない
免税の特例が対象にしているのは「設立の日から同日以後2年を経過する日までの間に開始した各事業年度」です(消費税法12条の2第1項)。この2年という期間の枠組みは決算期を変更しても動きません。決算期変更でできるのは、その枠の中での事業年度の区切り方を調整することだけです。
たとえば、すでに設立から2年を経過する日を過ぎて開始した事業年度は、決算期をどう動かしても免税の対象にはなりません。逆に、まだ設立から2年以内の事業年度であれば、事業年度を短く区切ることで特定期間の要件(6か月に満たない、あるいは特定期間そのものが生じない事業年度になる場合がある)を満たし、結果として免税が続くケースがあるという解説は複数の会計事務所の記事で見られます。ただしこの判定は事業年度の長さ・開始日・特定期間の起算のしかたによって細かく変わり、国税庁の公式ページでも個別ケースごとの計算例までは網羅されていません。「決算期を変えれば免税期間が延びる」と単純化せず、変更前に税理士に自社の事業年度・売上・給与の見込みを伝えて判定してもらうのが安全です。
変更にかかる費用
決算期の変更は登記を伴わないため、登録免許税はかかりません。株主総会・社員総会の議事録作成や異動届出書の提出は自分で行えば費用はかかりませんが、司法書士や税理士に依頼する場合は別途報酬が発生します。この報酬の相場については、調査した範囲では業界横断的な公的統計は見当たりませんでした(2026年9月確認)。依頼を検討する場合は、複数の事務所から見積もりを取ることをおすすめします。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ登記が完了しておらず、決算期を一度決めたうえで変更した経験はありません。設立前の今の段階で決算期の候補を検討する過程で、この「あとから変更できるのか」という点が気になって調べたのがこの記事のきっかけです。実際に法人を設立し、事業を進める中で決算期を見直す必要が出てきたら、そのときの検討経緯を実体験として追記します。
次にやること
まず、決算期を変更したい理由が「繁忙期を避けたい」なのか「免税期間を最大化したい」なのかを、自分の中ではっきりさせてください。 前者であれば、来年以降も繰り返す季節要因かどうかを確認したうえで定款変更の議事録を用意し、異動届出書を所轄税務署等へ提出する流れで進められます。後者であれば、変更後の事業年度で特定期間を引き直し、課税売上高と給与等支払額の見込みを確認してから動く必要があるため、税理士に相談してから決めてください。決算処理そのものの負担を減らしたい場合は、freee会社設立やマネーフォワード会社設立のような会計ソフトが決算期・事業年度の設定を入力ベースで管理できるので、あわせて検討する価値があります。
※本記事は2026年9月6日時点で確認した法令・国税庁公式情報と、筆者個人の状況に基づくものです。決算期の変更が自社の消費税・法人住民税の負担にどう影響するかは、資本金額・売上・給与の見込み・事業年度の区切り方によって個別に変わるため、実際に変更する前には税理士・司法書士などの専門家に確認してください。決算期変更に関する専門家報酬の相場は、業界横断的な公的統計が確認できませんでした(2026年9月確認)。
出典 - 会社法 第911条3項、第914条(株式会社・合同会社の登記事項) - 会社法 第309条2項11号、第466条(株式会社の定款変更・特別決議) - 会社法 第637条(持分会社の定款の変更) - 法人税法 第13条(事業年度の意義) - 法人税法 第74条(確定申告) - 消費税法 第9条(小規模事業者に係る納税義務の免除) - 消費税法 第12条の2第1項(基準期間がない法人の納税義務の免除の特例) - 消費税法 第9条の2(特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例) - 地方税法 第52条、第312条(道府県民税・市町村民税の均等割の月割計算) - No.6501 納税義務の免除|国税庁 - No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁 - C1-8 異動事項に関する届出|国税庁