支払調書は一人会社も出すのか
この記事の内容
社長が自分ひとりの会社でも、外注先やデザイナー、税理士に報酬を払っている。年明けになって「支払調書、うちも出すんだっけ」と迷っている一人社長に向けて、この記事は「出す義務があるかどうか」と「どの支払いが対象か」を先に答える。最後に、実際の支払い例で対象・対象外を仕分ける計算をする。
結論:一人会社でも、対象の支払いがあれば提出義務がある。判定基準は「会社の大きさ」ではなく「支払いの種類と金額」
支払調書の提出義務は、法人税法や会社法上の会社規模(資本金・従業員数)では決まらない。決まるのは「誰に・何のために・いくら」払ったかだけだ。
国税庁のタックスアンサーによると、この支払調書を提出するのは、所得税法204条1項各号、同法174条10号、租税特別措置法41条の20に定める報酬・料金・契約金・賞金の支払をする者だ。支払う側の規模は条件に入っていない(国税庁タックスアンサー No.7431「『報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書』の提出範囲と提出枚数等」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7431.htm、2026年10月確認)。
報酬・料金の源泉徴収をしなくてよい例外は、条文上「給与の源泉徴収義務を負う個人以外の個人から支払われるもの」と定められていて、法人は含まれない(所得税法204条2項2号、e-Gov法令検索、2026年10月確認)。法人には例外がないので、社長ひとりだけの株式会社・合同会社でも、対象の支払いがあれば提出する側になる(国税庁タックスアンサー No.2502「源泉徴収義務者とは」でも、法人・個人どちらも報酬を支払う立場なら対象とされている。2026年10月確認)。
一方で、個人事業主(フリーランス)には源泉徴収の例外がある。給与の源泉徴収義務を負わない個人(給与を払っていない個人や、常時2人以下の家事使用人だけに給与を払っている個人)は、弁護士・税理士等への報酬などを払っても源泉徴収をしなくてよい(所得税法204条2項2号、国税庁タックスアンサー No.2502、2026年10月確認)。
ただし、これは「天引きしなくてよい」という例外であって、支払調書を出さなくてよいという意味ではない。支払調書の提出義務を定める所得税法225条1項3号は、204条1項各号の報酬等を支払う者としか書いておらず、204条2項の例外を引いていない(e-Gov法令検索、2026年10月確認)。国税庁も、源泉徴収の対象外の報酬等でも提出範囲に該当すれば支払調書の提出が必要としている(No.7431、2026年10月確認)。
経理をひとりで見ていると、この手の判定を見落としても気づけない
一人社長は、営業もするし、制作の発注もするし、経理も自分で締める。誰かが横でチェックしてくれるわけではないので、「これは対象なのか」という迷いをそのまま持ち越しがちになる。
支払調書は、提出期限を過ぎても自分から気づきにくく、後回しにしやすい。ただし、期限までに出さない場合の罰則は法律に定められている(後の見出しで条文を示す)。これは「気づいたときに慌てて全部確認する」種類の書類ではなく、「支払いのたびに、対象かどうかを機械的に振り分けておく」種類の書類だ。仕組みにしてしまえば、年明けに慌てる必要がなくなる。
どの支払いが対象になるのか(区分と金額基準の一覧)
支払調書の対象になるかどうかは、支払いの「区分」と「同一人への年間合計額」で決まる。主なものを一覧にする。
| 支払いの区分 | 同一人への年間合計額の基準 |
|---|---|
| 弁護士・税理士・司法書士等への報酬 | 5万円超 |
| 原稿料・画料・講演料など | 5万円超 |
| プロ野球選手等への報酬・契約金 | 5万円超 |
| 外交員・集金人・電力量計検針人・プロボクサー等の報酬、ホステス等の報酬、広告宣伝のための賞金 | 50万円超 |
| 社会保険診療報酬支払基金(令和8年10月から「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」に名称変更)からの診療報酬 | 50万円超 |
| 馬主への競馬賞金 | 1回の支払いが75万円超なら、その年の全支払いが対象 |
(出典:国税庁タックスアンサー No.7431「『報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書』の提出範囲と提出枚数等」、2026年10月確認)
