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副業のまま会社を作るか退職してから作るか

この記事の結論
  • 会社法に、取締役が他に本業を持つことを禁じる規定は無い。ただし取締役が自社と競合する事業を行う場合は株主総会または取締役会の承認が必要(会社法第356条第1項第1号、第365条第1項)、違反時は損害賠償責任を負いうる(同法第423条)
  • 国家公務員は人事院の承認なしに営利企業の役員等を兼ねることを禁じられ(国家公務員法第103条)、報酬を得て事業に従事する場合は内閣総理大臣及び所轄庁の長の許可が必要(同法第104条)。地方公務員も任命権者の許可が必要(地方公務員法第38条)
  • 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定、令和4年7月改定)は、労働時間以外の時間の使い方は労働者の自由という前提に立ち、モデル就業規則の副業規定を許可制から届出制に改めている(厚生労働省公式サイト)
  • 会社の代表者・役員でも、役員報酬が無ければ厚生年金・健康保険への加入義務は生じない。報酬を受け取ると加入義務が発生する(健康保険法、厚生年金保険法の適用事業所の扱い、日本年金機構関連の解説記事で共通)
  • 雇用保険の基本手当は「失業の状態」にあることが受給要件で、法人の代表取締役や役員に就任すると労働契約者ではなくなるため受給資格を失う運用が一般的(ハローワークの運用。この扱いを明文化した厚生労働省の一次資料は確認できておらず、複数の社労士・法律事務所の解説記事で共通していた内容)
この記事の内容
  1. 結論:法律上は作れる。壁は就業規則・社会保険・失業保険
  2. 会社法に「本業がある人は作れない」規定は無い
  3. 壁1:会社員の就業規則と、公務員の法律上の制限は別物
  4. 壁2:社会保険は「役員報酬の有無」で決まる
  5. 退職してから作る場合は失業保険が絡む
  6. 副業のまま作る場合と退職してから作る場合を並べる
  7. 実体験について、正直に書きます
  8. 次にやること

この記事は、会社員として働きながら副業の会社を作ろうとしていて、「今の会社を辞めずに設立していいのか」「退職してから作ったほうが安全なのか」で迷っている人に向けて書いています。 結論から言うと、会社法そのものには「本業を持つ人は会社を作れない」という規定は無く、副業のまま会社を作ること自体は法律上できます。ただし、実際に踏み込むと就業規則・社会保険・(退職前提なら)失業保険という3つの壁にぶつかります。この記事では、その3つを分けて整理します。

こんな状態ではありませんか
  • 会社員のまま会社の代表者になれるのか、法律的に不安がある
  • 就業規則の副業禁止規定に引っかからないか分からないまま検討している
  • 会社を作ったら社会保険がどうなるのか、二重に取られるのではと心配している
  • 退職してから作るべきか、辞める前に作ってしまうべきか判断がつかない

結論:法律上は作れる。壁は就業規則・社会保険・失業保険

会社設立の手続きそのもの(定款作成・登記申請)に、発起人や取締役が「他に仕事を持っていないこと」を求める規定はありません。会社員のまま会社を作り、代表者になることは法律上できます。ただし、これは「会社法上できる」という話であり、「何の問題も起きない」という意味ではありません。 実際にぶつかるのは次の3つです。

  • 勤務先の就業規則(副業・兼業の扱い)
  • 社会保険(役員報酬を受け取るかどうかで変わる)
  • 退職を前提にする場合の失業保険(受給資格に影響する)

このうち就業規則は会社ごとに違い、公務員はそもそも法律で別枠の制限がかかります。1つずつ分けて見ていきます。

会社法に「本業がある人は作れない」規定は無い

発起人・取締役の資格を定める会社法の条文を確認しても、「専業でなければならない」という要件はありません。取締役が複数の会社の役員を兼ねること自体も、原則として禁止されていません。

一方で、取締役には競業避止義務があります。取締役が自社の事業と競合する取引を自分のために、または第三者のために行う場合、その取引について重要な事実を開示し、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認を受けなければなりません(会社法第356条第1項第1号、第365条第1項)。承認を得ずに違反した場合、会社に生じた損害を賠償する責任を負う可能性があります(同法第423条)。

