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役員報酬の決め方

この記事の結論
  • 役員報酬は「定期同額給与」として損金算入するため、事業年度開始日から3か月以内に金額を決め、原則そのまま1年間変更できない(法人税法34条、国税庁No.5211)
  • 役員報酬を上げると法人の利益・法人税は下がるが、個人の所得税・住民税・社会保険料は上がる(逆方向のトレードオフ)
  • 厚生年金保険料は標準報酬月額65万円が上限(令和8年度・32等級)のため、報酬をこれ以上上げても厚生年金保険料は増えない(日本年金機構)
  • 所得税は5%〜45%の累進課税(国税庁No.2260)、給与所得控除は年収850万円超で頭打ちの195万円(国税庁No.1410)
  • 不相当に高額な役員報酬は損金不算入になる場合がある(法人税法34条2項・施行令70条)
この記事の内容
  1. 結論:役員報酬は「年1回・3か月以内」に決める重い判断
  2. なぜ一度決めたら変えられないのか|定期同額給与の仕組み
  3. 役員報酬を上げると何が起きるか|法人と個人のシーソー
  4. 社会保険料には上限がある|標準報酬月額65万円の壁
  5. 所得税は報酬が増えるほど税率が上がる
  6. 高すぎる役員報酬は経費にならないことがある
  7. 一人社長ならではの注意点|社会保険料は自分の会社からも出る
  8. 実体験について、正直に書きます
  9. 次にやること

この記事は、会社を設立したものの、役員報酬をいくらにすればいいか決めきれていない一人社長・一人起業の人に向けて書いています。 結論から言うと、役員報酬は「法人に残すか、個人に出すか」で税金と社会保険料の負担が逆方向に動くため、感覚で決めると後から損をしやすい項目です。しかも一度決めると、原則としてその事業年度中は変更できません。以下、なぜ変更できないのか、上げると何が起きるか、決め方の順序の順に整理します。

こんな状態ではありませんか
  • 役員報酬を高くすべきか低くすべきか、何を基準に決めればいいか分からない
  • 社会保険料が高いと聞くが、報酬額とどう関係しているのか整理できていない
  • 一度決めた役員報酬は、あとから変更できるのか不安

結論:役員報酬は「年1回・3か月以内」に決める重い判断

役員報酬の決め方には、2つの制約が同時にかかります。1つは税務上の制約で、事業年度が始まってから3か月以内に金額を決め、以後は原則として1年間そのまま支給し続けなければ、法人の経費(損金)として認められません(法人税法34条、国税庁No.5211)。もう1つは金額そのものの制約で、報酬を上げれば法人の利益・法人税は減りますが、個人の所得税・住民税・社会保険料は増えます。逆に報酬を下げれば、その逆が起きます。

つまり役員報酬の決め方とは、「毎年1回、3か月以内に、法人と個人のどちらに残すお金を多くするかを決める」という作業です。 感覚や前年踏襲で決めると、法人にも個人にも無駄な負担が残ることがあります。

ここが要点

役員報酬は月々の給与のように毎月見直せるものではありません。年1回、事業年度の最初の3か月が決めるタイミングのすべてです。ここを逃すと、次に見直せるのは翌事業年度になります。

なぜ一度決めたら変えられないのか|定期同額給与の仕組み

法人税法上、役員に対する給与は原則として損金(経費)に算入できません(法人税法34条1項)。ただし例外があり、その1つが「定期同額給与」です。定期同額給与とは、支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、その事業年度の各支給時期における支給額(または源泉税等控除後の金額)が同額である給与を指します(国税庁No.5211)。毎月同じ金額を役員報酬として支払う、一般的なやり方はこれに当たります。

金額の改定については、事業年度開始の日から3か月を経過する日までに行われた改定であれば、定期同額給与として扱われます(国税庁No.5211、法人税基本通達9-2-13ほか)。逆に言えば、この期間を過ぎてから役員報酬を増減させると、変更後の金額と変更前の金額との差額部分が損金不算入になり、法人税の負担が増えることがあります。業績が急に良くなったからといって期中に役員報酬を引き上げる、あるいは資金繰りが厳しくなったからといって期中に引き下げる、といった対応は、税務上は原則として不利になる仕組みになっています。

会社設立直後の1期目については、設立の日から3か月以内(かつ事業年度終了の日まで)に最初の役員報酬を決めれば、定期同額給与として扱われます(国税庁No.5211)。設立日をいつにするかは決算月の決め方とも関わります。決算月の決め方は会社の決算月はいつにするか|設立日から逆算する決め方で整理しています。

