インボイス登録は設立時にやるか
- 新設法人は資本金1,000万円未満なら設立第1期・第2期は原則消費税が免除される(消費税法12条の2第1項)が、インボイス登録をするとその事業年度から課税事業者になり免税の恩恵は使えなくなる(国税庁)
- 免税事業者は本来「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要だが、2029年9月30日を含む課税期間までは登録申請書の提出だけで課税事業者になれる経過措置がある(国税庁)
- 登録しない場合、取引先(課税事業者)は仕入税額控除が制限されるが、2026年9月30日までは80%、2029年9月30日までは50%を控除できる経過措置がある(国税庁)
- 登録した小規模事業者は売上税額の2割を納税額にできる「2割特例」が2026年9月30日を含む課税期間まで使える(国税庁)
この記事の内容
この記事は、会社設立の準備を進めていて、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録を設立と同時にやるべきか迷っている一人起業の人に向けて書いています。 結論から言うと、インボイス登録をすると新設法人がもらえる消費税免税の恩恵をその場で手放すことになります。登録するかどうかは「取引先が課税事業者かどうか」でほぼ決まるので、この記事では免税の仕組みとインボイス登録の関係、登録しない場合に取引先側で起きること、判断の分かれ目の順に整理します。
- 会社を作ったらインボイス登録もセットでやるものだと思っていたが、本当に必要か分からない
- 登録すると消費税を払うことになると聞いたが、免税と何がどう関係しているのか整理できていない
- 登録しなかった場合、取引先にどんな迷惑がかかるのか具体的に知りたい
結論:登録するかどうかは免税の恩恵とのトレードオフ
インボイス制度(適格請求書等保存方式、2023年10月1日開始)において、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)になるには登録が必要です。この登録をした瞬間から、その事業者は消費税の課税事業者になります。 一方で、資本金1,000万円未満で設立した新設法人には、設立第1期・第2期は消費税が原則免除される制度が別にあります(消費税法12条の2第1項)。この2つは両立しません。 登録すればすぐに課税事業者になるので、本来使えたはずの2期分の免税を自分から放棄することになります。だからこそ、設立時にインボイス登録をするかどうかは、資本金額や決算月と並ぶ、初期の重要な判断の一つになります。
「取引先に迷惑をかけたくないから、とりあえず登録しておく」という判断は、免税という実利を無条件に手放すことでもあります。 取引先の事情を先に確認してから決めても遅くありません。
そもそも新設法人はなぜ免税になるのか
消費税の納税義務は、原則として「基準期間」の課税売上高で判定されます。新設法人には設立1期目・2期目にあたる基準期間が存在しないため、資本金または出資金の額が1,000万円未満であれば、原則としてこの2期間は消費税の納税義務が免除されます(消費税法12条の2第1項、国税庁)。資本金の決め方については資本金はいくらにするか|1円設立をやめた理由で詳しく整理しています。
この免税は、インボイス制度とは別に存在してきた制度です。インボイス制度が始まったことで、「免税を活かすか」「登録して課税事業者になるか」という選択が、設立時に一人起業へ新しく突きつけられるようになりました。
インボイス登録をすると何が変わるか
適格請求書発行事業者の登録を受けると、次の3点が変わります。
- 登録日から課税事業者として消費税の申告・納税義務を負う(国税庁)
- 取引先に対して、消費税の仕入税額控除に必要な適格請求書(インボイス)を発行できるようになる
- 登録日を含む課税期間の翌課税期間から、登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までは、売上高が基準期間ベースで1,000万円以下に戻っても免税事業者には戻れない(いわゆる「2年縛り」。国税庁「インボイス制度において事業者が注意すべき事例集」令和8年4月改訂)
本来、免税事業者が課税事業者になるには「消費税課税事業者選択届出書」を別途提出する必要がありますが、2023年10月1日から2029年9月30日を含む課税期間までは、登録申請書を提出するだけで自動的に課税事業者になれる経過措置が設けられています(国税庁「登録制度の見直しと手続の柔軟化に関する概要」)。つまり設立直後に登録する場合、届出書を二重に出す手間は無い一方で、免税を選び直す猶予も、上記の「2年縛り」の分だけ長く消えることになります。
登録しない場合、取引先はどうなるか
登録せず免税事業者のままでいると、その事業者が発行する請求書は適格請求書(インボイス)になりません。これによって影響を受けるのは、自社ではなく取引先(課税事業者)側です。
課税事業者は、仕入れにかかった消費税額を自社の納税額から差し引く「仕入税額控除」を使っています。インボイスが無い取引は、原則としてこの控除の対象から外れます。ただし、いきなり全額が控除できなくなるわけではなく、次の経過措置があります(国税庁)。
| 期間 | 免税事業者等からの仕入れに対する控除割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 仕入税額相当額の80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 仕入税額相当額の70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 仕入税額相当額の50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 仕入税額相当額の30% |
| 2031年10月1日以降 | 控除不可(現行制度上) |
※上記は2026年3月31日に成立した令和8年度税制改正後のスケジュールです(国税庁「令和8年度税制改正特集」)。改正前は「2026年10月1日〜2029年9月30日は50%、以降は控除不可」という2段階の予定でしたが、適用期限が2年延長され70%・50%・30%の3段階に見直されました。
「登録しないと即座に取引を切られる」というほど極端な話ではありません。 2026年3月の税制改正でこの経過措置は延長されており、経過措置がある間は取引先の負担増は仕入税額の一部にとどまります。とはいえ控除割合は段階的に下がっていくため、長期の取引を前提とする相手には、いずれ判断を求められる可能性がある点は踏まえておく必要があります。