ここで整理しておきたいのは、この競業避止義務は「取締役として新しく作る会社」の話であり、「今の勤務先の就業規則」とは別の話だということです。 副業で作る会社が本業の勤務先と競合する事業を行うのでなければ、会社法上の競業避止義務は基本的に問題になりません。問題になりやすいのは、次に説明する就業規則のほうです。

壁1:会社員の就業規則と、公務員の法律上の制限は別物

「副業は法律で禁止されている」という情報を見かけることがありますが、会社員(民間企業の労働者)と公務員では、根拠がまったく違います。

ここが要点

会社員の副業を一律に禁じる法律は存在しません。制限があるとすれば、それは勤務先の就業規則という「会社ごとのルール」です。一方、公務員の兼業制限は法律そのものに書かれています。この2つを混同すると、「自分の場合はどちらに当てはまるか」を見誤ります。

厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定、令和4年7月改定)は、労働時間以外の時間をどう使うかは基本的に労働者の自由という前提に立ち、原則として副業・兼業を認める方向を示しています。これを受けて、厚生労働省のモデル就業規則も、副業・兼業の規定を「許可制」から「届出制」に改めています(厚生労働省公式サイト)。ただし、これはあくまで国のモデル・ガイドラインであり、実際に自分の勤務先が副業をどう扱っているかは、自社の就業規則を確認しないと分かりません。 許可制のままの会社、会社の役員に就任すること自体を禁じている会社、届出さえすれば自由な会社まで幅があります。

公務員はこれとは別枠です。国家公務員は、人事院の承認を得た場合を除き、営利企業の役員・顧問・評議員の地位を兼ねること、または自ら営利企業を営むことを禁じられています(国家公務員法第103条)。役員兼業以外の形で報酬を得て事業・事務に従事する場合も、内閣総理大臣及び所轄庁の長の許可が必要です(同法第104条)。地方公務員についても、任命権者の許可を受けなければ、営利団体の役員等を兼ねること、自ら営利企業を営むこと、報酬を得て事業・事務に従事することができません(地方公務員法第38条)。つまり、公務員が会社の代表者や役員になることは、原則として法律上の許可が必要な行為であり、民間の会社員の「就業規則次第」という話とは重さが違います。

壁2:社会保険は「役員報酬の有無」で決まる

副業のまま会社を作った場合、社会保険がどうなるかは「役員報酬を受け取るかどうか」で決まります。

会社の代表者・役員であっても、役員報酬をゼロにしていれば、その会社を通じた厚生年金・健康保険への加入義務は生じません。 保険料を計算する基礎となる報酬が無いためです。この場合、本業の勤務先で加入している社会保険がそのまま続きます。

一方で、役員報酬を受け取る設計にすると、その会社でも厚生年金・健康保険への加入義務が発生します。 すでに本業の勤務先で社会保険に加入している場合は、2つの適用事業所に同時に勤める形になり、日本年金機構への「二以上事業所勤務届」の手続きや、保険料の按分計算が必要になります(会社設立後の社会保険手続きで扱った一人社長の加入義務とは、勤務先が2つになる分だけ手続きが増える点が違います)。

「副業のまま会社を作るなら役員報酬は取らない」という設計を勧める解説記事が複数あり、この二重手続きを避けたいという理由が共通して挙げられています。(公式統計は確認できておらず、複数の税理士・社労士事務所の解説記事で共通する傾向として書いています) ただし報酬をゼロにすると、その会社の利益をすべて法人に残す(給与として個人に分配しない)ことになるため、個人の手取りという観点では別の判断が必要です。

退職してから作る場合は失業保険が絡む

退職してから会社を作る場合、副業のまま作る場合には無かった論点が出てきます。それが失業保険(雇用保険の基本手当)との関係です。

基本手当は「就労の意思と能力があり、求職活動をしている」状態(失業の状態)にあることが受給の前提です。会社の代表取締役や役員に就任すると、雇用契約に基づく労働者ではなく経営者の立場になるため、この「失業の状態」に該当しなくなり、受給資格を失う運用が一般的です。ただし、この扱いを明文化した厚生労働省の一次資料は確認できておらず、複数の社会保険労務士・法律事務所の解説記事で共通して説明されている内容です。実際の境目や手続きは、失業保険をもらいながら起業準備はできるかで整理した「準備」と「事業開始」の区別と同じ考え方になるため、そちらも合わせて確認してください。