役員報酬を上げると何が起きるか|法人と個人のシーソー

役員報酬を上げると、法人側では経費が増える分、法人の利益(所得)が減り、法人税・法人住民税・法人事業税の負担が軽くなります。資本金1億円以下の中小法人の場合、年800万円以下の所得部分には軽減税率15%が適用され(本則19%、租税特別措置法による時限措置。財務省「中小法人に対する課税に関する資料」、国税庁No.5759)、800万円を超える部分は23.2%(本則税率、国税庁No.5759)が適用されます。なお、法人住民税・法人事業税を合わせた「実効税率」は、地方税率が都道府県・市区町村ごとに異なるため、国税庁・財務省の公式資料に全国一律の数値は公表されていません。以下は複数の税理士事務所の解説記事に共通する目安であり、公式資料の数値ではありません。目安としては800万円以下の部分でおおむね20%台前半、超える部分で30%台前半になることが多いとされていますが、必ず自社の決算見込みに応じて税理士または税務署に確認してください。

一方、役員報酬を上げると、個人側では所得税・住民税・社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の負担が増えます。逆に役員報酬を下げて法人に利益を残すと、法人税はかかりますが、個人の負担は軽くなります。

選択 法人側 個人側
役員報酬を上げる 経費が増え、利益・法人税が減る 所得税・住民税・社会保険料が増える
役員報酬を下げる(法人に利益を残す) 利益が増え、法人税がかかる 所得税・住民税・社会保険料は減る

どちらが得かは、法人の実効税率と個人の実効税率(所得税・住民税・社会保険料の合計負担率)のどちらが高いかで決まります。 一人社長で生活費をすべて役員報酬でまかなう場合、単純に「法人に残す」という選択肢は取りづらいため、必要な生活費を軸に、税と社会保険料のバランスを見て決めることになります。

社会保険料には上限がある|標準報酬月額65万円の壁

厚生年金保険料率は全国一律18.3%で、会社と本人が原則として折半するため、それぞれ9.15%を負担します(日本年金機構)。健康保険料率は全国健康保険協会(協会けんぽ)管掌の場合、都道府県ごとに異なり、令和8年度は全国平均でおおむね9.90%前後(労使合計)です(協会けんぽ、都道府県ごとの保険料率は各支部の公表資料で確認できます)。40歳以上は介護保険料率1.62%(全国一律)が加わります(協会けんぽ)。

ここで重要なのが、保険料の計算のもとになる「標準報酬月額」に上限があるという点です。 厚生年金保険の標準報酬月額は、令和8年度時点で1等級(88,000円)から32等級(650,000円)までの区分があり、実際の報酬月額が63万5,000円以上であれば、一律で32等級・65万円として扱われます(日本年金機構「保険料額表」)。つまり、役員報酬をこの水準より上げても、厚生年金保険料はそれ以上増えません。

具体的な報酬額ごとの保険料の目安(健康保険・厚生年金の月額・年額の一覧)は、次の記事一人社長の社会保険料はいくらか|役員報酬別の目安で扱う予定です。この記事では「上限がある」という構造だけ押さえてください。

ここが要点

社会保険料は青天井ではありません。標準報酬月額の上限を超えたところからは、報酬を上げても保険料は増えず、所得税・住民税だけが増えていきます。 この上限を意識せずに「社会保険料が怖いから報酬を低く抑える」と決めてしまうと、必要以上に法人に利益を残し、法人税の負担を増やしてしまうことがあります。

なお、会社設立後の社会保険への加入自体は、役員報酬の額にかかわらず一人社長でも義務です。加入手続きの流れは会社設立後の社会保険手続き|一人社長でも加入は義務で整理しています。

所得税は報酬が増えるほど税率が上がる

所得税は5%から45%までの7段階の累進課税です(国税庁No.2260「所得税の税率」)。課税所得が増えるほど、その増えた部分に適用される税率(限界税率)が上がっていく仕組みのため、役員報酬を上げれば上げるほど、増えた分の手取りに対する税負担の割合も大きくなります。あわせて住民税(標準税率は所得割10%)もかかります。

給与所得(役員報酬も給与所得として扱われます)には、必要経費の概算控除にあたる「給与所得控除」があります。給与収入が850万円を超える場合、給与所得控除額は一律195万円で頭打ちになります(国税庁No.1410「給与所得控除」)。つまり、役員報酬をこの水準より大きく上げても、控除額はそれ以上増えず、増えた収入のほぼ全額に近い部分がそのまま課税所得に乗ってくることになります。