登録の判断基準:取引先が課税事業者かどうか
インボイス登録が実質的に必要かどうかは、取引先の属性でほぼ決まります。
| 取引先の状況 | 登録の必要性 |
|---|---|
| 課税事業者の企業とBtoB取引が中心(仕入税額控除を重視する相手) | 登録しないと価格交渉や取引継続で不利になる場面が出やすい |
| 免税事業者・簡易課税事業者が主な取引先 | 相手はもともと個別の仕入税額控除を計算しない場合が多く、登録の必要性は下がる |
| 一般消費者向け(BtoC)が中心 | 消費者は仕入税額控除を行わないため、登録の必要性は低い |
| 取引先の業種・規模が未確定 | 判断を保留し、まずは免税のまま様子を見る選択肢もある |
自分の事業が課税事業者を主な取引先とするBtoBかどうかを、まず洗い出すことが最初のステップになります。
登録した場合の負担を抑える「2割特例」
登録によって課税事業者になったとしても、納税額がいきなり重くなるわけではありません。インボイス登録をきっかけに免税事業者から課税事業者になった小規模事業者は、売上にかかる消費税額の2割を納税額とできる「2割特例」を使えます(国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」)。この特例は、2026年9月30日を含む課税期間までが対象です(法人の場合、決算月によって最終の対象事業年度が変わります)。本則の計算より事務負担・納税額の両方を抑えられる制度のため、登録するかどうかを迷っている段階でも、「登録しても最初のうちの負担は限定的」という材料として押さえておく価値があります。
設立時に登録する場合の手続き
設立と同時にインボイス登録をする場合、実務上の流れは次のとおりです。
- 法人設立届出書などと合わせて、所轄税務署へ「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する
- 新たに設立された法人が、設立日を含む課税期間の初日(=設立日)から登録を受けたい場合は、その課税期間の末日までに登録申請書を提出すれば、設立日にさかのぼって登録を受けたものとみなされる特例がある(消費税法施行令第70条の4「新たに設立された法人等の登録時期の特例」、国税庁)。これは、既存の免税事業者が将来の課税期間から登録を受ける場合の「課税期間の初日から起算して原則15日前まで」という通常の期限とは別の、新設法人向けの緩やかな特例
- 税務署の登録処理を経て登録番号が通知される。国税庁が示す目安はe-Taxによる提出で約1か月、書面による提出で約1.5か月(国税庁「適格請求書発行事業者の登録通知時期の目安について」令和6年5月27日公表、直近の申請・登録状況をもとにした目安のため変動しうる)
設立日と同じ日から登録を受けたい場合でも、この特例により提出期限は事業年度末まで確保されていますが、税務署の処理期間や取引先への通知の都合を考えると、法人設立の手続きと並行して早めに準備したほうがよい。
一人起業ならどう判断するか
一人起業で自己資金のみで会社を作る場合、実務上の判断の順番は次のとおりです。
- 想定する取引先が課税事業者中心のBtoBかどうかを洗い出す(BtoCが中心なら登録の優先度は下がる)
- 課税事業者中心なら、免税の2期分と登録のどちらが自社にとって得か試算する(2割特例を使えば負担は限定的)
- 判断がつかない・取引先がまだ確定していないなら、免税のまま設立し、必要になった時点で登録を検討する(経過措置があるうちは取引先への影響も緩やか)
「取引先に一律で迷惑をかけたくないから登録する」という判断は誠実ではありますが、免税という実利を検証せずに手放すことにもなります。自分の事業モデルに即して、取引先の顔ぶれから逆算するのが実務的です。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点で、インボイス登録を設立と同時に行うかどうかは決めていません。想定している取引先には法人(課税事業者)も個人も含まれる見込みで、まだ比率が固まっていないため、「登録の必要性が高いかどうか」を判断できる材料が揃っていない段階です。資本金はいくらにするかでも書いたとおり資本金は1,000万円未満で確定させる予定なので、免税の適用条件そのものは満たしています。取引先の内訳が見えてきた段階で、登録するかどうかとその理由をこの記事に追記します。
次にやること
まず、自分がこれから取引しそうな相手を紙に書き出し、「課税事業者か・免税事業者か・一般消費者か」を分けてください。 課税事業者とのBtoB取引が中心になりそうなら、登録した場合の2割特例まで含めて試算したうえで判断し、BtoCが中心・取引先が未確定なら、免税のまま設立して様子を見る選択肢を検討してください。登録する場合は、法人設立の手続きと同時並行で「適格請求書発行事業者の登録申請書」の提出時期を確認する必要があるので、freee会社設立のような設立手続きサービスを使う場合は、インボイス登録の要否も併せて相談しておくと手戻りが少なくなります。
※本記事は2026年8月31日時点で調査した国税庁公表情報と、筆者個人の状況に基づくものです。実際の登録要否・タイミングの判断は税理士にご確認ください。
出典 - 消費税法 第12条の2第1項(基準期間がない法人の納税義務の免除の特例) - 消費税法施行令 第70条の4(新たに設立された法人等の登録時期の特例) - No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁 - 新規開業者向けページ|国税庁 - 登録制度の見直しと手続の柔軟化に関する概要|国税庁 - 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要|国税庁 - 令和8年度税制改正特集(インボイス制度関連)|国税庁 — 免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の見直し(2026年3月31日成立の税制改正法による70%/50%/30%への多段階化) - 国税庁「インボイス制度において事業者が注意すべき事例集」(令和8年4月改訂) — 登録後の「2年縛り」の根拠 - 適格請求書発行事業者の登録通知時期の目安について|国税庁(令和6年5月27日公表) — 登録通知までの標準処理期間の根拠