つまり、退職を選んだ場合は「失業保険を満額もらい切ってから会社を作るか」「早めに会社を作って再就職手当を狙うか」という、副業のまま作る場合には出てこない選択が加わります。

副業のまま作る場合と退職してから作る場合を並べる

論点 副業のまま作る 退職してから作る
会社員の就業規則 勤務先の規則次第(届出・許可が必要な場合あり) 制約が外れる
公務員の法律上の制限 原則、許可なしに役員就任できない(国家公務員法第103条・第104条、地方公務員法第38条) 退職すれば制限の対象外になる
社会保険 役員報酬ゼロなら本業の社会保険のまま。報酬ありなら二以上事業所勤務 国民健康保険・任意継続・自社の社会保険から選ぶ
収入の安定 本業の給与が続く 事業収入だけになる(軌道に乗るまで不安定)
失業保険 対象外(在職中のため) 役員就任のタイミングで受給資格に影響しうる

どちらが「正解」ということではなく、就業規則で副業(会社の代表者就任を含む)が制限されているかどうかが最初の分岐点になります。 制限されていないなら副業のまま試しながら育てる選択肢があり、制限されている、あるいは公務員のように法律上の許可が必要な立場なら、退職後に作るほうが選択肢として現実的になります。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年6月末に前職を退職し、退職後に合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、在職中に副業として会社を作った経験はありません。この記事は、副業のまま法人化するかどうかを検討している会社員向けに、会社法・就業規則・社会保険・雇用保険の制度を調べて整理したものであり、本人の一次情報ではない点は正直に書いておきます。

次にやること

まず、自分の勤務先の就業規則を開いて、副業・兼業の項目(許可制か届出制か、会社の役員に就任することが対象に含まれているか)を確認してください。 公務員の場合はこの確認より前に、所属先の任命権者・人事担当に兼業許可の要否を先に確認する必要があります。就業規則の確認が済んだら、役員報酬をゼロにするか受け取るかを決め、会社設立後の社会保険手続きを読んで自分がどちらの手続きに該当するかを確認してください。退職を前提にしている場合は、会社を辞めて起業する手順失業保険をもらいながら起業準備はできるかを先に読むと、退職前後で何をどの順番でやるべきかが整理できます。会社設立の書類作成自体はfreee会社設立やマネーフォワード会社設立のようなサービスで進められますが、就業規則の解釈や兼業許可の要否は、勤務先の担当部署・社会保険労務士に自分の状況で確認するのが確実です。


※本記事は2026年9月時点の法令・公表資料に基づく情報整理です。就業規則の扱いは会社ごとに異なり、公務員の兼業許可の可否は所属先・職務内容によって個別判断となります。実際の判断は、勤務先の担当部署、社会保険労務士、税理士に自分の状況を伝えて確認してください。

出典 - 会社法 第356条第1項第1号、第365条第1項(競業取引の制限) / 第423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任) — e-Gov法令検索 - 国家公務員法 第103条(私企業からの隔離)、第104条(他の事業又は事務の関与制限) — e-Gov法令検索 - 地方公務員法 第38条(営利企業への従事等の制限) — e-Gov法令検索 - 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定、令和4年7月改定)。モデル就業規則の副業規定を許可制から届出制に改めた経緯を含む — 厚生労働省公式PDF - 健康保険法、厚生年金保険法(適用事業所・被保険者資格の考え方)。二以上事業所勤務の手続きは日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」を参照 - 雇用保険法(基本手当の受給要件)。厚生労働省「基本手当について」— 厚生労働省公式サイト。ただし同ページに「失業の状態」の定義はあるが、代表取締役・役員就任時に受給資格を失うことを明文化した記載は見当たらない(2026年9月確認)。本文で扱った運用は、複数の社会保険労務士・法律事務所の解説記事で共通する内容

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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