高すぎる役員報酬は経費にならないことがある

定期同額給与の要件を満たしていても、金額そのものが「不相当に高額」と判断されると、その超える部分は損金不算入になります(法人税法34条2項、法人税法施行令70条)。判断は、役員の職務内容、法人の収益状況、他の使用人への給与の支給状況、同業種・同規模の他社の役員報酬の支給状況などをもとに行われます(法人税法施行令70条1項)。

一人社長の場合、極端に高い金額を設定しない限り、通常はここが問題になる場面は多くありません。ただし「法人税を減らしたいから、実態に見合わない高額な役員報酬を設定する」という発想は、この規定によって否認されるリスクがあることは押さえておく必要があります。

一人社長ならではの注意点|社会保険料は自分の会社からも出る

社会保険料は会社と本人の折半とされていますが、一人社長の場合、会社側の負担分も結局は自分が経営する会社のお金から出ていきます。会社負担分は法人の経費にはなりますが、会社に残る現金は減ります。役員報酬を上げるほど、個人の手取りに乗ってくる税・社会保険料だけでなく、会社側が負担する社会保険料も増えるという点は、一人社長ならではの感覚として押さえておく価値があります。

配偶者を役員にするか従業員にするかによっても、報酬をどう分散させるかの選択肢が変わります。この点は妻・夫を役員にするか従業員にするかで扱っています。また、金額の決め方そのものを税理士に相談すべきか迷う場合は、一人社長に税理士は必要か|顧問料の相場と自分でやる範囲も参考にしてください。

実体験について、正直に書きます

私の場合

正直に書きます。私自身は2026年に前職を退職し、合同会社の設立準備を進めている当事者ですが、この記事を書いている時点ではまだ登記が完了しておらず、役員報酬の金額も決めていません。設立初年度の売上見込みがまだ固まっていないため、「いくらにするか」を判断できる段階に達していないのが実情です。登記が完了し、事業年度開始から3か月以内という期限が現実の締め切りになった段階で、実際にどう決めたかをこの記事に追記する予定です。

次にやること

まず、生活に最低限必要な月々の手取り額を1つの数字で出してください。 そこから、社会保険料と所得税を差し引いた「額面の役員報酬」を逆算し、法人に残る想定利益と見比べます。役員報酬は事業年度開始から3か月以内にしか決められないため、設立直後であれば早い段階での試算が必要です。具体的な報酬額ごとの社会保険料の目安は、一人社長の社会保険料はいくらか|役員報酬別の目安で確認してください。


※本記事は2026年9月1日時点で調査した内容に基づくものです。文中の実効税率の目安は、公式資料に全国一律の数値が存在しないため民間の税理士解説に共通する目安を記載しています。実際の役員報酬の決定・法人税の試算は税理士にご確認ください。

出典 - 法人税法 第34条(役員給与の損金不算入) - 法人税法施行令 第70条(過大な役員給与の額) - No.5211 役員に対する給与|国税庁 - No.5759 法人税の税率|国税庁(中小法人の軽減税率15%・年800万円以下の所得部分、800万円超23.2%を確認) - 中小法人に対する課税に関する資料|財務省(軽減税率15%が租税特別措置法による時限措置で、本則税率は19%であることを確認) - No.2260 所得税の税率|国税庁(5%〜45%の7段階累進課税を確認) - No.1410 給与所得控除|国税庁(給与収入850万円超で控除額195万円に固定されることを確認) - 個人住民税|総務省(所得割の標準税率10%を確認) - 厚生年金保険の保険料|日本年金機構(保険料率18.3%・労使折半を確認) - 保険料額表(令和2年9月分〜)|日本年金機構(標準報酬月額の上限が32等級・65万円、1等級が88,000円であることを確認。令和8年度の保険料額表でも同じ区分であることを確認) - 令和8年度保険料率のお知らせ|全国健康保険協会(健康保険料率の全国平均9.90%、介護保険料率1.62%を確認)

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会社を辞めて、会社をつくる準備をしている当事者です

執行役員として6年、会社の管理部門を統括する立場にいました。2026年に退職し、いまは求職活動と並行して、会社を立ち上げる準備を検討している段階です。まだ登記はしていません。調べて確かめたことだけを書き、済んでいない手続きは「これから」と正直に書きます。体験のふりをしません。

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