一人会社の実務でよく出てくるのは、上の表の上から2行、「税理士・弁護士等への報酬」と「原稿料・講演料など」だ。「デザインの報酬」も、所得税法204条1項1号に原稿・さし絵・作曲・レコード吹込みと並んで明記されている(e-Gov法令検索、2026年10月確認)。契約の実態(原稿・デザイン・講演のどれに当たるか)で判定が変わるため、【各自確認:自社の外注費(デザイン料・原稿料等)が所得税法204条1項の列挙区分に当たるか。契約書・請求書の記載内容をもとに顧問税理士に確認】。
金額の判定は、消費税・地方消費税を含めた額で行う。ただし、請求書で消費税額が明確に区分されている場合は、税抜きの額で判定してもよい(国税庁タックスアンサー No.7431、2026年10月確認)。
計算例:年間の支払いを3件仮置きして、対象・対象外を仕分ける
一人会社の社長(Aさん)が、2026年中に次の3件を支払ったとする。
| 支払先 | 内容 | 年間合計額(税込) |
|---|---|---|
| 税理士B | 顧問料(月2万円×12か月) | 24万円 |
| ライターC | 記事の原稿料(3回に分けて支払い) | 5万5,000円 |
| デザイナーD | ロゴ制作の外注費(1回払い) | 8万円 |
判定は次のようになる。
- 税理士Bへの顧問料:区分は「税理士等への報酬」。基準は5万円超。24万円は基準を超えているので、支払調書の対象。
- ライターCへの原稿料:区分は「原稿料」。基準は5万円超。3回に分けて払っていても、年間合計で判定するので5万5,000円は基準を超え、支払調書の対象。1回あたりの金額ではなく、同一人への年間合計額で見る点に注意する。
- デザイナーDへのロゴ制作費:ロゴ制作が、所得税法204条1項1号に明記された「デザインの報酬」に当たるかで判断が分かれる。デザイン料として扱われる場合は対象、通常の業務委託費として扱われる場合は対象外になる。【各自確認:自社の契約書・請求書の記載内容が「デザイン料」に当たるか。顧問税理士に確認】
この例では、少なくとも税理士BとライターCの2件については、Aさんの一人会社が支払調書を作成し、翌年1月31日までに税務署へ提出する義務がある。
出さなかったらどうなるのか|提出先・期限・罰則
支払調書は、支払いが確定した年の翌年1月31日までに、支払う側(一人会社)の納税地を所轄する税務署に提出する(国税庁タックスアンサー No.7431、2026年10月確認)。
提出しなかった場合の罰則は、所得税法242条に定められている。提出期限までに提出しない、または偽りの記載をして提出した場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になりうる(所得税法242条5号、e-Gov法令検索、2026年10月確認)。
提出先は税務署長で、期限は支払の確定した年の翌年1月31日まで(所得税法225条1項、e-Gov法令検索、2026年10月確認)。
個人事業主から法人成りしたら、何が変わるのか
前職を辞めて個人事業主として活動していた人が、一人会社を作った(法人成りした)場合、支払調書まわりの扱いは変わる。
- 源泉徴収は変わる。個人事業主のとき、給与の源泉徴収義務がなければ、報酬を払っても天引きは不要(所得税法204条2項2号、国税庁タックスアンサー No.2502、2026年10月確認)。一人会社にしたあとは、法人に例外がないので、対象区分の支払いには源泉徴収が必要になる。
- 支払調書は変わらない。個人事業主でも一人会社でも、204条1項各号の報酬等が提出範囲(5万円超など)に該当すれば、提出が必要(所得税法225条1項3号、国税庁タックスアンサー No.7431、2026年10月確認)。
つまり、法人成りで変わるのは主に天引き(源泉徴収)のほうだ。個人事業主のうちに、対象の支払いがあれば、すでに支払調書の提出対象だった。法人成りのタイミングで、顧問税理士に「源泉徴収と支払調書の対象になる支払いがあるか」を一度確認しておくと、年明けに慌てずに済む。
次にやること
今期(2026年)に支払った相手を一覧にし、上の表の区分に当てはまる支払いが同一人で年間5万円(区分によっては50万円)を超えていないか、1件ずつ突き合わせる。超えているものがあれば、翌年1月31日までに支払調書を作成して所轄税務署に提出する。